料理人は騎士団長に食べさせたい

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「トオル……。」

俺の言葉にアレンが脱力したように呟く。

「あ、いや、ごめん…。」
カイルくんは、俺を護る為にこんな姿になってしまったのに不謹慎だったよな…。


「いや、まぁ、正直、俺も可愛いとは思ったからな…。」

アレンが苦笑いしながら言う。

ヒューガさんは、俺達を見て呆れたような目をした。

「んっ……ヒューガさん?」

俺達が騒いだせいか、カイルくんが起きてしまった。

ヒューガさんからは、また冷たい目を向けられた。

「カイル、わかるか?
身体に異変はないか?」

ヒューガさんがカイルくんを気遣いながら聞いた。

「はい…。身体が重たいですけど違和感は……。
あれ?なんか、いつもより感覚が鋭いような?」

彼が喋る度に頭の耳がぴょこぴょこ動いている。

「やはり、本物の耳か…。」
ヒューガさんが呟く。


「耳?なんの事です?」
カイルくんが首を傾げながら自分の耳を触る。

「カイル…。その…。
とりあえずこれを見ろ。」
ヒューガさんは、いい淀みながら胸元から1枚の札を取り出す。

「来たれ、有るべき姿を写す水鏡。」
彼が札に向かって呟くと御札が宙に浮く水溜まりに変わる。

それは、鏡の様にカイルくんを写す。

「え!?なんですか?これ!?」
カイルくんは、鏡に写った自分を見てパニックになりながら自分の頭を触った。

「髪が……それに耳?なんで?」
そして、違和感に気づいたのか自分のおしりにも触る。

「尻尾まで?」


自分の状況を理解したのか、酷く落ち込んだ。。
その感情を現すように彼の耳が垂れ下がっていく。


「アレン……。」

アレンの方を見る。
彼もきっと同じことを考えている気がした。

「あぁ。「可愛い…。」」

2人で声を合わせて呟いた。

ほとんど声に出していなかったにも関わらずカイルくんがこちらを見て顔を真っ赤にする。

「2人とも辞めてくださいよぉ…。」

そう言いながら顔を手で隠してしまった…。

「カイルくん、ごめん……。」

「カイル、すまん……。」

ヒューガさんからの更に冷たい視線を受けながら彼に謝る。


「あ、カイルお兄ちゃん!起きた!」

さっきまで遠目に見ていたアンリちゃんがカイルくんに向かって駆け寄り抱きつく。

「こら、アンリ!カイルはまだ安静にしてないとダメなのよ?」

ラーニャさんがアンリちゃんに駆け寄り、引き離そうとする。

だが、カイルくんがそれを止めた。

「アンリ?無事だったんだね?
怪我はない?
ラーニャ先生、大丈夫ですよ。」

「うん!トオルお兄ちゃんがね、凄かったんだよ!」


「2人とも無事でよかった……。
トオルさんが?」
アンリちゃんの言葉に安心しながらも俺の方を向いた。

「うん!大きな大きな盾を出してね、アンリとラーニャ先生を護ってくれたの!」

「トオルさん…。魔法使いました?」

さっきまでの可愛い表情は何処へやら、まるでヴェインさんが怒るときのような表情を見せる。

「あ、えっと、その…ごめんなさい…。
何かが壁を突き破ってきて…。
咄嗟に……。」

俺の言葉を聞いてカイルくんは今度は顔を青くした。

「まさか…。
トオルさん……。すみませんでした……。
僕の力が足らなかったばっかりに危険な目に…。
アンリとラーニャ先生を護ってくれてありがとうございました。」

「いや、俺の方こそ、ごめん…。
それに護ってくれてありがとう…。」


「なぁ、カイル、そろそろ良いか?」

俺たちの会話を眺めていたヒューガさんが咳払いをしながらカイルくんに話しかける。

「あ、すみません…。」

真剣な話をするとわかり、ラーニャさんとがアンリちゃんを引き離した。

「そうなった原因は?」

ヒューガさんが、カイルくんに聞く。

「……おそらく、無理に力を使った反動かと……。」


「力の反動か…。お前、神憑きだな?」


神憑き?
ヒューガさんの聞きなれない言葉にその場に居た一同が首を傾げた。

「神憑きってなんですか?」
カイルくんが聞き返す。

「あぁ、そうか。この国だと神はほとんど居なかったな。
神憑きは、神に愛され加護を受けたものだ。
そこの2人が守護竜に加護を受けてるみたいなものだな。
俺の居た国では、巫女とも言われていたが…。」

ヒューガさんが俺とアレンを見ながら言う。

あ、巫女なら分かるかも…。

小説とかゲームで良く出てきたし…。

「多分そうだと思います。
神狼アセナって言ってました…。」

カイルくんが呟く。

「そうか。では俺にはやはり手に負えないな…。
おそらく、その神狼を身体に憑依させた事で力を貰いすぎたんだろう…。」


「え?じゃあ、ずっとこのままなんでしょうか?」

カイルくんが落ち込んだように言う。

「わからん。おそらくだが、慣れてない身体に力を借りたことで一時的に神狼の力が溢れてるだけだ。
2~3日もしたら治るんじゃないか?
特に異常もないならそのままでも構わないだろ…。」


ヒューガさんの言葉にさらに気を落とす。

「カイルお兄ちゃん、可愛いよ?」

いつの間にかラーニャさんの拘束から抜け出したアンリちゃんが、カイルに近づき元気付けるように頭を撫でた。

「……アンリ。」


その様子を見ながらさっき、アンリちゃんに頭を撫でられたことを思い出して俺も凹んだ。


純粋な心な分、余計にダメージが来るんだよな…。


「ん……カイル……。」

隣に寝ていたリオルくんが起きたようだ。

「リオル兄さん、大丈夫ですか?」

カイルくんが心配そうに聞いた。

「あぁ、大丈夫だ…。
カイルも無事そうで良かったよ…。」

リオルくんは、身体を起こして辺りを見渡すとヒューガさんを見つけて何故か顔を真っ赤にした。

「リオルくん、大丈夫?
護ってくれてありがとう……。」
彼に駆け寄りお礼を言う。

彼も、俺を見て胸を撫で下ろした。

「トオルさん…。無事でよかったです。」

……あれ?

「リオルくん、目が……。」

彼の顔を覗き込むと違和感があった。
元々、髪と同じで鮮やかな水色だったリオルくんの瞳が片方だけ紺色に変わっていた。

カイルくんも気づいたのか、驚いた顔をしている。

「目?目がどうしたんですか?」

リオルくんが俺とカイルくんを交互に見ながらキョトンとした顔で聞き返す。


「リオル兄さん、片目だけ瞳の色が紺色になってて……。
そうですね、ちょうどヒューガさんと同じ色で……。」

そこまでカイルくんが呟いたとき、ヒューガさんが咳払いをする。

リオルくんは、何故かまた真っ赤なりながら顔を伏せてしまった。


え?なに?どうしたの?


カイルくんが小さな声で呟く。

「春ですね……。」

え?今って冬じゃ……。


話を逸らすようにヒューガさんが咳払いををする。

「それよりも、アレンさん。
後回しにしてすまなかった。」

彼は、アレンに話しかけながらまた1枚札をだす。

「我、願い奉る。癒し給え。」

短く呪文を唱え、札に息をふきかけアレンの右手に投げつけた。

御札は、暖かい光となってアレンの右手に降り注いだ。

そして、瞬く間にアレンの火傷が治って行く。

「凄い……。」

ついつい言葉が漏れていた。
カイルくんとリオルくんも驚きの声を漏らす。

「ヒューガ、助かる。
お前は、相変わらず、意味がわからない魔法ばかり使うな……。」

アレンが治った右手を握ったり開いたりしながら不思議そうに言う。


アレンの言葉に、カイルくんやリオルくん、ラーニャさんまでもが頷いていた。


「俺からしたらこの国の魔法の方がよく分からない…。」


ヒューガさんが、肩を竦めながらそんなことを呟いていた。


ヒューガさんの魔法って、色々なことが出来て本当に万能なんだな…。

ラインハルトと一緒で、一家に1人欲しいよ…。
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