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本編

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「トオル、大丈夫か?」

アレンがこちらに駆け寄り、思いっきり抱きしめてくれた。

久しぶりの彼の体温を感じて、張り詰めていた緊張の糸が切れたように涙が溢れた。

「アレン……。会いたかった…。」

「俺もだ……。」

彼は優しい顔で呟きながら俺にキスをする。

「あ、待って!先に手を治さないと!」
彼のキスを静止し、手を掴む。

「先にキスがしたいんだが?」
俺の静止を不服そうにしながらアレンが言う。

彼の言葉を一旦無視して手の火傷に集中した。

俺だってキスしたいんだ…。
でも、アレンが辛そうにしてる方が嫌だ…。

彼の火傷が癒えるようにイメージしながら魔法を使う。

……あれ?治らない?

「あ、魔力が……。」

魔力がほぼ無いことを忘れていた。

「魔力が足らないのか?
なら、やっぱりキスが先だな?」
アレンは、嬉しそうに笑いながら顔を近づけてきた。

そう言えば、1度魔力が尽きたはずだよな?
なのになんで?
今は、少ないながらも自分の中に魔力が感じられた。

そんなことを考えている間にアレンに唇を奪われる。

さらに、彼の舌が中に侵入してきた。

観念して彼のキスに応える。


あ、アレンから暖かい物が流れ込んでくる。
もしかして、これってアレンの魔力?

舌を絡め合いながら彼の身体に抱きついた。

「んっ……アレン…あのね……。」

息が苦しくなったタイミングで口を離し、彼に話しかける。

「なんだ?」
彼は、まだ足りないと口を曲げながら聞き返す。

「俺、もしかしたら魔力を自分で作れない体質なのかもしれないって…。」

「…?どういうことだ?
トオルは、魔力を持ってるし、魔法も使うじゃないか?」

彼は俺の言葉に首を傾げた。

「うん。
まだ、確定では無いんだけど…。
ヴェインが言うには、アレンから魔力を貰ってるんじゃないかって…。」

カイルくんからヴェインさんが聞いた話をアレンに話す。
一通り説明をすると、アレンが納得したように頷く。


「あぁ、前にヴェインが体液には魔力が宿っているって言ってたな…。
それを通してトオルへ俺の魔力が流れてるなら確かに納得ではある。」

体液に魔力がか…。

「でも、アレンに抱きついて触れてるだけでも魔力が流れて来てる気はするよ?」

さっきからアレンの肌に直接触れてるところからも暖かい力が流れてきていた。

今まで気づかなかったのは、俺の魔力がここまで減ることが無かったからなのかもしれない。

「そうなのか?
でも、キスをした方が効率は良さそうだよな?」

アレンは、嬉しいそうに笑うとまたキスを再開した。

「んっ……。」

確かにキスした方がたくさん流れて来ている気はした。

でも、明らかにアレンは魔力を渡したいと言う訳じゃなくて、キスがしたいと言う感じだった。

いや、俺もしたいからいいんだけど……。

しかし、久しぶりの彼の体温と匂い、さらにキスでもたらされる快感のせいで気分になって来てしまう。

「ん…、待って…。アレン…。これ以上は俺……。」

火照った身体を彼に預けるように呟く。

「トオル……。
ちょっと今すぐにそこら辺の部屋に……。」

彼は俺を抱え上げると、荒れていない部屋を探し始める。


「ダメに決まってるでしょうが!」
今の状況を思い出して急いでアレンを思いとどませる。

孤児院でそんなこと出来るか!!

そんなことをしてしまったら罪悪感で2度孤児院に来れそうもない……。

俺に怒られて、落ち込むアレンの耳元に向かって呟いた。

「その…帰ったら…少しなら……。」

俺の言葉に彼は一気に明るくなりながら抱えている手の力を強くする。

「トオル……愛してる……。」

「お…俺も……。
それよりも、なんでアレンがここに?
それに、カイルくんとリオルくんは?」

恥ずかしさを振り払うようアレンに今の状況を聞いた。

そもそも、なんでアレンがここに居るんだ?
サザンカンフォードへ行ってあと1週間は戻らないはずじゃ?


「カイルは無事だ。
……リオルもきっと大丈夫だ。
ヒューガに任せてきた。」

「ヒューガも来てるの?」

彼の名を聞いて驚く。
そして、リオルくんに何かあったのだと悟った。

俺の不安そうな顔にアレンがキスを落とした。

「あぁ、あいつは今まで任務を失敗したことが無い。
ヒューガに任せておけば大丈夫なはずだ。
とりあえず、1度、皆と合流しよう。」

アレンがそこまで言うなら大丈夫だ。
そう信じる……。

彼は、俺を抱えたまま、外へ向う為に歩き出す。

「孤児院の皆は?」

皆が無事か気がかりだった。
特に、ラーニャさんと、アンリちゃんは無事だろうか?

「皆は、マーサ様達は最終結界の部屋だな?
あそこは、俺では連絡出来ない。
ヴェインかラインハルトに頼むしかないな…。
脅威が去ったと中に知らせる事が出来ればマーサ様が結界を解けるはずだ。」

「ラーニャさんと、アンリちゃんは?」

俺の言葉にアレンが思い出したように付け足した。

「あぁ、あの2人ならここへ来る前に会った。
2人とも無事だ。
敵の気配は、ここ以外には無かったからヒューガ達と合流するように伝えてある。」

そっか…。

2人とも無事だったのか……。

本当によかった…。

「ラインハルトの妹は?」


「すまない。それはわからない。
だが、ヴェインが向こうに向かってる。
きっと大丈夫なはずだ……。」
彼は、申し訳無さそうに首を振る。

でも、ヴェインさんが行ったなら何かあれば直ぐに連絡があるはずだ。


しばらくアレンの話を聞きながら外へ向かった。

サザンカンフォードの国王の話や、王子の魔法のおかげで早く戻って来られたことを聞いた。

「そっか……。
王様が呪いを……。」

「あぁ、あと2週間も猶予が無いだろう。
何とか、呪いをとく方法を探さないと…。」

呪い…。
さっきのスペンサー家の令嬢に取り付いたなにかは、自分のことを「呪い」と言っていた。

さらに、白魔法によって封印されたと…。

この国に対する恨みを晴らすとも言ってたっけ?

何だかわからないことや、問題が山積みだった。

俺には一体なにが出来るんだろうか?

それにあの盾を出した力は何だったんだろう……。
白魔法を使った時とは全く違う力だと言うことだけはわかっていた……。





外に出てみると、夜のように暗かった空は元の晴れ渡った空に戻っていた。

明るい日差しがまるで危険は去ったと教えてくれているようだ。

「トオルさん!」

「トオルお兄ちゃん!」

外に出た俺の顔を見るなり、ラーニャさんとアンリちゃんが泣きそうな顔で駆け寄って来た。

アレンに下ろして貰い2人の様子をみる。
よかった…。
どこも怪我が無いみたいだ。

「2人とも無事でよかった……。
リオルくんとカイルくんは!?」

ラーニャさんに聞く。
彼女は、泣きながら教えてくれた。

「リオルもカイルも一応無事です。
2人とも酷い怪我をしてましたが、ヒューガさんが治療してくれてます。
ただ…カイルが……。」

え?カイルくんが?

彼女の言葉に取り乱しながら2人を探した。
少し離れたところでヒューガさんの治療を受けている2人を見つけた。

急いで駆け寄る。

「ヒューガ!」

俺の声に気づいてヒューガさんがこちらを向く。

「トオル…無事か?」

「うん、俺はアレンが助けてくれたから…。
2人の容態は?」

ヒューガさんは、少し顔を顰めながら答えた。

「リオルは無事だ。一時は危なかったが今は安定している。
それよりも、問題はカイルだな…。」

そう言いながら彼は視線でカイルくんの方向へ俺を誘導した。

リオルくんとカイルくんが並んで寝かされていた。

「え?カイルくん……?」
目に飛び込んできた光景に思わず2度見する。

すやすやと息をしながら眠っているリオルくんは何処にも問題は無さそうに見えた。

カイルくんにも怪我は無かった。
ただ、1点を除いては……。

「ヒューガこれは一体……?」

「静かに2人が起きる。」
ヒューガさんが声を潜めながら諌めてくる。

「あ、ごめんなさい…。
でも……。」

「俺にもわからない。
俺の力では治せなかった…。」

ヒューガさんが悔しそうに呟く。

カイルくんの髪が腰くらいまで伸びていた。
更に、頭には犬のような三角の耳が生え、尻尾まである。

これは……。

いつの間にか隣に来ていたアレンが話しかけてくる。

「トオル…。」
おそらく、俺を気遣ったのだろう。
後ろから抱きしめてくれた。

「アレン…どうしよう…。
カイルくんが…カイルくんが…。

滅茶苦茶可愛くなってる……。」


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