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【それは偽りではなく、ノリです。】その7
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しばらくしてから、クレーが疲れた表情を浮かべて戻って来た。
「クレーお帰り、どうしたの?」
「・・・申し訳ありません、私はどうやら職務怠慢だったようです」
「なんで? 職務怠慢って?」
イスマエルの競歩はとても早かったらしく、上品な走り方のクレーが追い付くにはかなり体力を消耗したようだった。
「・・・いえ、とりあえず、ブランデー抜きの冷たいミルクティーを淹れますので、少々お待ちを」
「え・・・残念・・・」
クレーはさっぱりとした冷たいミルクティーを出してくれた。
それと同時に、「コホン」と咳払いを一つして姿勢を正した。
「え~、ただ今より、マクシム様が戻るまで私がヒロコ様に一般教養の授業を致しますので、一緒にお茶をいただいてよろしいでしょうか?」
「もちろん! ささ、ゆっくり座ってお話ししましょう!」
私は両掌でソファーの隣をすすめた。
「はあ~・・・」と、クレーは深いため息をつきながら、私の隣の席に座り、ちゃっかり準備していた自分の冷たいミルクティーを啜ったかと思うと、よっぽど喉が渇いたようで、ぐびぐびと喉を鳴らして一気に飲み干した。
カシャン・・・と、彼女はテーブルに空になったカップを置く。
「そろそろヒロコ様が来てから、三か月・・・もう夏も終わりますし、国王様へのご挨拶の準備も整って参りました」
「ええ、なんか食費事件で慰謝料も取れたし、ドレスの採寸も終わったし、何とか順調だ・・・ですよね?」
少々ウエストを絞らねば・・・と、色々健康管理の反省点も見えてきた。
「はい・・・ヒロコ様に女性として情報供給するのをすっかり忘れておりました」
「あ~そうかも、家庭教師に招く先生も男性が多かった・・・ですね」
「そ・・・それでですね・・・ピアスの件なんですけど・・・」
「あの・・・ピアスって一般的アクセサリーではなかったんですか?」
上品な話し方は中々身に付かないので、悪戦苦闘している。
私のお里がバレバレなのだが、いつも一生懸命私の面倒を見てくれているイスマエル達の為にも何とか慣れねば。
「いえ、一般的なアクセサリーなのではありますが・・・この国の暗黙の了解のようなもののような・・・裏の意味と言いましょうか・・・」
「私・・・何か誤解を招くような事言っちゃいました?」
なんとな~くだが・・・なんとな~くなんだけど・・・「裏の意味」と言うのが嫌な予感しかしない。
「その、男女の機微と言いましょうか・・・ピアスって耳に“穴”を開けますでしょう?」
「開けます・・・ね?」
「女性が男性にピアスをねだったり、プレゼントするって言うのは・・・その、つまり女性側として夜のお誘い的な? 性的なお誘い? 穴に入れる・・・みたいな?」
(やっちまった・・・な? コレ、私、完全にやっちまったな!)
「異性相手にピアスのプレゼントはご法度ってことぉ!?」
たぶん、今の私の顔はムンクの叫び的な感じになっているだろう。
「まあ、親しい友人同士なら一緒に選んだっていいんですけど・・・ねえ? あと、夫婦とか家族なら、全く問題はないんですけどお・・・」
「ひやぁあぁあぁあっ!!」
私は両手で頭を押さえながら、ソファーから立ち上がり、思い切り後ろにのけ反った。
「穴! どこかに私が入れる地中深く掘った穴はありませんかぁあぁあぁあっっっ!?」
「クレーお帰り、どうしたの?」
「・・・申し訳ありません、私はどうやら職務怠慢だったようです」
「なんで? 職務怠慢って?」
イスマエルの競歩はとても早かったらしく、上品な走り方のクレーが追い付くにはかなり体力を消耗したようだった。
「・・・いえ、とりあえず、ブランデー抜きの冷たいミルクティーを淹れますので、少々お待ちを」
「え・・・残念・・・」
クレーはさっぱりとした冷たいミルクティーを出してくれた。
それと同時に、「コホン」と咳払いを一つして姿勢を正した。
「え~、ただ今より、マクシム様が戻るまで私がヒロコ様に一般教養の授業を致しますので、一緒にお茶をいただいてよろしいでしょうか?」
「もちろん! ささ、ゆっくり座ってお話ししましょう!」
私は両掌でソファーの隣をすすめた。
「はあ~・・・」と、クレーは深いため息をつきながら、私の隣の席に座り、ちゃっかり準備していた自分の冷たいミルクティーを啜ったかと思うと、よっぽど喉が渇いたようで、ぐびぐびと喉を鳴らして一気に飲み干した。
カシャン・・・と、彼女はテーブルに空になったカップを置く。
「そろそろヒロコ様が来てから、三か月・・・もう夏も終わりますし、国王様へのご挨拶の準備も整って参りました」
「ええ、なんか食費事件で慰謝料も取れたし、ドレスの採寸も終わったし、何とか順調だ・・・ですよね?」
少々ウエストを絞らねば・・・と、色々健康管理の反省点も見えてきた。
「はい・・・ヒロコ様に女性として情報供給するのをすっかり忘れておりました」
「あ~そうかも、家庭教師に招く先生も男性が多かった・・・ですね」
「そ・・・それでですね・・・ピアスの件なんですけど・・・」
「あの・・・ピアスって一般的アクセサリーではなかったんですか?」
上品な話し方は中々身に付かないので、悪戦苦闘している。
私のお里がバレバレなのだが、いつも一生懸命私の面倒を見てくれているイスマエル達の為にも何とか慣れねば。
「いえ、一般的なアクセサリーなのではありますが・・・この国の暗黙の了解のようなもののような・・・裏の意味と言いましょうか・・・」
「私・・・何か誤解を招くような事言っちゃいました?」
なんとな~くだが・・・なんとな~くなんだけど・・・「裏の意味」と言うのが嫌な予感しかしない。
「その、男女の機微と言いましょうか・・・ピアスって耳に“穴”を開けますでしょう?」
「開けます・・・ね?」
「女性が男性にピアスをねだったり、プレゼントするって言うのは・・・その、つまり女性側として夜のお誘い的な? 性的なお誘い? 穴に入れる・・・みたいな?」
(やっちまった・・・な? コレ、私、完全にやっちまったな!)
「異性相手にピアスのプレゼントはご法度ってことぉ!?」
たぶん、今の私の顔はムンクの叫び的な感じになっているだろう。
「まあ、親しい友人同士なら一緒に選んだっていいんですけど・・・ねえ? あと、夫婦とか家族なら、全く問題はないんですけどお・・・」
「ひやぁあぁあぁあっ!!」
私は両手で頭を押さえながら、ソファーから立ち上がり、思い切り後ろにのけ反った。
「穴! どこかに私が入れる地中深く掘った穴はありませんかぁあぁあぁあっっっ!?」
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