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本編
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※カイル視点
♦♦♦♦♦
「あら、残念……。
もう少しで貴方のことを殺せたのに……。
でも、良いわ。
そっちの結界も壊れたようだしもう此処には要はないもの…。」
襲撃者の女性は、興味を無くしたように僕達を冷たい目で一瞥すると姿を消した。
「リオル兄さん…?」
重く動かない身体を無理矢理引きずりながら彼の元へ向かう。
「ねぇ、兄さん、返事してよ…。」
いつもは、優しく笑いながら僕の名前を呼んでくれた口は硬く閉じられていた。
「ねぇ、兄さん、嫌だよ…。
返事してよ……。」
涙で視界が歪む。
必死に辿り着いた彼の身体を抱きしめる。
黒い靄が僕にも纏わりつき始めるが気にしなかった。
黒い靄からは、いろいろな負の感情が流れ込んでくる。
怖い…辛い…痛い…苦しい……でも、兄さんを離したくない…。
不意に僕と兄さんのいる場所に2つの影が落ちた。
「すまない…遅くなった……。
ヒューガ、ここは任せる。
2人を絶対に死なせるな…。」
少し息を整えながらヒューガさんに指示を出した彼は、僕の頭を撫で、「良く頑張った後は任せろ」と呟いた後、そのまま目にも止まらぬ速さで孤児院の中に駆けて行った。
「…え?どうしてここに……?」
「カイル、手を離せ。
お前まで飲まれるぞ……。」
残ったヒューガさんは、僕の言葉に答えることなく話しかけて来る。
「嫌です……。」
ヒューガさんの言葉を無視して、さらにリオル兄さんの身体を抱きしめた。
「そうか…。」
ヒューガさんは、無理矢理、僕達を引き離した。
「その様子ならカイルは、まだ大丈夫だな。」
彼は、そう呟くとリオル兄さんに向き直る。
「穢れか……。」
リオル兄さんに纏わりつく黒い靄を見ながらヒューガさんは険しい表情になり、胸元から何枚かの紙を取り出した。
「我、願い乞う。悪しき穢れを祓い清めん。」
紙を口元に当てながら呟くように詠唱をし、その紙をリオル兄さんに投げつける。
紙がリオル兄さんの身体に触れる、と黒い靄がその紙に吸われて行く。
「くっ…足らない……。」
ヒューガさんは、悔しそうに呟くと更に胸元から紙を何枚も取り出し、もう一度繰り返した。
2度繰り返す頃には、リオル兄さんに纏わり着いていた靄は跡形もなく綺麗に無くなる。
しかし、リオル兄さんは相変わらずピクリともしなかった。
息をする動きすらない……。
また、視界が歪んでいく。
「まだだ。こいつには借りがある。
絶対死なせない……。」
泣きそうな僕を見ながらヒューガさんが言った。
「借り?」
ヒューガさんがリオル兄さんへ借りがあるなんて…。
「そうだ。美味い飯を作って貰った。
だから、その借りは今返す。」
彼は、この深刻な状況でそう言った。
他の人なら怒りたくなってしまうだろうけど、あのヒューガさんが言ったんだ。
この人なら信じられる。
彼は、その場に石で魔法陣を描き始める。
それは、この国の文字では無く、どのような効果があるものなのか僕には見当も付かなかった。
「ヒューガさん、何を?」
「俺の命をリオルに分ける。」
なんてことも無いように彼は言った。
「え?命を?」
「リオルは、まだ川を渡ってない。
俺の命を少し分けて呼び戻す。」
川ってなんだろう?
それに命を分けるなんて……。
彼はリオル兄さんを抱き上げると、完成した魔法陣の中央に乗せた。
そして、胸元から蛇腹に折り畳まれた紙の束を2つ取り出す。
その紙束を広げると魔力を練り上げながら呟いた。
「今より、魂魄譲渡と黄泉返しの儀を行なわん。」
魔法陣が彼の言葉と魔力を受けて輝き出す。
ヒューガさんが紙束に書かれている文字を1文字、1文字、丁寧に読み上げていく。
魔眼で見ると、読み上げる度に練り上げられて行く魔力が強くなって行くのがわかった。
そして、1枚目の紙束を唱え終わるとヒューガさんの身体が輝き出す。
さらに、そのまま彼はリオル兄さんの唇に口付けをした。
「へぇ!?ヒュ、ヒューガさん!?
な、な、何を…!?」
僕の声を無視しながらヒューガさんはリオル兄さんの中に何かを吹き込むように息を吹いた。
彼の中から魔力とはまた違う、清く力強い物がリオル兄さんの中に流れていく。
さっきまで血の気が無かった兄さんの顔に生気が戻っていった。
「兄さん……。」
視界が歪む。
「まだだ。」
安心したように出た言葉を口付けを離したヒューガさんが短く否定した。
そしてさらに2枚目の紙束を唱え始める。
先程よりも強く魔力が練り上げられて行くのがわかった。
「黄泉に旅立ちしこの者を、今此処に呼び戻さん!」
最後の1文をヒューガさんが強く読み上げた。
そして、魔法陣がさらに光り輝き、天から一筋の光が魔法陣に降り注ぐ。
その直後、リオル兄さんが息を吹き返し、むせるように息を大きく吸っていた。
その様子に、ヒューガさんは、安心したようにほくそ笑む。
「お前には、まだ沢山飯を作って貰わないといけない。
こんなところで死なれたら困る。」
「え?……ヒューガ……さん?」
状況が理解出来てないリオル兄さんは惚けたように彼に見蕩れながら呟いた。
ヒューガさんは、それを無視し、立ち上がると僕を見た。
「カイル、次はお前の番だな。」
兄さんが息を吹き返した安心感からか、緊張の糸が切れたように視界が黒くなっていく。
あ、ダメだ、意識を保ってられな……。
「全く、お前も無理をしたな。
それにしても、神憑きだったとは……。」
薄れゆく意識の中でヒューガさんの「神憑き」と言う言葉だけが印象的だった。
♦♦♦♦♦
「あら、残念……。
もう少しで貴方のことを殺せたのに……。
でも、良いわ。
そっちの結界も壊れたようだしもう此処には要はないもの…。」
襲撃者の女性は、興味を無くしたように僕達を冷たい目で一瞥すると姿を消した。
「リオル兄さん…?」
重く動かない身体を無理矢理引きずりながら彼の元へ向かう。
「ねぇ、兄さん、返事してよ…。」
いつもは、優しく笑いながら僕の名前を呼んでくれた口は硬く閉じられていた。
「ねぇ、兄さん、嫌だよ…。
返事してよ……。」
涙で視界が歪む。
必死に辿り着いた彼の身体を抱きしめる。
黒い靄が僕にも纏わりつき始めるが気にしなかった。
黒い靄からは、いろいろな負の感情が流れ込んでくる。
怖い…辛い…痛い…苦しい……でも、兄さんを離したくない…。
不意に僕と兄さんのいる場所に2つの影が落ちた。
「すまない…遅くなった……。
ヒューガ、ここは任せる。
2人を絶対に死なせるな…。」
少し息を整えながらヒューガさんに指示を出した彼は、僕の頭を撫で、「良く頑張った後は任せろ」と呟いた後、そのまま目にも止まらぬ速さで孤児院の中に駆けて行った。
「…え?どうしてここに……?」
「カイル、手を離せ。
お前まで飲まれるぞ……。」
残ったヒューガさんは、僕の言葉に答えることなく話しかけて来る。
「嫌です……。」
ヒューガさんの言葉を無視して、さらにリオル兄さんの身体を抱きしめた。
「そうか…。」
ヒューガさんは、無理矢理、僕達を引き離した。
「その様子ならカイルは、まだ大丈夫だな。」
彼は、そう呟くとリオル兄さんに向き直る。
「穢れか……。」
リオル兄さんに纏わりつく黒い靄を見ながらヒューガさんは険しい表情になり、胸元から何枚かの紙を取り出した。
「我、願い乞う。悪しき穢れを祓い清めん。」
紙を口元に当てながら呟くように詠唱をし、その紙をリオル兄さんに投げつける。
紙がリオル兄さんの身体に触れる、と黒い靄がその紙に吸われて行く。
「くっ…足らない……。」
ヒューガさんは、悔しそうに呟くと更に胸元から紙を何枚も取り出し、もう一度繰り返した。
2度繰り返す頃には、リオル兄さんに纏わり着いていた靄は跡形もなく綺麗に無くなる。
しかし、リオル兄さんは相変わらずピクリともしなかった。
息をする動きすらない……。
また、視界が歪んでいく。
「まだだ。こいつには借りがある。
絶対死なせない……。」
泣きそうな僕を見ながらヒューガさんが言った。
「借り?」
ヒューガさんがリオル兄さんへ借りがあるなんて…。
「そうだ。美味い飯を作って貰った。
だから、その借りは今返す。」
彼は、この深刻な状況でそう言った。
他の人なら怒りたくなってしまうだろうけど、あのヒューガさんが言ったんだ。
この人なら信じられる。
彼は、その場に石で魔法陣を描き始める。
それは、この国の文字では無く、どのような効果があるものなのか僕には見当も付かなかった。
「ヒューガさん、何を?」
「俺の命をリオルに分ける。」
なんてことも無いように彼は言った。
「え?命を?」
「リオルは、まだ川を渡ってない。
俺の命を少し分けて呼び戻す。」
川ってなんだろう?
それに命を分けるなんて……。
彼はリオル兄さんを抱き上げると、完成した魔法陣の中央に乗せた。
そして、胸元から蛇腹に折り畳まれた紙の束を2つ取り出す。
その紙束を広げると魔力を練り上げながら呟いた。
「今より、魂魄譲渡と黄泉返しの儀を行なわん。」
魔法陣が彼の言葉と魔力を受けて輝き出す。
ヒューガさんが紙束に書かれている文字を1文字、1文字、丁寧に読み上げていく。
魔眼で見ると、読み上げる度に練り上げられて行く魔力が強くなって行くのがわかった。
そして、1枚目の紙束を唱え終わるとヒューガさんの身体が輝き出す。
さらに、そのまま彼はリオル兄さんの唇に口付けをした。
「へぇ!?ヒュ、ヒューガさん!?
な、な、何を…!?」
僕の声を無視しながらヒューガさんはリオル兄さんの中に何かを吹き込むように息を吹いた。
彼の中から魔力とはまた違う、清く力強い物がリオル兄さんの中に流れていく。
さっきまで血の気が無かった兄さんの顔に生気が戻っていった。
「兄さん……。」
視界が歪む。
「まだだ。」
安心したように出た言葉を口付けを離したヒューガさんが短く否定した。
そしてさらに2枚目の紙束を唱え始める。
先程よりも強く魔力が練り上げられて行くのがわかった。
「黄泉に旅立ちしこの者を、今此処に呼び戻さん!」
最後の1文をヒューガさんが強く読み上げた。
そして、魔法陣がさらに光り輝き、天から一筋の光が魔法陣に降り注ぐ。
その直後、リオル兄さんが息を吹き返し、むせるように息を大きく吸っていた。
その様子に、ヒューガさんは、安心したようにほくそ笑む。
「お前には、まだ沢山飯を作って貰わないといけない。
こんなところで死なれたら困る。」
「え?……ヒューガ……さん?」
状況が理解出来てないリオル兄さんは惚けたように彼に見蕩れながら呟いた。
ヒューガさんは、それを無視し、立ち上がると僕を見た。
「カイル、次はお前の番だな。」
兄さんが息を吹き返した安心感からか、緊張の糸が切れたように視界が黒くなっていく。
あ、ダメだ、意識を保ってられな……。
「全く、お前も無理をしたな。
それにしても、神憑きだったとは……。」
薄れゆく意識の中でヒューガさんの「神憑き」と言う言葉だけが印象的だった。
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