病んで死んじゃおうかと思ってたら、事故ってしまい。異世界転移したので、イケおじ騎士団長さまの追っかけを生き甲斐とします!

もりした透湖

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【本物って誰のこと?】その12

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「詰まるところですね、イスマエル先生」
 私はいつものご立派な勉強(事務)机の上で、領収書の束と、真っ白な紙を準備してペンを構えた。
「なんなのだ・・・」
「塩の値段って知ってました?」
「うぐっ・・・」
「ナッツの値段、知ってました?」
「・・・知らなかった・・・ぞ」
「ちなみにお酒の値段は?」
「何となくでしか・・・きちんとした価格を眼にしたのは初めてだ」
「やはり貴族のボンボンか・・・」
「それと、これとどういう因果関係が!」
「あるよ」
「なに!?」
 私とイスマエルは、聖女に掛かる経費の帳簿を指差した。
「食費が高い」
「そ・・・ソレは、調理師の手数料が入っていると聞いている」
「ここの調理師は、私の食事を作る度に手数料を取るのかね?」
 私は目に見えない口ひげをピッピッと引っ張る気分だった。
「そう聞いている」
「誰に?」
「食堂総括の会計係だ」
「調理師って日雇いなの? 月給? 年棒制? 手数料制? 雇用条件はなに?」
 我ながら厭味ったらしい質問だとは思うが・・・これは金の話であって、感情論では到底片付けられない領域であった。
「な・・・曲がりなりにも城内の調理師だ! 日雇いの訳がなかろう」
「なのに手数料が毎回取られているの? 貴族のイスマエルが気にするほどの質素な出来で?」
「あ・・・」
 中々素直な表情で、イスマエルは両頬を赤らめていた。
「おかしいよね? 城のきちんとした雇用形態で手数料を毎食個別に取る? ここは宿屋なのかな?」
 彼を追い込んでいるようで大変申し訳ないが、今後の聖女である私が周囲に「金遣いの荒い頭の悪い女」扱いを受けないために必要な会話であった。
「ああああっ!」
「落ち着いて、イスマエル? 私もこの城の会計システムはよく知らないけど、第三者から見て・・・おかしいと思ったの、今はそれだけ」
「どういう・・・」
 一歩的に攻めるのではなく、互いに学ぶという姿勢を見せないと・・・相手は決して私の意見に寄り添ってはくれないのだ。
 自分の知識が多いからと言っても、相手の知識と気持ちと判断力は軽んじてはいけないのだ。
「うん、あのね、食事が毎食高額だと・・・人間の生活は破綻するの」
「食事で破綻?」
「月収が30万Bの家族が、食事に掛けられる金額は限られているの。食費が29万Bだったら・・・どう?」
「む、無理だな、衣食住が回らない」
 イスマエルは真面目で少し融通が利かない性格かも知れないけど、地頭は良いので、辛抱強く説明すればきっと私の考えも認めてくれるはずだ。
「だから、この帳簿の食費の金額をどう思う? 簡単に計算すると、1食6千B・・・おやつも合わせていくら?」
「2万4千B・・・」
「エンゲル係数が高すぎて、ドレス代が貯まんないよ? あと、このお茶葉代だけどさ、さっきのお酒より高いよ・・・どーゆー事なのかな?」
「これは・・・貴族の嗜みで・・・」
 ぷっちーーーーん!
 うん、無理。
理解しようと頑張ったけど無理!
「却下」
「えっ!?」
「お茶のストックは3種類ほどで結構、購入する時は私と相談して、もしくは一緒に買いに行きましょう」
「なんっ・・・!」
「聖女命令」
「えええ!?」
「・・・なんか、ヤバイ人に高級茶葉とか押し売りされてない?」
「・・・・・・・・・それは、私の判断ミスだ・・・申し訳ない・・・」
「では、この件は反省して、経験として活かしましょう! はい、次っ!」
 バサバサと、帳簿の次の疑問点を確認する為に私の指はページを捲った。
「それだけか?」
「ん? それだけって?」
「私の失敗を責めないのか?」
「なんで? 失敗なんて、できる時にやっとかないと、損するわよ」
「できる時に失敗をするのか?」
「そうよ、取り返せる小さな失敗を繰り返して未来に生かすのよ、でないと・・・」
「でないと?」
「失敗どころじゃない・・・大事故を起こして、ジ・エンド・・・人生の幕切れよ」
「そうなのか?」
「・・・失敗に気が付かずに、坂を転げ落ちる人生なんて、愚の骨頂だよ」
 (うん、我ながらブーメランでズタズタだ!)
「ヒロコ・・・其方は本当に・・・随分と大人なのだな」
 (だから・・・前からそう言ってるじゃんかあ・・・)

 現状把握と今後について相談しよう!
 1・食費が高い
 →高級茶葉の買い過ぎ・・・買い足す時はせめて一言、飲む本人の私に相談する。
 →請求されている食費の金額が高すぎる・・・材料費とその他経費の正確な明細を付けるように、会計係によお~く言っておく事。
 →ミリアンの菓子作り・・・食材の一般価格の確認と、調理場にて状況調査をする為。
 2・聖女見習いの報酬について
 →ノエミとヒロコは、働いて報酬を受ける制度の世界から来た・・・対価をくれないと頑張れないぞ!

 私は、総世帯収入や、食費の参考になる数字、そして、現状把握をまとめて紙に書き記した。
 まずは日本語で、そして、この国の言葉をイスマエルに確認してもらいながら、もう1枚にまとめて彼に渡しておいた。
「これ・・・会議資料みたいで分かり易いな、いや、資料より見やすいな」
「でしょう! やっぱり、紙1枚が頭にすっと入りやすいのよ」
「・・・で? この“聖女見習いの報酬”とは?」
「陛下の前に出る為のドレス! 頑張っていいヤツ買いたい!」
 私は目の前に座っているイスマエルの顔を覗き込みながら、笑顔でそう言った。
「報酬はドレスがいいのか?」
「今回は! だけどね?」
 照れ隠しに“でへへ!”と首を傾げて見せた。
 やはりクレーが後ろで、なまぬる~い視線で見守っている・・・。
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