料理人は騎士団長に食べさせたい

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本編

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扉が閉まり、その場に泣きながら崩れ落ちた。

「トオルさん、行きましょう……。」

マーサ様は何も応えられない俺を無理矢理引っ張るように孤児院の中を進んだ。


「何処に行くんですか?」

しばらく孤児院の中を歩き、少しずつ落ち着きを取り戻した俺は、マーサ様に聞いた。

どうやら地下に向かって居るようだった。

「孤児院には3つの結界があります。
1つ目は先程破られた門の結界。
2つ目は先程発動させた建物を護る結界。
そして今から向かう先にあるのが、最終結界です。」

最終結界……。
言葉通りその結界がこの孤児院の最後の砦なんだろう…。


「マーサ様……。
俺のせいで……。
なんてお詫びしたらいいか……。」

俺の前を歩く怯えた様子の子供達を見て、カイルくんとリオルくんのことばかり考えて、周りが見えていなかった自分が恥ずかしく思えた。

もちろん、2人は心配だった。
でも、この状況を引き起こしたのは他でもない俺だ。

素直に騎士団の宿舎に送って貰っていたら……。

ラインハルトを説得して宿舎に自分で帰っていたら……。

関係ない子供達や、マーサ様達を巻き込むことは無かったのに…。


「トオルさん、貴方が謝ることでは無いですよ。
悪いのは、貴方では無く、逆恨みで貴方を襲ってきたスペンサー家の令嬢です。」

「でも……。」

「リオルとカイルが心配なら、貴方が無事で居て、帰って来た時にお礼を言ってあげてください。
それにきっとすぐに、ヴェインが騎士団から助けを送ってくれるはずです。
だから……。」

マーサ様は慈愛に満ちた顔で俺の頭を撫でてくれた。

「だから、どうか自分を責めないでください。
リオルやカイルにとっても、もちろん私にとっても貴方は大事な存在なのですから……。」

俺を労るような優しい手は、紛れもなく母親の様だった。

マーサ様は俺のことも皆と同じように自分の子供の様に思ってくれている。

今日初めて出会ったのに不思議だった。

「マーサ様…。どうしてそこまで…。」

「貴方は、アレンやヴェインを変えてくれた。
ラインハルト様やカイルだって、貴方の存在があったから過去に囚われず、今を生きているのでしょう?
トオルさん、大切な子供達の力になってくれてありがとうございます。

アレンを、あの子を愛してくれて、あの子に愛情を教えてくれてありがとう…。」

色々な感情が篭った言葉だった。

マーサ様はアレンが騎士団に入ってからもずっと心配していたんだ。

彼女の心に触れて自然と涙が流れた。

「マーサ様……。ありがとうございます……。」

涙を拭いながら彼女に俺を言った。
俺の大切な人をずっと見守ってくれていた彼女にお礼が言いたかった。

「あらあら、今日はトオルさん泣いてばかりですね…。
きっと皆、貴方の笑顔が大好きなんですよ。
だから、笑ってください!」

確かに今日は、色んなことがあり過ぎて泣いてばかりだ。

マーサ様の子供をあやす様な言葉に笑みが溢れた。

「はい…!」

涙を拭いながら笑顔を作る。

今は笑って居よう。
そして、カイルくんとリオルくんも笑顔で迎えるんだ!

そして、いっぱい抱きしめて沢山お礼を言おう。

だから、2人ともどうか無事に帰って来て…。





しばらく地下への階段を進むと小さな部屋にたどり着いた。

中央に大きな魔法陣が描かれたその部屋は倉庫の様だった。

「ここは?」


「ここには孤児院で1番強い結界があります。
第2結界が破られると自動的に結界が発動する仕組みになって居るんです。
しばらくの食料もあるのでここで助けを待つのです。」


マーサ様が教えてくれた。

彼女の話を聞いていると1人の女の子が声をあげた。

「大変です!アンリが…。アンリが居ません!」

そこの声を聞いて、マーサ様とシスター達が取り乱す。

「なんですって!?
誰か、アンリがどこに行ったか知ってる子は居ませんか?」

マーサ様は子供達に声を掛ける。

皆、首を横に振りながら不安そうにしていた。

「あ、あの…。」
1人の男の子が遠慮がちに手を挙げた。

「ハルト?アンリがどこに行ったか心辺りがあるの?」

彼は少し内気な性格なのか、マーサ様の言葉に怯えながら答えた。

「マーサ様…。
アンリ姉さんが、久しぶりにカイル兄さんに会えたからって…。
見せたいものがあるから部屋に戻るって言ってて……。」

「では、アンリはまだ部屋に!?」

ハルトくんの話を聞いて青ざめたシスター達とマーサ様は集まって話合い始めた。

シスターの1人が泣きそうな顔でマーサ様に話し始める。

「マーサ様、申し訳ありません…。
外で遊んでいる時間だったのでてっきり皆外に居るものだとばかり思い込んでいて……。」

彼女は、ちゃんと確認しなかった自分を責めながらマーサ様に頭を下げた。

「ラーニャ、貴方だけが悪いわけでは無いわ。
顔をあげて?
私が気が動転していて、ちゃんと全員居るか確認をする時間を取らなかったのが悪いの……。」

マーサ様は後悔したように顔を顰めた。


俺のせいだ……。
俺がわがままを言ってマーサ様の手を煩わせたから……。

「マーサ様!俺が、アンリちゃんを探しに行きます。
行かせてください!」

今にも部屋から飛び出して行こうとするマーサ様に声をかけた。

マーサ様は長い階段を降りてきて、疲れた顔をしている。

なら、元気な俺が行ったほうがアンリちゃんを早く見つけらるはずだ。

「トオルさん……。しかし、貴方は孤児院に来るのは初めてでしょう?」

マーサ様の言葉はもっともだった。

正直どこがアンリちゃんの部屋か分からない……。

「でしたら、私がトオルさんと行きます。」

ラーニャさんがマーサ様に言う。

「私1人ではアンリを抱えて走ることは出来ません。
でも、男性のトオルさんと一緒なら……。」

マーサ様は少し顔を伏せて考えた。

「わかりました。トオルさん、ラーニャ、アンリをよろしくお願いします。
必ず、3人とも無事に戻って来るのよ?」

「「はい!」」

2人でマーサ様に返事をして部屋から飛び出して階段を駆け上がった。

アンリちゃん待ってて……。
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