料理人は騎士団長に食べさせたい

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本編

閑話11 騎士団長の旅路3

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レオンに連れられて結界の中へ向かった。
王宮を目指しているようだ。

「魔物の襲撃を受けて直ぐに民を避難させて魔法師団総出で結界を張ったんだ……。
しかし、避難に間に合わなかった多く者達が城下町に取り残されてしまって……。」

レオンは悔しそうに唇を噛む。

彼らを助けようとするために結界の展開を遅らせればもっと多くの人間が被害を受けていただろう。
だが、頭では分かっていても割り切れることでは無い。

よそ者の俺には何も言ってやれなかった。

街の中では傷ついた人達が所狭しと寝かされ、治療を受けていた。

皆、表情は暗い。


その中を進み、王宮にたどり着く。

 
「それでこの原因は?」

この国の現状はあらかた理解することが出来、レオンに聞く。

彼は少し躊躇った後、王宮のある一室に案内してくれた。

「こちらへ……。」

見るからに煌びやかなその部屋には、天蓋次の大きなベッドが置かれている。

彼はそのベッドの方へ近づくと俺を呼んだ。

ベッドに近づくと誰かが横たわっていることに気づく。

その身は禍々しい気配に蝕まれており、まるで枯れ木のように痩せこけていた。

「………父上だ。」

レオンは辛そうに横たわる人物を見つめて俺に呟く。


「!?……サザンカンフォード国王か?」

「正確には王位は兄上に譲っているから前国王だが…。
一月ほど前に、突然病で倒れられてからこの国に異変が起こり始めたんだ。」

レオンは、思い出すように語り始めた。

前国王は、高齢と言うこともあり息子である第1王子に王位を譲って隠居をすることにしたそうだ。

しかし、前国王はこの国の守護竜に加護を受けていた。
本来ならその加護は、息子である第1王子に受け継がれるはずだったが守護竜はそれを良しとはしなかった。

その事で王宮内がごたついている時に、いきなり前国王が病で倒れたらしい。

それから守護竜は、正気を失い荒れ始めた。
そして、大地は荒れ、魔物が凶暴化して民を襲い始めた。


「病か……。しかしこれは……。」
前国王を見ながら呟く。

前国王から感じるこの禍々しい気配は、とても病と呼べるものでは無かった。

もっと別の……。

「呪いだと私も考えている。」

俺の考えを読んだように、レオンが頷きながら言葉を引き継いだ。

呪いや、呪詛の類だ。

しかし、こいつなら……。

「レオン、お前は光魔法を使えるんじゃないのか?」

光魔法は、稀有な能力だ。
その中でも魔を払う魔法が使えるはずだった。


「私の魔法は、確かに光属性だ。
正確にはアレンさんと同じように光魔法の上位属性の煌魔法だが…。」


光魔法の上位属性だと?
ただでさえ少ない光魔法に上位属性があったとは……。
レオンの言葉に度肝を抜かれた。

「それならお前なら…。」

俺の言葉を切るようにレオンが悲しそうに首を振った。

「無理だった。
私にもこの呪いは解けなかった……。
父上は、我が国の守護竜アイダ・ヴェド様から加護を受けているんだ。
その加護の能力は、外部からの魔法を無効化する。」


「魔法の無効化だと!?」

俺の無尽蔵の魔力もそうだが、相変わらず竜という奴らは規格外のことをする。

「仮に、私も守護竜様の加護を受けて居れば浄化も出来ただろうがな…。」

レオンはそう言うと悔しそうに俯く。

「だが、おかしいんじゃないか?
魔法の無効化を持って居るのに、何故呪いにかかった?」

「わからない……。
ただ、憶測だが、守護竜様は穢れに弱い…。
だから、穢れを伴う呪詛には対抗出来なかったのではないか?
いや、正確には、対抗はしているのか…。
これだけの瘴気を身に纏いながらも、父上はまだ生きておられるのだから…。」

レオンの言葉に少しだけ納得をする。

穢れ……。

あれは人の負の感情から出来るもので魔法とはまた別のものだ。

正直、俺も魔法と穢れが違うものとしか知らないのが…。

だが、以前ドラゴンと戦った時に付けられた怪我は穢れを纏ったもので癒すことが出来なかった。

穢れに身を犯される辛さは身をもって知っていた。

あの時の俺などとは、比にならないくらいの穢れを身に纏いながらも1ヶ月も耐えている前国王を心から尊敬した。

光魔法と共に稀有な適性として闇魔法も存在する。
しかし、そちらは光魔法以上に珍しい為ほとんど見たことが無かった。

でも、その闇魔法ですら穢れとは違うものだとヴェインに聞いたことがある。

闇と聞くと少し良くない印象があるが、闇魔法は負の力をという訳でもないらしい。

「まぁ、とりあえず、守護竜が穢れたのが魔物の発生の原因であり、大元は前国王が呪いを受けているからという事だな……。」

レオンは頷く。

「あぁ。しかし、父上の呪いを祓う方法が見つからない……。」

彼は途方に暮れた表情で言葉を切る。

「レオン、しかし、何故それを俺に話した?」

本来ならよそ者の俺にそんなことを話していい訳が無い。

「アレンさんは、父上と同じ加護を受けた方だ。
もしかしたら、解決の糸口を思いつくかと思ったのだが……。」

それもそうか…。
加護を持つものしか、守護竜は認知出来ない。

だからこそ、コアは俺に頼み込んで来たのだろうし…。

だが……。

「すまない。俺にはこの呪いを祓う力は無い。
俺に出来ることがあるとすれば……魂が呪いに飲み込まれる前に、前国王を楽にしてやることくらいだ……。」

しかし、そうしてしまえば守護竜アイダ・ヴェドは完全に闇に飲まれてドラゴンになってしまうだろう。

仮にドラゴンになったアイダ・ヴェドを倒したとしても、この国は竜からの加護を失い、この先、人が住めない土地になる。


「……やはりそうだよな。」
レオンが俺の言葉に自嘲気味に笑う。

穢れ…。
この穢れ祓うことさえ出来れば……。


己の今は無い胸の傷に無意識に触れていた。

不意に、愛しい人の顔が浮かぶ。

トオルならこの穢れを祓うことが出来るのだろうか?

しかし……いくつか問題があった。

まず1つ、彼をこんな危険な場所へと連れて来たくないと言うのが本音だ。

先程戦ったアンデッド達を思い出す。

俺ですら思い出したくない光景だ。
トオルにあんな想いはさせたくない。


次に時間だ。
今からブラン・イェーガー王国に戻ってまたこちらに来る頃には2週間位はかかるだろう。

それまでこの前国王の命がもつのかわからない。

もし間に合わなければトオルがいる状態でドラゴンと戦うことになってしまう。

どうすれば……。


「もし、もしもその呪いを解く方法が分かったとして、前国王に残された時間はどのくらいある?」

俺の言葉にレオンが顔をあげる。


「な、何か方法が?」


「わからん。どちらにせよ、1度ブラン・イェーガー王国に戻らないといけない。
最低でも2週間はかかるだろう。」

俺の言葉にレオンは考え込む。

「父上の状態を見るに2週間が限界でしょう。
…もし、仮にもっと早く移動出来たらなんとか出来るだろうか?」


「可能なのか?」

レオンの意外な言葉に驚く。

「かなり魔力を使ってしまうし、サザンカンフォードからブラン・イェーガー程の距離なら使ってしまえば3日は寝込むだろう。
だが…2日もあれば行くことが出来る。」

可能なら1週間で戻ってこられる?

「しかし、王子のお前が今、国から出ていいのか?」


「なに、兄上達が王族として生き残った民を導いている。
それに…例え、望みが薄くても私はその希望に賭けたい。今度こそ、父上を救うんだ…。」 


彼は決心したように俺を見つめた。










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