病んで死んじゃおうかと思ってたら、事故ってしまい。異世界転移したので、イケおじ騎士団長さまの追っかけを生き甲斐とします!

もりした透湖

文字の大きさ
上 下
8 / 71

【異世界召喚ですか?】その8

しおりを挟む
「俺が感じたのは、聖女を求める心の温度だよ」
 (うん、なに気にマクシムも私には理解不能な言葉を使ってるよ? 気づいて!)
「教えて! イスマエル先生!?」
 メガネ君のイスマエルはちょっと困った顔をした。
 (お、珍しい反応だ)
「ヒロコ、ちょっと話の流れをもう少し聞いてくれ」
「はい・・・」
「その・・・なんというか、最初のしんどい召喚士を介抱するヒロコを見た後で、アレはないと思った」
「うん、アレはないな・・・ていうか、彼女の反応こそが普通なんだけどね」
「私は非難されてるの? 持ち上げられてるの? どっち?」

 では、マクシム目線の回想シーンからどうぞ!

 その少女は“生命の水”の噴水から現れ。
 揺らめく大地を想像させる長髪、身体の曲線は細く、白いシャツに膝上の格子柄の短いスカート、大きめの紺色の鞄を肩にかけていた。
 小動物を思わせる魅力的な黒い瞳と、整った顔立ちをしていた。
「ここ・・・どこ?」
 彼女の声を聞いて、年老いた背の高い宰相は答えた。
「あなたが産まれた世界とは違う世界でございます“聖女様”」
「聖女? へ? これ何のコスプレイベント?」
 (ん?:byヒロコ)
「いえいえ、あなたの思っているような向こう側の式典ではないと思いますよ?」
 西の宰相がそう言い終わると同時に、漆黒の長髪、ルビーのような赤い瞳をしたルベンが、聖女の手を取り、噴水から連れ出した。
「ひゃあ! 萌え! マティアス様の2.5次元版?」
(んん?:byヒロコ)
「ウホン!」
 宰相は咳払いをひとつした。
 彼の薄茶色の前髪がその拍子に少し乱れ、琥珀色こはくいろ双眸そうぼうが合図だと言わんばかりに、世話係候補の俺達に向けられた。
 跪く俺とナトンは、顔を上げてその少女を見上げ、挨拶をした。
「お初にお目にかかります、異世界の聖女様、マクシムと申します」
「はじめまして、聖女様! ナトンです」
 (おい、自己紹介が私の時と違わないか?:byヒロコ)
 (しょうがないじゃん、進行役の宰相様に合わせてるんだよ:byナトン)
「聖女? アタシが? ・・・ええ! リュカ様! それに・・・アレクシ様がっ! え? 転生!これ異世界転生ってヤツ?」
 何故か彼女は混乱し、意味の解らない事ばかり話し始めたので、後ろに控えていたもう1人の世話係候補は自己紹介を省かれた。
 (そこすっげー気になる:byヒロコ)
「聖女様は向こう側の死の運命を逃れ、こちら側での新たな人生を手に入れました。今ここで行われたのは、異世界召喚でございます」
 (おおっ! マテオGより親切でわかりやすい説明だな:dyヒロコ)
 西の宰相の一言で、少女はショックのあまりその場に崩れ落ちる。
「い・・・いや、待って! かなり楽しいけど、アタシこんな夢見てる場合じゃないの! 初回限定ポストカードの在庫があるジョンク堂へ行かなきゃ! 早く行かなきゃ、推しメンが手に入らないの!」
 宰相が鋭い視線を黒髪のルベンに向けた。
「おい、ルベン、なんでもいいから“名呼び”をしろ!」
 少女に手を貸しているルベンが、そっと震える肩を支え、優しく顎を持ち上げ目線を合わせた。
「マティアス様・・・アタシ現実問題として、今すぐ池袋の本屋へ行かなきゃいけないの!」
 (ぬンンっ!?:byヒロコ)
「あの・・・マティアスってどなたです? 私はルベンと申します、あなたのお名前をお聞かせ下さい」
「え! ここって身分証明がいるお店なの? 名前、名前・・・あれ?」
 慌てて自分の鞄についている、白い毛だらけの何かを確認した。
「聖女様・・・お名前は私が授けてもよろしいでしょうか? 異世界転移をした場合は、前の世界に自分を示す名前を置いてきてしまうものだと伺っております」
「やばい、“もふもふトリッキーくん”に入れといた定期の名前がかすれて読めな~い! そうだ、学生証!」
 どうやら、鞄に付いている白い毛だらけの妙な形の物体は“もふもふトリッキーくん”と言うらしい。
「もふもふ?・・・て?」
 顔面氷結をしているルベンの手を放し、彼女は自分の鞄をひっくり返し、中身をぶちまけた。
「あの・・・聖女様、大丈夫ですよ、身分証明書とか見せなくていいんですよ?」
「あああああった・・・けど、自分の好きな名前に設定してもいいの?」
「設定? あ、はい、どうぞ?」
「マティアス様に呼ばれるなら“ノエミ”がいいな!」
「では、“聖女ノエミ”私達の世界へようこそ!」
 噴水の中に循環している生命の水が、ほのかに白く光り、“星霜希水の間”はマイナスイオンの清浄な空気で満たされた。

 聖女ノエミはその直後に宰相達から今後の説明を受けたが、本人は納得せず「サギだ! 自分の世界に返して!」と、泣きながら叫び出したという。
 召喚士四名は、先に交代したGさんズに支えられながら“星霜希水の間”からなんとか緊急救護室に運ばれたらしい――――。

 私は両手で頭を抱えながらマクシムのその話を聞いていた。
 そういえばもう一人、世話係候補に黒髪長髪の超絶美形がいたよね・・・タイプじゃないからすっかり忘れてたけど。
 こっちの金髪碧眼マクシムの“俺様キャラ・アレクシ”風のルックスはその子の精神衛生上よろしくないかもな。
 寸胴の兎っぽい“もふもふトリッキーくん”はアレクシ様の大事なペットだもの、コアなファンしか買わないよ。
 そんなファンにとっては、私にソラルさまを見せるぐらいの彗星ぶち抜き弾丸ディープインパクト級に違いない。
 まあ、声優投票ではマティアス様が不動の第一位だけどね?
 そうかぁ、あの声で名前を呼んで貰えるのかあ・・・って! 声まで同じじゃないと思うよ?
「うん、その子の反応は同郷としては“ある意味普通”だと思うよ・・・」
 気の毒だ・・・気の毒すぎる!
 だって、私のパターンから推測すると・・・その子もまた、死の運命によりこちら側に来てしまったのだ。
 このままこの世界の軌道を正さないと、向こう側で輪廻転生するはずの人が、生きた軌跡も消されて、家族からも忘れられ、存在しなかった事にされてしまうのだという――――。
 それぞれの宰相は命を懸けて召喚術を行った。
 詰まるところ、100%の成功確率がないからこそ命をかけねばならないのだ。
 実際は宰相を中心として召喚術を行使するメンバーが、どんなに優秀で素晴らしい魔力や才能を持っていても、成功確率は半分以下だという。
 聖女召喚が失敗すれば、ある者は発狂し、ある者は四肢を失い、ある者は塵になると言う・・・そして、術を発動したという事実さえもどこかで消えているという始末なのだ・・・と。
 なんという狂った世界に、私は来てしまったんだろう!
 異世界から1人の人間を転送するのだ、失敗すれば、召喚する者もされた者も、どちらの世界にも存在できずに、肉体も精神も魂も消滅してしまうのだという。

 この星の延命の為に、神の代理人と呼ばれる皇帝の命令によって、6つの国が次々と聖女召喚の準備を進めているという。
 私一人では・・・いや、この国の聖女二人の力では、せいぜい定期的にこの国付近の星の生命の水を、清浄化できるのが関の山のような気がする。
 (ん? 私ら定期交換の浄水フィルター扱いか? まさか、使えなくなったらポイっとかされないだろうな!)
 私はとても恐ろしい事を想像してしまった。
 もしかして、私の故郷の方がヤバいんでないかい?
 そんな頻繁に人間がさらわれるんか?
 特に日本の被害が酷くて、過労死の原因になっているとか?
 ほら、いつの間にこの仕事を私がやる事になったんだろうか? みたいな事ありませんか?
 あ、ない? 失礼しました~!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

【完結】不貞された私を責めるこの国はおかしい

春風由実
恋愛
婚約者が不貞をしたあげく、婚約破棄だと言ってきた。 そんな私がどうして議会に呼び出され糾弾される側なのでしょうか? 婚約者が不貞をしたのは私のせいで、 婚約破棄を命じられたのも私のせいですって? うふふ。面白いことを仰いますわね。 ※最終話まで毎日一話更新予定です。→3/27完結しました。 ※カクヨムにも投稿しています。

悪役令嬢の末路

ラプラス
恋愛
政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?

すべてを思い出したのが、王太子と結婚した後でした

珠宮さくら
恋愛
ペチュニアが、乙女ゲームの世界に転生したと気づいた時には、すべてが終わっていた。 色々と始まらなさ過ぎて、同じ名前の令嬢が騒ぐのを見聞きして、ようやく思い出した時には王太子と結婚した後。 バグったせいか、ヒロインがヒロインらしくなかったせいか。ゲーム通りに何一ついかなかったが、ペチュニアは前世では出来なかったことをこの世界で満喫することになる。 ※全4話。

妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢

岡暁舟
恋愛
妹に正妻の座を奪われた公爵令嬢マリアは、それでも婚約者を憎むことはなかった。なぜか? 「すまない、マリア。ソフィアを正式な妻として迎え入れることにしたんだ」 「どうぞどうぞ。私は何も気にしませんから……」 マリアは妹のソフィアを祝福した。だが当然、不気味な未来の陰が少しずつ歩み寄っていた。

夫から「余計なことをするな」と言われたので、後は自力で頑張ってください

今川幸乃
恋愛
アスカム公爵家の跡継ぎ、ベンの元に嫁入りしたアンナは、アスカム公爵から「息子を助けてやって欲しい」と頼まれていた。幼いころから政務についての教育を受けていたアンナはベンの手が回らないことや失敗をサポートするために様々な手助けを行っていた。 しかしベンは自分が何か失敗するたびにそれをアンナのせいだと思い込み、ついに「余計なことをするな」とアンナに宣言する。 ベンは周りの人がアンナばかりを称賛することにコンプレックスを抱えており、だんだん彼女を疎ましく思ってきていた。そしてアンナと違って何もしないクラリスという令嬢を愛するようになっていく。 しかしこれまでアンナがしていたことが全部ベンに回ってくると、次第にベンは首が回らなくなってくる。 最初は「これは何かの間違えだ」と思うベンだったが、次第にアンナのありがたみに気づき始めるのだった。 一方のアンナは空いた時間を楽しんでいたが、そこである出会いをする。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

結婚記念日をスルーされたので、離婚しても良いですか?

秋月一花
恋愛
 本日、結婚記念日を迎えた。三周年のお祝いに、料理長が腕を振るってくれた。私は夫であるマハロを待っていた。……いつまで経っても帰ってこない、彼を。  ……結婚記念日を過ぎてから帰って来た彼は、私との結婚記念日を覚えていないようだった。身体が弱いという幼馴染の見舞いに行って、そのまま食事をして戻って来たみたいだ。  彼と結婚してからずっとそう。私がデートをしてみたい、と言えば了承してくれるものの、当日幼馴染の女性が体調を崩して「後で埋め合わせするから」と彼女の元へ向かってしまう。埋め合わせなんて、この三年一度もされたことがありませんが?  もう我慢の限界というものです。 「離婚してください」 「一体何を言っているんだ、君は……そんなこと、出来るはずないだろう?」  白い結婚のため、可能ですよ? 知らないのですか?  あなたと離婚して、私は第二の人生を歩みます。 ※カクヨム様にも投稿しています。

愛されなかった公爵令嬢のやり直し

ましゅぺちーの
恋愛
オルレリアン王国の公爵令嬢セシリアは、誰からも愛されていなかった。 母は幼い頃に亡くなり、父である公爵には無視され、王宮の使用人達には憐れみの眼差しを向けられる。 婚約者であった王太子と結婚するが夫となった王太子には冷遇されていた。 そんなある日、セシリアは王太子が寵愛する愛妾を害したと疑われてしまう。 どうせ処刑されるならと、セシリアは王宮のバルコニーから身を投げる。 死ぬ寸前のセシリアは思う。 「一度でいいから誰かに愛されたかった。」と。 目が覚めた時、セシリアは12歳の頃に時間が巻き戻っていた。 セシリアは決意する。 「自分の幸せは自分でつかみ取る!」 幸せになるために奔走するセシリア。 だがそれと同時に父である公爵の、婚約者である王太子の、王太子の愛妾であった男爵令嬢の、驚くべき真実が次々と明らかになっていく。 小説家になろう様にも投稿しています。 タイトル変更しました!大幅改稿のため、一部非公開にしております。

処理中です...