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15.休日

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今日は待ちに待った、街へ行く日だ。
俺は今、長々とレオに着せ替え人形にされている。
それは、俺が街に着ていける服を持っていないからレオに借りることになったのが始まりだった。
最初、レオが持ってきたのがヒラヒラのついた服だった。
「レオ?昨日、ヒラヒラついてないやつ持ってるって言ってなかったか?」
「ごめんごめん、持ってるけどレイならこれも似合うと思って。着るだけでいいから!後で付いてないやつ貸すから!」
はぁー。まぁ、借りる手前文句は言えないか、と俺が折れた。

それからというともの、これもこれもと服を持ってくるレオ。
「これさっきのとほぼ一緒じゃん。」
「違うわよ!さっきのはヒラヒラ、これはフリフリよ。」
同じだろ!俺には違いがわかんねぇー!
てか、男の俺にフリフリの服なんか着せんな!
「やっぱり、似合うじゃない!レイ貴方、顔は可愛いし、体も華奢だから映えるわ。それに肌が白い。同じ訓練してるのに焼けないわねぇレイは。あら…?」
嬉しくねぇー!
顔が可愛いだの、華奢だの褒め言葉になってないんだって!しかも、レオの服俺が着るとぶかぶかになるのなんで!?レオって見た目の割に結構がっちりしてんの悔しすぎる。

…ん?レオが俺の首元を見て固まっている。
「レイ、貴方恋人いたの?」
「え?いないけど?」
「そうなの?レイって顔に似合わず遊び人なのねぇ。」
「なに言って…」
俺は鏡に映った首元を見て固まった。キスマーク付いてる。なんで!?そんなとこに跡が残るようなことしてな…。あっ!
俺は、昨日の出来事を思い出した。
ラディだ。
俺の顔は急激に熱をもち赤くなる。
「あらあら、「まだ」恋人じゃないのね…。」
「全然!そんなんじゃないよ!」
俺は誤魔化すように、来ていく服持ってきてと、急かす。

準備が終わった頃に、フィジーが呼びにきた。
遅えよ、と文句を言いながら。

俺たちは、街へ向かった。徒歩だと、時間がかかるので馬で、それもフィジーと相乗り。
俺は、乗馬ができない。俺が馬に乗ると俺から漏れ出る魔力量に当てられて魔力酔いを起こしその場で動けなくなるのだ。他の団員達は、魔力のコントロールなんてお手の物で漏れ出すこともなく、難なく馬に乗れている。それに、他の人が漏れ出させても馬は酔わないらしい。俺の魔力量が問題のようだ。俺も何度か訓練で試したが、どの馬も酔ってしまい訓練どころじゃなかった。騎士団は遠征時の移動は基本的に馬で移動する。このままだと俺は一生フィジーと相乗りだ。それだけは避けたい。今は、コントロールもマシにはなってきてはいるが、他に意識が逸れたり、疲れてきたりすると一気に溢れ出す。途中で馬が動けなくなったりしたら御免だと、今回もフィジーと同じ馬に乗った。
俺は、何となくレオの方が乗馬が上手そうだと思いレオに頼もうと思ったが、フィジーがボソッと「レオの運転は荒いからやめたほうがいいぞ。」と言ってきた。確かに、馬は、レオを見て嫌そうな顔をしていなくもない。フィジーに頼むことにした。

森を抜けた俺たちは直ぐ側にある馬留めに馬を繋ぐ。
ここから街は歩いていけるほどの距離にあるようだ。レオが乗っていた馬は、すごく疲れたような顔をしている。なんか、申し訳ないな。

俺たちは街へ辿り着くと、最初に警備の人に身分証の提示を要求された。こういうのちゃんとしてるんだなぁと、感心した。騎士団の身分証を見せ問題なく通してもらった。警備の人、フィジーとレオには「お疲れ様です!」って顔パスだったな。騎士団の団員だと街でも有名だったりするんだろうか。
当たり前だけど、街の中はグラティア村よりも人も店も多く活気がある。でも、やっぱり公爵領であっても、黒髪と黒目は珍しいようで見られる。目線がすごい。俺は黒髪が隠れるようにフードを被る。レオにフード付きの服借りといて良かったと思った。
街に入るとき、フィジーとレオから「俺(私)たちから絶対離れないこと」ってしつこく言われたけど、この人混みだと、すぐ逸れそう。肩が、ぶつからないように歩くのが大変だ。

最初に入ったお店はやっぱり食べ物でしょ!
俺たちが選んだ店は、肉!肉!肉!なお店。レオが反対するかと思ったら、意外と肉食系だった。レオ曰く、普段は美容とスタイルのために抑えているらしい。
店の中に入ると、肉のジューシーな匂いが漂う。匂いだけで分かる。これは美味い。
テーブル席に案内され早速注文する品を選ぶ。フィジーは肉厚なハンバーガー、レオはステーキ(600g)、俺は肉丼に決まった。日本が作ったゲームだからか丼ものがある。ここに来て丼ものが食べられると思わなかった。それより気になるものがあるんだけど、レオの胃袋どうなってんの。普段は抑えてるって言ってた意味がわかってきた気がする、そんな量毎日食ってたら美容スタイルどころじゃなくて健康的が心配になるよね。その点、フィジーは想像通りな感じだ。日常から抜け出すとギャップが見れて面白い。
「ずっと聞きたかったんだけど、レイと団長ってどういう関係なの?団長が騎士団に連れてきたってことは元々仲良かった?」
「あ、それ、俺も聞きたかった。団長からお前の説明されたけど簡単にだったし何か訳ありっぽかったし今まで聞きにくかったんだよね。」
「うーん。団長とは、知人繋がり?って感じかな。俺が元々働いてた店の常連客で仲良くしてた奴がいて、俺が拉致られたときにそいつが助けてくれたんだけど、今後もこういうことあるだろうからって知り合いだっていう公爵家で御世話になることになったんだ。」
「え、貴方拉致られたの!?」
「どんなバイオレンス生活送ってんだよ。」
「やっぱりこの見た目が他の人にとっては珍しくて価値あるものらしいんだよね。」
俺はフードをちらっとめくる。
そういうと、2人して「あー。」といった感じで納得している。
「その外見ならもっと小さい頃から色々巻き込まれても可笑しくないのによくここまで何にもなかったね。」
「あー。そこのところあんまり記憶ないからわかんないんだよね。小さい頃のことは12歳くらいより前の記憶がなくて、気付いたら施設…孤児院?みたいなところで過ごしてて普通に暮らしてた。でも、15歳位のときに親族って名乗る人に引き取られて、冷たい人だったけど学校にも行かせてくれたし、部活…じゃなくて習い事もやらせてくれたし裕福な家庭だったかな。あの日も普通に学校から帰っていたのに気づいたら森にいて店の店主に助けられたんだ。」
嘘はない。ここに来る前の記憶がないことになっているけれど、俺は実際に幼少期の記憶がない。自分のことも分かってない不安定な俺。自分が何者なのか俺が1番知りたい。確実に分かっていることは、俺の名前と母親の顔くらいだ。母親の顔も引き取ってくれた人が見せてくれた写真でしか見たことないけど。
ここに来て初めてこんなに詳しく話してるかも。なんでこんなペラペラと…。ただ街に遊びに来て浮かれているのか、2人だから安心しているのか、俺はいつもより饒舌だ。
「はー。貴方も苦労してるのね。」
「何か1つの物語聴いてるみてぇ。」
「魔力はいつから?」
「詳しくは分からないが、変なことが起こるようになったのは、店で働いてた頃からかな。」
「結構最近ね。それなら魔法に耐性がなかったり魔力のコントロールができないのも納得ね。まぁ、今後もフィジーが厳しく訓練するだろうからそこは問題ないわね。」
「おう、今日リフレッシュしたから明日からはいつもの3倍のメニューやってもらうか。」
「勘弁してくれ。」
その後は、注文した料理を食べながら他愛もない話をして終わった。レオはぺろりと600g完食した。その食いっぷりを目の当たりにした俺とフィジーは内心すごくビビっていた。
「じゃあ、私達お会計してくるから先に店の外出てて。」
「えっ、俺も払うよ。」
「いいのよ、レイの初めての街案内ですもの、先輩に任せなさい。フィジーは自分で払いなさいよ。」
「えぇー!レオさん!レオ様!お願い!」
「いやよ。」
「ちぇっ。」
「レオ、ありがとう!」
「レイの今後の活躍に期待するわ。」
いい人達に出会えて良かったな。俺こんな風に友達と外食したり遊んだことなかったもんな。

俺は店の外で待つことにした。


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