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本編
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※ カイル視点
♦♦♦♦♦
マーサ様がトオルさんを無理やり引きづって孤児院の中に入って行く。
トオルさんは何とか抵抗しているが、毎日、子供達と遊んでいるマーサ様にはかないそうもない。
扉が閉まるのを見届けた後、隣に居る兄に話しかけた。
「リオル兄さん、せっかく尊敬出来る師匠が出来たのによかったんですか?」
孤児院の門には、黒い靄と共に大量の魔物が湧き出していた。
「まぁな、寂しがり屋のカイルを1人にする訳には行かないだろ?」
彼はいつものように優しい声で笑う。
そして、少し苛立ったように言葉を続けた。
「それに…多分、アイリーン様を襲ったのはあの女だ。
ソランジール家に害を加えた人間を見過ごせるほど腑抜けてないよ。」
おそらく、ラインハルト様を引き離す為にアイリーン様を襲ったんだ。
勝手な妄想でトオルさんを襲う為にアイリーン様を……。
彼女の無邪気な笑顔を思い出し、リオル兄さんだけでは無く、僕も怒っていた。
魔物がどんどん増えていき結界の悲鳴が大きくなる。
「きっと直ぐに騎士団から応援が来るはずです。
深追いはせず時間を稼ぎましょう。」
ヴェイン様かヒューガさんが来てくれるまで時間を稼ぐ……。
おそらく、マーサ様が孤児院の第2結界を発動させたはずだ。
そちらは今悲鳴をあげている結界とは違い、誰も出入りが出来なくなり、完全に隔離された状態になる。
しばらくの間、時間を稼げるだろう。
でも、確実じゃない。
黒い靄の中心で笑う襲撃者を見据える。
彼女の攻撃を直に受けたら破られてしまうかもしれない。
「わかってる。
俺らの役割は、あの女を動かさないことだろ?」
リオル兄さんは、腰に付けられたマジックバックから弓を取り出す。
よく手入れが行き届いた綺麗な弓だった。
「援護は任せろ。
でも、身体が完全に治って無いんだから無理はするなよ?」
リオル兄さんからの言葉を返す余裕は無かった。
結界が大きな音をたてて砕ける。
「来ます!」
リオル兄さんに叫び声ながら剣を掲げて飛び出した。
兄さんも魔法で矢を作り出し魔物の大軍に備える。
魔力を練り上げ、身体の隅々まで行き渡らせる。
「身体能力向上!」
短く詠唱をして魔法を使う。
思いっきり地面を蹴り、跳ぶように進み襲撃者の女性へと一直線に距離を詰めた。
途中、何体もの魔物が間に飛び出してくる。
「カイル!そのまま突っ込め!」
リオル兄さんが後ろから叫ぶ。
彼を信じてより速度を上げた。
横スレスレを幾本もの矢が飛んでいき、今にも僕に襲い掛かりそうだった魔物達を貫く。
貫かれた魔物は地面に落ちて行った。
「貴方はここで止めます!」
彼女に向かって剣を突き立てた。
眼前まで迫った凶刃を彼女は、なんてことも無いようにするりと躱す。
そしてそのまま人差し指をこちらに向けると呟く。
「お前、邪魔…。」
指を向けられた瞬間、背筋に冷たいものが流れた。
死ぬ……。
本能的に横へ飛んだ。
彼女から放たれた黒い靄が顔の真横を飛んでいく。
近くを通った靄から、色々な負の感情が流れ込んできた。
辛い、悲しい、怖い、妬ましい……。
「カイル!」
リオル兄さんの声が聴こえたが返す余裕なんて無かった。
あの靄は、ダメだ。
触れたら取り込まれる。
靄を外した彼女は、「惜しい…」と呟いた。
1度距離を取り、リオル兄さんに叫ぶ。
「兄さん、あの靄に触ると飲まれます!
あれは、魔力じゃない!」
「あら?よくわかったわね?」
彼女は、少し驚いたようにクスクス笑っていた。
「ええ、魔力じゃなくて、人の負の感情ってところですか?」
会話をしながらその靄の出処を探す。
魔眼で見ると靄は、さらに禍々しいものに見えた。
あれ?魔力じゃないのになんで見えるんだろう?
今はそんなこと気にしてる場合じゃない。
「ええ、そうよ!これはこの国に苦しめられたもの達の負の感情!」
彼女は、楽しそうに笑う。
この国に苦しめられた?
一体どう言う……。
魔眼で見ると1箇所さらに靄が濃い部分があった。
「大元はその指輪ってところですか?」
「ふふっ!あなた若いのにとっても優秀なのね?
それによく見たらとっても可愛い顔してる…。」
会話をしている間も魔物達は、僕を襲おうと飛びついてくる。
角の生えた大きな犬、全身の羽が刃の鳥、大柄な鬼や、小柄な鬼、異形の怪物達は様々だった。
飛びついて来た魔物を片っ端から剣で薙ぎ払う。
間に合いそうにない魔物は、リオル兄さんが矢を放ち仕留めてくれていた。
くっ…何とか戦えてる。
「ねぇ、貴方、私のペットにならない?
可愛がってあげるわよ?」
彼女は、こちらの様子なんてお構い無しに楽しそうに笑って聞いてくる。
「くっ……死んでも……嫌です!」
倒しても倒しても次々に魔物が湧いてくる。
やっぱり、あの指輪をどうにかしないと……。
「あらそう?それは残念だわ。
じゃあ、死になさい…。」
彼女は、右手を掲げると靄を集めていく。
「なにを……?」
大きな靄の塊が周囲の魔物を吸い込んでいく。
そして、その中心には3つの頭を持つ大きな黒い狼が現れた。
禍々しく、巨大なその狼は先程までの異形とは格が違った。
狼の身体がぶれたかと思うと次の瞬間には、身体に鈍い衝撃が走る。
「ぐっ……がはっ……。」
数メートルは吹き飛ばされ、転がってしまう。
息が出来ない……。
何とか頭をあげると、今にも狼は食らいつこうと迫っていた。
「カイル!」
リオル兄さんが狼の注意を引こうと何本もの矢を放つ。
しかし、奴の毛皮は硬く全ての矢が弾かれてしまう。
狼は、鬱陶しそうに身を捩るとリオル兄さんに向かって吠えた。
その咆哮は、空気の塊となり兄さんに向かって飛んでいく。
「にい……さ……ん……。」
何とか振り絞った声は兄さんには届かず、空気の塊が直撃した。
「がはっ……。」
リオル兄さんはそのまま、後ろに吹き飛ばされ壁にぶつかって動かなくなる。
狼の3つの頭はそれを見ると、こちらを向く。
6つの瞳に見つめられて身がすくんだ。
怖い……。
でも……僕がやらないと……。
食らいつこうとする3つの頭に、思いっきり氷の魔法を放つ。
「はぁぁぁ!」
さらに、そのまま火の魔法をぶつけ、氷を蒸発させて周囲に煙幕を張った。
狼が僕を見失ってる間に距離をとる。
身体中が痛かった。
ようやく治りかけた肋もまた折れているようだった。
でも、負ける訳には行かない。
今、僕がやられたらリオル兄さんも、トオルさんも孤児院の皆も全員殺されてしまう。
そんなのダメだ!
僕の大切な家族は、僕が護るんだ!
動かない身体に無理矢理魔力を流し込み、さらに身体強化の魔法を使う。
魔法を連続で使いすぎて頭が痛んだ。
剣を握り直し、リオル兄さんを庇うように背にして狼の魔物を見据える。
「僕が護るんだ!」
左手を掲げる空中に氷の槍を幾つも作り出す。
狼に打ち込み、怯んだ隙に距離を詰め、1つの頭の両目を剣で凪いだ。
やつの目から黒い瘴気が吹き出す。
よし、目なら剣が通る。
すかさず、別の頭が襲いかかって来るのを、先程切った頭を蹴りつけ距離を取りに避けた。
その時、不意に違和感を感じた。
あれ?なんで、あの女性は仕掛けてこないんだろう?
今は、2対1の状況だ。
あの狼が現れてから魔物も増えていない。
粗方の魔物は、リオル兄さんが魔法と矢で倒してくれている。
もしかして、魔物を出している間は彼女も動けない?
チラと彼女を見やると、こちらを楽しそうに笑いながら見ているだけだった。
♦♦♦♦♦
「料理人は騎士団長に食べさせたい」をいつも応援してくださりありがとうございます。
なかなか、時間が取れず感想にお返しが出来ず申し訳ありません。
皆様からの感想にいつも励まされて居ます。
本当にありがとうございます!
本日は、1話のみの更新予定です。
今後ともよろしくお願い致しますm(_ _)m
♦♦♦♦♦
マーサ様がトオルさんを無理やり引きづって孤児院の中に入って行く。
トオルさんは何とか抵抗しているが、毎日、子供達と遊んでいるマーサ様にはかないそうもない。
扉が閉まるのを見届けた後、隣に居る兄に話しかけた。
「リオル兄さん、せっかく尊敬出来る師匠が出来たのによかったんですか?」
孤児院の門には、黒い靄と共に大量の魔物が湧き出していた。
「まぁな、寂しがり屋のカイルを1人にする訳には行かないだろ?」
彼はいつものように優しい声で笑う。
そして、少し苛立ったように言葉を続けた。
「それに…多分、アイリーン様を襲ったのはあの女だ。
ソランジール家に害を加えた人間を見過ごせるほど腑抜けてないよ。」
おそらく、ラインハルト様を引き離す為にアイリーン様を襲ったんだ。
勝手な妄想でトオルさんを襲う為にアイリーン様を……。
彼女の無邪気な笑顔を思い出し、リオル兄さんだけでは無く、僕も怒っていた。
魔物がどんどん増えていき結界の悲鳴が大きくなる。
「きっと直ぐに騎士団から応援が来るはずです。
深追いはせず時間を稼ぎましょう。」
ヴェイン様かヒューガさんが来てくれるまで時間を稼ぐ……。
おそらく、マーサ様が孤児院の第2結界を発動させたはずだ。
そちらは今悲鳴をあげている結界とは違い、誰も出入りが出来なくなり、完全に隔離された状態になる。
しばらくの間、時間を稼げるだろう。
でも、確実じゃない。
黒い靄の中心で笑う襲撃者を見据える。
彼女の攻撃を直に受けたら破られてしまうかもしれない。
「わかってる。
俺らの役割は、あの女を動かさないことだろ?」
リオル兄さんは、腰に付けられたマジックバックから弓を取り出す。
よく手入れが行き届いた綺麗な弓だった。
「援護は任せろ。
でも、身体が完全に治って無いんだから無理はするなよ?」
リオル兄さんからの言葉を返す余裕は無かった。
結界が大きな音をたてて砕ける。
「来ます!」
リオル兄さんに叫び声ながら剣を掲げて飛び出した。
兄さんも魔法で矢を作り出し魔物の大軍に備える。
魔力を練り上げ、身体の隅々まで行き渡らせる。
「身体能力向上!」
短く詠唱をして魔法を使う。
思いっきり地面を蹴り、跳ぶように進み襲撃者の女性へと一直線に距離を詰めた。
途中、何体もの魔物が間に飛び出してくる。
「カイル!そのまま突っ込め!」
リオル兄さんが後ろから叫ぶ。
彼を信じてより速度を上げた。
横スレスレを幾本もの矢が飛んでいき、今にも僕に襲い掛かりそうだった魔物達を貫く。
貫かれた魔物は地面に落ちて行った。
「貴方はここで止めます!」
彼女に向かって剣を突き立てた。
眼前まで迫った凶刃を彼女は、なんてことも無いようにするりと躱す。
そしてそのまま人差し指をこちらに向けると呟く。
「お前、邪魔…。」
指を向けられた瞬間、背筋に冷たいものが流れた。
死ぬ……。
本能的に横へ飛んだ。
彼女から放たれた黒い靄が顔の真横を飛んでいく。
近くを通った靄から、色々な負の感情が流れ込んできた。
辛い、悲しい、怖い、妬ましい……。
「カイル!」
リオル兄さんの声が聴こえたが返す余裕なんて無かった。
あの靄は、ダメだ。
触れたら取り込まれる。
靄を外した彼女は、「惜しい…」と呟いた。
1度距離を取り、リオル兄さんに叫ぶ。
「兄さん、あの靄に触ると飲まれます!
あれは、魔力じゃない!」
「あら?よくわかったわね?」
彼女は、少し驚いたようにクスクス笑っていた。
「ええ、魔力じゃなくて、人の負の感情ってところですか?」
会話をしながらその靄の出処を探す。
魔眼で見ると靄は、さらに禍々しいものに見えた。
あれ?魔力じゃないのになんで見えるんだろう?
今はそんなこと気にしてる場合じゃない。
「ええ、そうよ!これはこの国に苦しめられたもの達の負の感情!」
彼女は、楽しそうに笑う。
この国に苦しめられた?
一体どう言う……。
魔眼で見ると1箇所さらに靄が濃い部分があった。
「大元はその指輪ってところですか?」
「ふふっ!あなた若いのにとっても優秀なのね?
それによく見たらとっても可愛い顔してる…。」
会話をしている間も魔物達は、僕を襲おうと飛びついてくる。
角の生えた大きな犬、全身の羽が刃の鳥、大柄な鬼や、小柄な鬼、異形の怪物達は様々だった。
飛びついて来た魔物を片っ端から剣で薙ぎ払う。
間に合いそうにない魔物は、リオル兄さんが矢を放ち仕留めてくれていた。
くっ…何とか戦えてる。
「ねぇ、貴方、私のペットにならない?
可愛がってあげるわよ?」
彼女は、こちらの様子なんてお構い無しに楽しそうに笑って聞いてくる。
「くっ……死んでも……嫌です!」
倒しても倒しても次々に魔物が湧いてくる。
やっぱり、あの指輪をどうにかしないと……。
「あらそう?それは残念だわ。
じゃあ、死になさい…。」
彼女は、右手を掲げると靄を集めていく。
「なにを……?」
大きな靄の塊が周囲の魔物を吸い込んでいく。
そして、その中心には3つの頭を持つ大きな黒い狼が現れた。
禍々しく、巨大なその狼は先程までの異形とは格が違った。
狼の身体がぶれたかと思うと次の瞬間には、身体に鈍い衝撃が走る。
「ぐっ……がはっ……。」
数メートルは吹き飛ばされ、転がってしまう。
息が出来ない……。
何とか頭をあげると、今にも狼は食らいつこうと迫っていた。
「カイル!」
リオル兄さんが狼の注意を引こうと何本もの矢を放つ。
しかし、奴の毛皮は硬く全ての矢が弾かれてしまう。
狼は、鬱陶しそうに身を捩るとリオル兄さんに向かって吠えた。
その咆哮は、空気の塊となり兄さんに向かって飛んでいく。
「にい……さ……ん……。」
何とか振り絞った声は兄さんには届かず、空気の塊が直撃した。
「がはっ……。」
リオル兄さんはそのまま、後ろに吹き飛ばされ壁にぶつかって動かなくなる。
狼の3つの頭はそれを見ると、こちらを向く。
6つの瞳に見つめられて身がすくんだ。
怖い……。
でも……僕がやらないと……。
食らいつこうとする3つの頭に、思いっきり氷の魔法を放つ。
「はぁぁぁ!」
さらに、そのまま火の魔法をぶつけ、氷を蒸発させて周囲に煙幕を張った。
狼が僕を見失ってる間に距離をとる。
身体中が痛かった。
ようやく治りかけた肋もまた折れているようだった。
でも、負ける訳には行かない。
今、僕がやられたらリオル兄さんも、トオルさんも孤児院の皆も全員殺されてしまう。
そんなのダメだ!
僕の大切な家族は、僕が護るんだ!
動かない身体に無理矢理魔力を流し込み、さらに身体強化の魔法を使う。
魔法を連続で使いすぎて頭が痛んだ。
剣を握り直し、リオル兄さんを庇うように背にして狼の魔物を見据える。
「僕が護るんだ!」
左手を掲げる空中に氷の槍を幾つも作り出す。
狼に打ち込み、怯んだ隙に距離を詰め、1つの頭の両目を剣で凪いだ。
やつの目から黒い瘴気が吹き出す。
よし、目なら剣が通る。
すかさず、別の頭が襲いかかって来るのを、先程切った頭を蹴りつけ距離を取りに避けた。
その時、不意に違和感を感じた。
あれ?なんで、あの女性は仕掛けてこないんだろう?
今は、2対1の状況だ。
あの狼が現れてから魔物も増えていない。
粗方の魔物は、リオル兄さんが魔法と矢で倒してくれている。
もしかして、魔物を出している間は彼女も動けない?
チラと彼女を見やると、こちらを楽しそうに笑いながら見ているだけだった。
♦♦♦♦♦
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