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本編

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1度部屋に戻り、街に行く準備をした。
準備と言ってもアレンが買ってくれた服に着替えたくらいだが…。

鏡で自分の姿を確認する。

「大丈夫かな?
初めては、アレンとデートの時に来たかったけど……。
アレンが帰ってきたらまた街に連れて行って貰おう…。」

腰にヴェインさんから借りたマジックバックを付けて準備は完了だ。

ラインハルトは自分の部屋にいるかな?

隣のラインハルトの部屋を訪ねてみる。
扉をノックすると中からはラインハルトの声がして、扉が開いた。

リオルくんが扉を開けてくれた様で、カイルくんもラインハルトと一緒にソファに座っている。

「ごめん、お待たせ!」

「意外に早かったな?
お金はどうだった?」
ラインハルトが聞いてくる。

「大丈夫だったよ!
臨時収入貰っちゃった…。」

3人が不思議そうな顔をしたから、詳しく説明する。


「あぁ、なるほどな。
確かに、トオルの仕事の成果を考えれば特別報酬がでてもおかしくないよなあ。」
ラインハルトが納得したように言う。

「そうですよ!
実際、トオルさんが来てから騎士団のご飯は前からは考えられないくらい美味しくなりましたもん!」
カイルくんが嬉しそうに言ってくれた。

リオルくんは、カイルくんの頭を撫でながら
「この中じゃカイルが1番トオルさんの恩恵を受けてるもんな。」
と言っていた。

確かに、最近騎士団に来たラインハルトやリオルくんよりも、前の食事の様子を知っているカイルくんの方が料理が美味しくなって嬉しく思ってくれてるかもしれない。

「じゃ、そろそろ出発するか!」
ラインハルトがみんなに言う。

「では、ラインハルト様、馬車を用意して参ります!」
完全に従者モードのリオルくんが扉を開けて部屋から出ていこうとするが、ラインハルトがそれを止めた。

「リオル、ちょっと待て。
まず、今日は、お前も休暇何だから従者としてじゃなくて普通でいい。
それと、トオルは街に行くのは2回目だろ?」

ラインハルトに止められたリオルくんがちょっとだけ困ったような顔をする。

確かに、今まではラインハルトの家で従者をしていたんだからいきなりしなくていいと言われたらちょっと可哀想な気もする……。

「うん、前にアレンと服屋さんに行って以来かな…。」

確か、リールさんのお店に騎士団服の採寸に行った時が最後だった気がする。

アレンに王都に連れてきて貰った初日は、彼が俺を抱えながら街の中を歩いてくれたからほぼ街を見てないし…。

「なら、せっかくだから歩いて街まで行こうぜ?
家具屋まではちょっとだけ距離があるが、初めて歩くなら楽しいだろ?」

「いいの!?是非お願いします!」

俺を気遣ってくれるラインハルトの言葉が嬉しくて二つ返事で賛成した。

リオルくんもカイルくんも俺があんまり街に行ったことないと知って、歩いていくのに賛成してくれた。


早速、騎士団の門へ行き、街へ出てみる。
騎士団は、演習場や鍛錬場など広い土地が必要な関係で街の外れに位置している。
街の中央には王宮がそびえ立って居て、その周りを貴族が住む区間、またその周りを平民が住む区間と分けられていた。

お店は、貴族が住む区間と平民が住む区間の両方に点在しているようだ。

「で、何処まで行くの?」
4人で歩きながらラインハルトに聞いてみる。

「あぁ、うちの家のよく頼む家具屋は貴族街の方だな。」

「あの…ラインハルト様ちょっとよろしいでしょうか?」
リオルくんが遠慮がちに手を挙げる。

「ん?リオルどうしたんだ?」

「いえ、あの、お言葉ですが、ソランジール家御用達の家具屋にトオルさんを連れていくんですよね?」

「あぁ、なんか不味いか?」
ラインハルトが何食わぬ顔で聞く。

「トオルさん、一応聞きますけど本当に行きます?
正直、ラインハルト様の金銭感覚は一般の人とはズレてるところがあるので…。」

ラインハルトには聞こえないように小さい声でリオルくんが俺に言ってきた。

「やっぱりそうだよね?
ちなみに予算このくらいなんだけど……。」

リオルくんにヴェインさんから貰った臨時収入のうちからソファーと机に使える金額を伝えた。

「トオルさん…。
残念ながら、ラインハルト様が行こうとしてるお店だと桁が2つくらい足らないです…。」

は?桁が1つ!?

半分くらいなら家具に回してもいいって思ってたけど、それでも桁が1つ足らないの?

元の世界のお値段以上のお店がどれだけ凄かったのかを改めて実感した。

「ラインハルト、無理無理、予算全く足らないからもっとお手頃なお店でお願いします…。」

ラインハルトに懇願する。

「はぁ?足らない分は出してやるって?
前にお祝いにソファー買ってやるって言っただろ?」

ラインハルトは俺の懇願を気にもせずそんな事をいい出した。

「いや、要らない!
そんな高いソファーでくつろげないよ!
ねぇ、カイルくん、リオルくん!」

カイルくんとリオルくんに賛同を求める。
2人も首がちぎれそうなくらいブンブンと縦に降っていた。


「いやいや、カイル、さっき普通にくつろいでただろうが?」

ラインハルトがカイルくんに詰め寄る。

カイルくんは、さっき普通にソファーに座ってた事を思い出して顔を真っ青にしていく。

あ、そう言えばリオルくんは座らず立ってたな……。
あのソファーの値段を知ってたから座らなかったのか…。

一体幾らなんだ……。
いや、値段を知ってしまったら二度とラインハルトの部屋のソファーに座れなくなるから知らない方がいい気がする。

まさに、知らぬが仏だな……。

ラインハルトから解放されたカイルくんは、リオルくんに詰め寄って

「兄さん!?なんで教えてくれ無かったんですかぁ!」と半泣き状態だ。

リオルくんは困ったように目を逸らしている。


「と、とりあえず、そんな高い家具は要らないから、リオルくんお手頃なお店知ってる?」

ラインハルトよりも遥かに俺に金銭感覚が近いであろうリオルくんに聞いてみる。


「はい!トオルさんの予算ならそれなりにいい物が買えると思います!」

リオルくんは、カイルを慰めながらおすすめのお店をいくつか紹介してくれた。

どれも平民の住む区間にあるお店ばかりで安心する。

ラインハルトはちょっとだけ不服そうだったが、今回ばかりはリオルくんに頼らせてもらおう……。

リオルくんの案内で街を歩く。

街はお祭りでもしてるのか?と言うくらい、人で溢れていた。

まるで地方から初めて東京に来た人のように、ついついキョロキョロしてしまう。
右にも左にも露店がたくさん出ていて食べ物や、小物などがたくさん並んでいた。

「ここは平民街でも特に賑やかな場所なんですよ。」

キョロキョロと落ち着きなく周りを見ている俺に、リオルくんが笑いながら教えてくた。

「わぁ!久しぶりに来たけど相変わらず人がたくさん居るね!」
カイルくんがリオルくんに言う。

「あぁ、カイルと来るのは本当に久しぶりだから、また来れて嬉しいよ!」

リオルくんも本当に嬉しそうにカイルくんの頭を撫でながら笑っていた。


「トオル、周りに見蕩れすぎてはぐれるなよ?
リオル、カイル、トオルを見失わないようにな?」

ラインハルトがまるで引率のお父さんのように注意してくる。

「うん、気をつけるよ…。」
本当にはぐれたら洒落にならないからラインハルトから離れないように気をつけよう……。


「トオルさんは、露店も気になってるみたいですけどちょっと見ていきますか?
一応、もうすぐ家具屋さんに着きますけど?」
リオルくんが気遣って聞いてくれた。

「うーん……。
正直、露店の食材が気になるけど…。
止まらなくなりそうだから先に家具を買っちゃおうかな?」

食材をたくさん買い込んだせいで家具代が足らない…なんてことになりかね無いから先に大きい買い物を終わらせちゃおうかな…。

俺の言葉に3人が俺らしいと笑う。

笑いながら歩いていると、リオルくんが1件のお店の前で止まり振り向いた。

「トオルさん、ここです!」

さっきまであったような露店ではなく立派な店構えのお店だった。

看板には、達筆な文字で〖ケット家具店〗と書かれている。

その看板を見ると、ラインハルトとカイルくんが何かに気づいたように声を上げた。

「「あっ!ここって……!?」」
2人の声が綺麗にハモったからか、リオルくんがクスクス笑いながら扉を開けて中に入る。

後に続いて中に入るとお店の中には、所狭しとたくさんの家具が並べられていた。

「おーいー!ケットー!居るかー!?」

リオルくんが大きな声で叫ぶ。

リオルくんの知り合いのお店なのかな?

「はーい!いらっしゃいませー!」
奥の方からリオルくんと同い年くらいの青年が出てくる。

「よ!ケット久しぶり!」

リオルくんがカイルくんに見せるのとはまた違う親しげな雰囲気でケットくんに声を掛けた。

「ん……?え?リオル!?久しぶりじゃないか!」

ケットくんは思わぬ来客に驚きの声を上げていた。
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