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4.フローラ、学園祭に現る

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 フローラが学園前で待ち構えていたライオネルに手を取られて馬車をふわりと降りた瞬間、空気が変わる。

 今日は学園祭で、生徒の家族や婚約者なども来ていて、いつもより人が多く賑やかだ。

「ありがとう」
 清楚なレモンイエローのワンピースを身に纏ったフローラは可愛らしい笑顔をライオネルに向けた。

「お姉様は?」
 フローラの愛らしさにぼーっと見惚れている周囲ににこやかに会釈しながら、ライオネルに小声で訊ねる。

「生徒会の仕事でステージの確認をしてるよ」
 ライオネルも嬉しそうに微笑みながら、小声で返す。



「あの令嬢は誰なんだ?」
「ライオネル様とどんな関係なの?」
「ナルトリア公爵家のご令嬢らしいわよ」
「イザベル様の妹?」
「どおりで気品があると思った」
「悔しいけど、ライオネル様と並んでもお似合いだわ」
「あんなに嬉しそうに話すライオネル様初めて見た」


 学園祭で賑わう中を歩くフローラとライオネルの姿は注目の的だ。

 ライオネルはシズリー騎士団長の息子で次期騎士団長と目されていて、シズリー侯爵の跡取り。
 おまけにスタイルもよく、精悍な顔立ちで、女性からの人気が高い。

 しかし、超優良物件ライオネルの婚約者の座を狙っていた女子生徒は、一緒に歩くフローラの愛らしさとそれを見つめるライオネルの大好きオーラ満載の顔を前に戦意を完全喪失してしまった。



 今日の学園祭の目玉はステージで行われる音楽コンテストだ。
 生徒だけではなく、飛び入りで参加するとも可能。


「飛び入り参加できますか?」
 フローラはステージ横でコンテストの受付をする男子生徒に声を掛けた。

「はっはい!大丈夫です!ここに名前を記入して下さい」
 ライオネルはサラサラと名前を書き入れるフローラを真っ赤な顔で見ている男子生徒をフローラの後ろでドス黒いオーラで牽制している。

 そんなライオネルに内心呆れながらも、気づかないふりをして、振り返った。

「ライさま。出番まで、どこかを見てまわりましょうか」
「そうだな。あっちにうちのクラスがやってるカフェがあるから行ってみよう」
 フローラの誘いにライオネルは嬉しそうにフローラの手を取った。

 犬が懸命に尻尾を振っている幻影が見えるようだわ。
 ちょっとかわいいかも…



 フローラは前世日本人の音大生だった。
 明けても暮れてもピアノ漬けの日々の中で、漸くできた彼氏。

 だけど、コンクールに向けて忙しくなって、なかなか会えなくなったら速攻で浮気していた。

 会える時間が少なくて、心変わりするのは仕方ないかもしれないが、ちゃんと別れることをしないで浮気をする彼にムカつく。かと言ってこちらから別れ話をしてやるのも腹立たしい。

 気を紛らわせるために始めたのが乙女ゲームだ。

 しかし、ヒロインの恋愛が中心のゲームに、すぐにゲンナリしてしまった。
 
 いや、それ、浮気でしょ?
 ヒロインが健気だから正当化できるっておかしくない?
 悪役令嬢だって言われてるけど、イザベルは婚約者なんだから、婚約者に手を出す女がいたら排除するのは当然だと思う。
 呼び出して文句を言うとか、教科書を隠すとか、そんなちょっとした嫌がらせなんてかわいいもんじゃない。

 わたしなら、徹底的に叩き潰す。

 そんなことを思いながら、スマホを睨んで信号待ちをしていたら、車が突っ込んできたことまでは記憶がある。

 
 ここがあの乙女ゲームの世界で、自分が悪役令嬢のイザベルの妹だと気づいた時に決心した。

 絶対、イザベルお姉様を幸せにする!

 本当はさっさとマリオンとの婚約を解消させたかったけど、マリオンにもらった物を嬉しそうに眺めている姿を見て、方針を変えた。

 マリオンにイザベルの内にある可愛らしい部分をアピールして、二人の仲を改善させた。

 改善し過ぎて、溺愛になってるのは予想外だが、イザベルお姉様が幸せなら、それでいい。

 どうやら、件の男爵令嬢は前世持ちらしい。
 何人かの令息を侍らせてる上にマリオンやカリードやライオネルにも擦り寄ろうとしてる。
 攻略対象者の中でこの三人がメインだからね。


 イザベルお姉様の幸せの邪魔をする頭の中までピンク色のヒロインには厳しい現実を突きつけないと。


 ついでに、隣で嬉しそうにわたしを見つめるライオネルにも手出しはさせないわ。

 元々、王子のマリオンや侯爵家の令息のカリードやライオネルの相手に男好きの男爵令嬢なんてお呼びじゃないのだから。
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