料理人は騎士団長に食べさせたい

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本編

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1人で部屋に戻ってしばらくした後、ラインハルトから声の魔法が届いた。

「ヒューガに会いたいなら、執務室まで来いってさ。」

「わかった!すぐ行く。」

執務室に付き中に入ると、だらけながらソファーに座っている紺色の髪の人が目に入った。
あの人がヒューガさん?

顔立ちがアレンやヴェインさん達とは違って元の世界の黄色人種って感じだった。

座って居るから正確には分からないが、背はラインハルトよりも少し小さいくらいかな。
体付きは、細めだけどしっかりと鍛えられている気がする。

大食漢だって聞いてたから、もっとガッシリした人を想像してた。

それに、なんか、聞いてたイメージとは違ってなんと言うか、気怠げな感じだ。

この人がヴェインさんの副官?

「おう、トオル来たか!」
ラインハルトがソファーを勧めてくれた。

「ヒューガ、こいつがさっき話してたうちの新しい料理人だ。
で、トオル、この怠そうにしてるのが俺の副官のヒューガだ。」
ヴェインさんが紹介してくれる。

「えっと、初めまして。
少し前にこちらの料理人に就いたトオル・オガワです。
よろしくお願いします。」

俺が名前を言うとヒューガさんは少しだけ気になったように眉をひそめた。

「トオル・オガワ?それにその髪の色、瞳の色…。お前、生まれは?」

えっと…、言っていいのだろうか?
ヴェインさんとラインハルトを見るとあからさまに、あ、渡り人のこと言うの忘れてたって顔をした。
別に内緒なわけでもないけど…。
遠征から帰って来て疲れてるのに長話をするのも申し訳ないしなぁ…。

「生まれは、遠いところ?ですかね?」

俺の言葉にヒューガさんはまた眉をひそめてから興味を無くしたように頷いた。

「まぁ、詮索するのは野暮か。
俺は、ヒューガ・ヒムロだ。
あまり会わないと思うがよろしく頼む。」

ヒューガ・ヒムロ。
やっぱり響きが日本人みたいだった。

「ヒューガさんですね。
疲れてるのにすみません。」

「ヒューガでいい。
それにしても、この国に来て1回でちゃんと名前を発音されたのは初めてだ。
お前、歳は?」

ヒューガさんは、驚いた顔をしながら聞いてきた。

「え?24です。」

「24?にしては幼いな。
そう言う種族なのか?
俺の1つ下にはとても見えん。」

ヒューガさんは、25歳なのか…。

俺達の会話にラインハルトが吹き出した。

「トオル、残念だったな。
ヒューガから見てもお前は幼く見えるらしいぞ?」

「ラインハルト、う、うるさい…。
俺だってあと2~3年したらもっと大人びて見えるわ!」

確かに東洋人っぽい人ならこっちの人より童顔かなって少しは期待したけどね…。

「ほう?お前がそんなふうに接する人間がいるとは思わなかった。」
ラインハルトと俺のやり取りを見てヒューガさんが驚いた声を上げる。

「俺だって、ヒューガがそんなに言葉を発してるところ見て驚いてるよ。」

ラインハルトが仕返しとばかりにヒューガさんに返した。

「そうか?」

ヒューガさんはラインハルトとヴェインさんをみて問いかけた。

「あぁ、俺も驚いたぞ。ヒューガお前、基本的に俺とアレン以外には、文章って言うよりも単語でしか話さないだろ?」

ヴェインさんがヒューガさんを揶揄うように言う。

「用がないからな。
強い奴にしか興味がない。」

あぁ、この人もしかして、ジークムントさん脳筋みたいな人なのかな?


「ほう?それはつまり俺は弱いから興味がないっていいたいのか?」
ラインハルトが少し怒ってような声で問いかける。

あれ、なんか、不穏な空気じゃない?
ヴェインさんが止めに入ろうとするがその前にヒューガさんが口を開いた。

「いや、そんなことはない。
ラインハルト、お前は、俺より強い。」

「え?」
ヒューガさんの言葉にラインハルトが毒気を抜かれたような気の抜けた声を出す。

「だが、お前は、本気で闘おうとしない。だから、戦っても意味は無い。」 

もしかして、この人、ラインハルトの固有魔法のこと気づいてるのかな?

何だか、不思議な人だな。

「それより…。」
ラインハルトが複雑そうな顔をしている中、ヒューガさんがまた口を開く。

「腹減った…。」
お腹を抑えながら呟いた。

「あ、すみません、遠征帰りでお腹すいてましたよね…。」
考えてみたら帰ってきて直ぐに執務室に来たんだろうしご飯とかまだ食べてないだろう…。

「いや、お前、帰って来て真っ先に食堂行って10人前の食事を平らげただろうが。」

「え?」
10人分?
あれ、待てよ?
さっき厨房で20人分追加になったって言ってたような…。

「ね、ねぇ、ヴェイン、遠征に行った人達って何人?」

「え?遠征隊?10人だぞ?」

マジか…。
この人、本当に1人で10人前食べたのか…。

俺が驚いていると更にヒューガさんが呟いた。
「腹減った…。」


「はぁ、わかったよ。
厨房に行って何か作って貰おう。
まだリオル達居るよな?
俺達もまた夕食食べてないから談話室で皆で食うか。」
ヴェインさんがそう言うとヒューガさんが少し嬉しそうに顔を上げた。

なんか、この人、クールなのに抜けてるって言うか…。
ドーベルマンみたいな人だな…。

あ、そういえば、ずっとお茶飲んでお菓子食べてたから忘れてたけど、夕食まだだった。

「なら、俺が厨房に行って来るよ。」

「じゃあ、トオル、ラインハルトと一緒に厨房に行って伝えてきてくれ。
ラインハルト、くれぐれもトオルを監視しとけよ?」

なんでラインハルトまで来るんだよ…。

「おう、わかった。」
ラインハルトは、心得たとばかりに先に厨房へ迎って歩き始める。

「あ、ラインハルト待ってよ!
ヒューガは、何か好きな食べ物ありますか?」


「トオル、敬語じゃなくていい。
隊長や、ラインハルトのように話せ。
俺はこの国の貴族じゃない。」

「わ、わかった。善処する。」
そう答えるとヒューガさんは、心做しか満足気に頷いた。

「俺は、なんでも食べる。
量が沢山あると有難い。」

なんでもいいが1番困るやつだよなぁ…。

「だが、さっき食った料理は、どれも美味かった。
お前が教えたのか?」

「え?うん、でも、それを更にアレンジして料理を作ったのは厨房にいた皆だよ。」

俺の言葉にヒューガさんは満足気に頷く。

「そうか。なら楽しみだ。」


「おーい、トオルー!早く行くぞー?」
先に厨房に向かったラインハルトが呼ぶ声がした。


「だから待ってっばー!」
急いでラインハルトを追って厨房に向かった。

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