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【愛人と奴隷と心理士と諜報員?】その11
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ギヨムがイスマエルにチョコレートを出そうとすると、彼はさっと掌で遠慮する仕草をした。
一礼して直ぐにチョコレートの小皿を彼は下げた。
その様子を見て、ヴィヨレもチョコレートを辞退したようだ。
確かに私が同じ立場だったら警戒していたかもしれない・・・でも、この紅茶クリームのチョコは最高に美味しいのだ。
私はおひとり様二個ずつ配られたチョコレートを頬張りながら、ジャムなしの熱い紅茶で喉にゆっくりと流した。
「僕、薔薇ジャム苦手なんだよね。このチョコレート、紅茶味で甘いから紅茶はストレートでいいや・・・あ、イスマエルが食べない分、貰っていいかな?」
「ええ、まだチョコレートはございますよ」
ギヨムが上品な笑みを浮かべながら、小さなトングでナトンの小皿にチョコレートを足した。
私はみんなの様子を確認してから、マテオに視線を向けた。
「ううむ・・・」と、マテオは少し難しい顔をしながら薔薇ジャム入りの紅茶と交互にチョコレートをかじる。
「マテオ様、お願いがございます」
「なんじゃ・・・ヒロコ殿・・・この実験以外でも、他に要望があるのかの」
「「「「実験?」」」」
世話係三名プラス、ヴィヨレが一斉に私を見た。
「クレー、手鏡をアーチュウ先生の所へ」
私の指示に従って、クレーはアーチュウに手鏡を渡し、自分の顔を見るように促した。
「・・・ほっ!・・・・」
「「「「ほ?」」」」
アーチュウは片手に手鏡を持ちながら、もう片方の手で自分の頬を指でなぞった。
それは、嬉しさを表現した「ほっ」だった。
「アーチュウ殿のクマが消えたのは何年ぶりかの?」
「ここ十数年・・・ずっと顔面室内飼いしてましたよ」
「ううむ・・・苦労してるの・・・」
「お互い様です・・・」
ふう・・・と、ため息をつきながら二人は半笑いしながら肩を落とした。
アーチュウは手鏡をクレーに返し、大事そうにちびちびとチョコレートを口に含んだ。
「アーチュウ先生、実は薔薇ジャムをコーティングしたチョコが少しならあります」
「ぜひ!」
どうやら、甘いものが大好きらしい。
「クレー、紅茶のチョコと、例のチョコを1ダースお包みして!」
「かしこまりました」
クレーが一礼し、準備していた桐箱を懐の亜空間から出し、ギヨムに渡した。
白いタオル以外もクレーの特別ポケットには入るらしい。
とっても不思議なクレーの空間魔法だ。
「桐箱ではチョコレートが溶けませんか?」
「大丈夫です。特別な術を施してあります」
「そりゃまた高価な箱を準備しましたね」
二人がぼそぼそと会話を交わしていた。
「ま・・・まさか・・・今度は薔薇ジャムかよ!?」
ヴィヨレは空のティーカップと私の顔を交互に見つめた。
「ヒロコ・・・せめて私には一言くれても・・・」
イスマエルは眉尻を下げながら、眼鏡のブリッジを押さえた。
「は? じゃあ・・・俺は既に昨夜の夕食で・・・」
「ああ・・・確かに、あれは私の作った薔薇ジャムのチョコだよ?」
「マジか!! 通りで・・・」
「どうなったの?」
「いや・・・あの・・・本当はヒロコの為にピアノ演奏をしようと、夜に部屋を訪ねたんだけど・・・」
「秒でお帰りいただきました」
クレーが美しい侍女姿勢のまま、マクシムを言葉で切って捨てた。
さすがは侍女の鑑! クレー姉さん!!
どうやらマクシムは妙に頭が冴えてしまい“音楽の才”が暴走し、一晩中ピアノを弾きながら作曲に明け暮れた挙句、かなり近所迷惑な事をしでかしたらしい。
うん、ごめんね! 残念美男子のマクシム!
一礼して直ぐにチョコレートの小皿を彼は下げた。
その様子を見て、ヴィヨレもチョコレートを辞退したようだ。
確かに私が同じ立場だったら警戒していたかもしれない・・・でも、この紅茶クリームのチョコは最高に美味しいのだ。
私はおひとり様二個ずつ配られたチョコレートを頬張りながら、ジャムなしの熱い紅茶で喉にゆっくりと流した。
「僕、薔薇ジャム苦手なんだよね。このチョコレート、紅茶味で甘いから紅茶はストレートでいいや・・・あ、イスマエルが食べない分、貰っていいかな?」
「ええ、まだチョコレートはございますよ」
ギヨムが上品な笑みを浮かべながら、小さなトングでナトンの小皿にチョコレートを足した。
私はみんなの様子を確認してから、マテオに視線を向けた。
「ううむ・・・」と、マテオは少し難しい顔をしながら薔薇ジャム入りの紅茶と交互にチョコレートをかじる。
「マテオ様、お願いがございます」
「なんじゃ・・・ヒロコ殿・・・この実験以外でも、他に要望があるのかの」
「「「「実験?」」」」
世話係三名プラス、ヴィヨレが一斉に私を見た。
「クレー、手鏡をアーチュウ先生の所へ」
私の指示に従って、クレーはアーチュウに手鏡を渡し、自分の顔を見るように促した。
「・・・ほっ!・・・・」
「「「「ほ?」」」」
アーチュウは片手に手鏡を持ちながら、もう片方の手で自分の頬を指でなぞった。
それは、嬉しさを表現した「ほっ」だった。
「アーチュウ殿のクマが消えたのは何年ぶりかの?」
「ここ十数年・・・ずっと顔面室内飼いしてましたよ」
「ううむ・・・苦労してるの・・・」
「お互い様です・・・」
ふう・・・と、ため息をつきながら二人は半笑いしながら肩を落とした。
アーチュウは手鏡をクレーに返し、大事そうにちびちびとチョコレートを口に含んだ。
「アーチュウ先生、実は薔薇ジャムをコーティングしたチョコが少しならあります」
「ぜひ!」
どうやら、甘いものが大好きらしい。
「クレー、紅茶のチョコと、例のチョコを1ダースお包みして!」
「かしこまりました」
クレーが一礼し、準備していた桐箱を懐の亜空間から出し、ギヨムに渡した。
白いタオル以外もクレーの特別ポケットには入るらしい。
とっても不思議なクレーの空間魔法だ。
「桐箱ではチョコレートが溶けませんか?」
「大丈夫です。特別な術を施してあります」
「そりゃまた高価な箱を準備しましたね」
二人がぼそぼそと会話を交わしていた。
「ま・・・まさか・・・今度は薔薇ジャムかよ!?」
ヴィヨレは空のティーカップと私の顔を交互に見つめた。
「ヒロコ・・・せめて私には一言くれても・・・」
イスマエルは眉尻を下げながら、眼鏡のブリッジを押さえた。
「は? じゃあ・・・俺は既に昨夜の夕食で・・・」
「ああ・・・確かに、あれは私の作った薔薇ジャムのチョコだよ?」
「マジか!! 通りで・・・」
「どうなったの?」
「いや・・・あの・・・本当はヒロコの為にピアノ演奏をしようと、夜に部屋を訪ねたんだけど・・・」
「秒でお帰りいただきました」
クレーが美しい侍女姿勢のまま、マクシムを言葉で切って捨てた。
さすがは侍女の鑑! クレー姉さん!!
どうやらマクシムは妙に頭が冴えてしまい“音楽の才”が暴走し、一晩中ピアノを弾きながら作曲に明け暮れた挙句、かなり近所迷惑な事をしでかしたらしい。
うん、ごめんね! 残念美男子のマクシム!
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