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【愛人と奴隷と心理士と諜報員?】その7

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「つまり・・・私の母も貴様に協力してしまった形になるのか?」
「・・・・・・・そうだなあ、ソラル様に成り代わるには彼女からの情報が必要だったからな、まあ、彼女の意志ではないよ?」
 衛兵に指示を出し終わっていたイスマエルは、ヴィヨレの襟首を大きく掴み、椅子から立ち上がらせた。
「母の・・・愛人ではないと言ったな? 説明しろ」
「ん~・・・、オレは心の治癒士として雇われただけだ、これ以上は言えない」
「母の治療を・・・していた?」
「オレは幻影士、だから・・・この能力は使い方によっては、人を騙しもするし、場合によっては救いもする・・・わかるだろ?」
 覆いかぶさるように凄むイスマエルに、物怖じもせず彼は答えた。
「直接的にも、間接的にも、母が聖女の誘拐幇助ほうじょに自分の意志で協力した訳ではないという事だな?」
「そうそう、ゴメンゴメン。オレが治療と言いつつ彼女に近づいただけって事だよ。誰だって心の悩みも・・・人に言えない暗黒面は家族には話したくないモンだろ?」
 納得はしていないが、イスマエルはヴィヨレの胸ぐらをゆっくり放した。
 すとん、と、ヴィヨレは椅子に尻を着けた。
「では、他国の工作員スパイは捉えて拷問だな。自ら聖女の誘拐の手引きを行ったと自白したのだ」
 そうなのだけど、そうとも言えない。
「・・・・・・イスマエルさんや? 私、誘拐されていませんけど?」
 日本の警察風に言うと「まだ事件になっていません」という状態だ。
 誘拐事件にするには、実際に事件が起きてからではないと無理なのである。
「では、城に忍び込んだ不法侵入罪で裁く」
「でもオレ、今・・・聖女様と隷属契約になったんだけど? 罪に問えるの?」
 (えーと、うーんと・・・よく分からない。誰か教えて下さい!?)
「イスマエル、打つ手なしだ。彼の罪は問えない、何せ聖女ヒロコが彼をかばってしまっている」
 侍女のクレーに準備された、熱い紅茶にゆっくりとマクシムは口を付けながら言った。
「うん、三人の夫候補兼任の世話係に、愛人みたいなのが一人増えただけだよ」
 金髪碧眼美青年(のはず)のマクシムと、茶髪に緑眼の(キラキラの)ショタ系ナトンがイスマエルに追撃を食らわした。
 (あんた達、誰の味方だよ?)
「――――へ? いや、ちょ・・・愛人って何?」
 (あれ? あれ? あれ?)
「・・・だって今、ヒロコがコイツと・・・従属契約をしちゃったんだよ?」
「聖女の奴隷ってなあ? 奴隷の中の最高位だよな・・・」
 マクシムとナトンが並んで、よく分からない掛け合いをしている。
 (奴隷の最高位ってなんだい?)
「・・・・・・・マ・・・マテオ様、今・・・何が起きているのか、私に教えて頂いてもよろしいでしょうかっ!?」

 イスマエルがマテオGと視線を合わせながら、ゆっくりと自分の席に着いた。
 ふがふがと、フサフサの眉毛と髭を揺らしながら、マテオGは語り始めた。
「ふ~ん・・・まずは話を戻すかのお・・・、で? 先ほどアーチュウが質問した内容についてなのだが、ヒロコ殿とそこの・・・」
「ああ、オレ? さっきヴィヨレって名前になっ・・・りました」
「うぬ・・・つまり、直接的な粘膜接触はあったのか?」
 ブフォーーーーーーっ!!!!
 もしかして、わざとなんじゃないだろうか? と言うタイミングで、みんなが何となく紅茶を口に含んだ途端にその発言をした。
「ちょ・・・直接的な粘膜接触ってなあに?」
 ナトンがきちんとした質問をしてくれた。
「アーチュウどの、ここはお任せする」
 振るんだ・・・アーチュウ先生に。
「主に“血液”“唾液”“精液”を介して聖女と深い触れ合いをする場合が、契約媒体とされています。一般的な呪術式の隷属契約とは、まったく違います」
「深い・・・触れ合い・・・だと?」
 イスマエルの手にしていたティーカップの、紅茶の表面には氷が張っていた。
「ふ~ん? 体液交換は時差があっても成立するんだ?」
「「「「「時差っ!?」」」」」
 アーチュウをはじめ、その他数名がヴィヨレの言葉に前のめりになった。
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