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【聖女の育成って何ですか?】その2
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2人の話しを要約するとこうだ。
皇帝陛下の通達により、我が国は一番最初に聖女召喚を成功させ、同日に2人目も見事に成功を納めた。
我が国で隠密行動をしていた各国の諜報部員の情報によると・・・最初に召喚された幼い少女は、到着直後、魔力が枯渇した召喚士達を回復させ、宰相の長きに渡る病魔をも完治させたと各国に伝えられていた。
しかも、選ばれた世話係以外に、優秀な騎士を自ら指名し“名呼び”をさせ、祝福を与えたという。
「幼い少女?」
「あなたの事です」
「宰相の長きに渡る病魔?」
「多分、マテオ様の腰痛と膝の痛みだと思うけど?」
「祝福?」
「それは私が逆に聞きたい、ヒロコは父上に何をしたんだ?」
「いや、知らんがな!」
「そうか・・・」
「え! ソラルさまがどうかしたの?」
「い、いや、知らないならいい・・・」
「え・・・ちょ! そんな言い方されちゃあ、余計に気になるでしょうが!」
「・・・・・・・・・」
イスマエルが眉尻を下げて、泣きそうな表情をした。
ソファの隣に座っていたナトンが、イスマエルの背中を慰めるように摩り始めた。
(私、なんか不味い事したんでしょうか?)
「ヒロコ、イスマエルが落ち込んでいるのは個人的感情からだから、気にしなくていいんだよ!」
「ええええっ! なにそれ!?」
「・・・たんだ」
「はい?」
イスマエルが掠れた声でなんか言ったが、私は聞き取れず、ナトンに視線を移した。
「あの・・・出来たんだよ・・・その・・・とっても良い事なんだ」
「わかんないよ、はっきり言ってよ!」
俯きかけた顔をイスマエルは思い切り上げて、私に向かって言った。
「私に弟か妹が出来たんだっ!」
イスマエルがメガネの奥に涙を浮かべて叫んだ。
「めでてぇじゃねえかぁあああっ!!」
ツッコミ以外に私にどうしろと!?
「ヒロコ、それ食べ終わったら、城内散歩に行くよ~」
私はようやく出てきた、おやつの焼きたてスコーンに夢中になっていた。
「え~? スコーンのおかわりは・・・」
濃いめのダージリンティーにめっちゃ合う、焼きたてスコーンにクロテッドクリームとブルーベリージャムをのせてかぶりつき、ハムスターのごとく頬を膨らませていた。
「止めた方がいいよ・・・ヒロコの体の為にもね。40分ぐらいの散歩の後に、ちゃんと休憩時間も取るし、その後はマクシムと夕食を取りながらマナーのレッスンだからね?」
(なるほど、優しくカロリーオーバーを教えて下さっている・・・)
そう、私はこちらに来てから食っちゃ寝を繰り返しているのだ。
我ながら、体型がヤバくなっているのは薄々感じていた。
何せ、社畜系のフルタイム勤務を辞め、美味しいゴハンを食っちゃ寝して、チビチビ勉強して、甘やかされ放題の日々だ。
(だって、イスマエルがなんでも世話を焼いてくれるんだもん!)
育成どころか、散歩も行かない室内犬に成り下がっている私であった。
ヤバイ、これは我ながらヤバイのでは?
「ナトン、ヒロコはここに着いたばかりの時よりだいぶ食欲が出てきたんだ。食べられるなら・・・」
ナトンが見たこともないキツイ視線をイスマエルに向けた。
(おおっ! ネコ目のナトン君は以外と目ヂカラあるな?)
「イスマエル! うちの聖女が“おチビ聖女”から“ポッチャリ聖女”とスパイ達に言われてもいいの!?」
(“おチビ聖女”ってなんだよ・・・)
どうやらこの城内では、諜報部員がウワサ合戦を繰り広げているらしい。
1周まわって、私の事を各国にどう報告されているか丸わかりなのだ。
「え~と、すみませんでした。おやつはこれで充分です。お散歩に連れてって下さい!」
犬であれば、自らリードを咥えてナトンに擦り寄るところだ。
その様子を見て、イスマエルがオロオロしはじめた。
「なあ、ナトン、せめてヒロコに私の“才”を一時的に授けても良いだろうか?」
そういえば、世話係はそれぞれ秀でた“才”があると聞いた事がある。
(イスマエルの“才”って何だろう?)
その言葉を聞いたナトンが腰に両手を当てて、胸を張り声を出した。
「ダメです! あのねえイスマエル、ヒロコは聖女の教育を受講中でしょう?」
「ああ、そうだが・・・」
「ヒロコはこれから公の場で“聖女”として堂々としてもらわなきゃいけないの、どんな場合だってね! わかる?」
「そ、そうだな」
「例え可愛いメイド姿でも 、気品を醸し出しながら歩けるようになって、人の視線にもビクともしないようにならなきゃいけないの。イスマエルの“地味の才”を今のヒロコに貸し出すなんて大きなお世話だよ!」
「・・・“地味の才”ってなに?」
「そうだな、スマン」
イスマエルはしゅんとして、視線を床に落とし、どうしても私の方を見ようとしない。
「いや、だから“地味の才”って?」
そんな彼の肩に触れようとしたが、ナトンに急かされて、廊下に続く扉へと押し出された。
「さ、ヒロコ、侍女のフリをしてお行儀良く僕に着いてきてね」
(おい、“地味の才”ってなんだーっ!)
高い天井、白い壁、美しい絨毯が敷かれている聖女専用の城の北東部分を抜けると、絨毯が途切れ、修復時に取り替えやすい正四角形のタイルが敷き詰められた、城内の一般的な廊下に切り替わった。
足音も立てず、優雅な猫のように歩くナトンの後ろを、私は足の短い仔犬のようにトテトテと一生懸命ついて行った。
中世ファンタジーな服装の人々が、ナトンに静かに会釈をしてすれ違って行く。
私は社会人として、必要最低限だと思っている挨拶で、頭をペコペコ下げながら歩いていたが・・・その姿を皆、微笑ましい何かを見るように、見送ってくれるのだ。
それに気がついたナトンが急に歩調を合わせて、並んで歩いてくれた。
「ヒロコ、ごめんね、僕の気が利かなくて・・・。まだ城内を歩き慣れてない君にはちょっと歩くスピードが早かったよね」
「あ、ううん。こういう服装で堂々と歩いたことがなくって、ちゃんと綺麗に歩けるようになるね」
そうなのだ、これはメイドコスプレ・・・私はメイド喫茶では働いた事がないので、自分のこの格好に免疫ができるまではもう少し時間がかかりそうだ。
ちなみに、私の金色の前髪と右側の灰色と茶色のメッシュが上手く隠れるように、メイドキャップをかぶっている。
「ふうん? そんなもんなのか・・・すごく可愛いから、自信持って堂々と歩いてね!」
「か、可愛いなんて・・・その、ありがとう・・・」
よもや25歳にもなって、メイドコスプレをした姿を、16歳の美少年にそう言われるとは思わなかった。
傍から見れば、新人のメイド・・・いや、雇い主が聖女の世話係以上の貴族レベルならば、“侍女見習い”だろうか?
(というか、城内に部屋を与えられているのだから聖女ってすごいな!)
滅多に跪く必要のない、宰相のマテオGが正式な場では私に跪くのだから、聖女の位とは国王の次に高いというものだ。
聖女とは国の宝なのだそうだ。
(ついでに私のプレッシャーも半端なくて、挫けそうだヨ!)
長いなが~い、廊下が延々と続くのではないだろうか? という感じで、ため息が出そうな白亜の城をナトンの説明を聞きながらひたすら歩いて行く。
たまに見かけるガラス窓に映る自分のメイドの服装を見て、気恥ずかしく感じながらも、段々と慣れていった。
城の本館は通り抜けるだけ、今日は王族の住むエリアには近づかないコースをナトンは選び、さらっと道の進み方のコツだけ教えてくれた。
(oh~、迷路!?)
何せ、よみうりランドや、富士急ハイランドの有名なホラー系迷路には絶対行入れない私・・・。
超・方向音痴の私に、そのアトラクションの10倍以上の敷地面積を迷いなく進めだなんて・・・今もなおウツ状態が回復していない私には厳しい課題なのだ!
とりあえず、東京ドームシティーのイケメンドラキュラの出るお化け屋敷は大丈夫だったんだけどね?
(うう・・・体が怠いというか、重い感じだよ・・・やっぱ太ったか?)
私は堪らず、不安気にナトンの袖を掴んだ。
「あ~・・・ハイハイ、騎士の訓練場に行ってあげるから元気出して?」
「き、騎士の訓練場・・・?」
訓練場というよりも、闘技場という表現が近い雰囲気の場所に案内された。
サッカー場と、観客席らしき造りの建物に案内されたのである。
私は、座席らしき壇上から、下の試合場のような場所を、ナトンに促されたままに覗き込んだ。
デザインは色々だが、白いシャツに茶色のズボンで統一された服装の人達が、様々な武器を持ち、二人一組で対峙しながら自分の戦闘フォームを確認し合っているのである。
「おお! 剣だけじゃないんだ・・・本格的戦闘訓練だね!」
「ヒロコ・・・このスタイルがわかるの?」
「え? 統一された武器だと、敵によってはこちらが不利になるでしょう? 自分の部隊仲間の武器を把握して、相性の良い味方とチームを組む方が戦い易いんじゃないの?」
つい私は、某狩り系ゲーム知識を語ってしまったのだ。
「え・・・ヒロコって・・・向こうの世界で何の職業だったの!?」
「え? 企画販売かな、こっちの世界だと商人とかじゃないかな?」
(書籍を企画したり、キャラクターグッズ作ったり、ノベルティ手配したり、年始挨拶用のタオルとか? まあ、法に触れないものは何でも売買する仕事だったし)
「商人にそんな知識は・・・普通ないと思うけど!?」
「そお?」
(うん、こっちの常識はまだよくわからんな?)
口をただパクパクさせるナトンを無視して、そこにいるであろう人物を、私は目を皿のようにして捜した。
翻る薄い灰色のマント、すらりとした美しい姿勢・・・煤けた金髪に焼けた肌、色っぽい夕刻の青い瞳!
(じゅるっ・・・は! いかん! ヨダレが)
「おっふ! 心の騎士ソラルさまぁっ!」
すでに私のおめめはハート型になっているに違いない!
「ヒロ・・・ミリアン、心の声は現実に出さないでね?」
ここでのお約束、召喚された聖女“ヒロコ”はこちらでは珍しい発音の名前なので、侍女見習いの姿の時は“ミリアン”と呼ばれる事となった。
何故その名前にしたかというと、実は私がノベル化に加担していた“ムツノクニ下克上”というスマホゲームでは、ほぼ自動セーブ機能が付いていて、本物の初回スタートの一見さんにしか現れないチュートリアルお助け侍女キャラの名前が“ミリアン”なのである。
ちなみに、そのキャラクターモデルが・・・私、本人なのであった。
通称“幻のミリアン”は、ストーリーには直接関わらないキャラクター設定だ。
何故か私の社内でのあだ名が“ミリアン”になってしまった。
誰に呼ばれても何の抵抗もなく返事ができるという利便性で、ミリアンと呼んでもらう事になったのだ。
まあ、ゲームの企画発表前に神絵師とシナリオライターと一緒にファミレス飲みをしながら、おふざけで決定されたのだ。
腐女子三人での会話が、まさか本当に配信ゲーム化するとは夢にも思わなったのだが。
友人のシナリオライターからの「よし! オマエ企画やれ!」の一言ですべてが始まった。
皇帝陛下の通達により、我が国は一番最初に聖女召喚を成功させ、同日に2人目も見事に成功を納めた。
我が国で隠密行動をしていた各国の諜報部員の情報によると・・・最初に召喚された幼い少女は、到着直後、魔力が枯渇した召喚士達を回復させ、宰相の長きに渡る病魔をも完治させたと各国に伝えられていた。
しかも、選ばれた世話係以外に、優秀な騎士を自ら指名し“名呼び”をさせ、祝福を与えたという。
「幼い少女?」
「あなたの事です」
「宰相の長きに渡る病魔?」
「多分、マテオ様の腰痛と膝の痛みだと思うけど?」
「祝福?」
「それは私が逆に聞きたい、ヒロコは父上に何をしたんだ?」
「いや、知らんがな!」
「そうか・・・」
「え! ソラルさまがどうかしたの?」
「い、いや、知らないならいい・・・」
「え・・・ちょ! そんな言い方されちゃあ、余計に気になるでしょうが!」
「・・・・・・・・・」
イスマエルが眉尻を下げて、泣きそうな表情をした。
ソファの隣に座っていたナトンが、イスマエルの背中を慰めるように摩り始めた。
(私、なんか不味い事したんでしょうか?)
「ヒロコ、イスマエルが落ち込んでいるのは個人的感情からだから、気にしなくていいんだよ!」
「ええええっ! なにそれ!?」
「・・・たんだ」
「はい?」
イスマエルが掠れた声でなんか言ったが、私は聞き取れず、ナトンに視線を移した。
「あの・・・出来たんだよ・・・その・・・とっても良い事なんだ」
「わかんないよ、はっきり言ってよ!」
俯きかけた顔をイスマエルは思い切り上げて、私に向かって言った。
「私に弟か妹が出来たんだっ!」
イスマエルがメガネの奥に涙を浮かべて叫んだ。
「めでてぇじゃねえかぁあああっ!!」
ツッコミ以外に私にどうしろと!?
「ヒロコ、それ食べ終わったら、城内散歩に行くよ~」
私はようやく出てきた、おやつの焼きたてスコーンに夢中になっていた。
「え~? スコーンのおかわりは・・・」
濃いめのダージリンティーにめっちゃ合う、焼きたてスコーンにクロテッドクリームとブルーベリージャムをのせてかぶりつき、ハムスターのごとく頬を膨らませていた。
「止めた方がいいよ・・・ヒロコの体の為にもね。40分ぐらいの散歩の後に、ちゃんと休憩時間も取るし、その後はマクシムと夕食を取りながらマナーのレッスンだからね?」
(なるほど、優しくカロリーオーバーを教えて下さっている・・・)
そう、私はこちらに来てから食っちゃ寝を繰り返しているのだ。
我ながら、体型がヤバくなっているのは薄々感じていた。
何せ、社畜系のフルタイム勤務を辞め、美味しいゴハンを食っちゃ寝して、チビチビ勉強して、甘やかされ放題の日々だ。
(だって、イスマエルがなんでも世話を焼いてくれるんだもん!)
育成どころか、散歩も行かない室内犬に成り下がっている私であった。
ヤバイ、これは我ながらヤバイのでは?
「ナトン、ヒロコはここに着いたばかりの時よりだいぶ食欲が出てきたんだ。食べられるなら・・・」
ナトンが見たこともないキツイ視線をイスマエルに向けた。
(おおっ! ネコ目のナトン君は以外と目ヂカラあるな?)
「イスマエル! うちの聖女が“おチビ聖女”から“ポッチャリ聖女”とスパイ達に言われてもいいの!?」
(“おチビ聖女”ってなんだよ・・・)
どうやらこの城内では、諜報部員がウワサ合戦を繰り広げているらしい。
1周まわって、私の事を各国にどう報告されているか丸わかりなのだ。
「え~と、すみませんでした。おやつはこれで充分です。お散歩に連れてって下さい!」
犬であれば、自らリードを咥えてナトンに擦り寄るところだ。
その様子を見て、イスマエルがオロオロしはじめた。
「なあ、ナトン、せめてヒロコに私の“才”を一時的に授けても良いだろうか?」
そういえば、世話係はそれぞれ秀でた“才”があると聞いた事がある。
(イスマエルの“才”って何だろう?)
その言葉を聞いたナトンが腰に両手を当てて、胸を張り声を出した。
「ダメです! あのねえイスマエル、ヒロコは聖女の教育を受講中でしょう?」
「ああ、そうだが・・・」
「ヒロコはこれから公の場で“聖女”として堂々としてもらわなきゃいけないの、どんな場合だってね! わかる?」
「そ、そうだな」
「例え可愛いメイド姿でも 、気品を醸し出しながら歩けるようになって、人の視線にもビクともしないようにならなきゃいけないの。イスマエルの“地味の才”を今のヒロコに貸し出すなんて大きなお世話だよ!」
「・・・“地味の才”ってなに?」
「そうだな、スマン」
イスマエルはしゅんとして、視線を床に落とし、どうしても私の方を見ようとしない。
「いや、だから“地味の才”って?」
そんな彼の肩に触れようとしたが、ナトンに急かされて、廊下に続く扉へと押し出された。
「さ、ヒロコ、侍女のフリをしてお行儀良く僕に着いてきてね」
(おい、“地味の才”ってなんだーっ!)
高い天井、白い壁、美しい絨毯が敷かれている聖女専用の城の北東部分を抜けると、絨毯が途切れ、修復時に取り替えやすい正四角形のタイルが敷き詰められた、城内の一般的な廊下に切り替わった。
足音も立てず、優雅な猫のように歩くナトンの後ろを、私は足の短い仔犬のようにトテトテと一生懸命ついて行った。
中世ファンタジーな服装の人々が、ナトンに静かに会釈をしてすれ違って行く。
私は社会人として、必要最低限だと思っている挨拶で、頭をペコペコ下げながら歩いていたが・・・その姿を皆、微笑ましい何かを見るように、見送ってくれるのだ。
それに気がついたナトンが急に歩調を合わせて、並んで歩いてくれた。
「ヒロコ、ごめんね、僕の気が利かなくて・・・。まだ城内を歩き慣れてない君にはちょっと歩くスピードが早かったよね」
「あ、ううん。こういう服装で堂々と歩いたことがなくって、ちゃんと綺麗に歩けるようになるね」
そうなのだ、これはメイドコスプレ・・・私はメイド喫茶では働いた事がないので、自分のこの格好に免疫ができるまではもう少し時間がかかりそうだ。
ちなみに、私の金色の前髪と右側の灰色と茶色のメッシュが上手く隠れるように、メイドキャップをかぶっている。
「ふうん? そんなもんなのか・・・すごく可愛いから、自信持って堂々と歩いてね!」
「か、可愛いなんて・・・その、ありがとう・・・」
よもや25歳にもなって、メイドコスプレをした姿を、16歳の美少年にそう言われるとは思わなかった。
傍から見れば、新人のメイド・・・いや、雇い主が聖女の世話係以上の貴族レベルならば、“侍女見習い”だろうか?
(というか、城内に部屋を与えられているのだから聖女ってすごいな!)
滅多に跪く必要のない、宰相のマテオGが正式な場では私に跪くのだから、聖女の位とは国王の次に高いというものだ。
聖女とは国の宝なのだそうだ。
(ついでに私のプレッシャーも半端なくて、挫けそうだヨ!)
長いなが~い、廊下が延々と続くのではないだろうか? という感じで、ため息が出そうな白亜の城をナトンの説明を聞きながらひたすら歩いて行く。
たまに見かけるガラス窓に映る自分のメイドの服装を見て、気恥ずかしく感じながらも、段々と慣れていった。
城の本館は通り抜けるだけ、今日は王族の住むエリアには近づかないコースをナトンは選び、さらっと道の進み方のコツだけ教えてくれた。
(oh~、迷路!?)
何せ、よみうりランドや、富士急ハイランドの有名なホラー系迷路には絶対行入れない私・・・。
超・方向音痴の私に、そのアトラクションの10倍以上の敷地面積を迷いなく進めだなんて・・・今もなおウツ状態が回復していない私には厳しい課題なのだ!
とりあえず、東京ドームシティーのイケメンドラキュラの出るお化け屋敷は大丈夫だったんだけどね?
(うう・・・体が怠いというか、重い感じだよ・・・やっぱ太ったか?)
私は堪らず、不安気にナトンの袖を掴んだ。
「あ~・・・ハイハイ、騎士の訓練場に行ってあげるから元気出して?」
「き、騎士の訓練場・・・?」
訓練場というよりも、闘技場という表現が近い雰囲気の場所に案内された。
サッカー場と、観客席らしき造りの建物に案内されたのである。
私は、座席らしき壇上から、下の試合場のような場所を、ナトンに促されたままに覗き込んだ。
デザインは色々だが、白いシャツに茶色のズボンで統一された服装の人達が、様々な武器を持ち、二人一組で対峙しながら自分の戦闘フォームを確認し合っているのである。
「おお! 剣だけじゃないんだ・・・本格的戦闘訓練だね!」
「ヒロコ・・・このスタイルがわかるの?」
「え? 統一された武器だと、敵によってはこちらが不利になるでしょう? 自分の部隊仲間の武器を把握して、相性の良い味方とチームを組む方が戦い易いんじゃないの?」
つい私は、某狩り系ゲーム知識を語ってしまったのだ。
「え・・・ヒロコって・・・向こうの世界で何の職業だったの!?」
「え? 企画販売かな、こっちの世界だと商人とかじゃないかな?」
(書籍を企画したり、キャラクターグッズ作ったり、ノベルティ手配したり、年始挨拶用のタオルとか? まあ、法に触れないものは何でも売買する仕事だったし)
「商人にそんな知識は・・・普通ないと思うけど!?」
「そお?」
(うん、こっちの常識はまだよくわからんな?)
口をただパクパクさせるナトンを無視して、そこにいるであろう人物を、私は目を皿のようにして捜した。
翻る薄い灰色のマント、すらりとした美しい姿勢・・・煤けた金髪に焼けた肌、色っぽい夕刻の青い瞳!
(じゅるっ・・・は! いかん! ヨダレが)
「おっふ! 心の騎士ソラルさまぁっ!」
すでに私のおめめはハート型になっているに違いない!
「ヒロ・・・ミリアン、心の声は現実に出さないでね?」
ここでのお約束、召喚された聖女“ヒロコ”はこちらでは珍しい発音の名前なので、侍女見習いの姿の時は“ミリアン”と呼ばれる事となった。
何故その名前にしたかというと、実は私がノベル化に加担していた“ムツノクニ下克上”というスマホゲームでは、ほぼ自動セーブ機能が付いていて、本物の初回スタートの一見さんにしか現れないチュートリアルお助け侍女キャラの名前が“ミリアン”なのである。
ちなみに、そのキャラクターモデルが・・・私、本人なのであった。
通称“幻のミリアン”は、ストーリーには直接関わらないキャラクター設定だ。
何故か私の社内でのあだ名が“ミリアン”になってしまった。
誰に呼ばれても何の抵抗もなく返事ができるという利便性で、ミリアンと呼んでもらう事になったのだ。
まあ、ゲームの企画発表前に神絵師とシナリオライターと一緒にファミレス飲みをしながら、おふざけで決定されたのだ。
腐女子三人での会話が、まさか本当に配信ゲーム化するとは夢にも思わなったのだが。
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