病んで死んじゃおうかと思ってたら、事故ってしまい。異世界転移したので、イケおじ騎士団長さまの追っかけを生き甲斐とします!

もりした透湖

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【本物って誰のこと?】その11

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 フォスティンヌとの挨拶は一通り終了したので、来客室にてイスマエルのいつものお小言が始まった。
「ヒロコ、わかっているとは思うが」
「はい・・・・・・」
 何故か私は、イスマエルの向かい側のソファーで正座をしていた。
「母上の言うことは鵜呑みにしないように」
「・・・デスヨネ」
「あの通り自由奔放なのだ」
「・・・ナルホド」
 私はよく分からないまま、頷くしかなかった。
「父も私も母の事は大切に思っている」
 ふいっと、私は顔を上げる。
「はい、とても魅力的な方ですよね?」
「ああ・・・そこがかなり問題でな」
 何となくだが、私は思った事を口にした。
「・・・・・・母親が美しく自由奔放なので、まさかとは思いますが、あくまで私の想像なのですが」
「と、言うと?」
「もしかして、その後処理に振り回されている・・・・・・とか?」
「そこを理解してもらえるとは・・・私は救われた気がするよ」
 イスマエルは老け込んだ表情で、眉間に指を当てた。
 どうやら図星らしい。
 両親があんなだと、息子はこんなに真面目に育つのだろうか・・・謎である。
「――――まあ、あの様子だとお腹の子供の父親は確実にソラル様だから安心しなよ」
 半分存在を忘れていたマクシムが口を開いた。
 なんて他人事のように・・・いや、まあ・・・他人事だけど、マクシムは随分とサバサバとしていた。
「マクシム、人の家庭に踏み込み過ぎだ!」
「付き合い長いからね、嫌でも分かるよ」
 マクシムは光魔法の持ち主で、更に音を聞き分ける才があるので、そう言う事はすぐにわかるらしい。
 (音と光って・・・どんだけ音速と光速を兼ね備えてんだよ? 声のトーンとかで嘘を見抜けるのかな?)
「うん・・・女はそういうの、勘でわかるし、フォスティンヌ様はちゃんと判断できる人だと思う」
 ぽつりと、私の感想を口にした。
まさか初対面の女性に対して、あそこまでお互いに思っていることを見透かせるとは思わなかった。
(なんだこの感覚? 私は魔力に目覚めたのかな?)
「よくわからんな・・・」
 魅力的な人ほど、墓場まで持って行く秘密は数多く存在するのだ。
 ソラルさまなんか、その典型的パターンだと思う。
 (なんてったって、ソコがいい!! 魅力的なおじ様は影があってナンボなのだ)


 フォスティンヌとの顔合わせの数日後、私の希望したトリュフチョコレートの材料が届けられた。
 キレイな木箱に収められた材料を、私とクレーとイスマエルで開封した。
「わお! うれしいなあ・・・」
 ブラックチョコレート、ココアパウダー、ナッツ類に、調味料、洋酒の瓶が入手できた。
「え~と、これが領収書と明細書だ。ちゃんと、言われた通りに業者と直接取引きをしたぞ、これでいいな?」
 しゃがみながら、領収書の束と明細書を私に手渡してから、木箱の中の材料の確認をイスマエルはし始めた・・・そのスキに、イスマエルの頭を撫でておいた。
「よしよし、偉い偉い!」
「なっ・・・」
 (うんうん、そのびっくりした顔が見たかったんだよ)
「あれ? 作法でやっちゃダメだった?」
 私は、普段からはるか上から見下ろすイスマエルに、仕返しをしたかっただけなのだ。
 こんなチャンスはなかなかない。
「だ・・・だめではない・・・」
「ふうん? で? この国の庶民の平均収入は分かった?」
「ああ、・・・だいたい、家族四人の共稼ぎ家庭で30万Bだ、父親などが25万Bを稼ぎ、母親が内職などで5万B、10歳ぐらいまでの子供二人で困らない程度の生活ができる。また、その両親などが共に暮らし、働きに出ていると僅かに上がるが・・・せいぜい45万Bで、6人家族での生活は少し苦しいらしい。子供が多いとなおさらだ」
「おお、勉強になる! 偉い偉い」
 イスマエルが、ちらりと私を見たが、もう撫でてやらん。
 そんな感じでふざけていた私を、とてもなまぬる~い眼で、クレーが後方から見守っていた。
「あ・・・コホン、やっぱり領収書の読み上げはクレーがして」
 私はクレーに紙の束を渡す、実はまだ文字があまり読めない。
「はい、かしこまりました。前に言っていた“検品”ですね?」
「“検品”?」
 私は木箱とイスマエルの前にしゃがみ込み、商品の確認の姿勢を取った。
「うん、伝票と商品が合っているか、答え合わせをするんだよ」
「答え合わせ・・・」
「クレー、一緒に単価も読み上げてね。大事なことだから」
「はい、かしこまりました。では・・・ココアパウダー、3千B」
「これだ」
 イスマエルは小さめの紙袋を指さす。
「やっぱりこれは高級品だね」
「え? たった3千Bだろう?」
「まあ、まあ、その辺は後で一緒に確認しようよ。クレー、続きを」
「チョコレート・・・砂糖・・・塩・・・乾燥果実・・・」
 (ふんふん、だいたい予想通りの価格帯だな・・・)
「そんなに安いのか?」
「そこの貴族の坊ちゃん、ちょっと黙っとけや・・・クレー、続き・・・」
「ヒロコ様・・・言葉遣い・・・」
「済みません・・・」
「白ワイン・・・赤ワイン・・・ブランデー・・・・ウイスキー・・・ラムダーク・・・オレンジキュラソー・・・グランマニエ・・・」
「おい・・・ちょっと待て? 酒が多いぞ?」
「お菓子の材料です」
「いや、多いぞ・・・」
「お菓子を美味しく頂く材料です」
「ん? 酒と菓子だぞ?」
 どうやらこちらの世界では、甘いものをツマミに酒をあおるる習慣は根付いてないらしい。
 (ドライフルーツと酒は合うんだが?)
「いやいや・・・私の世界ではこのようなたしなみは、上流階級では当たり前でしたけど?」
「そうなのか?」
「そうなんです!」
 (こちとら禁酒で気が滅入ってんだよ。飲ませろよ、本当はビールが飲みたいんじゃ!)
 ・・・と、言うのが本心であって、素直に「酒を飲ませろ」とは言えないただの小心者なのであった。
「・・・以上です」
「うん、全部そろってるね。ありがとう、イスマエル、これで美味しいお菓子を作るね!」
「ヒロコが・・・作るのか?」
 イスマエルがポカンとして質問した。
「うん、ミリアンとして厨房に入れるように手配もよろしくね」
「・・・国の宝と呼ばれる聖女が厨房に入るのか?」
「は? なにそれ? んじゃ、聖女命令! 私に料理をさせなさい、イスマエル」
「そこで権限を使用するのか!?」
「うん」
 よ~し! 日持ちするツマミを作るぞう!・・・と言う目的もあった。
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