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本編

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完成した桃のスープをアレンに支えてもらいながらラインハルトの元へと運ぶ。

正直、ラインハルトがこれで元気になるのか不安だった。

「トオル、大丈夫さ。」

不安げな様子の頭をアレンが撫でながらそう言う。

アレンの大きな手から伝わる温もりに少しずつ不安が消えていく。


「うん。絶対にラインハルトを助けるんだ!」

決意を新たにそう呟く。

アレンも真剣な顔で頷いた。


ラインハルトの居る部屋まで来たところで異変に気づいた。


先ほど来た時よりもラインハルトの苦しいそうな声が大きくなっている。
それはまるで悲鳴のようだった。

急いで扉を開け中に入ると、部屋にラインハルトの身体から溢れた瘴気が充満していた。
ヴェインさんやヒューガさん、レオンくんはその瘴気を身体に受け苦しそうにしている。


「何があった!?」

アレンが3人に問いかける。

「分かりません、浄化した瘴気が何故か復活しているようで……。
ラインハルトさんの身体の瘴気を抑えるので皆手一杯で周りに漏れたのは……。」
レオンくんが応えた。

「くっ…。
お前達、少し熱いが我慢しろよ!
トオル、少し下がっていてくれ!」

アレンは皆に指示を出すと自分の背中に俺を庇う様に隠してから魔法を唱える。

〖安寧なる浄化の聖なる炎よ!
邪を祓え。
セイクリッドフレイム!〗


アレンが魔法を唱える終わると部屋全体が光の様な炎に包まれる。

「あっつ!?」

ヒューガさんとヴェインさんは歯を食いしばりながら耐えるが、レオンくんは焦ったように呻き声を漏らした。


「レオン、安心しろ。身体影響はない………はずだ……。」

アレンが目を逸らしながら言う。

「いや、めちゃくちゃ熱いんですけど!」
涙目になりながらレオンくんが抗議する。

「………こ、これでもかなり抑えたんだ。」

アレンが気まずそうに呟いた。

アレン、加減するの苦手って言ってたもんなぁ…。

ちなみに、アレンが庇ってくれたおかげで、俺はキャンプファイヤーの焚き火のすぐ横位の熱さだった……。

しかし、アレンの魔法の効果は絶大で部屋に満ちていた瘴気は一瞬で消え失せた。

「トオルが居るということは出来たのか?」

ヒューガさんがこちらを見ずに声をかけてくる。

「はい!」

俺は、部屋に入りラインハルトの元へと駆け寄った。

「トオル、俺が抑えてるうちにラインハルトに食べせてやってくれ。」

ヴェインさんがラインハルトの身体を抑えながら言う。

「分かりました。」

スプーンで掬った桃のスープをラインハルトの口に運ぶ。

「ラインハルト食べて…。」

無理矢理口に運ぶが上手く飲み込ませることが出来なく吐き出してしまった。

「ラインハルト……。」


どうしたら…。

お願い、ラインハルト…。
君を助けたいんだ。

大切な親友との思い出が脳裏に巡る。

視界が霞んでいく。

「早く……早く元気になって……一緒にヴェインさんの好きな料理を作ろうよ…。」

震える声で漏れる様に言葉を振り絞る。

その時、俺の手に持っていたスプーンが輝き出した。


「……これは?スプーンに白魔法を付与したのか?
そうか、銀のスプーンか…。」

レオンくんが小さな声で呟いたのが耳に届いた。


先ほどまで目を閉じていたラインハルトが光を見て微かに、本当に微かに目を開けた気がした。

もう一度スープを掬って彼の口元に運び流し入れた。

僅かにラインハルトの喉が上下する。

すると彼の身体の中に優しい光が僅かに灯った。

苦しいそうにしていたラインハルト少しだけ楽そうになる。

「トオルさん!
今のうちにもっと食べさせてください!」

レオンくんから指示され、更に1口、もう1口スープを運ぶと少しずつではあるが、ラインハルトはスープを飲み込み始めた。

彼が飲み込む度に身体に灯る光が強くなって行く。

器のスープを全て飲み込ませる頃には、ラインハルトの身体から立ち上る瘴気は消えていた。

レオンくんがラインハルトの身体に手を当てる。

「……成功です。
一命は取り留めました。
今は体力を使い果たして眠りについています。
しばらくこの状態が続くとは思いますが、2~3日したら目を覚ますでしょう。」




彼の言葉を聞いて、緊張の糸が途切れてその場に座り込んだ。

そんな俺を、目に涙を溜めたヴェインさんが抱きしめる。

「トオル……ありがとう…。本当にありがとう……。

アレン、ヒューガ、レオンもラインハルトを救ってくれて本当に……本当にありがとう……。」



先ほどまでの緊張感のある空気は完全に無くなり、ヴェインさんの泣きながら言うお礼の言葉と、皆のほっとした様な安心感が溢れていた。



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