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13.その後
しおりを挟むカンッカンッ、と木刀がぶつかり合う音が訓練場に響き渡っている。後、偶に魔法による爆発音。
こんな戦い方してるのに、よく訓練場壊れないよな。
「おい、レイ。よそ見してんなよ!」
「フィジーの動きが遅いからよそ見ちゃってたよ。」
「言うようになったじゃねぇか。」
フィジーが斬りかかってくる剣を往なし、俺も負けじと斬りかかる。
今日は、フィジーと1対1での訓練だ。今日はというか、ここ最近ずっと。
あの日。俺が騎士団に初顔合わせをしに行った日、フィジーとの戦闘で魔力の使いすぎと拒否反応が出てしまった俺は、グラディウス様に処置を受けた。目を覚ました俺は、恥ずかしさでいたたまれない気持ちでいた。熱に浮かされてたとはいえ、あんな………恥ずかしすぎるっ!
俺は、グラディウス様とキスをしたどころか、下の処理までさせてしまった…。いや、気持ちよかったけど、良すぎたぐらいだけど!体内に残る魔力を馴染ませてくれていたのは分かるけど、元々ここの世界の人間じゃない俺からしたら、普通に恋人とするようなキスだし、他人に俺のものを扱かれる事なんてなかったから…。
その後、グラディウス様からの説明で分かったことだが、俺の魔力とグラディウス様の魔力は馴染みがいいらしい。一般的には、魔力持ちは代々魔力持ちの家系で産まれることが多く、魔力が覚醒した場合、最初に親が馴染ませることが多い。少しずつ魔力を親から子へ流し体の中で魔力が動くのを学び、そのうち一人でも馴染ませることが出来るようになるとのことだった。親とはいえ他人の魔力を流しても、平気なのかと疑問だったが、身内の魔力は似ていることが多いため体内に流しても馴染ませやすいんだとか。不思議なことに、俺とグラディウス様の魔力は何故か、その馴染みやすさがあったのだ。
それからというもの、訓練で魔力の使いすぎや魔法による攻撃を受けてしまった時は、グラディウス様直々の魔力の処置を受けている。処置とは分かっているが、やはり気持ちいいものは変わらずで馴染ませたあとはしっかり下の処理もされる。
上司に下の処理してもらってる部下ってどうなの?
そのせいあってか、弱い魔法なら受けても自分で馴染ませれるようにはなってきていた。
初日に俺が倒れた後、団員はグラディウス様から俺の体質について説明を受けたようでフィジーが謝りにきた。それと、そんな体質持ってるなら先に言えよ、と怒られた。言う暇与えなかったの誰だよ。
そういった性質を持っている中、通常の訓練に加わるのは危険と判断されたようで暫くの間フィジーが面倒を見てくれることになった。戦いながら魔力のコントロールと受けた魔法の魔力を馴染ませる。それが中々に難しい。俺の場合、魔力の器も量も桁違いにあるがコントロールが下手なせいで魔力不足に陥る。例えるなら、デカいプールにたんまりと水が入っているのに、床底が抜けて一気にドバっと水が出て行ってしまっている状態。これがあの宝の持ち腐れというものだ。
あれからフィジーとの戦闘を見た団員からは、よく話しかけられる。否、絡まれる。純粋にフィジーと引き分けた俺の実力を尊敬して寄って来る人もいれば、俺のことが美人?に見えてきたとかで怪しい誘いをしてくる良く分からない人もいる。でもあの後、レオから、「踊り子が舞っているような綺麗な動きしてるのね」と言われたのは少し嬉しかった。団員達はフィジーと引き分けた俺のことを認めてくれたようで、あの日から騎士団の寮に住んでいる。グラディウス様はそのまま公爵家の部屋に居てくれていいと渋っていたが、俺に公爵家の1室は豪華すぎて落ち着かなかった。寮の部屋はイラレスさんのお店の部屋よりも少し大きい位のサイズ感でベッドもデカい。確かに、日々鍛えている騎士達が小さいベッドで収まるとは思えないしね。俺の部屋の隣は偶然なのか意図的なのか、左がフィジーで右がレオだった。俺の知っている人で良かったと思ったが、フィジーは俺のパーソナルスペースに何食わぬ顔でズカズカ入ってくる。しかも、ノックもせずに。
フィジーには今後マナーを教える必要がありそうだ。
リオは、フィジーと違って知的で落ち着きのある大人な美しさみたいなものがある。朱殷色の髪は鮮やかな朱色に見えるときもあれば、時折その鮮やかさに影を落とすように暗くなる。リオは基本明るく振る舞ってはいるが、その髪色のように表情に闇が垣間見える瞬間がある。だが、恐怖を感じないのはリオの人間性の良さからだろう。俺が訓練でやりすぎた時は食堂からご飯を持ってきてくれたり、身の回りのことを手伝ってくれたりする。良く小言を言うが、「レイを連れてきた団長の顔に泥を塗らないようにしっかり励みなさい。」と彼なりの励ましをくれる。これが大人ってやつか。
「レイが魔力のコントロールを完璧に覚えたら俺を越えそうで怖いんだよなぁ。」
「フィジーなんかすぐ追い抜くよ。」
「はぁ!?お前、よく言うよ。今日だって魔力使いすぎて途中ぶっ倒れてたくせに。」
「そういうフィジーは、今日俺の剣に何回も斬られてたよなぁ。真剣だったら死んでただろ。」
「レイ、貴方訓練中、違うこと考えてること多すぎよ。もっと集中しなきゃ怪我するわよ。」
「わかった。気をつける。」
「おまっ、俺とレオへの態度違い過ぎじゃねぇ!?」
「あら、日頃の行いのせいじゃなくて?」
俺たちは今日の訓練を終え、寮へ帰っている途中だった。
部屋が近いせいなのか、最近はこの3人でいることが多かった。何だかんだ、居心地は悪くない。
寮へ帰ると、談話室がなんだか騒がしい。他の団員達が何やら話し込んでいる。
俺たちは、何だ何だと話に加わる。団員達によると、ここ数週間で街での行方不明者が急激に増えてきており、何者かによって攫われたという噂が出回っているらしい。そこで近々、騎士団から捜索隊が出されるとのことだった。
そうか、こういうのも騎士団の仕事なのか。もっと魔物が~とか、敵国が~とか危ないイメージしかなかったけど、街の安全にも貢献するのか、考えてみればそりゃそうだよな。公爵家の騎士団だもんな。
基本的に街中に関しては、治安隊の管轄だが危険性が高かったり、人手が必要な場合は騎士団にも仕事が回ってきたりする。
今回はその時のようだ。
俺は公爵領の街に行ったことがないし、治安隊にも会ったことがないが、レオが言うには、気が合わないらしい。騎士団のことを、野蛮だのお高くとまっているだの散々な言われようなようだ。騎士団は、団長のグラディウス様が選んだ人じゃないと入れない。入りたくても、実力と人間性がなければこの地に踏み入ることさえ許されない。騎士団に入れずあぶれた人達が治安隊に入ることが多いため、騎士団と治安隊の溝は思ったよりも深いのかもしれない。
俺は、そんなことを他人事のように考えていた。
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