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【本物って誰のこと?】その10
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私の後ろにはクレーが控え、横にはマクシムが堂々と座り、正面にはイスマエルが座り、お誕生席の一人用ソファーにフォスティンヌが座り、その後ろには専属の侍女が背筋を伸ばしていた・・・我ながら少し反省した。
これではまるで、フォスティンヌがこの場で一番偉いような配置である。
そして、再び反省のポーズを座りながら取る私である。
(座席指定、ミスった!)
「その、改めまして・・・わたくし、ソラルの妻であり、イスマエルの母・・・フォスティンヌと申します」
フォスティンヌと名乗る、真っ白な百合が後ろに群生しそうな彼女は、頬を赤らめて視線を少し逸らしている。
美魔女も裸足で逃げ出しそうな可憐な姿、女性として、まず根本的に違い過ぎて敵わない、張り合えない、世界が違う、どうしよう?
(実はアナタ様が聖女では?)
「恐れ入ります、ただのヒロコです」
「いや・・・ちょっとヒロコ・・・そこは堂々としようよ?」
マクシムの正しいツッコミが入る。
「フォスティンヌの息子のイスマエルです」
イスマエルが座ったまま深々と頭を下げた。
(うん、知ってる)
「聖女ヒロコの婚約者のマクシムです」
「いや、それは認めてないから」
「ええ! それ今言っちゃうの!?」
マクシムが本気で驚いている。
「あ、ごめん、つい・・・心の声が出ちゃったよ」
少女の様に頬を赤らめて、フォスティンヌはクスクスと笑う。
私の頭の片隅にある、ソラルさまとイスマエルの・・・彼女についての以前の会話が引っかかった。
“愛人”、“飛んで行ってしまう”、“どうしろと?”・・・。
今、目の前にいる花のような夫人から想像もできない夫と息子の会話・・・ハテナが脳内に飛び交い、「これは本人の計算ではなく、どうしようもなく異性を引き付けてしまうカリスマ的体質なのでは?」と、ひとつの結論に達した。
きっと、これは男性には理解しがたいのだろうな、と、私は勝手に解釈したのだ。
美しい女性には、大きく分けて二種類ある。
努力して“美女の称号”をようやく手に入れた女性と、天然の“美女そのもの”だ。
天然の“美女”には敵わない、本当に・・・「立てば芍薬、歩けば牡丹、歩く姿は百合の花」とは、このような女性を言うのだろう。
会話する言葉の端々に夫を立てる言葉、息子を思う母心・・・まず、人として敵わない事を私は早々に悟った。
忙しく地方を飛び回る夫、育ち切った息子、そりゃあ・・・どう見たって若いし、遊びたい年齢だろうし、同じ女性として、私はオッケーの範囲だと思った。
「・・・あらあらあら・・・ヒロコ様は、やはり見た目では判断できないほど頭脳明晰でいらっしゃるのね」
「そうですか? 私は、この世界の一般常識がまだ、わかりかねます」
「うふふふ・・・お手伝いしますわ・・・わたくしの夫や息子は、ヒロコ様のお好きなようにお使い下さいませ」
彼女の眼が光り、女性同士ならではの意思の疎通が完了した。
きっと、殿方には分かり得ない、女性同士だけで感じる“了承”と言うヤツだ。
男子二人は既に蚊帳の外である。
「この国の貴族の風習と、宗教上での“この星の意思”と、崇める神々は全くの別物ですのよ?」
「別なのですか?」
「貴族は養えるならば愛人や妾は何人でもオッケー」
「えええ!」
「あら、知りませんでした?」
「えっと、私の場合は世話係が三人って言うのは・・・・・・」
「ええ、聖女様なら世話係以外でも殿方を準備してもよろしくてよ?」
「えええっ!?」
フォスティンヌの横でイスマエルが何か言いたげである。
「基本この国は一夫一妻制ですけど、貴族は経済的理由で認められていますのよ」
「それって・・・お家の跡継ぎ問題とか・・・」
「そこは全てこの星の意思ですもの・・・オホホホホッ!」
よくわからないが、貴族の不都合は「“この星の意思”だから」の一言で終了らしい。
自然や才能を司る神様はいるけれど、その神々の存在さえも“この星の意思”というのには及ばないそうだ。
“この星の意思”と言うのは、全てのお母さんみたいで、誰も逆らえない存在という事らしい。
「・・・そうですね、星がなくなっちゃたら・・・神も貴族も関係なくなっちゃいますもんね・・・・・・」
「よーく、ご理解してらっしゃるじゃない? だからこその聖女様なのですよ!」
「え?」
(“だからこその聖女”・・・???)
「あらあらあら、イスマエル、聖女様にちゃんとお役目の説明はしているの?」
「いや・・・その・・・おいおい詳しく話します」
「お役目って・・・?」
私はぐるりと全員の顔を見回した。
「なに言ってるの、大丈夫だよ! だってヒロコは召喚時に既に宣言しているもの!」
今まで静かにしていたマクシムが軽い口調で答えた。
「え? 宣言?」
何の事だろうか・・・重要な事を言った記憶はなかった。
「ヒロコ、私の父、ソラルの前で何て言ったか、まさか覚えていないとでも?」
「あれ・・・・・・え?」
『私は逆らう! “この星の意思”の全てに・・・この星が滅びの運命を迎えようとしていても、私が今この世界を見つめている限り・・・この星の命を繋げましょう! 私の全てと引き換えに!』
え、いや・・・あれ、どう考えても・・・“星”に対しての反旗を翻しちゃった感じだよね?
おかしいな、なんであんな事言ったんだろう、私?
「ああ、それ今は言わなくていいからね? アレはアレでトップシークレットだから」
「ヒロコ・・・・・・後でちょっと話し合おうか?」
「へ?」
何故か夏なのに、とても涼しい風が室内を冷やしていた。
これではまるで、フォスティンヌがこの場で一番偉いような配置である。
そして、再び反省のポーズを座りながら取る私である。
(座席指定、ミスった!)
「その、改めまして・・・わたくし、ソラルの妻であり、イスマエルの母・・・フォスティンヌと申します」
フォスティンヌと名乗る、真っ白な百合が後ろに群生しそうな彼女は、頬を赤らめて視線を少し逸らしている。
美魔女も裸足で逃げ出しそうな可憐な姿、女性として、まず根本的に違い過ぎて敵わない、張り合えない、世界が違う、どうしよう?
(実はアナタ様が聖女では?)
「恐れ入ります、ただのヒロコです」
「いや・・・ちょっとヒロコ・・・そこは堂々としようよ?」
マクシムの正しいツッコミが入る。
「フォスティンヌの息子のイスマエルです」
イスマエルが座ったまま深々と頭を下げた。
(うん、知ってる)
「聖女ヒロコの婚約者のマクシムです」
「いや、それは認めてないから」
「ええ! それ今言っちゃうの!?」
マクシムが本気で驚いている。
「あ、ごめん、つい・・・心の声が出ちゃったよ」
少女の様に頬を赤らめて、フォスティンヌはクスクスと笑う。
私の頭の片隅にある、ソラルさまとイスマエルの・・・彼女についての以前の会話が引っかかった。
“愛人”、“飛んで行ってしまう”、“どうしろと?”・・・。
今、目の前にいる花のような夫人から想像もできない夫と息子の会話・・・ハテナが脳内に飛び交い、「これは本人の計算ではなく、どうしようもなく異性を引き付けてしまうカリスマ的体質なのでは?」と、ひとつの結論に達した。
きっと、これは男性には理解しがたいのだろうな、と、私は勝手に解釈したのだ。
美しい女性には、大きく分けて二種類ある。
努力して“美女の称号”をようやく手に入れた女性と、天然の“美女そのもの”だ。
天然の“美女”には敵わない、本当に・・・「立てば芍薬、歩けば牡丹、歩く姿は百合の花」とは、このような女性を言うのだろう。
会話する言葉の端々に夫を立てる言葉、息子を思う母心・・・まず、人として敵わない事を私は早々に悟った。
忙しく地方を飛び回る夫、育ち切った息子、そりゃあ・・・どう見たって若いし、遊びたい年齢だろうし、同じ女性として、私はオッケーの範囲だと思った。
「・・・あらあらあら・・・ヒロコ様は、やはり見た目では判断できないほど頭脳明晰でいらっしゃるのね」
「そうですか? 私は、この世界の一般常識がまだ、わかりかねます」
「うふふふ・・・お手伝いしますわ・・・わたくしの夫や息子は、ヒロコ様のお好きなようにお使い下さいませ」
彼女の眼が光り、女性同士ならではの意思の疎通が完了した。
きっと、殿方には分かり得ない、女性同士だけで感じる“了承”と言うヤツだ。
男子二人は既に蚊帳の外である。
「この国の貴族の風習と、宗教上での“この星の意思”と、崇める神々は全くの別物ですのよ?」
「別なのですか?」
「貴族は養えるならば愛人や妾は何人でもオッケー」
「えええ!」
「あら、知りませんでした?」
「えっと、私の場合は世話係が三人って言うのは・・・・・・」
「ええ、聖女様なら世話係以外でも殿方を準備してもよろしくてよ?」
「えええっ!?」
フォスティンヌの横でイスマエルが何か言いたげである。
「基本この国は一夫一妻制ですけど、貴族は経済的理由で認められていますのよ」
「それって・・・お家の跡継ぎ問題とか・・・」
「そこは全てこの星の意思ですもの・・・オホホホホッ!」
よくわからないが、貴族の不都合は「“この星の意思”だから」の一言で終了らしい。
自然や才能を司る神様はいるけれど、その神々の存在さえも“この星の意思”というのには及ばないそうだ。
“この星の意思”と言うのは、全てのお母さんみたいで、誰も逆らえない存在という事らしい。
「・・・そうですね、星がなくなっちゃたら・・・神も貴族も関係なくなっちゃいますもんね・・・・・・」
「よーく、ご理解してらっしゃるじゃない? だからこその聖女様なのですよ!」
「え?」
(“だからこその聖女”・・・???)
「あらあらあら、イスマエル、聖女様にちゃんとお役目の説明はしているの?」
「いや・・・その・・・おいおい詳しく話します」
「お役目って・・・?」
私はぐるりと全員の顔を見回した。
「なに言ってるの、大丈夫だよ! だってヒロコは召喚時に既に宣言しているもの!」
今まで静かにしていたマクシムが軽い口調で答えた。
「え? 宣言?」
何の事だろうか・・・重要な事を言った記憶はなかった。
「ヒロコ、私の父、ソラルの前で何て言ったか、まさか覚えていないとでも?」
「あれ・・・・・・え?」
『私は逆らう! “この星の意思”の全てに・・・この星が滅びの運命を迎えようとしていても、私が今この世界を見つめている限り・・・この星の命を繋げましょう! 私の全てと引き換えに!』
え、いや・・・あれ、どう考えても・・・“星”に対しての反旗を翻しちゃった感じだよね?
おかしいな、なんであんな事言ったんだろう、私?
「ああ、それ今は言わなくていいからね? アレはアレでトップシークレットだから」
「ヒロコ・・・・・・後でちょっと話し合おうか?」
「へ?」
何故か夏なのに、とても涼しい風が室内を冷やしていた。
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