33 / 71
【本物って誰のこと?】その14
しおりを挟む
「そんなワケあるか!」
という、男性の一言で厨房内に笑い声が上がった。
「聖女様といえば、深層の令嬢だろうが? こんなチビ・・・コホン、こんな幼いワケが・・・」
「いいや、うわさでは幼い少女だって言ってたよ」
「でも、ミリアンさんみたいなちんまりでは・・・」
すみません。
ちんまりです。
本人です。
イスマエル先生とクレー先輩が、顔では平静を装っているが・・・腹筋が震えていて、かなりヤバそうだった。
「イスマエル様ぁ~、コレ、できたので冷やしてもらえますぅ?」
「ああ、わかった・・・ぶふっ・・・」
厨房内は熱気が充満しているのに、イスマエルの周りは程よく涼しい・・・助かる。
「ネレ坊、そろそろお仕事に戻りなさいな」
クレーは母親の様に優しく言った。
「ああ! いっけねぇ・・・すぐ薪を運ばなきゃならんかった!」
慌ててネレは厨房から走り出していった。
立ち去るネレが何度も振り向き、可愛く手を振るので、私もほやんとした感じで、手を振り返した。
おねーさん・・・新しい扉を開きそうだよ・・・。
ネレ坊の存在は、美少年とか言う緊張するものではなく、“癒される”の一言だった。
そのネレの後ろ姿が、何となくキラキラした金粉を落としているようにも見えた。
クレーが一言、耳元に囁いた。
「あ、やっちゃいましたね」
「え?何を?」
「・・・あの、聖女の力をお菓子に込めて、直接食べさせたって事は・・・祝福をネレ坊に与えちゃってます」
「え? 直接がヤバイの?」
「ええ・・・直接食べさせたのが、ヤバイです」
あちゃー・・・やっちまったのかあ・・・。
「ミリアン・・・君の魔力はいつも駄々洩れだ・・・何とか対策を練ろうか」
どうやら、常にクレーが傍にいてくれているのは、私の駄々洩れの魔力を、彼女の空間魔法でうまくコントロールしてくれているらしい。
「クレー先輩、イスマエル先生、頑張りますんで、よろしくお願いいたします」
厨房内では、チョコレートの香りが充満し、みな、チラチラとこちらを気にしている。
気取ったって仕方がない、とりあえず目の合ってしまった人に手招きをしてみた。
「て・・・手伝いはできないぞ・・・」
「そう、残念だわ? 味見の手伝いもしてくれないのね」
「そ、それぐらいならいいぞ!」
プライドが高そうな、金髪の若い調理師が近づいてきた。
今まで出して貰っていたおやつもとても美味しかったが、デコレーションは微妙だった。
だから今回は、このトリュフチョコレートで繊細な超かわいいキラキラチョコを作製したかったのだ。
材料費の高いトリュフチョコレートはイスマエルに見守って貰っているので、残ったチョコレートを適当にナッツに掛けて、ココアパウダーをかけていた。
(いいよねえ、アーモンドチョコとか! ウイスキーやブランデーのつまみに最高だよ)
一人呼んだら、わらわらと数人が連なって来た。
(え・・・そちらの方々は呼んでないけど?)
「もう、休憩時間取るから、こいつらも一緒に味見させて貰っていいか?」
「どーぞ、どーぞ、ヒロコ様にはトリュフチョコレートをちゃんと作ったので、後は私の自由にできる許可は受けてます。このままお茶会でもしますか?」
口の端を引きつらせながら、必死で愛想笑いをキープした。
(た・・・足りるかな?)
「おお! お嬢ちゃん、話わかるねえ!」
ちろりと、イスマエルと視線を合わすと、静かに頷いた。
これも作戦の一部である。
イスマエルは“地味の才”を全開中の為、誰も彼の存在にツッコミを入れない。
(スゲー・・・マジであの技、教えて欲しい!)
「お嬢ちゃん、聖女様の侍女見習いなんだって?」
「うん、ど田舎から来たから、何が何だか分かんなくって勉強中なの」
「え? どこ出身?」
「ごめんなさい、言えないの。下手すると家族まとめて人質にされちゃうから」
「うお・・・そんな理由が・・・苦労してんだな!」
「なんつーかまあ、長い物には巻かれないとな、生活できないもんな」
「ごめんな、手伝えなくてさ」
(同情するなら、情報よこせ!)
「いえいえ・・・最初からクレー先輩と二人で作る予定でしたし、お忙しい中、この場所をお借りできてとても助かりました」
「でも、これ・・・チョコレートそのものをきれいに加工するなんて初めて見たよ」
「そうなんですか?」
「普通この辺じゃ、ケーキとかクッキーに入れたり、削って飾りとかにしか使わないんだよな」
「ふーん? そういう文化なんですね」
「このチョコ本当に食べていいのか?」
「どーぞ、どーぞ、早いもん勝ちです」
「早い者勝ち!?」
「夏ですからね、どうせ溶けちゃいますもん!」
それに、後ろにいる人間冷却機がいなければ作れないのだ。
という、男性の一言で厨房内に笑い声が上がった。
「聖女様といえば、深層の令嬢だろうが? こんなチビ・・・コホン、こんな幼いワケが・・・」
「いいや、うわさでは幼い少女だって言ってたよ」
「でも、ミリアンさんみたいなちんまりでは・・・」
すみません。
ちんまりです。
本人です。
イスマエル先生とクレー先輩が、顔では平静を装っているが・・・腹筋が震えていて、かなりヤバそうだった。
「イスマエル様ぁ~、コレ、できたので冷やしてもらえますぅ?」
「ああ、わかった・・・ぶふっ・・・」
厨房内は熱気が充満しているのに、イスマエルの周りは程よく涼しい・・・助かる。
「ネレ坊、そろそろお仕事に戻りなさいな」
クレーは母親の様に優しく言った。
「ああ! いっけねぇ・・・すぐ薪を運ばなきゃならんかった!」
慌ててネレは厨房から走り出していった。
立ち去るネレが何度も振り向き、可愛く手を振るので、私もほやんとした感じで、手を振り返した。
おねーさん・・・新しい扉を開きそうだよ・・・。
ネレ坊の存在は、美少年とか言う緊張するものではなく、“癒される”の一言だった。
そのネレの後ろ姿が、何となくキラキラした金粉を落としているようにも見えた。
クレーが一言、耳元に囁いた。
「あ、やっちゃいましたね」
「え?何を?」
「・・・あの、聖女の力をお菓子に込めて、直接食べさせたって事は・・・祝福をネレ坊に与えちゃってます」
「え? 直接がヤバイの?」
「ええ・・・直接食べさせたのが、ヤバイです」
あちゃー・・・やっちまったのかあ・・・。
「ミリアン・・・君の魔力はいつも駄々洩れだ・・・何とか対策を練ろうか」
どうやら、常にクレーが傍にいてくれているのは、私の駄々洩れの魔力を、彼女の空間魔法でうまくコントロールしてくれているらしい。
「クレー先輩、イスマエル先生、頑張りますんで、よろしくお願いいたします」
厨房内では、チョコレートの香りが充満し、みな、チラチラとこちらを気にしている。
気取ったって仕方がない、とりあえず目の合ってしまった人に手招きをしてみた。
「て・・・手伝いはできないぞ・・・」
「そう、残念だわ? 味見の手伝いもしてくれないのね」
「そ、それぐらいならいいぞ!」
プライドが高そうな、金髪の若い調理師が近づいてきた。
今まで出して貰っていたおやつもとても美味しかったが、デコレーションは微妙だった。
だから今回は、このトリュフチョコレートで繊細な超かわいいキラキラチョコを作製したかったのだ。
材料費の高いトリュフチョコレートはイスマエルに見守って貰っているので、残ったチョコレートを適当にナッツに掛けて、ココアパウダーをかけていた。
(いいよねえ、アーモンドチョコとか! ウイスキーやブランデーのつまみに最高だよ)
一人呼んだら、わらわらと数人が連なって来た。
(え・・・そちらの方々は呼んでないけど?)
「もう、休憩時間取るから、こいつらも一緒に味見させて貰っていいか?」
「どーぞ、どーぞ、ヒロコ様にはトリュフチョコレートをちゃんと作ったので、後は私の自由にできる許可は受けてます。このままお茶会でもしますか?」
口の端を引きつらせながら、必死で愛想笑いをキープした。
(た・・・足りるかな?)
「おお! お嬢ちゃん、話わかるねえ!」
ちろりと、イスマエルと視線を合わすと、静かに頷いた。
これも作戦の一部である。
イスマエルは“地味の才”を全開中の為、誰も彼の存在にツッコミを入れない。
(スゲー・・・マジであの技、教えて欲しい!)
「お嬢ちゃん、聖女様の侍女見習いなんだって?」
「うん、ど田舎から来たから、何が何だか分かんなくって勉強中なの」
「え? どこ出身?」
「ごめんなさい、言えないの。下手すると家族まとめて人質にされちゃうから」
「うお・・・そんな理由が・・・苦労してんだな!」
「なんつーかまあ、長い物には巻かれないとな、生活できないもんな」
「ごめんな、手伝えなくてさ」
(同情するなら、情報よこせ!)
「いえいえ・・・最初からクレー先輩と二人で作る予定でしたし、お忙しい中、この場所をお借りできてとても助かりました」
「でも、これ・・・チョコレートそのものをきれいに加工するなんて初めて見たよ」
「そうなんですか?」
「普通この辺じゃ、ケーキとかクッキーに入れたり、削って飾りとかにしか使わないんだよな」
「ふーん? そういう文化なんですね」
「このチョコ本当に食べていいのか?」
「どーぞ、どーぞ、早いもん勝ちです」
「早い者勝ち!?」
「夏ですからね、どうせ溶けちゃいますもん!」
それに、後ろにいる人間冷却機がいなければ作れないのだ。
0
お気に入りに追加
60
あなたにおすすめの小説

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい
春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。
そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか?
婚約者が不貞をしたのは私のせいで、
婚約破棄を命じられたのも私のせいですって?
うふふ。面白いことを仰いますわね。
※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。
※カクヨムにも投稿しています。

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした
珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。
色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。
バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。
※全4話。

夫から「余計なことをするな」と言われたので、後は自力で頑張ってください
今川幸乃
恋愛
アスカム公爵家の跡継ぎ、ベンの元に嫁入りしたアンナは、アスカム公爵から「息子を助けてやって欲しい」と頼まれていた。幼いころから政務についての教育を受けていたアンナはベンの手が回らないことや失敗をサポートするために様々な手助けを行っていた。
しかしベンは自分が何か失敗するたびにそれをアンナのせいだと思い込み、ついに「余計なことをするな」とアンナに宣言する。
ベンは周りの人がアンナばかりを称賛することにコンプレックスを抱えており、だんだん彼女を疎ましく思ってきていた。そしてアンナと違って何もしないクラリスという令嬢を愛するようになっていく。
しかしこれまでアンナがしていたことが全部ベンに回ってくると、次第にベンは首が回らなくなってくる。
最初は「これは何かの間違えだ」と思うベンだったが、次第にアンナのありがたみに気づき始めるのだった。
一方のアンナは空いた時間を楽しんでいたが、そこである出会いをする。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です

【完結済み】婚約破棄致しましょう
木嶋うめ香
恋愛
生徒会室で、いつものように仕事をしていた私は、婚約者であるフィリップ殿下に「私は運命の相手を見つけたのだ」と一人の令嬢を紹介されました。
運命の相手ですか、それでは邪魔者は不要ですね。
殿下、婚約破棄致しましょう。
第16回恋愛小説大賞 奨励賞頂きました。
応援して下さった皆様ありがとうございます。
リクエスト頂いたお話の更新はもうしばらくお待ち下さいませ。

愛されなかった公爵令嬢のやり直し
ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。
母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。
婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。
そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。
どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。
死ぬ寸前のセシリアは思う。
「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。
目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。
セシリアは決意する。
「自分の幸せは自分でつかみ取る!」
幸せになるために奔走するセシリア。
だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。
小説家になろう様にも投稿しています。
タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた
miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」
王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。
無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。
だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。
婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。
私は彼の事が好きだった。
優しい人だと思っていた。
だけど───。
彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。
※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる