料理人は騎士団長に食べさせたい

arrow

文字の大きさ
上 下
175 / 196
本編

143

しおりを挟む

「あの…アレン様、あの女性は?」

カイルくんがアレンに事の顛末を聞いた。
皆も気になっていた様でアレンに注目する。

「……倒した。」

それだけ言った。

皆、その言葉で察した様だった。

「よかったのでしょうか?
彼女は、一応スペンサー公爵家の令嬢ですよね?」

リオルくんが不安そうに聞いた。


「…問題ないと思う。
あの女は、王国が支援しているこの孤児院で暴れたんだ。
それだけでも、重罪。極刑は免れない。
それに、生かしたままでは、ソランジール家も黙って無いだろう…。」

アレンの説明にカイルくんとリオルくんは一応納得した。

しかし、それでも表情は暗かった。

「しかし、あの力は一体何だったのでしょうか?
公爵家の方々は、確かに高い魔力を持って生まれることがほとんどです。
でも、スペンサー家の令嬢があんなに凄い力を持っているなんて今まで聞いたことなんて……。」

リオルくんがさらに疑問を口にした。

「あ、アレン様!彼女が持ってた指輪は何処に!?」

カイルくんが思い出したようにアレンに聞く。


「指輪?あぁ、確かにしてたな。
すまん、確認してない…。
あれがどうかしたのか?」


「あの指輪から、ずっと禍々しい力を引き出していたんです。
あれから出てくる黒い靄は…そう、まるで怨念のような……。」

カイルくんが身震いしながら言う。
心の底から恐怖を感じている様子で、耳と尻尾も震えていた。


「アレンさん、その指輪を探した方がいい。」

話を聞きながら何かを考える素振りをしていたヒューガさんが、アレンに言う。

「何かわかったのか?」


「いや、話を聞いてのあくまでも推測だ。
その指輪は、呪具だろう。
見つけて祓わないと厄介な事になりかねない。」


呪具?
確かに、取り付いた何かは、自分のことを「呪い」と言っていた。

アレンも思い出したのかヒューガさんに聞き返す。

「呪具?」


「あぁ、呪具と言うのは、その名の通り人を呪う為に作られたものだ。
作り方は、あまり聞かない方がいい内容の物ばかりだがな……。」

ヒューガさんは、少しイライラしたように呟いた。

何か嫌な思い出でもあるのだろうか?


「とりあえず、探しに行こう。
カイル動けるか?
出来れば手伝って欲しい。」

ヒューガさんは、カイルくんに聞いた。

「はい。戦闘は厳しいですが、探すだけなら大丈夫です。」

彼の返答にヒューガさんは満足そうに言う。

「アレンさんとトオルはここでリオル達を護って居てくれ。
リオルは、今、魂が不安定な状態だ。
魔力を使えばどうなるかわからない。」

「わかった。何かあれば直ぐに知らせろよ?」


アレンの言葉にヒューガさんは頷く。

「カイル、穢れを辿れるか?」

彼の問いにカイルくんが右目で辺りを見渡す。

「はい、魔眼で見るとあの穢れが通った所が微かにですが分かります。」


カイルくんの返答にヒューガさんが満足そうに頷き、2人で孤児院の中に入って行った。


「リオルくん…、魂が不安定ってどういうこと?」

ヒューガさんの言葉が引っかかり聞いた。
アレンも深刻そうに頷く。


彼自身も困惑したように答える。

「……正直、僕にもわからないです。
ただ、なんというか、身体がふわふわしてて自分の物じゃないような感覚はあります。」

彼の言葉にアレンが息をのんだ。

「何があった?」
アレンがリオルくんに聞く。

リオルくんは、記憶を探るように目を閉じて話し出した。

「たしか…あの女が動けないカイルに向かって黒い靄を放ったんです。
それで、咄嗟にカイルを突き飛ばして…。
黒い靄が身体に当たった途端、色んな感情が流れて来て……。」

彼は、その時を思い出しながら肩を震わせる。

感情が流れ込んでくる…。
それには、俺もアレンも心当たりがあった。

負の感情がとめどなく押し寄せてくるのだ。

怖い、痛い、辛い、寂しい、悲しい…。

正直二度と経験したくない。

「あぁ、俺もあの攻撃を食らったからわかる…。
体の芯が冷えていくような、最悪な気分だった…。」

アレンが今は綺麗に治っている右手を見ながら呟いた。

「はい…。
僕は、あれに完全に呑まれて取り込まれました…。
気づいたら、靄の中に居て、身体が少しづつ靄に溶けて行くような……。

もう、何も考えられなくなった時に突然、上から眩しい光が指してきて、周りの靄を消したんです。

それから身体の中に暖かいものが流れて来て……。

声がしたんです。」

話している最中は、震えていたリオルくんの顔が和らぐ。

「声?」

聞き返した俺に彼が笑う。

「はい。ヒューガさんがこっちに戻れ!って叫んでました。
それで目を開けたら、ヒューガさんに抱き上げられてて……。」

その時を思い出したのか、彼は嬉しそうな、恥ずかしそうな顔をした。

「そうか…。
やっぱり、詳しいことは、ヒューガに聞かないとわからないな。
目の色が変わった理由も……。」

アレンがリオルくんの紺色の瞳を見ながら呟く。

「あの…アレン様、瞳の色が変わることなんてあるんでしょうか?」


「わからん…。
無い訳では無いんだろう。
実際、リオルだって変わったし、カイルだって魔眼の色は違うだろう?
ただ、瞳の色は、魂の色とも言われている。
それが何かしらリオルの状態に関係しているのは間違い無いだろうが……。」

「そうですか……。」

アレンの言葉にリオルくんが俯いた。


その時、アレンの元に1羽の鳥が舞い降りる。

あ、あれって、ヴェインさんの魔法?

アレンが鳥に触れると鳥が話し始めた。

「アレン、緊急事態だ。
アイリーンが居なくなった。
今、ラインハルトと手分けをしながら探している。
そちらでも探して見てほしい。」


その言葉に、その場に居た一同に衝撃が走る。

「ラインハルトの妹が居なくなった?
なんで?意識が戻らなかったんじゃ?」

予想外の報告に胸騒ぎがした。

「アレンさん、大変だ!
指輪が見つからない!」

孤児院の中から、慌てた様子でヒューガさんとカイルくんが飛び出してきた。

「アレン様、アイリーン様が危ないかもしれないです!」

ヒューガさんに続いてカイルくんが叫ぶ。

「どういうことだ!?」

こちらに駆け寄って来た2人にアレンが焦りながら聞く。


「カイルがあの指輪の気配を探った結果、もうこの場には無かった。」

ヒューガさんが、息を整えながら説明してくれる。

「それと、アイリーンがなんの関係がある?」
アレンがヒューガさんに説明を促す。

「呪具の中には、穢れ負わせた対象に取り付くものがある。
普通は、あれだけの密度の濃い穢れを受けたらリオルの様に生死の境を彷徨うはずだ。
だが、ラインハルトの妹は、襲撃を受けて意識が戻らない状態だった。」


それってつまり……?

「あの呪具は、ラインハルトの妹をわざと殺さなかったんだ。
もし、そのスペンサー家の女がやられた時の予備の身体として使うために…。」

ヒューガさんが悔しそうに言う。

「指輪の気配は、ソランジール家の方へと向かって居ました。
急いでラインハルト様に知らせないと!」

カイルくんがヒューガさんの言葉に続けた。


「……今、ヴェインからアイリーンが居なくなったと連絡が来た。」


ヒューガさんは、「遅かったか…。」と暗い顔で漏らす。

「急いでラインハルト達と合流しよう。」

アレンの言葉にリオルくんが反応した。

「僕も行きま「ダメだ!」」


ヒューガさんが、リオルくんの言葉を遮る。

「ヒューガさん!」
リオルくんが悔しそう彼の名前を呼んだ。

「リオル、良く聞け。
お前は、1度死にかけた。
魂を穢れに飲み込まれたんだ。
今は、俺が魂を分け与えたから何とか生きている。
だが、まだ安定していない。
今、無理して動けば今度こそ助けられない…。」

「……え?魂を分けた?
それって…どういう…?」

リオルくんがヒューガさんの言葉に固まった。

「アレンさん、ここに結界を張れるか?
俺ではここ全体を覆うには力が足らない…。」


「あぁ…。」
ヒューガさんに頼まれて、アレンは直ぐに孤児院を囲む結界を作り出す。

「リオル、すまない、今は説明している時間がない。
後で説明する。
カイル、指輪の気配を追え。
アレンさんは、ヴェインさんに連絡を。」


暗い表情のリオルくんを気にしながらもヒューガさんはカイルくんとアレンに指示をだす。


俺はどうするべきだろうか?



「トオル、お前には力を貸してほしい。
俺では、ラインハルトの妹を無事に救うことは難しい。」

ヒューガさんは、俺を見据えながら悔しそうに言う。

「俺にも出来ることがあるの?」

ラインハルトは俺の大事な親友だ。
俺に出来ることがあるならなんだってする。

「あぁ、トオルにしか出来ない。
あの指輪を祓え。お前の魔法なら出来る。」


俺にしか出来ないこと……。

「わかった…。」
覚悟を決めてヒューガさんに返事をした。

絶対にアイリーンちゃんを無事に救うんだ…。














しおりを挟む
Twitterをはじめました!よろしければフォローをお願い致します。https://twitter.com/arrow677995771
感想 140

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 設定ゆるめ、造語、出産描写あり。幕開け(前置き)長め。第21話に登場人物紹介を載せましたので、ご参考ください。 ★お試し読みは、第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?

名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。 そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________ ※ ・非王道気味 ・固定カプ予定は無い ・悲しい過去🐜のたまにシリアス ・話の流れが遅い

無名の三流テイマーは王都のはずれでのんびり暮らす~でも、国家の要職に就く弟子たちがなぜか頼ってきます~

鈴木竜一
ファンタジー
※本作の書籍化が決定いたしました!  詳細は近況ボードに載せていきます! 「もうおまえたちに教えることは何もない――いや、マジで!」 特にこれといった功績を挙げず、ダラダラと冒険者生活を続けてきた無名冒険者兼テイマーのバーツ。今日も危険とは無縁の安全な採集クエストをこなして飯代を稼げたことを喜ぶ彼の前に、自分を「師匠」と呼ぶ若い女性・ノエリ―が現れる。弟子をとった記憶のないバーツだったが、十年ほど前に当時惚れていた女性にいいところを見せようと、彼女が運営する施設の子どもたちにテイマーとしての心得を説いたことを思い出す。ノエリ―はその時にいた子どものひとりだったのだ。彼女曰く、師匠であるバーツの教えを守って修行を続けた結果、あの時の弟子たちはみんな国にとって欠かせない重要な役職に就いて繁栄に貢献しているという。すべては師匠であるバーツのおかげだと信じるノエリ―は、彼に王都へと移り住んでもらい、その教えを広めてほしいとお願いに来たのだ。 しかし、自身をただのしがない無名の三流冒険者だと思っているバーツは、そんな指導力はないと語る――が、そう思っているのは本人のみで、実はバーツはテイマーとしてだけでなく、【育成者】としてもとんでもない資質を持っていた。 バーツはノエリ―に押し切られる形で王都へと出向くことになるのだが、そこで立派に成長した弟子たちと再会。さらに、かつてテイムしていたが、諸事情で契約を解除した魔獣たちも、いつかバーツに再会することを夢見て自主的に鍛錬を続けており、気がつけばSランクを越える神獣へと進化していて―― こうして、無名のテイマー・バーツは慕ってくれる可愛い弟子や懐いている神獣たちとともにさまざまな国家絡みのトラブルを解決していき、気づけば国家の重要ポストの候補にまで名を連ねるが、当人は「勘弁してくれ」と困惑気味。そんなバーツは今日も王都のはずれにある運河のほとりに建てられた小屋を拠点に畑をしたり釣りをしたり、今日ものんびり暮らしつつ、弟子たちからの依頼をこなすのだった。

異世界で騎士団寮長になりまして

円山ゆに
BL
⭐︎ 書籍発売‼︎2023年1月16日頃から順次出荷予定⭐︎溺愛系異世界ファンタジーB L⭐︎ 天涯孤独の20歳、蒼太(そうた)は大の貧乏で節約の鬼。ある日、転がる500円玉を追いかけて迷い込んだ先は異世界・ライン王国だった。 王立第二騎士団団長レオナードと副団長のリアに助けられた蒼太は、彼らの提案で騎士団寮の寮長として雇われることに。 異世界で一から節約生活をしようと意気込む蒼太だったが、なんと寮長は騎士団団長と婚姻関係を結ぶ決まりがあるという。さらにレオナードとリアは同じ一人を生涯の伴侶とする契りを結んでいた。 「つ、つまり僕は二人と結婚するってこと?」 「「そういうこと」」 グイグイ迫ってくる二人のイケメン騎士に振り回されながらも寮長の仕事をこなす蒼太だったが、次第に二人に惹かれていく。 一方、王国の首都では不穏な空気が流れていた。 やがて明かされる寮長のもう一つの役割と、蒼太が異世界にきた理由とは。 二人の騎士に溺愛される節約男子の異世界ファンタジーB Lです!

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。

猫宮乾
BL
 異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。

処理中です...