病んで死んじゃおうかと思ってたら、事故ってしまい。異世界転移したので、イケおじ騎士団長さまの追っかけを生き甲斐とします!

もりした透湖

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【愛人と奴隷と心理士と諜報員?】その2

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「ふふふっ・・・では、イスマエル? 貴方は騎士の訓練があるのでしょう? どれぐらいで戻る予定かしら?」
「何をバカな事をっ!?」
「イスマエル・・・その剣をしまって?」
 笑顔で小首を傾げる私を見て、彼は歯を食いしばりながら訓練用の細い剣を鞘に納めた。
 私がヒヨッコの見習い聖女と言えども “世話係”は自分の担当する聖女には絶対服従が基本だ。
 場合によっては、その“世話係”の地位を剥奪する事もできる。
 尊敬する兄のようなイスマエルには申し訳ないが、ここは順を追って話をつけたい。
「訓練どころではない・・・この男は、情けない事だが母上の愛人だ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・え」
 今度は私が状況を把握できなかった。
「・・・悪いけど、違うから」
 しれっと紫頭の男は言った。
 愛人と疑われているその男は二十代後半に見える。
 フォスティンヌは若く見えるけれど・・・生物学上は40歳代のはずだ。
「何を言うか! 貴様と母上が何度も逢引きしたのを私は見ているんだぞ!」
「あのさ、悪いけど・・・お客の情報は一切言わない主義だから」
「客だと!? 貴様・・・」
「いや、だから、オレ情夫とかじゃないから・・・誤解されているのは分かってるけどさ・・・現時点ではこれ以上あんたらには何も言えないから」
 まったく何が何だかわからないけれど、私はパシンと勢いよく手を叩き、その音で埒が明かない二人の睨み合いを強制終了した。
 いわゆる相撲技の猫だましである。
「とりあえず、私はその人と遅い朝食を食べます。イスマエルは訓練をサボるつもりなら、この不法侵入の男性の身柄を私がどこまで拘束できるかどうか確認してきて」
「この男の身柄を聖女が預かるとでも?」
「そうよ、私はどこまで自分に権限があるかなんて知らないもの」
「逆にどこまで・・・その男を従わせたいのだ?」
「すべて」
「なに言ってんだ? バカ女!?」
 声だけ張り上げる紫頭を、護衛兵士は二人がかりで床に頭を押さえつけ、拘束して見せた。
 絶対服従・・・余り気分のいいものじゃない。
「やめて、その人を押さえ込まないで・・・クレー、その人と朝食を食べるから準備と案内をお願い」

 朝食が準備された部屋には現在、私と不法侵入の男、料理長のギヨム、侍女のクレーのみである。
 遅めの朝食は、コーンスープに、サラダにトースト、ベーコンエッグは湯気が立ち昇り口の中にジワリと唾液を感じた。
 朝の卵料理は大事なたんぱく源だ。
 次回はふんわりオムレツをお願いしよう。
 ちなみに、“オムライス”と言う言葉が通じなかった。
 どうやらこの国には存在しない料理らしい。
 真向かいの席で太々ふてぶてしく踏ん反り返って座る男は、運ばれてきた料理を見て一瞬表情を柔らかくしたが、私と目が合うと、再び眼光を鋭くした。
 不思議な光を放つ金色の瞳は、どこかの警戒心の強い野犬を思わせる。
 いや、どちらかと言うと・・・異色の狼のようだ。
 そして、どこか憎めないのが悩ましい。
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