随筆

8

ねぇ、春田。

色々考えちゃって、まだ起きてることについては、今日は叱らないでほしい。

あのね、我慢しても良かったんだけど、私が弱いところを見せられるのは、春田しかいなくて……。
本当は、ずっと完璧な姿でいたいんだけど、一緒に居たらいずれボロが出ると思う。バレバレの強がりしかできないし、自分を責めて泣くこともある。
でも、そんなとき、私はどうにかしてほしいんじゃなくて、ただ寄り添ってほしくて、春田に甘えたくなってしまう。

平気なフリを続けてたら、心が凍ってしまう。誰にも深入りしないで、表面だけでやり過ごす。人に嫌われるのが怖くて、そうやって生きてきた時代もあったけど、春田とはそんな関係になりたくない。

ワガママかもしれません。ごめんなさい。

私は、お察しの通り、不出来で面倒くさがりで、ダメなところが人より多いです。
なので、開き直ったり、何も努力しなくなったら、叱ってほしい。
全体重を委ねて、何もかもずっと甘えていたい訳ではないです。
ただ、今日はなんか、何もできない自分がしんどくて。正直、努力不足だったところもあったなって気付いて、余計に落ち込んじゃって……。
落ち込まないでって元気付けようとしてくれてたんだろうけど、ちょっとつらかったから……。

なんていうか、そんな気持ちで……蔑ろにして後でぐちゃぐちゃになりたくなくって。


「……黒木さん、起きてたの」
春田が眠そうにこちらを見ていた。
「うん……起こしちゃった？」
「ううん」

カンカンとまわる換気扇の音を水道のせせらぎが遮った。
「黒木さんも、もう寝よう？」
空になったコップをシンクに置いて、寝室へ向かっていく背中に私は－－－

「ねぇ、春田」



なんて言えずに。

私はタバコをもみ消すと、パタンと灰皿の蓋を閉め、いつも通り、なんてことない顔で頷いた。