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【愛人と奴隷と心理士と諜報員?】その9
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「かなり危険なタイミングを狙いましたね。ソラル様が帰還した当日じゃないですか」
アーチュウは呆れた様子でそう言った。
「でも、一番落ちやすいタイミングを狙ったんだけどな」
薄紫の上品なくせ毛をかき上げながら、ワザとらしくため息をこぼした。
「つまり、ヒロコ様が弱っているところを狙ったんですね?」
室内に一瞬緊張が走った。
まさかあの時の誰かに化けていたというのだろうか?
「吊り橋効果的な、さらに漁夫の利狙いでしたか・・・ですが、大外れのようでしたね」
アーチュウが抑揚のない声で会話を続けた。
「う~ん・・・ほら、そこの侍女さんもヒロコ様を慰めたい一心でソラル様との逢引きを許しちゃったワケよ、それぐらい周囲から見れば“あの子大変だろうなあ”みたいな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・待て」
とても低い低い声をイスマエルが発した。
「うん?」
「貴様・・・あの時の、傷ついたヒロコを見て・・・父上の姿に化けて、しかも夜中にヒロコの部屋に・・・侵入したと・・・」
「イスマエル・・・その辺は俺も同感だ・・・ヒロコを慰める役はやりたかったが・・・俺は紳士だからな、そんな女性の弱みに付け込むような真似はしなかったぞ」
「――――いえ、マクシム様には秒でお帰りいただきました」
クレーが素早く事実を報告した。
「来たんだ・・・」
どうやらクレーには、マクシムが紳士に見えなかったらしい。
後から美貌の貴婦人フォスティンヌに聞いた話だが、同時刻にイスマエルは何故か屋敷の庭で父親のソラルと激しい剣稽古をしていたので、「かなり近所迷惑だった」らしい。
「・・・・・・・アーチュウ先生とヒロコの会話を僕は聞いているからね、全体の状況を考えると、かなりの・・・心理戦の手練れだよね? 心理士とは偽りじゃなさそうだね」
私はたまに大人びたようなナトンの言葉にドキリとしてしまう。
黄緑色の虹彩を放つ瞳は、人の心を見透かす猫のようにも見えた。
(あ・・・いかん、今、ナトンくんに可愛らしいケモミミの幻影が・・・)
「あんた達・・・さ、逆にこの残酷な現実を受け入れているこの女が・・・清らかな聖女だとでも思ってるワケ?」
ヴィヨレはあざけるように口を歪めながら、前のめりに片肘をつき、もう一方の手で私を指さした。
私はそんなヴィヨレの態度に何も感じなかった・・・まるでテレビ画面の向こう側にいる役者のように見えたのだ。
その時、テーブルを両手で掴んでいるナトンの姿勢を見て、肩が激しい怒りに震えているのを察知した全員が、テーブルを力の限り上から押さえ込んだ。
ビシッ! と、彼が掴んでいる部分に亀裂が生じた。
皆の機転で、ナトンの“怒りのちゃぶ台返し”は不発に終わった。
ヴィヨレを含め、ナトンを止めようとする全員の気持ちが一緒になった瞬間だった。
アーチュウは呆れた様子でそう言った。
「でも、一番落ちやすいタイミングを狙ったんだけどな」
薄紫の上品なくせ毛をかき上げながら、ワザとらしくため息をこぼした。
「つまり、ヒロコ様が弱っているところを狙ったんですね?」
室内に一瞬緊張が走った。
まさかあの時の誰かに化けていたというのだろうか?
「吊り橋効果的な、さらに漁夫の利狙いでしたか・・・ですが、大外れのようでしたね」
アーチュウが抑揚のない声で会話を続けた。
「う~ん・・・ほら、そこの侍女さんもヒロコ様を慰めたい一心でソラル様との逢引きを許しちゃったワケよ、それぐらい周囲から見れば“あの子大変だろうなあ”みたいな?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・待て」
とても低い低い声をイスマエルが発した。
「うん?」
「貴様・・・あの時の、傷ついたヒロコを見て・・・父上の姿に化けて、しかも夜中にヒロコの部屋に・・・侵入したと・・・」
「イスマエル・・・その辺は俺も同感だ・・・ヒロコを慰める役はやりたかったが・・・俺は紳士だからな、そんな女性の弱みに付け込むような真似はしなかったぞ」
「――――いえ、マクシム様には秒でお帰りいただきました」
クレーが素早く事実を報告した。
「来たんだ・・・」
どうやらクレーには、マクシムが紳士に見えなかったらしい。
後から美貌の貴婦人フォスティンヌに聞いた話だが、同時刻にイスマエルは何故か屋敷の庭で父親のソラルと激しい剣稽古をしていたので、「かなり近所迷惑だった」らしい。
「・・・・・・・アーチュウ先生とヒロコの会話を僕は聞いているからね、全体の状況を考えると、かなりの・・・心理戦の手練れだよね? 心理士とは偽りじゃなさそうだね」
私はたまに大人びたようなナトンの言葉にドキリとしてしまう。
黄緑色の虹彩を放つ瞳は、人の心を見透かす猫のようにも見えた。
(あ・・・いかん、今、ナトンくんに可愛らしいケモミミの幻影が・・・)
「あんた達・・・さ、逆にこの残酷な現実を受け入れているこの女が・・・清らかな聖女だとでも思ってるワケ?」
ヴィヨレはあざけるように口を歪めながら、前のめりに片肘をつき、もう一方の手で私を指さした。
私はそんなヴィヨレの態度に何も感じなかった・・・まるでテレビ画面の向こう側にいる役者のように見えたのだ。
その時、テーブルを両手で掴んでいるナトンの姿勢を見て、肩が激しい怒りに震えているのを察知した全員が、テーブルを力の限り上から押さえ込んだ。
ビシッ! と、彼が掴んでいる部分に亀裂が生じた。
皆の機転で、ナトンの“怒りのちゃぶ台返し”は不発に終わった。
ヴィヨレを含め、ナトンを止めようとする全員の気持ちが一緒になった瞬間だった。
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