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【愛人と奴隷と心理士と諜報員?】その16
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「私からも一言、言わせていただきます・・・この薔薇ジャムは、あなたの為にヒロコ様が液体で服用しやすいようにと開発しました。最近、朝早くから仕事の準備をされ、体術の訓練を挟み、ヒロコ様と勉学に励み、ご自宅で魔術の研究やお身体を鍛え直しているとお聞きしております。周囲の者が目で見てわかるようにお忙しいあなたをご心配しておられました・・・そんなイスマエル様に、正しい判断ができる状況ではなかったと私も思います」
「何を言っている! それが私の仕事だ! やって当たり前だ!」
「・・・・・・・・・・大きなお世話よ」
「ヒロコ!?」
下を向いたまま、首も動かせなくなっている私は言葉だけで彼に語る。
「私を危険に晒さない為に、片っぱしから“悪”とあなたが判断するものを排除している」
「だからそれはっ――――」
「あなたが私の為に切りたくないものまで、切り捨てる必要なんかないのよ」
「私が切りたくないもの・・・・・・」
「あなたはっ! 自分の父親にそっくりな姿をした人間を殺せるの? 切りたくもない少年を切り捨てて苦しくはないの? 顔見知りに対して殺すとか、拷問するとか平気で言わないでよ!? そんなの私の為なんかじゃないし、そんなのが仕事だなんて言って欲しくない!」
身体が冷えていく、呼吸が浅く早く・・・自分の心臓の音が耳に響いて、目の前が・・・暗くなっていく――――。
ぐらりと椅子ごと倒れかかった私を、安心感そのものの長い腕と広い胸で受け止めてくれたのは・・・・・・。
「父上ぇっ!?」
暖かく爽やかな春風のように現れた、ソラルだった。
そっと横抱きの、お姫様抱っこからの、椅子に私ごと腰掛け、子供をあやすように頭をナデナデしてくれた。
「よしよし・・・よく頑張ったな、私の小さな聖女・・・」
彼が触れた場所から、温かくなり、冷えてこわばっていた身体が段々楽になった気がした。
ああ、なんて・・・安心、安全、安定のトリプルAのソラルさま。
スンスン・・・ええ匂い・・・。
なんだろこれ、牧草っぽいかな?
そうそう、あれあれ・・・安心、安全、安定品質のオー〇〇ビーフ・・・。
なんか急に食欲が出て来たような気がする。
「父上・・・どうしてここに・・・」
「何を言ってるんだ。おまえが指示を出したから戦力補助の為に協力したんだろうが? だから、先ほど怪しい者を拘束したのをマテオ様に報告しに来たのだ。事情は先ほど少し聞いたのだが・・・」
「けれど何故、私の指示に父上が関係あるのですか?」
「“戦闘能力の高い者”と協力して、城内と城外に怪しい人間や馬車の類がいないかと重要事項として指示を流しただろう」
「ああ・・・そうですが・・・まさか騎士団長であるあなたが直接動くなんて、思いつきませんでした」
「・・・・・・・・知らんのか?」
「何をです?」
「そうか、まだまだ自覚が足りんな・・・・・・聖女の為の世話係の権力は、私の仕事よりも上なのだ。王と宰相の意見が最重要事項として優先されるように、聖女を護るための世話係の指示は、それらに近い! 覚えておけ、今、自分の立たされている立場を!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え」
「まあ・・・・・・・聖女は滅多な事では出現しないからな、無理もない・・・か?」
「私の指示が、騎士団長の仕事より優先事項なのですかっ!?」
何だか今日は、気苦労の絶えないイスマエルに美味しいお酒と何か気の利いたつまみでもご馳走してあげたい気分になった。
「何を言っている! それが私の仕事だ! やって当たり前だ!」
「・・・・・・・・・・大きなお世話よ」
「ヒロコ!?」
下を向いたまま、首も動かせなくなっている私は言葉だけで彼に語る。
「私を危険に晒さない為に、片っぱしから“悪”とあなたが判断するものを排除している」
「だからそれはっ――――」
「あなたが私の為に切りたくないものまで、切り捨てる必要なんかないのよ」
「私が切りたくないもの・・・・・・」
「あなたはっ! 自分の父親にそっくりな姿をした人間を殺せるの? 切りたくもない少年を切り捨てて苦しくはないの? 顔見知りに対して殺すとか、拷問するとか平気で言わないでよ!? そんなの私の為なんかじゃないし、そんなのが仕事だなんて言って欲しくない!」
身体が冷えていく、呼吸が浅く早く・・・自分の心臓の音が耳に響いて、目の前が・・・暗くなっていく――――。
ぐらりと椅子ごと倒れかかった私を、安心感そのものの長い腕と広い胸で受け止めてくれたのは・・・・・・。
「父上ぇっ!?」
暖かく爽やかな春風のように現れた、ソラルだった。
そっと横抱きの、お姫様抱っこからの、椅子に私ごと腰掛け、子供をあやすように頭をナデナデしてくれた。
「よしよし・・・よく頑張ったな、私の小さな聖女・・・」
彼が触れた場所から、温かくなり、冷えてこわばっていた身体が段々楽になった気がした。
ああ、なんて・・・安心、安全、安定のトリプルAのソラルさま。
スンスン・・・ええ匂い・・・。
なんだろこれ、牧草っぽいかな?
そうそう、あれあれ・・・安心、安全、安定品質のオー〇〇ビーフ・・・。
なんか急に食欲が出て来たような気がする。
「父上・・・どうしてここに・・・」
「何を言ってるんだ。おまえが指示を出したから戦力補助の為に協力したんだろうが? だから、先ほど怪しい者を拘束したのをマテオ様に報告しに来たのだ。事情は先ほど少し聞いたのだが・・・」
「けれど何故、私の指示に父上が関係あるのですか?」
「“戦闘能力の高い者”と協力して、城内と城外に怪しい人間や馬車の類がいないかと重要事項として指示を流しただろう」
「ああ・・・そうですが・・・まさか騎士団長であるあなたが直接動くなんて、思いつきませんでした」
「・・・・・・・・知らんのか?」
「何をです?」
「そうか、まだまだ自覚が足りんな・・・・・・聖女の為の世話係の権力は、私の仕事よりも上なのだ。王と宰相の意見が最重要事項として優先されるように、聖女を護るための世話係の指示は、それらに近い! 覚えておけ、今、自分の立たされている立場を!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え」
「まあ・・・・・・・聖女は滅多な事では出現しないからな、無理もない・・・か?」
「私の指示が、騎士団長の仕事より優先事項なのですかっ!?」
何だか今日は、気苦労の絶えないイスマエルに美味しいお酒と何か気の利いたつまみでもご馳走してあげたい気分になった。
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