病んで死んじゃおうかと思ってたら、事故ってしまい。異世界転移したので、イケおじ騎士団長さまの追っかけを生き甲斐とします!

もりした透湖

文字の大きさ
上 下
17 / 71

【聖女の育成って何ですか?】その8

しおりを挟む
 私とノエミとクレーはゆっくりと扉の向こう側に立つ、マクシムの方に顔を向けた。
 その後ろには数人の人影が見えたが、直ぐにササっと姿を消したのだ。
「マクシム様! 早く扉を閉めて下さい!」
 クレーの声にハッとしたマクシムが扉を閉めた。
 ノエミはマクシムの姿を見た途端、私の顔を押さえていた手を離し、私はクレーによってソファーへポイっと投げられた。
「はああぁあっん! ヤッバ・・・三次元のアレクシ様ぁあああっ!!!!」
 今度は自分の両頬を押さえ、体を思いっきり反らしながら悶え始めた。
「クレー! タオルでノエミの顔をっ――――」
 (ヨダレと鼻血を拭いてあげて)
「う・け・が・お・・・グフッ・・・」
 クレーはノエミの顔にタオルを当てつつ、ポイっと彼女をソファーに転がした。
「クレー、出来れば鼻血が止まるまで横向きで!」
「承知しました!」
 真っ赤な顔をして、ソファーに横たわるノエミ、その横のお誕生席に腰を落ち着けた私、呆然と立ち尽くすマクシム、そして、静かに常温のカモミールティーを準備し始めたクレーであった。
「とりあえず、マクシム、こちらの席にどうぞ」
 横たわるノエミの向かい側のソファーの席を勧めたので、彼は黙ってその席に着いた。
 一番冷静なクレーは、背の高い白い陶器のティーカップに入ったカモミールティーを三人分テーブルの上に並べた。
「え~と、午後の作法の授業は中止でいいよね? ヒロコ」
 とりあえずノエミはそのままにして、私達二人はゆっくりとカモミールティーを口にした。
「うん、この後、来客の予定も入ってスケジュールが押せ押せになってるから、次回がんばります」
「よろしくね」
 ガタン・・・と、ベランダで大きな音がして、窓の方に視線を移した。
 大きな黒い影がそこにはあった。
 ぶほっ!
 マクシムと私は仲良くカモミールティーを吹いた。
「んなっ!? なんでルベンがここに・・・て、ノエミが居るんだからそうか・・・」
 ガラス窓の向こう側に、肩で息をしながら、青ざめてこちらを睨みつけている。
 暑苦しい黒衣を纏った、長髪のルベンが窓に張り付いていた。
 (こっわ・・・さすが魔王、赤い瞳が迫力満点だわ!)
 どうやら、断りもなく飛び出してきたノエミを必死で追いかけて来たらしい。
「ノエミ様!!」
 ベランダへ続くガラスの扉が勢いよく開き、鍵の部品が千切れて吹っ飛んだ。
 クレーが床に転がった壊れた扉の部品を拾い、嫌そうな顔をする。
「鍵の応急処置が必要ですね・・・」
 ノエミが横たわったソファーに駆け寄り、彼女の様子に更に驚きの声を上げた。
「貴様ら! ノエミ様に何をした?」
 ムッ、としたマクシムがカモミールティーを啜りながら言い返した。
「逆に君は何してた? いきなりこの部屋に奇襲をかけて来たのはそっちじゃないか。このバカ娘をちゃんと見張っとけ!」
 どうやらマクシムは‟音楽の才”を使い、先程までのこの部屋の音を拾っていたらしい。
「なに! 聖女を捕まえてバカとはなんだバカとは!?」
「は~い、バカ1号で~す!」
 鼻血を流しつつ、ノエミは手をゆるりと上げた。
 どうやら、お気に入りキャラからのののしりプレイはオッケーらしい。
「な・・・ノエミ様!」
「は~い、2号で~す」
 私も手を上げた。
「ヒロコまで・・・仲いいな、君ら・・・」
「まったく、届けられた手紙を読んだ途端、遣いに来た侍女を・・・」
「脱がして、庭に飛び出した・・・と?」
 ルベンは私の方を見て、直ぐにその場で跪いた。
「ヒロコ様、先ほどは大変失礼いたしました。うちの聖女がご迷惑をおかけしたようで、申し訳ありません・・・」
 (どこの迷い犬の飼い主だよ!)
「そっちの聖女はどうやら“探知”・“体力”・“浄化”の才を持っているようだね?」
 ギクリ、と分かり易い表情をしたルベンに、意地悪気な笑みをマクシムは浮かべた。
「私は、私は?」
 私にそう聞かれたマクシムは、眼を瞑り、首を傾げながら。
「ヒロコは・・・“浄化”の力が異様に強いね。後は・・・“増幅”かな? 他にもあるようだけど、どれも俺が感じた事のない能力だからよくわからないよ」
 腕を組み、眉間に皺を寄せながら答えた。
「“増幅”だと? よりにもよって・・・」
だろう?」
「増幅って何?」
「ヒロコ・・・君の近くにいると魔力と体力が増幅されるようなんだ。異世界召喚された人間は伸びしろが大きいと言われている。ヒロコ自身の“浄化の才”もこれから様々な進化をすると思うよ?」
「えええっ! 聖女ってポケ〇ンみたい!」
 (ノエミちゃん、右に同じだよ)
「ああ、ですから私の魔力と体力の回復が早かったんですね?」
 クレーは合点が付いたと言わんばかりに頷いていた。
 マクシムは、まぶたを薄っすら開きながら、宙を見上げた。
「まあ、お互いに能力について把握しないと厄介だから教えたけど。陛下への公式報告までは内容は多少ズレると思うね。あくまで俺の光属性での判定の範囲だからご愛敬だよ」
 金糸のような髪、透き通る青空色の双眸、桜色の柔らかそうな唇は背の高い白い陶器のティーカップを傾け、喉を潤す。
 白人モデルも真っ青な顔面偏差値カンスト級だ。
 よもや土下座王子だとは思えない風貌に、鼻血を垂らしながらうっとりと見つめるノエミがいた。
 黒髪長髪の魔王ルックスの迫力ある端正な顔のルベン。
 鼻血を流しつつも、茶色のメイド服を、チョコプリンな茶髪で可憐に着こなせるノエミ。
 (私以外、みんなルックスがおとぎ話レベルだなあ・・・)
 私は見目麗しい、白い陶器の芸術品のようなティーカップでお茶を啜りつつ、現実逃避をする為に庭の美しい花々に視線を移した――――。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】お飾りの妻からの挑戦状

おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。 「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」 しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ…… ◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています ◇全18話で完結予定

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

夫から「余計なことをするな」と言われたので、後は自力で頑張ってください

今川幸乃
恋愛
アスカム公爵家の跡継ぎ、ベンの元に嫁入りしたアンナは、アスカム公爵から「息子を助けてやって欲しい」と頼まれていた。幼いころから政務についての教育を受けていたアンナはベンの手が回らないことや失敗をサポートするために様々な手助けを行っていた。 しかしベンは自分が何か失敗するたびにそれをアンナのせいだと思い込み、ついに「余計なことをするな」とアンナに宣言する。 ベンは周りの人がアンナばかりを称賛することにコンプレックスを抱えており、だんだん彼女を疎ましく思ってきていた。そしてアンナと違って何もしないクラリスという令嬢を愛するようになっていく。 しかしこれまでアンナがしていたことが全部ベンに回ってくると、次第にベンは首が回らなくなってくる。 最初は「これは何かの間違えだ」と思うベンだったが、次第にアンナのありがたみに気づき始めるのだった。 一方のアンナは空いた時間を楽しんでいたが、そこである出会いをする。

私が死んだあとの世界で

もちもち太郎
恋愛
婚約破棄をされ断罪された公爵令嬢のマリーが死んだ。 初めはみんな喜んでいたが、時が経つにつれマリーの重要さに気づいて後悔する。 だが、もう遅い。なんてったって、私を断罪したのはあなた達なのですから。

愛される日は来ないので

豆狸
恋愛
だけど体調を崩して寝込んだ途端、女主人の部屋から物置部屋へ移され、満足に食事ももらえずに死んでいったとき、私は悟ったのです。 ──なにをどんなに頑張ろうと、私がラミレス様に愛される日は来ないのだと。

処理中です...