病んで死んじゃおうかと思ってたら、事故ってしまい。異世界転移したので、イケおじ騎士団長さまの追っかけを生き甲斐とします!

もりした透湖

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【聖女の育成って何ですか?】その10

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「すごく嫌な人間関係に疲れた時は、ムツノクニで癒されてたの・・・特に俺様アレクシ様はさ、天使な顔してすっごい意地悪なコト言うけど、動物に好かれまくりだし、結局は一番国民の事を考えて皇帝陛下を下しちゃうところがサイコー・・・ってゴメン、また自分の世界に入りかけてたアタシ!」
 召喚時にルベンを世話係として紹介され、翌日に世話係の決まり事の説明を受けたノエミは、迷いなくマクシムを指名したが・・・「気持ち的に無理だから辞退します」の一言で切って捨てられたらしい。
 そして、自分を否定されたと思った彼女は心が病んでしまったのだ――――。

 ノエミの話を半分も理解できない、ルベン・イスマエル・クレーは、口を開けてポカーンとしていた。
 だが、私は先ほどからびしょ濡れのハンカチを握りしめながら号泣している。
「わかる! わかるよ・・・推しキャラは心の拠り所だもんね! それをリアルな立体画像で、自分自身を否定したセリフを浴びせられるなんて! 辛くて耐えられないし、明日への希望も無くなっちゃうよっ!!」
 クレーが懐から小さめのタオルを出し、イスマエルに渡し、冷え冷えになったタオルをクレーが確認して受け取り、そっと私に渡した。
 既に一連の作業がスムーズに行われるように、システムが確立されているらしい。
 そして、廊下から誰かのすすり泣く声が聞こえてきた。
 クレーは無言で再び扉を開いた。
 マクシムである・・・しかも両膝を抱えているバージョンである。
 これはちょっと面倒臭い展開かもしれない。
「ルベン、ここの音響設定は大丈夫か?」
「ああ、聖女と信用ある世話係レベルでしか音は伝わらないが・・・マクシムは“音楽の才”があるからな、どうしても音は拾ってしまうのだろう」
「なるほど、本当に厄介な能力だな、聞きたくない声まで拾ってしまうとは・・・なあ、マクシム?」
 イスマエルはソファーから立ち上がり、扉の前に両膝を抱えてうずくまっているマクシムをヒョイと持ち上げ、そのポーズのまま、構わずお誕生席の一人ソファーにポスンと置いた。
 (慣れている・・・さすがはイスマエル先生・・・)
 クレーは静かに扉を閉め、イスマエルと紅茶を淹れる準備を始めた。
 何故か二人とも、この西の聖女の部屋にある茶葉やティーポッドの位置を熟知している。
 多分、どちらの聖女にも対応できるようにしっかり教育を施されているのだろう。
 冷え冷えのタオルを顔に押し当てていたのを外し、出てきた紅茶を戴いた。
 今日は涙をたくさん流したので、水分補給をしておこう。
 私の左側に座っているノエミが、硬直したままマクシムを見つめていた。
 (ああ、そっか・・・)
「ノエミちゃん・・・これが、あのアレクシ様に見えるのかい?」
「え・・・と・・・」
「この、両膝を抱えて、泣きべそかいて、鼻水もたらして、病的な落ち込みオーラを醸し出す、フリーズモードの超根暗男子が、あの“俺様、超完璧! アレクシ様”に・・・見えるのかい?」
「み、見えません・・・絵面的にこれは在り得ません!」
「でしょう? これってノエミちゃんの世界で何て言ったっけ?」
「こ、これは・・・“残念なイケメン”です!」
「そう・・・これはね、ムツノクニ下克上のアレクシ様ではないのだよ?」
「すごく納得しました! 流石はチュートリアルのミリアン様! 見事なご説明です」
 まるで何かに祈りを捧げるように、ノエミは顔の前に両手を組んだ。
「マクシムさんや?」
 ビクリと、私の声にマクシムが反応した。
「あ・・・え?」
「“ごめんなさい”は?」
 私はメイドの衣装で足を組みながら踏ん反り返り、片腕をソファーに掛けたまま、紅茶を啜っていた。
「う、う・・・その、どれに対して?」
「全てだね。私に対しても、聖女ノエミ様に対しても、そして・・・マテオ様にもナトン君にも・・・他にもあるよね? けっこう自分勝手に引っ掻き回してくれたよね?」
 両膝を抱えていたマクシムのポーズが段々と正座の形へと変形していった。
「も・・・申し訳ありませんでしたぁっ!!」
 今回の“聖女ノエミ様、引き籠り事件”はマクシムの土下座で終了した――――。
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