68 / 71
【愛人と奴隷と心理士と諜報員?】その15
しおりを挟む
私は、座ったままティーカップに指を添えながら静止していた。
「ねぇ~、僕、薔薇ジャム食べれないんだけどお・・・」
「存じております。今回はあえてナトン様が口にしないように薔薇ジャムにしました」
クレーが私の代わりにナトンにそう答えた。
「・・・・・・・・どうしてえ?」
「ナトン様には必要ないからです」
「そうだな、勉強や訓練で疲れた様子もないもんな」
「ぶう~! んもう、ヒロコぉ・・・今度僕にもお菓子作ってよ?」
「うん、わかった」
首から下は動かないので、精一杯の笑顔で答えた。
「俺は昨日の寝不足が吹っ飛んたんで、これから訓練場で自主練してくるよ」
「あ、マクシム! せっかくだから、五十人抜きしてから対戦しようよ!」
「五十人抜きって・・・本当におまえには回復薬なんか必要なさそうだな」
立ち上がったマクシムと合わせて、ナトンも椅子から腰を上げた。
部屋には私とイスマエル、クレーとギヨムが残った。
具はないが、栄養が凝縮されたコンソメスープと一口サイズのサンドイッチが、準備された。
私は水だけ先に口にし、それを確認したイスマエルが食事を始める。
上品だが、男性らしい食べっぷりだ。
それを見越してか、イスマエルのサンドイッチは私の分よりボリューム感があった。
先ほどから私と目を合わさずにいた彼は、ようやく異変に気が付いたのか、動かない私を不思議そうに見つめた。
「ヒロコ・・・食べないのか?」
「・・・あ、ごめんなさい。下げてください、後にします」
「ヒロコ様、せめて温かいうちにスープだけでも・・・栄養を凝縮してあります」
「うん・・・」
ギヨムもクレーも承知の上で、余計な事は一切せず、当然のようにスープと水以外を下げた。
「どうした・・・私が不機嫌な態度を取った事を気にしているのか?」
少しばつが悪そうな表情を浮かべて見せた。
「ううん・・・そうじゃないの。クレー、今日の予定は?」
「はい、今日はこの後何も予定は入れていませんので、ご安心して休息をお取り下さい。私が、おそばにおります・・・ヒロコ様」
前かがみに私の顔を覗き込んだクレーが、寂しげな笑顔を浮かべる。
「だ・・・だいたい、あの男が偽物だと気が付いていたのなら・・・直ぐに私に言えばよかったものを! 何故わざわざ、こんなあぶない真似をしたのか・・・そ、そりゃあまだ、私達の関係は信頼度が足りないとは思っているが・・・相談してくれても良かっただろう? 軽率ではないのか?」
さっと顔を上げたクレーが、イスマエルをひと睨みした。
「・・・・・・・・お言葉ですが、思慮が浅いのはイスマエル様の方でございます」
「なにっ?」
「今回、ヒロコ様は私の立場を護って下さいました。それは・・・私に相談すれば、イスマエル様の知る事となり・・・あの男を待ち伏せしてでも有無を言わさずにお切りになったでしょう」
「当然だ!」
「そして、事件の要因はうやむやにされ、解決しなかった事でしょう」
冷たく響くその声は、誰よりも強い説得力を持っていた。
イスマエルはみぞおちを打たれたように声も立てられなかった。
「ねぇ~、僕、薔薇ジャム食べれないんだけどお・・・」
「存じております。今回はあえてナトン様が口にしないように薔薇ジャムにしました」
クレーが私の代わりにナトンにそう答えた。
「・・・・・・・・どうしてえ?」
「ナトン様には必要ないからです」
「そうだな、勉強や訓練で疲れた様子もないもんな」
「ぶう~! んもう、ヒロコぉ・・・今度僕にもお菓子作ってよ?」
「うん、わかった」
首から下は動かないので、精一杯の笑顔で答えた。
「俺は昨日の寝不足が吹っ飛んたんで、これから訓練場で自主練してくるよ」
「あ、マクシム! せっかくだから、五十人抜きしてから対戦しようよ!」
「五十人抜きって・・・本当におまえには回復薬なんか必要なさそうだな」
立ち上がったマクシムと合わせて、ナトンも椅子から腰を上げた。
部屋には私とイスマエル、クレーとギヨムが残った。
具はないが、栄養が凝縮されたコンソメスープと一口サイズのサンドイッチが、準備された。
私は水だけ先に口にし、それを確認したイスマエルが食事を始める。
上品だが、男性らしい食べっぷりだ。
それを見越してか、イスマエルのサンドイッチは私の分よりボリューム感があった。
先ほどから私と目を合わさずにいた彼は、ようやく異変に気が付いたのか、動かない私を不思議そうに見つめた。
「ヒロコ・・・食べないのか?」
「・・・あ、ごめんなさい。下げてください、後にします」
「ヒロコ様、せめて温かいうちにスープだけでも・・・栄養を凝縮してあります」
「うん・・・」
ギヨムもクレーも承知の上で、余計な事は一切せず、当然のようにスープと水以外を下げた。
「どうした・・・私が不機嫌な態度を取った事を気にしているのか?」
少しばつが悪そうな表情を浮かべて見せた。
「ううん・・・そうじゃないの。クレー、今日の予定は?」
「はい、今日はこの後何も予定は入れていませんので、ご安心して休息をお取り下さい。私が、おそばにおります・・・ヒロコ様」
前かがみに私の顔を覗き込んだクレーが、寂しげな笑顔を浮かべる。
「だ・・・だいたい、あの男が偽物だと気が付いていたのなら・・・直ぐに私に言えばよかったものを! 何故わざわざ、こんなあぶない真似をしたのか・・・そ、そりゃあまだ、私達の関係は信頼度が足りないとは思っているが・・・相談してくれても良かっただろう? 軽率ではないのか?」
さっと顔を上げたクレーが、イスマエルをひと睨みした。
「・・・・・・・・お言葉ですが、思慮が浅いのはイスマエル様の方でございます」
「なにっ?」
「今回、ヒロコ様は私の立場を護って下さいました。それは・・・私に相談すれば、イスマエル様の知る事となり・・・あの男を待ち伏せしてでも有無を言わさずにお切りになったでしょう」
「当然だ!」
「そして、事件の要因はうやむやにされ、解決しなかった事でしょう」
冷たく響くその声は、誰よりも強い説得力を持っていた。
イスマエルはみぞおちを打たれたように声も立てられなかった。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説

父の大事な家族は、再婚相手と異母妹のみで、私は元より家族ではなかったようです
珠宮さくら
恋愛
フィロマという国で、母の病を治そうとした1人の少女がいた。母のみならず、その病に苦しむ者は、年々増えていたが、治せる薬はなく、進行を遅らせる薬しかなかった。
その病を色んな本を読んで調べあげた彼女の名前は、ヴァリャ・チャンダ。だが、それで病に効く特効薬が出来上がることになったが、母を救うことは叶わなかった。
そんな彼女が、楽しみにしていたのは隣国のラジェスへの留学だったのだが、そのために必死に貯めていた資金も父に取り上げられ、義母と異母妹の散財のために金を稼げとまで言われてしまう。
そこにヴァリャにとって救世主のように現れた令嬢がいたことで、彼女の人生は一変していくのだが、彼女らしさが消えることはなかった。
【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい
春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。
そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか?
婚約者が不貞をしたのは私のせいで、
婚約破棄を命じられたのも私のせいですって?
うふふ。面白いことを仰いますわね。
※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。
※カクヨムにも投稿しています。


すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。
【掌編集】今までお世話になりました旦那様もお元気で〜妻の残していった離婚受理証明書を握りしめイケメン公爵は涙と鼻水を垂らす
まほりろ
恋愛
新婚初夜に「君を愛してないし、これからも愛するつもりはない」と言ってしまった公爵。
彼は今まで、天才、美男子、完璧な貴公子、ポーカーフェイスが似合う氷の公爵などと言われもてはやされてきた。
しかし新婚初夜に暴言を吐いた女性が、初恋の人で、命の恩人で、伝説の聖女で、妖精の愛し子であったことを知り意気消沈している。
彼の手には元妻が置いていった「離婚受理証明書」が握られていた……。
他掌編七作品収録。
※無断転載を禁止します。
※朗読動画の無断配信も禁止します
「Copyright(C)2023-まほりろ/若松咲良」
某小説サイトに投稿した掌編八作品をこちらに転載しました。
【収録作品】
①「今までお世話になりました旦那様もお元気で〜ポーカーフェイスの似合う天才貴公子と称された公爵は、妻の残していった離婚受理証明書を握りしめ涙と鼻水を垂らす」
②「何をされてもやり返せない臆病な公爵令嬢は、王太子に竜の生贄にされ壊れる。能ある鷹と天才美少女は爪を隠す」
③「運命的な出会いからの即日プロポーズ。婚約破棄された天才錬金術師は新しい恋に生きる!」
④「4月1日10時30分喫茶店ルナ、婚約者は遅れてやってきた〜新聞は星座占いを見る為だけにある訳ではない」
⑤「『お姉様はズルい!』が口癖の双子の弟が現世の婚約者! 前世では弟を立てる事を親に強要され馬鹿の振りをしていましたが、現世では奴とは他人なので天才として実力を充分に発揮したいと思います!」
⑥「婚約破棄をしたいと彼は言った。契約書とおふだにご用心」
⑦「伯爵家に半世紀仕えた老メイドは伯爵親子の罠にハマり無一文で追放される。老メイドを助けたのはポーカーフェイスの美女でした」
⑧「お客様の中に褒め褒めの感想を書ける方はいらっしゃいませんか? 天才美文感想書きVS普通の少女がえんぴつで書いた感想!」
【完結】捨ててください
仲 奈華 (nakanaka)
恋愛
ずっと貴方の側にいた。
でも、あの人と再会してから貴方は私ではなく、あの人を見つめるようになった。
分かっている。
貴方は私の事を愛していない。
私は貴方の側にいるだけで良かったのに。
貴方が、あの人の側へ行きたいと悩んでいる事が私に伝わってくる。
もういいの。
ありがとう貴方。
もう私の事は、、、
捨ててください。
続編投稿しました。
初回完結6月25日
第2回目完結7月18日

【完結済み】婚約破棄致しましょう
木嶋うめ香
恋愛
生徒会室で、いつものように仕事をしていた私は、婚約者であるフィリップ殿下に「私は運命の相手を見つけたのだ」と一人の令嬢を紹介されました。
運命の相手ですか、それでは邪魔者は不要ですね。
殿下、婚約破棄致しましょう。
第16回恋愛小説大賞 奨励賞頂きました。
応援して下さった皆様ありがとうございます。
リクエスト頂いたお話の更新はもうしばらくお待ち下さいませ。

すれ違う思い、私と貴方の恋の行方…
アズやっこ
恋愛
私には婚約者がいる。
婚約者には役目がある。
例え、私との時間が取れなくても、
例え、一人で夜会に行く事になっても、
例え、貴方が彼女を愛していても、
私は貴方を愛してる。
❈ 作者独自の世界観です。
❈ 女性視点、男性視点があります。
❈ ふんわりとした設定なので温かい目でお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる