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恥ずかしくて困る

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課長が伝えたその場所でタクシーを降り、雨はまだ降り止まない。
さっきまでは気付かなかったけど、課長は傘を持っていなかった。
前を歩く課長に駆け寄る。

「課長、傘、一緒に入って下さい。今日は傘も大きいし、風も強くないので一緒に入れますから」

と言って手を上げて課長に傘を翳すと、向かい合った課長は真剣な目で私を見下ろした。

「俺と歩いて、誰かに誤解されてもいいってこと?」

「はい、ですから、昨日お伝えしたとおりなので……、あ、」

課長が私の傘を取り上げる。
何も持つものがなくなった私の手に課長の手が重なった。
驚いて見上げると、課長も少し照れ臭そうに見える。

「……じゃ、うち、来る?」

繋いでいる手が熱い。

「別に何かしたいとか、そういうんじゃなくて……あんまり外に飲みにも行けないから。竹内さんと離れたくないなって思ってるんだけど……どう思う?」

言葉を探しながら伝えてくれる課長が、可愛くて甘くて仕方がない。
今日、このまま離れたくないのは私の方だ。

「一緒にいたいですね……課長さえよければ、私……」

そう言ったら、傘の中で抱き締められた。





お互い緊張を隠しながらも、慌ただしく近くのコンビニで食料などを買い込み、課長のマンションに着いた。
最近建てられた高層マンションの最上階で一人暮らしをしているそうだ。

「片付いてないけど、入って」

最近引っ越したというその部屋の中は、殺風景なものだったけど、見回している暇もなく抱きしめられる。
ぎゅう、と大事そうに抱きしめてくれる課長の腕は、しばらく離れなかった。

「課長……ちょっと苦しいです……」

「ごめん。手を出すつもりで呼んだんじゃないのに、そんな自分に驚いてるんだよね」

課長はそんなことを言いながら全く離してはくれなくて、私も課長の背中に手を回した。
ほっとするような温かさと鼓動。課長もドキドキしてるようで伝わってくる。
私も胸が高鳴ってくるが、ちょっと長い。

「課長……あの……そろそろ」

あまりの長さにハグを打ち切ろうと提案すると、課長は納得いってない顔。

「はあ。俺、好きすぎて怖いんだけど」

と真顔で放してくれたけど、意外と欲が強そうな課長にときめいてしまったので私も変態かもしれない。


そうして、買って来たお酒やテイクアウトした品を出して舌鼓を打つ。
家呑みは落ち着くし大好きだ。

「今から食うし、マスク外していい?」

「はい、私も……」

課長がマスクを外している姿を久しぶりに見た気がする。整った顔をしっかりと目の当たりにして、自分のマスクを取るのに気遅れした。

「ん? マスクなし抵抗ある?」

「いえ、ちょっと……顔を見せちゃうのが恥ずかしくて……」

「なんで。俺、このご時世になる前から死ぬほど竹内さんの顔見てたけど」

ヒッ!
なんか変態!

「こんな時代だし、いろいろと、もう運命共同体だろ。俺たちは」

「そうですよね……今からお付き合いを始めるって、そういうことですよね……」

え~い。取るしかなーい。

課長に見つめられる中、そっとマスクを外した。
メイクが崩れてそうだし、恥ずかしさは拭えないけど――。

課長は微笑みながら私に言う。

「かわいい。もっと見せて」

「……そ、そんなに見ないでください」

「見るよ。好きな子の顔だしな。かわいいよ。隠さないでいい」

課長が、私の肩を抱き寄せる。
甘い吐息が混じり合った後、柔らかい唇が触れ合った。
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