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【本物って誰のこと?】その15
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厨房内ではナッツチョコの争奪戦が繰り広げられた・・・のではなく、私があみだくじを作り、参加者の名前を聞き、書き込んで、当たった順番で皿に分けて行くルールにした。
「そのあみだくじって”面白いゲームだな?」
「まあ、順番や力の差なんか関係なく、運のみで恨みっこなしですから、結構、平和的な解決ができて便利なんですよ。平等や公平、実力なんて無視です、無視!」
笑い声が響く、和やかなムードの厨房内・・・これもまた作戦である。
お分かり頂けたろうか?
私はこの数分の間で、厨房内の人間の名前を聞き出し、堂々と紙に書き記したのだ。
しかも、あっという間にこのグループに打ち解けた・・・。
(まあ、私のこんな腹の中はクレーにもイスマエルにも秘密なのだが)
他人に侮られると言うのは、心地好く、楽である。
期待される重荷など・・・私には苦痛以外の何物でもないのだから。
期待の重圧・・・人々の期待に応えようと120%の力で挑んでいたが、体がついて行かなかったのが現実である・・・それが私の人生の失敗だった。
「なんか、聖女様が2人もいると、扱いに困りません?」
「え~? ミリアンちゃん、それを言ったらお終いでしょう!」
「う~ん、私は今の上司がヒロコ様一人ですけど、もう一人上司が増えちゃったら体一つじゃ足らない仕事量になっちゃうかな~って、すごく心配なんです」
「おお・・・確かにあるよねえ、偉い人が2人で、一体どっちの話を聞けばいいのか? っての」
「そうなんですよ、私の前の職場では本来は一人の人間に、多数の上役を付けることが禁止されてたのに・・・」
係長・課長・次長・部長・・・みんな言ってる事違うし、おいおい、それ労働基準法とか守ってないから! リテールマーケティングの試験問題にも思いっきり間違いだって出題されているからっ!!
よくある、よくある・・・。メンヘル試験にも出てるってばよ・・・。
「どちらかが偽物って路線の話しか?」
ピシッと、空気が張り詰めた。
ずずん、と、体格の良いシブい中年のおじ様が、白い調理師の制服を着て仁王立ちをしていた。
(ヤダ! かっ・・・かっこいいっ!!)
顔に刻まれた深いシワ、白髪混じりの揃えられた短髪、大鍋を振るう為の太い腕、鋭い眼光。
(ス・テ・キ!)
「りょ・・・料理長! いま、こちらに席をっ! ささっ!」
どすん、と、質素な丸椅子に腰を置いた料理長が落ち着いた瞬間に、私は飛び上がった。
「初めまして、侍女見習いのミリアンと申します。あの、いつも聖女様のお食事を作っていただいている方でしょうか?」
「ああ・・・そうだ」
料理長は不機嫌そうに、眉間にシワを寄せたまま腕を組んで座っている。
「お会い出来て光栄です。いつも美味しい食事をありがとうございます」
「そうか・・・聖女様はたくさん召し上がるので、あの予算では10人前がやっとなのだがな」
「・・・はあ?」
と、私は思わずイスマエルの方に振り向いた。
そのイスマエルもさすがに目が点になっている。
「ん? どうした? 聖女様は膨大な魔力を維持するために沢山召し上がるのだろう?」
「え? 食べてないよ? なんで? いつも、パンは二つだし、スープとサラダは一皿だし、お茶で空腹満たしていますし、おやつは確かに二人分食べますけど・・・」
「んん? そんなばかな・・・」
私は再びイスマエルの方に振り向く、彼は左右に首を振っていた。
「知らん!」と・・・。
誰かと一緒に食事を取るとき以外は、他のメンバーは貴族にお呼ばれしているか、貴族専用の食堂を利用しているはずだし、聖女のスペースで食事なんかしない・・・おかしい・・・。
例え、イスマエルが執務室で同じメニューを取るとしても、そんなに食べないだろう?
「それって・・・誰のおなかに入っているんですかね」
「聖女様本人は何人前召し上がるのだ?」
「たくさん食べても二人前が精一杯ですけど・・・」
(確かに大盛ごはんは食べますけど、おかずは一人前で十分ですよ?)
「おかしいな・・・注文票と違うぞ?」
「あの、ちなみに毎回請求される手数料が1千Bなのですが・・・それは何故でしょうか? 料理長様の指名料が発生するのでしょうか?」
「はあ? そんなもん取る訳がないだろう! どこの宿屋のルームサービスだ?」
私はその言葉を聞いて、胃の下の方がふつふつと煮えたぎるように感じた・・・イラっとしたのだ。
(誰だい? こんなバカバカしい、ケチ臭い事をする大馬鹿野郎は・・・)
私は振り向き、再びイスマエルと眼を合わせた。
彼の眼が怒りに冷たく燃えている。
「料理長様、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「なぜだ?」
「いえ、さっきのナッツチョコ争奪戦のあみだくじで名前を頂いてないので、どうしよっかな~? と」
「ナッツチョコだと!?」
「そのあみだくじって”面白いゲームだな?」
「まあ、順番や力の差なんか関係なく、運のみで恨みっこなしですから、結構、平和的な解決ができて便利なんですよ。平等や公平、実力なんて無視です、無視!」
笑い声が響く、和やかなムードの厨房内・・・これもまた作戦である。
お分かり頂けたろうか?
私はこの数分の間で、厨房内の人間の名前を聞き出し、堂々と紙に書き記したのだ。
しかも、あっという間にこのグループに打ち解けた・・・。
(まあ、私のこんな腹の中はクレーにもイスマエルにも秘密なのだが)
他人に侮られると言うのは、心地好く、楽である。
期待される重荷など・・・私には苦痛以外の何物でもないのだから。
期待の重圧・・・人々の期待に応えようと120%の力で挑んでいたが、体がついて行かなかったのが現実である・・・それが私の人生の失敗だった。
「なんか、聖女様が2人もいると、扱いに困りません?」
「え~? ミリアンちゃん、それを言ったらお終いでしょう!」
「う~ん、私は今の上司がヒロコ様一人ですけど、もう一人上司が増えちゃったら体一つじゃ足らない仕事量になっちゃうかな~って、すごく心配なんです」
「おお・・・確かにあるよねえ、偉い人が2人で、一体どっちの話を聞けばいいのか? っての」
「そうなんですよ、私の前の職場では本来は一人の人間に、多数の上役を付けることが禁止されてたのに・・・」
係長・課長・次長・部長・・・みんな言ってる事違うし、おいおい、それ労働基準法とか守ってないから! リテールマーケティングの試験問題にも思いっきり間違いだって出題されているからっ!!
よくある、よくある・・・。メンヘル試験にも出てるってばよ・・・。
「どちらかが偽物って路線の話しか?」
ピシッと、空気が張り詰めた。
ずずん、と、体格の良いシブい中年のおじ様が、白い調理師の制服を着て仁王立ちをしていた。
(ヤダ! かっ・・・かっこいいっ!!)
顔に刻まれた深いシワ、白髪混じりの揃えられた短髪、大鍋を振るう為の太い腕、鋭い眼光。
(ス・テ・キ!)
「りょ・・・料理長! いま、こちらに席をっ! ささっ!」
どすん、と、質素な丸椅子に腰を置いた料理長が落ち着いた瞬間に、私は飛び上がった。
「初めまして、侍女見習いのミリアンと申します。あの、いつも聖女様のお食事を作っていただいている方でしょうか?」
「ああ・・・そうだ」
料理長は不機嫌そうに、眉間にシワを寄せたまま腕を組んで座っている。
「お会い出来て光栄です。いつも美味しい食事をありがとうございます」
「そうか・・・聖女様はたくさん召し上がるので、あの予算では10人前がやっとなのだがな」
「・・・はあ?」
と、私は思わずイスマエルの方に振り向いた。
そのイスマエルもさすがに目が点になっている。
「ん? どうした? 聖女様は膨大な魔力を維持するために沢山召し上がるのだろう?」
「え? 食べてないよ? なんで? いつも、パンは二つだし、スープとサラダは一皿だし、お茶で空腹満たしていますし、おやつは確かに二人分食べますけど・・・」
「んん? そんなばかな・・・」
私は再びイスマエルの方に振り向く、彼は左右に首を振っていた。
「知らん!」と・・・。
誰かと一緒に食事を取るとき以外は、他のメンバーは貴族にお呼ばれしているか、貴族専用の食堂を利用しているはずだし、聖女のスペースで食事なんかしない・・・おかしい・・・。
例え、イスマエルが執務室で同じメニューを取るとしても、そんなに食べないだろう?
「それって・・・誰のおなかに入っているんですかね」
「聖女様本人は何人前召し上がるのだ?」
「たくさん食べても二人前が精一杯ですけど・・・」
(確かに大盛ごはんは食べますけど、おかずは一人前で十分ですよ?)
「おかしいな・・・注文票と違うぞ?」
「あの、ちなみに毎回請求される手数料が1千Bなのですが・・・それは何故でしょうか? 料理長様の指名料が発生するのでしょうか?」
「はあ? そんなもん取る訳がないだろう! どこの宿屋のルームサービスだ?」
私はその言葉を聞いて、胃の下の方がふつふつと煮えたぎるように感じた・・・イラっとしたのだ。
(誰だい? こんなバカバカしい、ケチ臭い事をする大馬鹿野郎は・・・)
私は振り向き、再びイスマエルと眼を合わせた。
彼の眼が怒りに冷たく燃えている。
「料理長様、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「なぜだ?」
「いえ、さっきのナッツチョコ争奪戦のあみだくじで名前を頂いてないので、どうしよっかな~? と」
「ナッツチョコだと!?」
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