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【本物って誰のこと?】その13
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本日は・・・侍女見習いのミリアンに変身して、厨房への潜入捜査・・・もとい、大好きなチョコレート菓子を作る!
クッキーでも良かったんだけど、この世界のオーブンを使う自信がないし、しけってしまうと考えた。
私が直接厨房で材料から作れば、例の会計係を通さずにお菓子が沢山作れる。
ナッツはこっそり塩で炒める予定だったが・・・どうやら魔力の調節に慣れていない私は魔道コンロに近づいてはいけないらしい。
厨房でのボディーガードは、侍女仲間設定のクレー先輩と、教育係と言う役柄に扮したイスマエル先生・・・執事姿でも良いんですが、背が高いので、厨房内での威圧感が・・・とか思ったら魔法で“地味の才”を全開にしていた。
すごい、背景とほぼ同化している存在の薄さだ!
今度、ぜひ教えて貰おう・・・。
背景と化しているイスマエル先生は放置して・・・いや、彼には大事な役目があるのだ。
この厨房内の温度設定をしていただく“人間エアコン”という大事な役目が!
(だって季節は夏だもの、あ~、背中が涼しい・・・)
火を使う熱い厨房内の片隅で、銀色のボールを使い、丁寧に丁寧にテンパリングをこなす私と、それを不思議そうに見つめるクレーとイスマエル。
「ミリアンは不思議な技を使いますねぇ・・・」
と、クレーが感心したような声を上げた。
「そう? ボールを重ねて、お湯を入れて、チョコレートを溶かして滑らかにしているだけなんだけどな」
「なぜそんな作業が必要なのですか?」
「え? だって空気が入ったり、チョコレート全体の温度が均一にならないと、固まるときに形が崩れたり、白くなったりして、味が落ちるもの」
「へええええ~~~!」
「ん?」
なんだか可愛らしい声が聞こえたので、振り向くと・・・赤紫の髪に、大きな金色の瞳をキラキラさせた少年が私のすぐ右手の後ろから覗き込んでいた。
身長は私の肩ぐらいだろうか、ぱっと顔を上げた少年と目があった。
「これ、ネレ坊! ミリアンは聖女様のおやつを作っているのだから邪魔してはいけません」
めっ、とクレーがそう言った。
「ねれぼう?」
「うんにゃ、オイラはネレだぁ」
(めっちゃ訛っとる・・・)
「最近雇った厨房の下働きの子ですよ、掃除をしたり、野菜を運んだりするのが仕事です」
私は先に作っておいた、試作品の小さなトリュフチョコを少年の口に突っ込んだ。
「うぐ?」
少年は頭を左右に揺らしながら、ゆっくりチョコレートを食んでいた。
「溶けた・・・なくなっちまっただぁ!」
面白い反応だったので、もう一つ目の前に出してみた。
少年は迷いなく私の掌のチョコに口を付けた。
「餌付け・・・?」
「餌付けしてしまいましたね・・・」
クレーがため息と共に答えた。
「おいしいなぁあああん!」
少年は私の腕に頭をこすり付けてきた。
「懐いた・・・?」
「懐いてしまいましたね・・・」
厨房の端っこで、ネレと言う少年とチョコレートについて説明していると、少しづつ作業中の調理師達が後ろ向きで近づいて来た。
(なんだろうか・・・、聞きたい事があればこっち向けばいいのに?)
「んだあ、ごめんなあ。ミリアン様ぁ、みんな手伝いたいんだけどな、調理場のえらい人が人件費がどうのこうの言っててな、手伝っちゃいかんと言うとるんだ」
(なるほど、そういう事ですか・・・)
「そうかあ・・・みんな、お仕事忙しいですものね。大丈夫ですよ、全部自分達で出来ますから」
「ミリアン様はすごいなあ~、こんなおいしくて、キレイな食べ物、パパっと作っちまうんだもんなあ! ミリアン様が聖女様みたいだなあ・・・」
「え?」
そのネレの一言で、騒めいていた厨房が一瞬静まり返った。
クッキーでも良かったんだけど、この世界のオーブンを使う自信がないし、しけってしまうと考えた。
私が直接厨房で材料から作れば、例の会計係を通さずにお菓子が沢山作れる。
ナッツはこっそり塩で炒める予定だったが・・・どうやら魔力の調節に慣れていない私は魔道コンロに近づいてはいけないらしい。
厨房でのボディーガードは、侍女仲間設定のクレー先輩と、教育係と言う役柄に扮したイスマエル先生・・・執事姿でも良いんですが、背が高いので、厨房内での威圧感が・・・とか思ったら魔法で“地味の才”を全開にしていた。
すごい、背景とほぼ同化している存在の薄さだ!
今度、ぜひ教えて貰おう・・・。
背景と化しているイスマエル先生は放置して・・・いや、彼には大事な役目があるのだ。
この厨房内の温度設定をしていただく“人間エアコン”という大事な役目が!
(だって季節は夏だもの、あ~、背中が涼しい・・・)
火を使う熱い厨房内の片隅で、銀色のボールを使い、丁寧に丁寧にテンパリングをこなす私と、それを不思議そうに見つめるクレーとイスマエル。
「ミリアンは不思議な技を使いますねぇ・・・」
と、クレーが感心したような声を上げた。
「そう? ボールを重ねて、お湯を入れて、チョコレートを溶かして滑らかにしているだけなんだけどな」
「なぜそんな作業が必要なのですか?」
「え? だって空気が入ったり、チョコレート全体の温度が均一にならないと、固まるときに形が崩れたり、白くなったりして、味が落ちるもの」
「へええええ~~~!」
「ん?」
なんだか可愛らしい声が聞こえたので、振り向くと・・・赤紫の髪に、大きな金色の瞳をキラキラさせた少年が私のすぐ右手の後ろから覗き込んでいた。
身長は私の肩ぐらいだろうか、ぱっと顔を上げた少年と目があった。
「これ、ネレ坊! ミリアンは聖女様のおやつを作っているのだから邪魔してはいけません」
めっ、とクレーがそう言った。
「ねれぼう?」
「うんにゃ、オイラはネレだぁ」
(めっちゃ訛っとる・・・)
「最近雇った厨房の下働きの子ですよ、掃除をしたり、野菜を運んだりするのが仕事です」
私は先に作っておいた、試作品の小さなトリュフチョコを少年の口に突っ込んだ。
「うぐ?」
少年は頭を左右に揺らしながら、ゆっくりチョコレートを食んでいた。
「溶けた・・・なくなっちまっただぁ!」
面白い反応だったので、もう一つ目の前に出してみた。
少年は迷いなく私の掌のチョコに口を付けた。
「餌付け・・・?」
「餌付けしてしまいましたね・・・」
クレーがため息と共に答えた。
「おいしいなぁあああん!」
少年は私の腕に頭をこすり付けてきた。
「懐いた・・・?」
「懐いてしまいましたね・・・」
厨房の端っこで、ネレと言う少年とチョコレートについて説明していると、少しづつ作業中の調理師達が後ろ向きで近づいて来た。
(なんだろうか・・・、聞きたい事があればこっち向けばいいのに?)
「んだあ、ごめんなあ。ミリアン様ぁ、みんな手伝いたいんだけどな、調理場のえらい人が人件費がどうのこうの言っててな、手伝っちゃいかんと言うとるんだ」
(なるほど、そういう事ですか・・・)
「そうかあ・・・みんな、お仕事忙しいですものね。大丈夫ですよ、全部自分達で出来ますから」
「ミリアン様はすごいなあ~、こんなおいしくて、キレイな食べ物、パパっと作っちまうんだもんなあ! ミリアン様が聖女様みたいだなあ・・・」
「え?」
そのネレの一言で、騒めいていた厨房が一瞬静まり返った。
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