料理人は騎士団長に食べさせたい

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♦♦♦♦♦


「トオル…?」

「アレン…。俺……。」
アレンに身体を抱きしめられながら先程まで見ていた映像を思い出し、涙を流した。

きっと、あれは、この指輪の生贄になった人の記憶だ。


悲しくて、辛くてとめどなく涙が流れてきた。


強い憎しみを持ったまま死んで行った彼らの怨念が穢れを生み、呪いの指輪が完成したのだろう…。

そして彼らは、長い時間がたった今もその憎しみに囚われ人々を、世界を呪っている。


「アレン、指輪から彼らの感情が、記憶が流れ込んで来たんだ。」

アレンになだめられながら必死に言葉をだした。

今見た記憶の内容を彼に話す。

俺の話す内容に、アレンは顔を顰めた。

「生贄になった人間の記憶か…。」

アレンがやるせない声を出す。

最初は、恐怖しか無かった。
でも、彼らの境遇を知ってしまった今は、偽善かもしれないが彼らに何かをしたいとすら思えてしまう。

悪いのは、彼らの人生を憎しみで満たした人間だ。

でも、その人々はもうこの世には居ない。


指輪に宿る怨念に俺が出来る事を…。

「指輪を完全に浄化して、彼らを憎しみから解放してあげたい…。」

「あぁ。」
アレンが俺の言葉に優しく相槌を打ってくれた。

もちろん、この怨念がアイリーンちゃんにしたことは許せない。

そのせいでラインハルトが…。

でも…それでも……。

頭の中で指輪を浄化するのをイメージした。

今までは、力任せに打ち消す様なイメージで魔法を使っていた。

でも、今度は違う。
彼らを助けたい。
苦しみから解放してあげたい。
その為にこの穢れを浄化したい。

そう思いながら魔力を練り上げる。

「くっ……。」
力任せに魔法を使って居た時とは違い、魔力をどれだけつぎ込んでも足らなかった。

アレンから分けてもらっている魔力すら足らずにどんどん魔力が無くなっていく…。

「アレンお願い。
俺に力を貸して…。
もっと…魔力を……。」


最後までいい終わらないうちにアレンから口付けをされた。

彼の舌が口の中に侵入してくる。

それともに暖かいアレンの魔力が流れ込んで来た。

そのおかげで、さっきまでは中途半端だった魔法が完成して発動した。

俺とアレンの居る場所を中心に魔法陣が完成する。

そして指輪を包み込むように優しい光が溢れ出した。


ずっと手の中を暴れる様に黒い靄を吐き出し続けていた指輪がピタリと止まる。

「何故だ?」

頭の中に指輪の声が響いた。

なにが?

頭の中で返す。


「何故、浄化の魔法を辞めた?」

指輪は、困惑したようにまた聞いた。

浄化の魔法を辞めた?
俺はそんなつもりは無い…。

むしろ、怨念を浄化したい気持ちだ。


「ふっ……。そうか…。
お前は、本当に素人なんだな?」

彼は、バカにしたように笑う。

まぁ、白魔法について全く分かっていないから素人であることは否定出来ないか…。


手の中の黒かった指輪が少しずつ、銀色に変わって行っている気がした。

なんで?
あれだけ浄化の魔法を使っても靄を押し返すだけで精一杯だったのに…。




「全く…せっかく封印が解けてこの世の全てを呪って壊してやろうと思ったのに…。
こんな素人に消されるのか…。」

そんなことを言う彼は、何故か全く悔しそうでは無くむしろ、穏やかな口調だった。

「お前は変な奴だな。
恐怖や憎しみの対象の俺らを助けようとするなんて……。
お前みたいなやつは、大嫌いだ。

でも…呪縛を解いてくれてありがとう…。」

彼がそう呟く様に言う。

その瞬間、手の中の指輪にひびが入る。

ひびが次第に大きくなって行き、ついには指輪が砕け散った。

そして指輪から無数の光が天に登っていく。

アレンも突然の指輪の変化に驚いている。

そして、光が全て天に登り終える頃には、辺りに漂っていた禍々しい気配は全てなくなって居た。

口付けを離したアレンが呟く。

「指輪の怨念が解放された…のか…?」

彼の言葉に答えようとするが、強い魔法を使ったせいか、酷く眠たかった。


身体を動かすのすらしんどい。

アレンの胸に身体を預けながら目を閉じ眠りについた。






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