病んで死んじゃおうかと思ってたら、事故ってしまい。異世界転移したので、イケおじ騎士団長さまの追っかけを生き甲斐とします!

もりした透湖

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【愛人と奴隷と心理士と諜報員?】その10

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 私はつい、鼻先で笑ってしまった。
「ヴィヨレ、さっきから言っている事と、やっている事が全然違うみたい」
「・・・・・・・なんだよ」
「試したのね?」
「・・・・・・・・・・別に」
「わざとひどい事を言って、私がみんなに大切に思われているかどうか、手早く確認したかったんじゃないの?」
「・・・・・・あんたが悪い女だったら・・・良かったのになぁ・・・」
 おかしな恰好で皆がテーブルに体重をかけている状態から、互いに顔を見合わせながらズルズルと元の椅子にかけ直していった。
「あ、クレー、紅茶が冷めちゃったみたい。淹れ直してくれる?」
「はい、承知しました」
「それと・・・・・・ギヨムさん・・・」
 視線を合わせたギヨムは、ゆっくりと頷いた。
「“ギヨム”と、および下さい“さん”はいりません」
「わかりました。ギヨム、新作の紅茶クリーム入りのチョコレートをお願いね」
「へえ、紅茶クリームのチョコ? 美味しそう!」
 ナトンが嬉しそうにチョコレートが準備されるのを待った。
「俺が昨日食べたのとは違うのか?」
 マクシムが不思議そうに首を捻った。
 “チョコレート”と聞いて、イスマエルとヴィヨレが眉間にしわを寄せた。
 熱い紅茶を淹れ直し、ティーカップを入れ替えていく横で、ギヨムが手際よく白い小皿にチョコレートを乗せていった。
「薔薇ジャムをご用意しました。砂糖の代わりにお好みでどうぞ、檸檬と桃をブレンドしているものです」
 二席ごとに、透明な器に入ったジャムをクレーが置いていく。
「薔薇ジャムか・・・懐かしいの・・・良い香りだ」
 マテオが目を細めながら、口ひげを丁寧によけて紅茶を味わった。
「ああ、これ美味しいですねえ・・・ワタクシの知っている薔薇ジャムよりも飲みやすくて・・・癒されますねえ」
 アーチュウが自分よりも身分の高いマテオと、私が紅茶を口に含んだのを確かめてから、遠慮がちに飲み始めた。
 一番先に鼻孔を通るのは花の香りだが、口内に広がる薔薇の風味を追いかけて桃の甘酸っぱさが後を引く・・・。
「そうだ、クレー・・・」
「はい、ヒロコ様、ひと匙だけですよ」
 間入れず、準備されていたブランデーをサッと器にこぼした。
「ありがとう」
「クレー」
 イスマエルが何か文句でも言いそうに声を出した。
「ひと匙だけだもん!」
 ティーカップを奪われないように両手でホールドして見せた。
「私はふた匙だ・・・」
 彼は分かりやすく指を二本立てて見せた。

 医師であるアーチュウは、患者の症状が軽くなったとは言え、急激な患者の状態変化の為に診療記録に追われ、相変わらず目の下にクマを常備していた。
 国の重鎮のマテオも、この騒ぎを確認する為に、すべての予定を一時的に中断してきている。
 とりあえずの、大騒ぎの中の一息をついた感じになった。
「・・・・・・・そう言えば、ヴィヨレ殿は・・・」
「“ヴィヨレ”でいい・・・デスヨ、どうせ元々、オレは下位の出身です。両親の素性もよく知りません」
 何故かヴィヨレは宰相のマテオと、医師のアーチュウに対して言葉遣いは気を付けているようだ。
「“幻影の才”とは、珍しい能力をお持ちで」
「諜報員としてはそれなりに母国に貢献していたつもりでした・・・が、敵国に寝返った以上は無事では済まされないでしょうね」
「ヴィヨレの能力を確認したいんだけど?」
「・・・・・・なにを?」
 皆が飲む薔薇ジャム入りの紅茶の香りに誘われて、ヴィヨレは紅茶で喉を潤した。
 無論、チョコレートには一切手を付けていない。
「ソラルさまに化けるには、情報を集める必要があったのよね? なのに、私の“先生”について知らないはずのあなたが何で“先生”と重なっちゃったのかな? 私の思い込み?」
 ヴィヨレはカップの底に沈む砕けた薔薇の花弁をぐっと一気に飲み込み、ソーサーに空のカップを置いた。
「オレの能力は・・・2段階ある。一つは様々な情報を得て、周囲すべての人間に幻覚を見せ、偽物を演じる。もう一つは・・・・・・・目の前の人間に対してのみ、その者が強く思った姿の幻影をみせる・・・つまり相手の頭の中にある思い出の人間に化けるんだ。一時だけの夢であり、周囲の人間にはオレ自身の姿しか映らない」
「大変興味深い! つまり、事前情報がなくても、騙す相手の記憶の中を覗けるという特殊能力ですか?」
 アーチュウが意気込み過ぎて、ツバが飛んでいた。
 若く見えるのに、そんなところがジジイだなあ・・・と感じる。
「いや・・・ハッキリ覗ける訳じゃないんだ。ただ、その人が持つ強いイメージだけ部分的に拾って、後はオレのはったりに近い。即席の演技だ・・・けど、今回は聖女であるヒロコに近づき過ぎて、たまたまその“先生”になってしまっただけだと思・・・います」
「なるほど、なるほど・・・」
 うんうんと、目を瞑り、アーチュウはその情報を脳にインプットしていた。
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