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本編
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※カイル視点
♦♦♦♦♦
1つの頭の目を潰されて苛立った様子の狼は、唸り声をあげながら僕を睨みつけていた。
また奴の身体がぶれる。
来る!
目の前に氷の壁を幾重にも重ねて作り出す。
氷の壁は、いとも容易く砕かれてしまうが、狼の攻撃を避けることは出来た。
もう一度、氷の槍を幾つも作り出し、狼に向かって放つ。
「ふふっ、無駄なことを!」
狼の後ろで笑っている彼女が言う。
「それは、どうでしょう?」
油断しきっている彼女に向かって氷の槍を放った。
彼女は、少し焦ったように取り乱し、氷の槍と自分の間に狼の身体を割り込ませる。
「やっぱり、その狼を創るのに力をたくさん使ったんですね?」
予想通り彼女は、今は動けないようだった。
「ふふっ、生意気な!
だからと言って、お前にこの子は倒せない、そうでしょ?」
確かにその通りだ。
目以外には剣が通らない。
その目すら、1度奇襲をかけてしまっている以上は、警戒されて狙えなくなっている。
対して、こちらは、狼の攻撃を1度でも食らったらお終いの状態だ。
後ろには、リオル兄さんが居るから避けることも難しかった。
せめてもの救いは、彼女が動けないことと、新しい魔物が湧いてこないことだろうか?
でも、騎士団からの応援さえ来ればこっちの勝ちだった。
ヴェイン様やヒューガさんならこんな狼、直ぐに倒せる筈だ。
「その顔、何かまだあるのね?
なら、さっさと殺してしまわないと……。」
彼女は、指輪を撫で、黒い靄を作り出す。
その靄が狼の潰れた目にまとわりつくと元通りになってしまう。
くっ……せっかく潰した目が再生した…。
正直、満身創痍だった。
ここに来てさらに再生するなんて……。
「行きなさい!」
彼女の指示を聞いてまた狼が距離を詰めてくる。
目が慣れたお陰か何とか狼の動きを追うことが出来た。
振りかぶってくる爪を、剣でいなしながら攻撃の直撃を避ける。
それでも避けきれず血が流れた。
お互い一歩も引かず、しばらく膠着した状態が続く。
先に痺れを切らしたのは、狼の方だった。
距離をとると、3つの頭それぞれが息を吸い込み一気に吐き出す。
3つの頭から飛び出したブレスは、それぞれが強大な3つの空気の塊となり僕に押し寄せてくる。
「避けられないでしょ?
後ろには、大事なお兄さんが居るものね?」
最初から兄さんを狙って……。
こんな物を食らったら兄さんはおろか、孤児院の第2結界まで壊されてしまう。
泣け無しの魔力を振り絞り目の前に巨大な氷の壁を張った。
ブレスに直撃され、割られていく壁を割られた端から作り直す。
「はぁぁぁ!」
もっと、もっと魔力を込めろ!
足りないなら、自分の命も込めるんだ!
プツンと自分の中で何かが切れる音がした。
視界が白く染まる。
急に身体が、糸が切れたように動かなくなった。
魔力を込めていた氷の壁が少しずつえぐられていた。
そして、身体が重力に逆らえず前に倒れていく。
冷たい地面の感触と鈍い痛みを感じ、そのまま意識が飛んだ。
(カイル……カイル……。)
誰かに呼ばれている。
(カイル、起きろ、カイル!)
懐かしい声だった。
でも、何故だろう?
思い出せない。
(カイル、起きろ、お前の大切な人が全員死んでもいいのか?)
大切な人?
トオルさん…リオル兄さん…孤児院の皆…。
皆の顔が浮かぶ。
嫌だ、皆が死ぬなんて絶対に嫌だ!
(そうだろ?なら起きろ。)
起きてるよ。
でも真っ暗で何も見えない。
僕じゃダメだったんだ。
僕には、アレン様やヴェイン様、ラインハルト様のような強さは無い。
僕じゃ皆を助けられ無いよ……。
自分の無力さに涙が出た。
(そんなことないだろ?)
いや、僕は弱い。
(そうだな。でも、お前はもっと強くなれるさ。)
ところで、君は誰?
(まだ、思い出せないのか?)
わからないよ……。
(そうか……。今回だけ特別だ。
次からは、自分で思い出すんだぞ?)
どういうこと?
(カイル、私名前を呼べ。
私の名前は、アセナだ。)
ア……セ…ナ?
彼女の名前を呼ぶと身体の奥から光が溢れてきた。
何故かその名前は、懐かしく感じた。
感覚が無かった身体が元に戻って行く。
身体に力が溢れていく。
(さぁ、カイル、もう一度名を呼んで願え!)
「アセナ!僕に力を貸して!
あの魔物を倒せるだけの、皆を護れるだけの力を!」
眩い光に包まれ、気づくと倒れ込んでいた。
氷の壁はブレスに壊され貫かれている。
リオル兄さんへの直撃は逸らすことが出来たが、孤児院の壁は貫かれていた。
「第2結界が……。」
「あら?まだ生きていたの?
魔力切れで死んだと思ってたのに…。」
耳障りな高い声が聴こえた。
その声は残念そうにしている。
(カイル、上だ!)
不意にアセナの声が聴こえ、身を捩る。
一瞬後に僕が居た場所には、狼の爪が突き立てられていた。
(カイル、早く立て!)
戦闘中だったことを思い出し、急いで起き上がり剣構えた。
不思議と身体は痛くなくて血も止まっている。
(カイル、もう一度私の名を呼べ!)
彼女の声が響く。
「アセナ!力を貸して!」
声の限り全力で叫んだ。
アセナは、声に応じるように返事をする。
自分の中から光が溢れた。
どんどん力が湧いてくる。
「え?カイルなのか?」
後ろからリオル兄さんの声が響いた。
その声は、戦場には似つかわしくない拍子抜けするような声だった。
「兄さん、無事だったんだね?」
(カイル、よそ見するな!来るぞ!)
自分の内側からアセナの声が聴こえた。
彼女の言葉通り、狼の爪が迫っていた。
地面を蹴り、距離をとる。
あれ?なんか、さっきより遅い?
爪がゆっくりと目の前を通って行った。
魔物の息遣いまでが手に取るようにわかる。
剣を握り直し、狼の足に向かって突き立てる。
何故か今なら剣が通る気がした。
予想通り、足に剣が深く刺さる。
狼は、予想外の痛みにうめき声をあげて距離をとった。
「くっ…お前、なに?
さっきまで死に損ないだった癖に!」
襲撃者の女性は、イライラしたように金切り声をあげた。
彼女の言葉を無視して、狼に追撃をかける。
振り上げられた足に向かって、剣を凪いだ。
「グアァ!!」
今度は前足を切り離す。
狼は痛みに藻掻きながら、唸り声をあげた。
しかし、直ぐに黒い靄が切り落とした足に集まり再生した。
そして、狼は、リオル兄さんに目を向ける。
まずい!
「兄さん、逃げて!」
叫んだ時には既に狼は、動き出していた。
咄嗟に狼とリオル兄さんの間に身体を滑り込ませ、今にも兄さんに爪をつき立てようとするその足を剣で受け止めた。
「ぐっ……重…い……。」
巨大な身体の重さが剣に集中した。
「兄さん…に…げて…。」
「カイル……。すまない…足がやられて動けそうに無いんだ……。
俺のことは良い……。
カイルお前だけでも………。」
後ろからリオル兄さんの悔しそうな声がした。
「嫌だ!」
リオル兄さんを見捨てることなんて出来なかった。
「アセナ……お願い……リオル兄…さんを助けて……。」
(……わかった。だが、カイル今のお前では、これ以上私の力に耐えらん。
どのような反動があるかわからんぞ?)
頭の中にアセナの声が響いた。
それでも、リオル兄さんを失うよりはいい…。
「アセ…ナ……早く……。」
手が痺れてきて力が入らなくなってきた。
狼は、イライラしたように3つの頭で食らいつこうとしている。
(…わかった。
我、神狼アセナ。汝の願いを聞き届けん。)
アセナの言葉が響いた直後、僕の身体から光が溢れる。
「グアァ!!!」
突然の目がくらむような光に狼は、怯み剣に受けていた重みが軽くなる。
頭にアセナの力の使い方が直接流れ込んでくる。
神狼アセナは、空の力を司る。
あの狼は、光に弱いようだった。
なら……。
頭に呪文が浮かぶ。
「天空を白銀に染め上げし、大いなる雷よ。
悪しきものを滅せ!」
呪文を唱えると右手にまばゆい銀色の雷が宿った。
それは大きな剣の形になる。
迷わずその大剣を狼に向かって振り下ろした。
「グギャァァァ!」
狼は、綺麗に半分に切られその場に崩れる。
襲撃者の女性は、その様子を唖然としたように見ていた。
「やった……。ぐっ……。」
喜びも束の間。
頭が割れるように痛み、僕もその場に崩れるように倒れ込んだ。
「ぐっ…い…た……い………。」
(言っただろ?反動があると……。
もうこれ以上は、カイルの身体が持たない……。)
アセナは、そう呟くように言うと気配を消す。
アセナの力を借りていた間に感じていなかった怪我の痛みがまた襲って来る。
気を失いそうになる程の痛みと疲労を、歯を食いしばって耐えた。
まだだ、まだ、意識を飛ばす訳には……。
まだ、あの女性がいる。
彼女をどうにかしないと、トオルさんが……。
「カイル……!」
這うようにしてリオル兄さんが近づいてくる。
「にい…さ……ん……。」
彼に向かって手を伸ばしかけたとき、突然焦った顔をしたリオル兄さんが僕の元に飛び込み、僕を突き飛ばした。
「………え?」
目の前で起こった現実を理解出来なかった。
いや、頭が理解するのを拒んでいた。
先程まで僕がいた場所には、黒い靄に纏わりつかれたリオル兄さんが倒れていた……。
♦♦♦♦♦
1つの頭の目を潰されて苛立った様子の狼は、唸り声をあげながら僕を睨みつけていた。
また奴の身体がぶれる。
来る!
目の前に氷の壁を幾重にも重ねて作り出す。
氷の壁は、いとも容易く砕かれてしまうが、狼の攻撃を避けることは出来た。
もう一度、氷の槍を幾つも作り出し、狼に向かって放つ。
「ふふっ、無駄なことを!」
狼の後ろで笑っている彼女が言う。
「それは、どうでしょう?」
油断しきっている彼女に向かって氷の槍を放った。
彼女は、少し焦ったように取り乱し、氷の槍と自分の間に狼の身体を割り込ませる。
「やっぱり、その狼を創るのに力をたくさん使ったんですね?」
予想通り彼女は、今は動けないようだった。
「ふふっ、生意気な!
だからと言って、お前にこの子は倒せない、そうでしょ?」
確かにその通りだ。
目以外には剣が通らない。
その目すら、1度奇襲をかけてしまっている以上は、警戒されて狙えなくなっている。
対して、こちらは、狼の攻撃を1度でも食らったらお終いの状態だ。
後ろには、リオル兄さんが居るから避けることも難しかった。
せめてもの救いは、彼女が動けないことと、新しい魔物が湧いてこないことだろうか?
でも、騎士団からの応援さえ来ればこっちの勝ちだった。
ヴェイン様やヒューガさんならこんな狼、直ぐに倒せる筈だ。
「その顔、何かまだあるのね?
なら、さっさと殺してしまわないと……。」
彼女は、指輪を撫で、黒い靄を作り出す。
その靄が狼の潰れた目にまとわりつくと元通りになってしまう。
くっ……せっかく潰した目が再生した…。
正直、満身創痍だった。
ここに来てさらに再生するなんて……。
「行きなさい!」
彼女の指示を聞いてまた狼が距離を詰めてくる。
目が慣れたお陰か何とか狼の動きを追うことが出来た。
振りかぶってくる爪を、剣でいなしながら攻撃の直撃を避ける。
それでも避けきれず血が流れた。
お互い一歩も引かず、しばらく膠着した状態が続く。
先に痺れを切らしたのは、狼の方だった。
距離をとると、3つの頭それぞれが息を吸い込み一気に吐き出す。
3つの頭から飛び出したブレスは、それぞれが強大な3つの空気の塊となり僕に押し寄せてくる。
「避けられないでしょ?
後ろには、大事なお兄さんが居るものね?」
最初から兄さんを狙って……。
こんな物を食らったら兄さんはおろか、孤児院の第2結界まで壊されてしまう。
泣け無しの魔力を振り絞り目の前に巨大な氷の壁を張った。
ブレスに直撃され、割られていく壁を割られた端から作り直す。
「はぁぁぁ!」
もっと、もっと魔力を込めろ!
足りないなら、自分の命も込めるんだ!
プツンと自分の中で何かが切れる音がした。
視界が白く染まる。
急に身体が、糸が切れたように動かなくなった。
魔力を込めていた氷の壁が少しずつえぐられていた。
そして、身体が重力に逆らえず前に倒れていく。
冷たい地面の感触と鈍い痛みを感じ、そのまま意識が飛んだ。
(カイル……カイル……。)
誰かに呼ばれている。
(カイル、起きろ、カイル!)
懐かしい声だった。
でも、何故だろう?
思い出せない。
(カイル、起きろ、お前の大切な人が全員死んでもいいのか?)
大切な人?
トオルさん…リオル兄さん…孤児院の皆…。
皆の顔が浮かぶ。
嫌だ、皆が死ぬなんて絶対に嫌だ!
(そうだろ?なら起きろ。)
起きてるよ。
でも真っ暗で何も見えない。
僕じゃダメだったんだ。
僕には、アレン様やヴェイン様、ラインハルト様のような強さは無い。
僕じゃ皆を助けられ無いよ……。
自分の無力さに涙が出た。
(そんなことないだろ?)
いや、僕は弱い。
(そうだな。でも、お前はもっと強くなれるさ。)
ところで、君は誰?
(まだ、思い出せないのか?)
わからないよ……。
(そうか……。今回だけ特別だ。
次からは、自分で思い出すんだぞ?)
どういうこと?
(カイル、私名前を呼べ。
私の名前は、アセナだ。)
ア……セ…ナ?
彼女の名前を呼ぶと身体の奥から光が溢れてきた。
何故かその名前は、懐かしく感じた。
感覚が無かった身体が元に戻って行く。
身体に力が溢れていく。
(さぁ、カイル、もう一度名を呼んで願え!)
「アセナ!僕に力を貸して!
あの魔物を倒せるだけの、皆を護れるだけの力を!」
眩い光に包まれ、気づくと倒れ込んでいた。
氷の壁はブレスに壊され貫かれている。
リオル兄さんへの直撃は逸らすことが出来たが、孤児院の壁は貫かれていた。
「第2結界が……。」
「あら?まだ生きていたの?
魔力切れで死んだと思ってたのに…。」
耳障りな高い声が聴こえた。
その声は残念そうにしている。
(カイル、上だ!)
不意にアセナの声が聴こえ、身を捩る。
一瞬後に僕が居た場所には、狼の爪が突き立てられていた。
(カイル、早く立て!)
戦闘中だったことを思い出し、急いで起き上がり剣構えた。
不思議と身体は痛くなくて血も止まっている。
(カイル、もう一度私の名を呼べ!)
彼女の声が響く。
「アセナ!力を貸して!」
声の限り全力で叫んだ。
アセナは、声に応じるように返事をする。
自分の中から光が溢れた。
どんどん力が湧いてくる。
「え?カイルなのか?」
後ろからリオル兄さんの声が響いた。
その声は、戦場には似つかわしくない拍子抜けするような声だった。
「兄さん、無事だったんだね?」
(カイル、よそ見するな!来るぞ!)
自分の内側からアセナの声が聴こえた。
彼女の言葉通り、狼の爪が迫っていた。
地面を蹴り、距離をとる。
あれ?なんか、さっきより遅い?
爪がゆっくりと目の前を通って行った。
魔物の息遣いまでが手に取るようにわかる。
剣を握り直し、狼の足に向かって突き立てる。
何故か今なら剣が通る気がした。
予想通り、足に剣が深く刺さる。
狼は、予想外の痛みにうめき声をあげて距離をとった。
「くっ…お前、なに?
さっきまで死に損ないだった癖に!」
襲撃者の女性は、イライラしたように金切り声をあげた。
彼女の言葉を無視して、狼に追撃をかける。
振り上げられた足に向かって、剣を凪いだ。
「グアァ!!」
今度は前足を切り離す。
狼は痛みに藻掻きながら、唸り声をあげた。
しかし、直ぐに黒い靄が切り落とした足に集まり再生した。
そして、狼は、リオル兄さんに目を向ける。
まずい!
「兄さん、逃げて!」
叫んだ時には既に狼は、動き出していた。
咄嗟に狼とリオル兄さんの間に身体を滑り込ませ、今にも兄さんに爪をつき立てようとするその足を剣で受け止めた。
「ぐっ……重…い……。」
巨大な身体の重さが剣に集中した。
「兄さん…に…げて…。」
「カイル……。すまない…足がやられて動けそうに無いんだ……。
俺のことは良い……。
カイルお前だけでも………。」
後ろからリオル兄さんの悔しそうな声がした。
「嫌だ!」
リオル兄さんを見捨てることなんて出来なかった。
「アセナ……お願い……リオル兄…さんを助けて……。」
(……わかった。だが、カイル今のお前では、これ以上私の力に耐えらん。
どのような反動があるかわからんぞ?)
頭の中にアセナの声が響いた。
それでも、リオル兄さんを失うよりはいい…。
「アセ…ナ……早く……。」
手が痺れてきて力が入らなくなってきた。
狼は、イライラしたように3つの頭で食らいつこうとしている。
(…わかった。
我、神狼アセナ。汝の願いを聞き届けん。)
アセナの言葉が響いた直後、僕の身体から光が溢れる。
「グアァ!!!」
突然の目がくらむような光に狼は、怯み剣に受けていた重みが軽くなる。
頭にアセナの力の使い方が直接流れ込んでくる。
神狼アセナは、空の力を司る。
あの狼は、光に弱いようだった。
なら……。
頭に呪文が浮かぶ。
「天空を白銀に染め上げし、大いなる雷よ。
悪しきものを滅せ!」
呪文を唱えると右手にまばゆい銀色の雷が宿った。
それは大きな剣の形になる。
迷わずその大剣を狼に向かって振り下ろした。
「グギャァァァ!」
狼は、綺麗に半分に切られその場に崩れる。
襲撃者の女性は、その様子を唖然としたように見ていた。
「やった……。ぐっ……。」
喜びも束の間。
頭が割れるように痛み、僕もその場に崩れるように倒れ込んだ。
「ぐっ…い…た……い………。」
(言っただろ?反動があると……。
もうこれ以上は、カイルの身体が持たない……。)
アセナは、そう呟くように言うと気配を消す。
アセナの力を借りていた間に感じていなかった怪我の痛みがまた襲って来る。
気を失いそうになる程の痛みと疲労を、歯を食いしばって耐えた。
まだだ、まだ、意識を飛ばす訳には……。
まだ、あの女性がいる。
彼女をどうにかしないと、トオルさんが……。
「カイル……!」
這うようにしてリオル兄さんが近づいてくる。
「にい…さ……ん……。」
彼に向かって手を伸ばしかけたとき、突然焦った顔をしたリオル兄さんが僕の元に飛び込み、僕を突き飛ばした。
「………え?」
目の前で起こった現実を理解出来なかった。
いや、頭が理解するのを拒んでいた。
先程まで僕がいた場所には、黒い靄に纏わりつかれたリオル兄さんが倒れていた……。
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