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本編
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しおりを挟む「リオル、本当に久しぶりだな!
孤児院を出てから以来だからもう5年は会ってなかったか?
そっちは、カイルか!
大きくなったなぁ……え?ラ、ラインハルト様!?」
後ろから入って来たカイルくんを見てケットくんは嬉しそうな顔をするが、その後ろから入って来たラインハルトを見て今度は真っ青な顔をする。
百面相をしているケットくんを見てリオルくんとラインハルトは、クスクスと笑っていた。
「おう、ケット!
久しぶりだな?自分のお店を持ったのか?」
ラインハルトが真っ青な顔をしているケットくんに笑いながら声をかけた。
「ラ、ラインハルト様、こんな汚い場所にお越しいただきありがとうございます。
き、今日は、どのようなご要件でしょうか?」
ケットくんは、今にも土下座をしそうな勢いで頭を下げた。
「いや、そんなにかしこまるなよ…。
俺の友人がソファーと机を探しててな。
リオルが連れてきてくれたんだ。
ここに来るまでケットの店だって知らなかったぞ。
その歳で自分の店を持つなんて頑張ったんだな…。」
ラインハルトは懐かしそうにケットくんに話しかけた。
その言葉を聞いてケットくんは少し涙ぐみながら
「ラインハルト様、ありがとうございます。
俺には勿体ないお言葉です…。」
と小さな声で返す。
そのあとには、リオルくんに詰め寄って
「お前、ラインハルト様をこんな店に連れて来やがって何考えてるんだよ!
せ、せめて連絡くらい寄越してから来いよ!」
と怒っていた。
なんだか、感情豊かな子だなぁ……。
ケットくんは、ひとしきりリオルくんに怒ったあと、俺に気づいて頭を下げてくる。
「あ、あの、大変見苦しい所をお見せして申し訳ありません……。
ラインハルト様のご友人の方には申し訳ありませんが、うちのお店などには貴族の方にお売りできるような上等な品物は無くて……。」
今度は真っ青な顔で言っていた。
その様子を見ながらリオルくんとラインハルトがクスクスと笑っている。
カイルくんは苦笑いをしていた。
「ケット?百面相してるところ悪いんだけど紹介してもいいか?
こちらは、トオルさん。
今の上司というか、師匠というか、とりあえず凄い人なんだよ!
トオルさん、こっちがケットです。
孤児院で一緒に育った幼馴染なんです。
こんなこと言ってますけど、昔から凄く手先が器用で家具とかも作るの得意だったんですよ。
腕は、僕とカイルが保証します。
な、カイル?」
話を振られたカイルくんは驚きながらも
「はい!トオルさん、ケットさんは凄いんですよ!
孤児院でも良く家具を作ってました!」
と教えてくれる。
ケットくんは、「え?上司?お前、ラインハルト様の家の使用人になったんだしゃないの?」と頭に疑問を浮かべていた。
「なぁ、トオル、カイルとリオルは久しぶりにケットに会ったんだしちょっと話させてやろうぜ?」
ラインハルトが気を利かせて言ってくる。
「うん、そうだね。
じゃあ、3人はちょっとゆっくり話しててよ!
ラインハルトと一緒にソファーとか見てくるから。」
ラインハルトもケットくんと話したいだろうけど、彼のあの様子じゃラインハルトが居るのは逆効果だろうし3人にそう伝える。
ケットくんは断ったが、リオルくんが賛成してくれた。
3人をそのままにして店内をラインハルトと見て回る。
家具を取り扱ってるだけあって結構広い店内にはいろいろな物があった。
「トオルさん、ケットさんが見本で並べてある以外にもあるので気になった家具があったら聞いてくださいって言ってました。」
後ろからカイルくんが追いついてきて教えてくれる。
カイルくんもこちらに加わってくれるみたいだ。
「カイルくんは、ケットくんと話さなくてよかったの?」
「はい、2人は特に仲良かったので積もる話もあるでしょうから。
それに、僕は、トオルさんの護衛ですから!」
カイルくんは、真剣な顔で言ってくる。
そっか、俺は、街に遊びに来ただけのつもりだったけどカイルくんにとっては初の護衛任務でもあるんだな。
と言っても家具屋さんでどんな危険があるのかは分からないけど……。
まぁ、カイルくんのやる気に水をさすことも無いから何も言わないでおこう。
3人であちこちを見ていると1つのソファーに目が釘付けになった。
「ん?これが気になったのか?」
ラインハルトが俺が見ていたソファーを見る。
木製のソファーに紺色のふわふわな生地が付けられていて手触りも凄くよかった。
木材にされている飾り彫りは、意匠を凝らしたもので思わず見蕩れてしまうくらいだ。
「おぉ、このソファー凄いな。
ケットが作ったんだよな?
凄く手が込んでるのが感じ取れる。
普通に貴族街で売っても売れるんじゃないか?」
ラインハルトもソファーをみて感嘆の声を上げていた。
金銭感覚が狂ってるラインハルトがここまで絶賛するなんて……。
「座って見ても良いのかな?」
カイルくんに聞いてみる。
「はい、見本だから御自由に試してくださいって言われてます。」
カイルくんの言葉に安心しながら腰掛けてみた。
座ると、程よく身体が沈み込み手触りがいい生地に身体が包まれているような錯覚さえあった。
あ、これ、めちゃくちゃいい…。
逆に良すぎて人をダメにするソファーだ……。
「やばいかも、凄い気に入ったけどこれに座ったら何もする気が起きなくなりそう……。」
3~4人は軽く座れそうなソファーだから足を伸ばして寝れちゃいそうだし…。
俺の言葉に、ラインハルトとカイルくんも気になったのか隣に座ってくる。
「おぉ、これは確かに動きたく無くなるな…。」
「はい、ラインハルト様の部屋のソファーも気持ちよかったですけど、このソファーも凄いです……。」
2人ともだらけた顔をしながら呟く。
「は!ダメだ。凄い欲しいけどこれは人をダメにするソファーだ!」
立ち上がり、断念しようとする。
「いや、むしろ、絶対買え。
お前は、たまにでもこれに座ってダメ人間にならないと働きすぎるだろ?」
ラインハルトにそんなことを言われてしまう。
「そうですね。
トオルさん、こういうのが部屋に無いと絶対に厨房にしか居ないですもんね。」
カイルくんにまでそんなこと言われてしまった。
2人とも地味に酷くないか?
「………わかったよ。買うよ…。」
俺の言葉に、2人は満足そうに頷いた。
その後は、ラインハルトとカイルくんにソファーに合う高さの机をと、絨毯を探して貰ってリオルくんとケットくんの所に戻った。
ケットくんに伝えると直ぐに用意をしてくれた。
同じソファーの色違いもあるみたいだけど、さっきのが色が気に入ったことを伝えると見本とは違う同じソファーを用意してくれる。
そちらのソファーも見事な出来で気に入った。
「値段は、いくらかな?」
あんなにいいソファーだからお金が足りるかちょっと心配だ。
そう聞くと、ケットくんが青い顔をして答えた。
「ラインハルト様のご友人からお金を取る訳には行きません!」
「いやいや、ダメだよ!
あんなにいい物を作れるんだからちゃんとお金を取って自分に還元させないと!」
俺の言葉にラインハルトも頷いている。
「そ、そんなぁ……。では…このくらいでいかがでしょうか?」
ケットくんは困った顔をしながら金額の書いた紙を見せてきた。
ソファーと、絨毯、机で計3万……。
いやいや、安すぎるでしょ!
機械で作ってたであろう元の世界だってあれだけいい物はもっと高い値段がするはずだ。
それに比べて魔法はあるかもしれないけど、基本的に手作業で作るこの世界だ。
割に合わない。
「安すぎる!」
「い、いえ、材料費はこれよりも安いですし……。」
ケットくんが小さい声で呟く。
はぁ、仕方ないか…。
「ケットくん、ちなみに作るのにどれくらい期間がかかったの?」
俺の質問の意図が分からなかったみたいでケットくんは素直に教えてくれた。
「えっと、机は、1日くらいでしょうか?
絨毯は、3日で、ソファーは5日くらいだったと思います。」
材料費は、3万より少し安いくらいって言ってたかな?
とりあえず、3万かな。
全部で8日間か。
これだけ凄い品物をたった8日で作れるなんてケットくんって天才なんじゃ……?
「リオルくん、こっち月の給料ってどのくらいかな?」
「え?そうですね、15万くらいあれば平民街だとかなり余裕に暮らせるくらいでしょうか?」
リオルくんが頭に?を浮かべながら教えてくれる。
え!じゃあ、ヴェインさんがくれた特別報酬ってめちゃくちゃいい金額じゃん!?
あ、とりあえずそれは置いておいて頭の中で大雑把に計算する。
だいたい11万くらいかな?
一応、リオルくんにも確認をしてちょっと高いくらいだと言われたがまぁ、そこは気にしない。
ケットくんにマジックバックから11万ガドを渡たす。
「トオル様、こんなに頂けません!」
「いや、ダメだよ、むしろ、俺からしたらケットくんの仕事に対して安く感じるくらいの値段だもん。
さっき俺も上司から言われた受け売りだけど、自分の仕事に対しての正当な報酬は受け取らないといけないんだって。」
俺の言葉にケットくんは困った顔をしてラインハルトを見る。
「ケット、黙って受け取っておけ。
トオルは、結構強情なとこあるし、それに俺も安すぎると思う。
受け取らないなら後でうちの家から1桁足した金額を届けさせるぞ?」
ラインハルト、それはただの脅しじゃ……。
ラインハルトの言葉に更に顔を青くしたケットくんは
「いえ、この金額で大丈夫です。
ありがとうございます……。」
と言ってくれた。
まさか、値下げ交渉じゃなくて値上げ交渉をすることになるなんて思わなかったけど、無事いいソファーが手に入ってよかった……。
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