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本編
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孤児院の門を潜ると、すぐさまリオルくんが走り出した。
「マーサ様!マーサ様はいらっしゃいますか!?」
彼は走りながら誰かを探して居るようだ。
孤児院の庭では子供たちが、はしゃぎながら遊んでいた。
「あ!リオルお兄ちゃんだー!」
何人かはリオルくんの事を知って居るようで、嬉しそうに手を振って居る。
「リオル?どうしたの?そんなに慌てて……。」
建物の中から年配の女性が出てきた。
リオルくんは探し人を見つけると急いで彼女の元に駆け寄る。
あの人が院長さんかな?
「トオルさん、僕達も行きましょう。」
カイルくんに声をかけられて俺達も女性の元へと向かった。
「マーサ様、ご無沙汰しております。
いきなりすみません……。実は……。」
リオルくんはマーサ様に詳しい事情を説明する。
「ソランジール様の御屋敷が!?
事情はわかりました。
ここなら結界があるから無事なはずだから……。
そちらがトオルさんかしら?」
マーサ様は、俺を見ながら聞いてくる。
「はい。トオル・オガワといいます。
騎士団で料理人をさせてもらっています。
ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません………。」
俺は、マーサ様の方を向いて姿勢を正しながら挨拶をした。
「そう。貴方がトオルさんね。
会いたかったわ……!
迷惑だなんて…気にしないでいいのよ?」
ん?会いたかった?
どういう意味だろう?
「あぁ、ごめんなさいね。
前に、ヴェインとラインハルト様が遊びに来てくれた時に聞いたの。
アレンに大切な人が出来たって…。
貴方のことでしょ?」
マーサ様は、困惑している俺に教えてくれた。
彼女は、陽だまりのような暖かい笑顔を向けてくれる。
あぁ、この人はアレンのことをとても大切に思って居るんだ。
まるで本物の母親のように……。
「はい…。
ありがとうございます……。」
この人や、ヴェインさん達、皆がアレンを支えてくれて居たから俺はアレンに出会うことが出来たんだな……。
そう思ったら自然とお礼の言葉が口から出ていた。
「あ、あの、マーサ様…。
トオルさんとカイルのことをよろしくお願いします。
僕は、ラインハルト様を追いかけます。」
リオルくんが遠慮がちにマーサ様に声をかける。
「あぁ、そうよね。
急いでるのに長引かせてしまってごめんなさい……。
リオル、気をつけて行くのよ?」
「はい!では、また!」
リオルくんは、マーサ様に会釈してからまた走り出した。
彼が孤児院の門を潜ろうとした時、異変は起きた。
「え?空が?」
真っ先に異変に気づいたのはカイルくんだった。
彼の言葉にその場にいた誰もが上を見上げる。
まるでこの場にだけ夜が訪れたように孤児院の一帯だけ空が暗くなって居たのだ。
門を潜ろうとしていたリオルくんが何かを感じとり、後ろに飛んだ。
その数秒後、リオルくんがいた場所に黒い靄が襲いかかる。
「!?」
カイルくんが即座に俺を庇うように前に飛び出す。
「トオルさん!下がっててくだい。
敵襲です!
マーサ様、子供達を建物の中へ!」
彼は、こちらを見ずに叫ぶと素早く魔法で剣を作り出し次の攻撃に備えた。
「誰だ!」
黒い靄が放たれた先を見ながらリオルくんが叫んだ。
そこには、全身に黒い靄を纏った女の子が居た。
歳はリオルくんより少し若いくらいだろうか?
整った顔立ちと綺麗で上質そうな服とは裏腹に、彼女の表情は、まさに般若のようなものであった。
彼女は、リオルくんの問いかけには答えずただただ真っ直ぐに、俺を睨みつけてくる。
「お前があの人を奪ったのか?」
それほど大きな声でもないのに、大気が震える程の威圧感のある声だった。
その声に先程まで騒いでいた孤児院の子供達もピタリと静かになる。
あの人?
どういうこと?
誰のことを言ってるんだ?
彼女は、少しずつ孤児院の門に近づいてくる。
その足音だけが静寂の中に響いていた。
マーサ様は、その足音を聞いて我に返り、急いで子供達に建物の中に入るように指示を出す。
子供達は、マーサ様の言葉に従い中に避難して行った。
襲撃者の少女が門を潜ろうとした時、何かに弾かれたように、後ろによろけた。
よく目を凝らしてみると、彼女と門の間に光の壁のような物がある気がする。
「悪意持つものを中に入れない為の結界です。」
子供達を避難させ終えたマーサ様が教えてくれる。
「なら、彼女は、入って来れないんですね?」
マーサ様は、頷く。
そして、彼女は、襲撃者の少女の顔を見て驚いた顔をした。
「あの方は……。何故……!?」
「マーサ様、あの人を知ってるんですか?」
まだ、俺を庇うように前に出ているカイルくんが聞いた。
「えぇ…。彼女は、スペンサー公爵家のご令嬢よ……。」
マーサ様の言葉にカイルくんもリオルくんも息を飲んだ。
公爵家のご令嬢!?
ラインハルトと同じ位の人ってこと?
なんでそんな人が俺を睨みつけてるの?
訳が分からず混乱した。
いつの間にか近くに来ていたリオルくんがマーサ様に確認をとる。
「マーサ様、彼女がスペンサー公爵家のご令嬢に間違いないんですね?」
「えぇ、何度か夜会で見かけた事があります……。」
リオルくんが言い難そう言う。
「そうですか……。
スペンサー公爵家のご令嬢の話なら何度か聞いたことがあります。
わがままで、使用人に酷い仕打ちをしていると…。
あと、トオルさん勘違いしないで聞いてほしいんですが、彼女はアレン様と結婚すると言い回って居たそうです……。」
彼の言葉に後ろから鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
「……は?アレンと結婚?」
アレンの婚約者?
「いえ、あくまでも彼女が勝手に言って居るだけで、アレン様は、婚約は疎か、2人で会われたことも無いはずです…。」
そ、そっか…。
彼の言葉に胸を撫で下ろした。
じゃあ、質の悪いストーカーってことか?
「うるさいわ!
アレンは私と結婚するのよ!
決まって居たのに……。
お前がアレンを誑かしたせいで…。」
リオルくんの言葉を聞いて、彼女は激昂する。
孤児院に入ろうとまた門を潜ろうとし、結界に阻まれていた。
「結界ね…。
私の邪魔はさせないわ……。」
彼女は、右手を掲げ何かを呟く。
彼女の指にはめられている禍々しい指輪が黒く輝き、黒い靄が結界に向かって押し寄せてきた。
何かが軋むような音が辺りに響く。
「そ、そんな…。結界が悲鳴をあげてる?」
リオルくんが空を見つめながら不安そうに呟いた。
「……ここの結界は、王宮と同じ位強力な筈です。
そんなこと、有り得ない……。」
カイルくんも目の前で起きている状況が理解出来ていないようだ。
彼女が出した黒い靄は、どんどん増えていき孤児院一帯を飲み込む勢いだった。
黒い靄の向こうには、何かおぞましく、禍々しい存在が居た。
それらは、結界越しにこちらを見ている。
「もっと、もっとよ!
あそこに私の憎い奴が居るの!
私は、あいつを無惨に殺してやりたいの!
そうすれば、アレンは、私の元に来てくれるはずでしょ?」
そう叫ぶ彼女の表情は、異常なまでに高揚しており、恐怖でしか無かった。
「リオル兄さん、マーサ様とトオルさんと一緒に中へ!
あの黒い靄は、恐らく穢れの一種です。
結界も長く持ちません!」
カイルくんが敵から目を離さずに伝えてくる。
穢れ?
確か、竜が魔物化してドラゴンになるのも穢れのせいだった筈だ。
でも、何故それを彼女が操ることが出来る?
「トオルさん、マーサ様と中に避難してください。」
リオルくんがこちらを見据えながら言う。
それだけ伝えると、彼はカイルくんの隣に並び敵に向き直った。
「リオル兄さん!?なにを?」
「大切な弟を置いて逃げられるわけないだろ?
安心しろ、これでもセバスさんとラインハルト様にいっぱい いじめられてたんだ。
露払い位は出来るさ。」
リオルくんは、ニヤッと笑いながらカイルくんに語りかけた。
そんなリオルくんにカイルくんは呆れたように笑う。
「待って!俺だって!」
リオルくんとカイルくんが残るのに自分だけ安全な所になんて行けない。
「「トオルさんはダメです!」」
リオルくんとカイルくんが声を重ねて叫んだ。
「トオルさんは、今魔法を使っちゃいけません!
白魔法を使ったら魔力が尽きちゃうじゃないですか!?」
「すみません、トオルさん。
僕じゃトオルさんを護りながらでは、闘えないんです……。
分かってください。」
カイルくんとリオルくん、それぞれから説得をされる……。
「でも……。」
わかっている。
俺がここに残っても2人の足でまといになるだけだ……。
悔しくてしか無かった。
無意識に唇を噛み締めてしまい、口の中に鉄の味が広がる。
分かっている。
でも、それでも自分だけが安全な所に逃げるなんて許せなかった……。
結界が上げる悲鳴が更に大きくなる。
「マーサ様!トオルさんを!」
カイルくんが叫ぶ。
マーサ様も辛そうな顔をしている。
彼女は、一言「ごめんなさい…」とだけ言って俺を無理矢理引っ張り、建物の中に引きずりこんだ。
「マーサ様、離してください!」
俺は身を捩り、戻ろうとする。
しかし、無情にも厚い扉は堅く閉まってしまう。
扉が閉まった瞬間、マーサ様が魔力を練り上げ扉に触れた。
彼女の触れた場所から魔力が流れ込み、扉に1つの魔法陣がひかりだした。
「マーサ様!開けてください!お願いです!マーサ様!」
咽び泣きながら、マーサ様に懇願した。
しかし、彼女は、泣きながら首を横に振るだけだった。
その瞬間、扉の向こうから何かが割れるような甲高い音が響く。
さっきまでの静寂が嘘のように、地響きと間違うような沢山の足音が響いてきた。
マーサ様は、怯える子供達を宥めながら、異変を察知して中から飛び出してきたシスター達に淡々と指示を出す。
「今、襲撃を受けています。
孤児院の第2結界を発動させましたが、いつまで持つか分かりません。
子供達を、最終結界のある部屋へ誘導してください。」
「「院長、承知しました……。」」
淡々と指示を出しているマーサ様の口元からも血が滲んでいた……。
「マーサ様!マーサ様はいらっしゃいますか!?」
彼は走りながら誰かを探して居るようだ。
孤児院の庭では子供たちが、はしゃぎながら遊んでいた。
「あ!リオルお兄ちゃんだー!」
何人かはリオルくんの事を知って居るようで、嬉しそうに手を振って居る。
「リオル?どうしたの?そんなに慌てて……。」
建物の中から年配の女性が出てきた。
リオルくんは探し人を見つけると急いで彼女の元に駆け寄る。
あの人が院長さんかな?
「トオルさん、僕達も行きましょう。」
カイルくんに声をかけられて俺達も女性の元へと向かった。
「マーサ様、ご無沙汰しております。
いきなりすみません……。実は……。」
リオルくんはマーサ様に詳しい事情を説明する。
「ソランジール様の御屋敷が!?
事情はわかりました。
ここなら結界があるから無事なはずだから……。
そちらがトオルさんかしら?」
マーサ様は、俺を見ながら聞いてくる。
「はい。トオル・オガワといいます。
騎士団で料理人をさせてもらっています。
ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません………。」
俺は、マーサ様の方を向いて姿勢を正しながら挨拶をした。
「そう。貴方がトオルさんね。
会いたかったわ……!
迷惑だなんて…気にしないでいいのよ?」
ん?会いたかった?
どういう意味だろう?
「あぁ、ごめんなさいね。
前に、ヴェインとラインハルト様が遊びに来てくれた時に聞いたの。
アレンに大切な人が出来たって…。
貴方のことでしょ?」
マーサ様は、困惑している俺に教えてくれた。
彼女は、陽だまりのような暖かい笑顔を向けてくれる。
あぁ、この人はアレンのことをとても大切に思って居るんだ。
まるで本物の母親のように……。
「はい…。
ありがとうございます……。」
この人や、ヴェインさん達、皆がアレンを支えてくれて居たから俺はアレンに出会うことが出来たんだな……。
そう思ったら自然とお礼の言葉が口から出ていた。
「あ、あの、マーサ様…。
トオルさんとカイルのことをよろしくお願いします。
僕は、ラインハルト様を追いかけます。」
リオルくんが遠慮がちにマーサ様に声をかける。
「あぁ、そうよね。
急いでるのに長引かせてしまってごめんなさい……。
リオル、気をつけて行くのよ?」
「はい!では、また!」
リオルくんは、マーサ様に会釈してからまた走り出した。
彼が孤児院の門を潜ろうとした時、異変は起きた。
「え?空が?」
真っ先に異変に気づいたのはカイルくんだった。
彼の言葉にその場にいた誰もが上を見上げる。
まるでこの場にだけ夜が訪れたように孤児院の一帯だけ空が暗くなって居たのだ。
門を潜ろうとしていたリオルくんが何かを感じとり、後ろに飛んだ。
その数秒後、リオルくんがいた場所に黒い靄が襲いかかる。
「!?」
カイルくんが即座に俺を庇うように前に飛び出す。
「トオルさん!下がっててくだい。
敵襲です!
マーサ様、子供達を建物の中へ!」
彼は、こちらを見ずに叫ぶと素早く魔法で剣を作り出し次の攻撃に備えた。
「誰だ!」
黒い靄が放たれた先を見ながらリオルくんが叫んだ。
そこには、全身に黒い靄を纏った女の子が居た。
歳はリオルくんより少し若いくらいだろうか?
整った顔立ちと綺麗で上質そうな服とは裏腹に、彼女の表情は、まさに般若のようなものであった。
彼女は、リオルくんの問いかけには答えずただただ真っ直ぐに、俺を睨みつけてくる。
「お前があの人を奪ったのか?」
それほど大きな声でもないのに、大気が震える程の威圧感のある声だった。
その声に先程まで騒いでいた孤児院の子供達もピタリと静かになる。
あの人?
どういうこと?
誰のことを言ってるんだ?
彼女は、少しずつ孤児院の門に近づいてくる。
その足音だけが静寂の中に響いていた。
マーサ様は、その足音を聞いて我に返り、急いで子供達に建物の中に入るように指示を出す。
子供達は、マーサ様の言葉に従い中に避難して行った。
襲撃者の少女が門を潜ろうとした時、何かに弾かれたように、後ろによろけた。
よく目を凝らしてみると、彼女と門の間に光の壁のような物がある気がする。
「悪意持つものを中に入れない為の結界です。」
子供達を避難させ終えたマーサ様が教えてくれる。
「なら、彼女は、入って来れないんですね?」
マーサ様は、頷く。
そして、彼女は、襲撃者の少女の顔を見て驚いた顔をした。
「あの方は……。何故……!?」
「マーサ様、あの人を知ってるんですか?」
まだ、俺を庇うように前に出ているカイルくんが聞いた。
「えぇ…。彼女は、スペンサー公爵家のご令嬢よ……。」
マーサ様の言葉にカイルくんもリオルくんも息を飲んだ。
公爵家のご令嬢!?
ラインハルトと同じ位の人ってこと?
なんでそんな人が俺を睨みつけてるの?
訳が分からず混乱した。
いつの間にか近くに来ていたリオルくんがマーサ様に確認をとる。
「マーサ様、彼女がスペンサー公爵家のご令嬢に間違いないんですね?」
「えぇ、何度か夜会で見かけた事があります……。」
リオルくんが言い難そう言う。
「そうですか……。
スペンサー公爵家のご令嬢の話なら何度か聞いたことがあります。
わがままで、使用人に酷い仕打ちをしていると…。
あと、トオルさん勘違いしないで聞いてほしいんですが、彼女はアレン様と結婚すると言い回って居たそうです……。」
彼の言葉に後ろから鈍器で殴られたような衝撃を受けた。
「……は?アレンと結婚?」
アレンの婚約者?
「いえ、あくまでも彼女が勝手に言って居るだけで、アレン様は、婚約は疎か、2人で会われたことも無いはずです…。」
そ、そっか…。
彼の言葉に胸を撫で下ろした。
じゃあ、質の悪いストーカーってことか?
「うるさいわ!
アレンは私と結婚するのよ!
決まって居たのに……。
お前がアレンを誑かしたせいで…。」
リオルくんの言葉を聞いて、彼女は激昂する。
孤児院に入ろうとまた門を潜ろうとし、結界に阻まれていた。
「結界ね…。
私の邪魔はさせないわ……。」
彼女は、右手を掲げ何かを呟く。
彼女の指にはめられている禍々しい指輪が黒く輝き、黒い靄が結界に向かって押し寄せてきた。
何かが軋むような音が辺りに響く。
「そ、そんな…。結界が悲鳴をあげてる?」
リオルくんが空を見つめながら不安そうに呟いた。
「……ここの結界は、王宮と同じ位強力な筈です。
そんなこと、有り得ない……。」
カイルくんも目の前で起きている状況が理解出来ていないようだ。
彼女が出した黒い靄は、どんどん増えていき孤児院一帯を飲み込む勢いだった。
黒い靄の向こうには、何かおぞましく、禍々しい存在が居た。
それらは、結界越しにこちらを見ている。
「もっと、もっとよ!
あそこに私の憎い奴が居るの!
私は、あいつを無惨に殺してやりたいの!
そうすれば、アレンは、私の元に来てくれるはずでしょ?」
そう叫ぶ彼女の表情は、異常なまでに高揚しており、恐怖でしか無かった。
「リオル兄さん、マーサ様とトオルさんと一緒に中へ!
あの黒い靄は、恐らく穢れの一種です。
結界も長く持ちません!」
カイルくんが敵から目を離さずに伝えてくる。
穢れ?
確か、竜が魔物化してドラゴンになるのも穢れのせいだった筈だ。
でも、何故それを彼女が操ることが出来る?
「トオルさん、マーサ様と中に避難してください。」
リオルくんがこちらを見据えながら言う。
それだけ伝えると、彼はカイルくんの隣に並び敵に向き直った。
「リオル兄さん!?なにを?」
「大切な弟を置いて逃げられるわけないだろ?
安心しろ、これでもセバスさんとラインハルト様にいっぱい いじめられてたんだ。
露払い位は出来るさ。」
リオルくんは、ニヤッと笑いながらカイルくんに語りかけた。
そんなリオルくんにカイルくんは呆れたように笑う。
「待って!俺だって!」
リオルくんとカイルくんが残るのに自分だけ安全な所になんて行けない。
「「トオルさんはダメです!」」
リオルくんとカイルくんが声を重ねて叫んだ。
「トオルさんは、今魔法を使っちゃいけません!
白魔法を使ったら魔力が尽きちゃうじゃないですか!?」
「すみません、トオルさん。
僕じゃトオルさんを護りながらでは、闘えないんです……。
分かってください。」
カイルくんとリオルくん、それぞれから説得をされる……。
「でも……。」
わかっている。
俺がここに残っても2人の足でまといになるだけだ……。
悔しくてしか無かった。
無意識に唇を噛み締めてしまい、口の中に鉄の味が広がる。
分かっている。
でも、それでも自分だけが安全な所に逃げるなんて許せなかった……。
結界が上げる悲鳴が更に大きくなる。
「マーサ様!トオルさんを!」
カイルくんが叫ぶ。
マーサ様も辛そうな顔をしている。
彼女は、一言「ごめんなさい…」とだけ言って俺を無理矢理引っ張り、建物の中に引きずりこんだ。
「マーサ様、離してください!」
俺は身を捩り、戻ろうとする。
しかし、無情にも厚い扉は堅く閉まってしまう。
扉が閉まった瞬間、マーサ様が魔力を練り上げ扉に触れた。
彼女の触れた場所から魔力が流れ込み、扉に1つの魔法陣がひかりだした。
「マーサ様!開けてください!お願いです!マーサ様!」
咽び泣きながら、マーサ様に懇願した。
しかし、彼女は、泣きながら首を横に振るだけだった。
その瞬間、扉の向こうから何かが割れるような甲高い音が響く。
さっきまでの静寂が嘘のように、地響きと間違うような沢山の足音が響いてきた。
マーサ様は、怯える子供達を宥めながら、異変を察知して中から飛び出してきたシスター達に淡々と指示を出す。
「今、襲撃を受けています。
孤児院の第2結界を発動させましたが、いつまで持つか分かりません。
子供達を、最終結界のある部屋へ誘導してください。」
「「院長、承知しました……。」」
淡々と指示を出しているマーサ様の口元からも血が滲んでいた……。
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