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【聖女の育成って何ですか?】その4
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「ヒロコ様、お目覚めの時間でございます。ご体調はいかがでしょうか?」
朝、六時半に侍女のクレーが起こしてくれる。
起きるのが辛い時は、そのまま寝かしておいてくれるのだ。
「おはよう、クレー・・・今日は大丈夫みたい、頭がぼうっとするけど、朝食を少し戴くわ」
「かしこまりました。お支度のお手伝いをいたします」
最初の時は「侍女さん」とつい言ってしまっていたが、オリーブ色の髪と、キラキラする赤茶の瞳を持つ上品なこの女性は、私が一番最初に声をかけて召喚士達の介抱を手伝ってくれたあの神官服を着ていたナイスバディのお姉さんである。
(私と同い年ぐらいかな?)
私を聖女様と慕ってくれて、とても良くしてくれるけれど、全く“聖女様”扱いの体勢を崩さない。
もう少しフレンドリーになってくれたら、今度歳を聞いてみようかな、と思っている。
寝間着は肌触りの良い、少女チックなレースである。
せめて普段着はできるだけシンプルなワンピースを! と、お願いした。
でも、いつも白と青を基調としているので、汚しそうであまりリラックスができない。
こないだお針子さんが採寸しにやってきたので「茶色とか灰色のワンピースが・・・」と、言いかけたら、イスマエルがすごい顔で「黙ってろ!」という感じでアイコンタクトを送って来た。
(あれはガンを飛ばされたというレベルだな! めっさ怖いワ!)
ゆっくりと支度をした後、朝食はマクシムと、貴族の作法や、流行などについて話をしながらとった。
やはり偉い人は、朝からこんな感じでミーティングをするらしい・・・いや、知ってたけどさ、異職交流会は有名ホテルの朝食バイキングが多かったからさ、ナンパに成功したのは有名ゲーム会社のきゃわいい女子だったけどさ!
後で「弊社のソフトのフライング販売止めて下さいね?」て、女子会で言われたんだけどね(ハート)
※フライング販売とは、発売日前に店頭売りを始めることである。ポケ〇ンが発売日前にエンドユーザーに届いてしまう事が有名である。
朝っぱらからこんな金髪碧眼の美青年と食事とは・・・胸やけレベルだよ。
(眩しいし、濃いわ~・・・)
いつもの駄眼鏡男子は、今日は遅番で午後から出勤らしい。
「聴いてるかい? ヒロコ」
バサバサした金色のまつ毛が邪魔そうだ。
「はいはい、聴いてますよ~・・・」
「言葉遣いだけど・・・ミリアンの時は完璧だよね? どゆこと?」
「え~? とりあえず“役”を演じてる感じかな」
「ふむ・・・知識はバッチシって感じだね」
「演じてるって言うのは、マクシムもでしょう」
「まあね、僕は高貴な生まれだけど、正妻の子供じゃないから適当に育てられてるし、“音楽の才”がなければ、親戚に引き取られて神官コースだったかもしれないな」
(うひゃ! こんな神官いたら、信者がさぞ布教活動を別件で頑張ってしまうだろうな!)
「“音楽の才”ってどんなものなの?」
「僕のは高ランクの“才”でね、歌や音楽、楽器に至るまで一度聞けば、ほぼ全て奏でられるんだよ」
「ふほっ! 絶対音感ですか・・・でも、大変な能力だね」
食後の紅茶を啜っていたマクシムの碧い瞳が、キラリと私を真っ直ぐ見た。
紺碧の空のような色にドキリとしてしまう。
彼は静かにソーサーにカップを戻した。
「大変・・・て? ヒロコの言ってる意味は何?」
「え・・・だって、聴いた全ての音を音符に切り替えちゃうんでしょう? 頭が疲れないのかなあって意味で“大変”だと思った」
まあ、私はこちらの日常生活をこなすだけで、脳疲労が激しい状態なのだが。
「ぷふっ!」と、マクシムが飛び切りの笑顔をくれた。
(ぐほぉっ! ミカエル様レベルの天使がいるぞーっ! そうか、さてはここは天界なのだなっ?)
「そうだね、何も考えたくない時は、ずっとピアノを弾いて他の音を遮断したりするね」
「あ~、あるある、ひとつの音に支配されるのっていいよね!」
「“ひとつの音に支配される”! それ、いいね!」
(はい、天使様からの“イイネ!”いただきましたっ!)
「なんか、リアル“アレクシ”様を見ちゃうと、ファン心理の萌えどころが判る気がする」
「アレクシ・・・だって?」
(あ・・・しまった。声に出してしもうた・・・)
時すでに遅し! マクシムは今流行りの顔面氷結となった。
「あの・・・その・・・私の世界でね、マクシムそっくりの王子様が出てくる物語があるの、その王子様の名前がアレクシなの・・・」
「え・・・? えええぇーーーっ! そうなのぉ!?」
そのマクシムの表情豊かな驚きっぷりが凄かった。
「マクシム、なんでそんなに驚くの?」
「あっちゃ~・・・なんだ、そうだとわかってれば、もう少し対応の仕方があったかなぁ」
絵画のような美青年が大きなため息を三回し続けた。
(マクシムさんや、呼吸は大丈夫なのかい?)
「そうか、さてはもう一人の聖女様に冷たくしちゃったんでしょう?」
「ああ~もうっ! ヒロコにはお見通しなワケね? だって気持ち悪いんだもん」
ガタガタッ!
私は思わず椅子から勢いよく立ち上がった。
「マクシム! まさかアナタ、彼女に向かって“気持ち悪い”とか言ってないでしょうね!?」
「い、い、い・・・言ってないよ~」
とても分かり易くマクシムは私から視線を逸らした。
「嘘つけ! どうせ近い言葉をぶつけたんでしょう? 憧れの王子様にそんな事言われたら、女子は再起不能になるわよ!?」
「憧れの王子・・・じゃあ、ヒロコは、僕の事を!」
「はっ? 私? “ムツノクニ”はハコ推しの上、スタッフ側だし、今の心の一番はソラルさまに決まってるじゃない」
「ぐわ! 前半は意味わからなかったけど、後半は聞きたくなかった!!」
彼はそう言いながら両手で頭を押さえ、頭を激しく振っていた。
(マクシムさんや? 脳しんとうを起こしますぞ?)
朝、六時半に侍女のクレーが起こしてくれる。
起きるのが辛い時は、そのまま寝かしておいてくれるのだ。
「おはよう、クレー・・・今日は大丈夫みたい、頭がぼうっとするけど、朝食を少し戴くわ」
「かしこまりました。お支度のお手伝いをいたします」
最初の時は「侍女さん」とつい言ってしまっていたが、オリーブ色の髪と、キラキラする赤茶の瞳を持つ上品なこの女性は、私が一番最初に声をかけて召喚士達の介抱を手伝ってくれたあの神官服を着ていたナイスバディのお姉さんである。
(私と同い年ぐらいかな?)
私を聖女様と慕ってくれて、とても良くしてくれるけれど、全く“聖女様”扱いの体勢を崩さない。
もう少しフレンドリーになってくれたら、今度歳を聞いてみようかな、と思っている。
寝間着は肌触りの良い、少女チックなレースである。
せめて普段着はできるだけシンプルなワンピースを! と、お願いした。
でも、いつも白と青を基調としているので、汚しそうであまりリラックスができない。
こないだお針子さんが採寸しにやってきたので「茶色とか灰色のワンピースが・・・」と、言いかけたら、イスマエルがすごい顔で「黙ってろ!」という感じでアイコンタクトを送って来た。
(あれはガンを飛ばされたというレベルだな! めっさ怖いワ!)
ゆっくりと支度をした後、朝食はマクシムと、貴族の作法や、流行などについて話をしながらとった。
やはり偉い人は、朝からこんな感じでミーティングをするらしい・・・いや、知ってたけどさ、異職交流会は有名ホテルの朝食バイキングが多かったからさ、ナンパに成功したのは有名ゲーム会社のきゃわいい女子だったけどさ!
後で「弊社のソフトのフライング販売止めて下さいね?」て、女子会で言われたんだけどね(ハート)
※フライング販売とは、発売日前に店頭売りを始めることである。ポケ〇ンが発売日前にエンドユーザーに届いてしまう事が有名である。
朝っぱらからこんな金髪碧眼の美青年と食事とは・・・胸やけレベルだよ。
(眩しいし、濃いわ~・・・)
いつもの駄眼鏡男子は、今日は遅番で午後から出勤らしい。
「聴いてるかい? ヒロコ」
バサバサした金色のまつ毛が邪魔そうだ。
「はいはい、聴いてますよ~・・・」
「言葉遣いだけど・・・ミリアンの時は完璧だよね? どゆこと?」
「え~? とりあえず“役”を演じてる感じかな」
「ふむ・・・知識はバッチシって感じだね」
「演じてるって言うのは、マクシムもでしょう」
「まあね、僕は高貴な生まれだけど、正妻の子供じゃないから適当に育てられてるし、“音楽の才”がなければ、親戚に引き取られて神官コースだったかもしれないな」
(うひゃ! こんな神官いたら、信者がさぞ布教活動を別件で頑張ってしまうだろうな!)
「“音楽の才”ってどんなものなの?」
「僕のは高ランクの“才”でね、歌や音楽、楽器に至るまで一度聞けば、ほぼ全て奏でられるんだよ」
「ふほっ! 絶対音感ですか・・・でも、大変な能力だね」
食後の紅茶を啜っていたマクシムの碧い瞳が、キラリと私を真っ直ぐ見た。
紺碧の空のような色にドキリとしてしまう。
彼は静かにソーサーにカップを戻した。
「大変・・・て? ヒロコの言ってる意味は何?」
「え・・・だって、聴いた全ての音を音符に切り替えちゃうんでしょう? 頭が疲れないのかなあって意味で“大変”だと思った」
まあ、私はこちらの日常生活をこなすだけで、脳疲労が激しい状態なのだが。
「ぷふっ!」と、マクシムが飛び切りの笑顔をくれた。
(ぐほぉっ! ミカエル様レベルの天使がいるぞーっ! そうか、さてはここは天界なのだなっ?)
「そうだね、何も考えたくない時は、ずっとピアノを弾いて他の音を遮断したりするね」
「あ~、あるある、ひとつの音に支配されるのっていいよね!」
「“ひとつの音に支配される”! それ、いいね!」
(はい、天使様からの“イイネ!”いただきましたっ!)
「なんか、リアル“アレクシ”様を見ちゃうと、ファン心理の萌えどころが判る気がする」
「アレクシ・・・だって?」
(あ・・・しまった。声に出してしもうた・・・)
時すでに遅し! マクシムは今流行りの顔面氷結となった。
「あの・・・その・・・私の世界でね、マクシムそっくりの王子様が出てくる物語があるの、その王子様の名前がアレクシなの・・・」
「え・・・? えええぇーーーっ! そうなのぉ!?」
そのマクシムの表情豊かな驚きっぷりが凄かった。
「マクシム、なんでそんなに驚くの?」
「あっちゃ~・・・なんだ、そうだとわかってれば、もう少し対応の仕方があったかなぁ」
絵画のような美青年が大きなため息を三回し続けた。
(マクシムさんや、呼吸は大丈夫なのかい?)
「そうか、さてはもう一人の聖女様に冷たくしちゃったんでしょう?」
「ああ~もうっ! ヒロコにはお見通しなワケね? だって気持ち悪いんだもん」
ガタガタッ!
私は思わず椅子から勢いよく立ち上がった。
「マクシム! まさかアナタ、彼女に向かって“気持ち悪い”とか言ってないでしょうね!?」
「い、い、い・・・言ってないよ~」
とても分かり易くマクシムは私から視線を逸らした。
「嘘つけ! どうせ近い言葉をぶつけたんでしょう? 憧れの王子様にそんな事言われたら、女子は再起不能になるわよ!?」
「憧れの王子・・・じゃあ、ヒロコは、僕の事を!」
「はっ? 私? “ムツノクニ”はハコ推しの上、スタッフ側だし、今の心の一番はソラルさまに決まってるじゃない」
「ぐわ! 前半は意味わからなかったけど、後半は聞きたくなかった!!」
彼はそう言いながら両手で頭を押さえ、頭を激しく振っていた。
(マクシムさんや? 脳しんとうを起こしますぞ?)
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