料理人は騎士団長に食べさせたい

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本編

閑話10 騎士団長の旅路2

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更に馬を1日走らせてついにサザンカンフォードの王都へと辿り着いた。

「あれは?大量の魔力?結界か?」

吹雪で視界が悪い中、遠くに大量の魔力が集まっている場所が感じられた。

明らかに1人の魔力ではなく、何人もの魔力が集まっているのだろうと感じる。

もちろん、カイルのように直接魔力を目で見ることが出来るわけでは無い為、本能的に感じ取れるくらいだが…。

吹雪を抜けてその場所にたどり着くと、大きな街があった。

この強力な結界で、街全体を覆うこと出来なかったようで中心から王都の半分ほどしか無かった。

結界から出てしまっている街は、半壊状態で人や魔物の死体がそこら中にある。

「くっ……これは酷いな…。」

辺りのすえた匂いについつい顔を顰めてしまう。

その瞬間、背後で何かが動く気配がした。

咄嗟に剣を抜き、警戒をしながら振り向く。

「子供……?」

10歳くらいの子供だろうか?
顔は下を向いて俯いているため確認出来なかった。

俺の声に反応してその子が顔を上げた。

「くっ………。」

その子の顔には目が無く、生気のない顔でこちらを見つめている。

「ガァルル………。」
俺に気づいたその子は、人間の物ではない叫び声と共に、素早い速度で俺との間を詰め襲いかかって来た。


「くっ…アンデッドか!?」

こんな子供まで……。


子供の鋭い爪が届く刹那、彼に剣を払いその手を切り落とす。

痛みを感じていないようで、腕を失いバランスを崩したものの、彼は再び襲いかかって来た。


「………すまない。」

彼がまた飛び上がった時、俺は炎の魔力を練り上げながら右手を彼に向けた。

次の瞬間、アンデッドの子供は、深紅の炎によって焼かれ灰になる。


「くっ……本当にすまない……。
安らかに眠ってくれ……。」

酷い気分だった。
魔物とは言え、元々人間のしかも子供を燃やすなんて…。


「「「ガァルル……。」」」

どうやら感傷に浸る時間をくれるつもりはないようだ。

今の戦闘の音に反応して、周囲のそこら中から呻き声が聴こえた。


俺は馬の周りに結界を張り、次の襲撃に備える。


「死んでなお、魔物になって彷徨うのは悔しいだろ……。」

誰に言う訳でもなく1人呟き、剣に炎の魔力を込める。

刀身が深紅に染まっていく。

「来い!楽にしてやる…。」

俺の言葉に反応したのか、周囲で様子を伺っていた何十、何百かもわからないアンデッドが一斉に襲いかかってくる。


老若男女様々だった。


頭を無にしろ…。
情けをかけるな。
戦場での敵への情けは足をすくわれる。

己に言い聞かせながら襲い来るに一心不乱に剣を振るった。


斬られた魔物は、切り口から燃え上がり灰になる。





心を無にして、斬って斬って斬りまくった。





どれほどそうしていただろうか?

疲れで右手の感覚が無くなりそうだった。

肩が重くて手が上がらない。

辺りは、雪に混じり大量の灰が積もっていた。


「はぁ…はぁ…流石に疲れた……。」

もう辺りにアンデッドの気配は無く、陽も落ちかけていた。


その場に座り込み汗を拭う。

後ろから何かが近づいてくる気配がした。

しまった、まだ居たのか!

魔法を込める時間も無く、剣を掴み、そちらに向かって距離を詰め、剣を振り下ろした。

「わっ!!待ってください!」

ガキンッと金属同士がぶつかる音がした。


人間?生きている人間か?

改めてその人物を確認する。
その者は、上等な白い鎧を身にまとい必死に剣で俺の剣を受け止めていた。


俺の剣を受け止め、耐えるなんて何者だ?

兜のせいで顔はわからないが、かなり若く思えた。
リオルと同じ位くらいか?

「………お前は?」

そのままの体制で彼に問いかける。


「お、俺は、この国の騎士です……。
ど、どうか剣を引いてください。
お話を………。」


「そうか、済まなかった。
気配があまりにも無かったから、敵かと……。」


彼の言葉通りに剣を納める。

俺に気配を悟らせず、俺の剣を受け止めたこの青年はかなりの実力者だと察せられた。


「い、いえ、こちらこそ申し訳ありません……。
あ、あの、貴方は?」

青年は怯えながら聞いてくる。

「アレンだ。アレン・ブラン。
ブラン・イェーガー王国で王国騎士団の団長をしている。
サザンカンフォードでの異変を調べに来た。」

青年は、驚いた声をあげた。

「アレン・ブラン様!?
この大陸でも名高い、守護竜ケツァルコアトル様の加護を受けられたあのアレン・ブラン様でお間違えないですか!?」

彼は、急いで兜を外して素顔を見せ騎士の礼をとる。


金色の髪に、黄金の瞳。

王族か?

「失礼を致しました。
私は、この国の第3王子レオンベルク・サザンカンフォードと申します。
遠いところを遥々お越しいただきありがとうございます。」


「そうか…。
王子だったのか…。
こちらこそいきなり手荒な真似をしてしまい申し訳なかった……。」

いきなりの事とはいえ、他国の王族に剣を向けたとあっては、国際問題に発展しかねない……。

俺の謝罪に彼は苦笑いしながら応える。

「いえ、私の方こそ申し訳ありません。
部下から、城下で誰かが戦闘をしていると報告を受けたので…。
もう少し慎重に近づくべきでした。」

彼の後ろを見るが、何度見ても彼1人だ。


「レオンベルク様1人で来たのですか?」

「ブラン様、レオンで構いません。
それに、普通に話していただいて大丈夫です。」


「そうか…。
では、失礼する。
俺の事もアレンでいい。
他国とはいえ、王族に様付けされるのはむず痒い。」

畏まった言葉を使うのは苦手だから、レオンの申し出を有難く受け取る。

「いや、それは……。」

レオンは、渋っていたが俺が譲らないと察したのか観念したみたいだ。

「では、アレンさんと…。
部下に様子を見に行くのを止められてしまったから1人でこっそり抜け出したんだ…。」

レオンは、悪戯がバレたときのように気まずそうな顔をしながら答えた。

こいつ…王族がこれだけ魔物が徘徊してる街に部下も連れずに1人で出てきたのか?

バカなのか?
それとも、それだけ実力に自信があるのか……。

「………とりあえず、状況が知りたい。」

喉まででかかった言葉を飲み込みレオンに聞く。

「承知した。とりあえず、アレンさんは戦いの後でお疲れだろう……。
結界の中でゆっくり話そう……。」


彼は、「その前に…。」と呟くと俺の後ろへ進みその場に跪いた。


「レオン?なにを……?」

彼は俺の言葉には何も返さず、手を組み祈りを捧げた。

彼の身体から清らかな魔力が溢れる。

「我が国の民よ、すまなかった。
もっと早く弔ってやれればアンデッドにならずに済んだのに……。
安らかに眠ってくれ………。」

俺が戦っていた範囲を覆うように彼の魔力が広がり、清らかな光が満ちる。

「セイクリッド・レクイエム…。」
彼が呟くように魔法を唱える。

光が天に向かって登って行きそのまま消えた。

「願わくば、そなたらがまたこの国に生まれ幸せに過ごしてくれるように………。」


これは、光魔法か?

光魔法は圧倒的に適性をもつ者が少ない。

光が空に登ってもしばらくの間、彼は祈りを辞めなかった。

そして立ち上がり俺を見る。

「彼らを呪縛から解き放ってくれて本当にありがとう…。」


「あぁ…。」

彼の頬が濡れているを見て何も言えなかった。

「じゃあ、行こうか…。」


彼の先導で結界の中に向かって歩き出す。

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