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本編

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「あ、そういえば、お前、明日どうせ暇だろ?」
しばらく3人で雑談をしていたらラインハルトが思い出したように口を開く。

「ラインハルト、言い方に悪意を感じるんだけど?
あぁ、暇だよ。どうせ予定もない暇人ですよ。」


「あ、悪い、悪気は無かった。
とりあえず、明日俺も休暇だから街にでも言ってみるか?」

「え?本当?行きたい!」
アレンからは、1人で騎士団から出るなよ?って口が酸っぱくなるくらい言われてたから諦めてた。

「あぁ、じゃあ、決定だな。
カイルも行くだろ?」

突然話を振られたカイルくんは、驚いた後、嬉しそうに頷いた。

「いいんですか!?是非とも連れてってください!」

「あ、でも、カイルくん怪我はもう大丈夫なの?」
病み上がりなのに無理させたくないけど…。
あれ?怪我の後って病み上がりであってるんだっけ?

「大丈夫ですよ!確かに完治はしてませんけど、日常生活とか軽い運動なら問題ないです!
それなのに、皆さんが心配して部屋から出してくれ無かったんですよ…。
リオル兄さんなんて食事も食べさせようとしてくるし…。」

確かに、カイルくんはついつい甘やかしたくなるからなぁ…。

リオルくんなんて、「食べさせるの断られた、カイルが反抗期だ…。」って嘆いてたもんなぁ。


「じゃあ、決定だな。
ついでにリオルも明日休暇って言ってたし、誘って4人で行くか。」

「リオル兄さんも来るんですか!?」
何だかんだ言ってもカイルくんは、リオルくんのことをしたってるから嬉しいようで嬉しそうだ。


「あぁ、じゃあ、食堂に食器を返しに行くついでにリオルに話をしとく。
一緒に来るか?」

「いく!」
すかさず俺が答える。

「いや、カイルに聞いたんだが…?
まぁ、いいや、トオルも持ってくの手伝えよ。」
ラインハルトは、苦笑いしながら承諾してくれた。



お茶会をお開きにして食器を持って行く為に3人で歩いていると何だか外が騒がしい気がした。

「ラインハルト、今日ってなんかあるの?」
前を歩くラインハルトに聞く。


「ん?あぁ、遠征に行ってた騎士団の奴らが帰って来たんだよ。
確か、ヴェインとこの副官が指揮官として行ってた気がする。」

ヴェインさんの副官?
ヴェインさんって副団長じゃなかったっけ?
顔に出ていたみたいでカイルくんが教えてくれる。

「ヴェイン様は、副団長兼第2騎士団の隊長ですよ。
ちなみにアレン様は第1騎士団の隊長も兼任されてます。」

「そうなんだ?じゃあ、アレンにも副官がいるってこと?」
あったことあったっけな?


「いや、アレンのとこは今は空席だ。
ドラゴンが襲って来た時に実力のある騎士が沢山命を落としたんだ。
それに第1騎士団はアレンが居るから戦力的に困ってないし、今回みたいにあいつが居ない時は、ヴェインが第1騎士団の指揮も引き受けてるからな。」

副官が居なくてもヴェインさんが何とかしちゃうのか…。
あの人は、本当に有能なんだなぁ。

「それに、第1騎士団の副官となるとアレン様とヴェイン様くらい強い人じゃないと他の団員が納得しないんですよ…。」
カイルくんが付け足して教えてくれる。

まぁ、確かに、今までアレンが不在の時にヴェインさんがまとめていたんだからヴェインさんくらいの人じゃないとわざわざ副官を作る意味が無いのかもしれない…。

そこで気がついて前を歩く人物を見た。
「カイルくん、ラインハルトはダメなのかな?」

「ラインハルト様なら皆納得すると思いますけど御本人がなんと言うか…。」

「あ、そうだ!
大事なことまだ言ってなかった!」

突然大きな声を出した俺にカイルくんが驚く。
ラインハルトも何事か!と振り向いた。

「え?トオルさん、どうしたんですか?」

「カイルくん、遅くなってごめん。
騎士昇格、おめでとう!」
カイルくんは、俺の言葉にキョトンとした後に、嬉しいそうに笑う。

「はい!トオルさん、ありがとうございます!
しばらくは、トオルさんの警護につかせてもらえる事になりました。
よろしくお願いします!」

「うん、ありがとう!
こちらこそよろしくお願いします。
お祝いしないといけないね。」

嬉しいそうにニコニコするカイルくんの頭を撫でたかったけど、ラインハルトに睨まれて我慢した。
怪我が治ったらいっぱい撫でてあげよう。

「ありがとうございます!
でもせっかくならアレン様が戻って来てからだと嬉しいです…。」

カイルくんは、申し訳なさそうにそう付け足した。

まぁ、そうだよね。
カイルくんは、アレンに憧れて騎士を目指したんだからアレンが居る時の方がいいよね。

アレン早く帰って来ないかなぁ。



食堂に着くと、リオルくん、コルムくん、カベロくんが見習い騎士の子達に指示を出していた。

「トオルさん!」
俺の顔を見ると3人が嬉しそうに駆け寄ってきた。
「ゆっくり休めてますか?」

「いや、仕事人間のトオルさんの事だから、部屋で料理の本とか読んでてラインハルト様かヴェイン様に怒られてそうじゃない?」

「あ、確かにありそう。」

いや、コルムくん、カベロくん、偏見が凄いよ?
まぁ、図星なんだけどさ…。

「カイルもトオルさんに迷惑かけてないか?」
リオルくんがカイルくんの頭を撫でながら聞く。

「大丈夫だよ。
何かしたらラインハルト様に怒られちゃうもん…。」
なんて、嬉しそうに答えている。

カイルくんってリオルくんと2人で話す時は敬語じゃなくなるのか…。
リオルくん羨ましいなぁ…。

2人が本当の兄弟みたいでちょっと羨ましかった。

「あ、そうだ、リオル兄さん、明日お休みなんだよね?」

「うん、どっか遊びに行くか?」

「ラインハルト様とトオルさんが街に買い物に行くから一緒に行かないか?って誘ってくれたんだ。
兄さんも一緒に行かない?」

「俺も行く!ラインハルト様、トオルさん、僕も一緒でも大丈夫ですか?」
リオルくんは、俺とラインハルトを見て聞いてきた。

「もちろん!むしろ、リオルくんを誘いに来たんだから。
あ、でも、忙しそうだけどリオルくんと俺の2人も抜けて大丈夫かな?」

コルムくんとカベロくんを見ると2人は、
「トオルさんは、そんなこと心配しないで楽しんできてください!」

「トオルさんは、そんなに俺達のことが信用出来ないんですね……。」
なんて言われてしまった…。

カベロくんなんて顔を手でおおって泣いている…。

「あ、いや、違うって、カベロくんごめん…。」

俺の反応にカベロくんがクスクス笑う。

あ、嘘泣きだった…。
酷い…。

「クスクス、でも、本当に大丈夫ですから楽しんできてください。
今日は、遠征に行っていた方々が戻られたのでちょっと忙しいだけなので。」

あぁ、そうか、突然用意する食事の量が増えたから忙しそうだったのか。

「といっても、20人分増えただけなのでそこまで大変じゃないですよ。
ただ、お1人だけ沢山食べる方がいらっしゃって……。」


アレンみたいな人がいるんだなぁ。

「あぁ、ヒューガか?」
ラインハルトがその話を聞いて口を開く。

「ヒューガさん?なんか、言葉の響きが馴染み深い気がする。」
ラインハルトの口に出した名前がこの世界に来てから聞かない響きで少し気になった。

それこそ、向こうの世界の『日向』と同じ響きだ。

「そうなのか?
たしか、東の方の島国の生まれだったはずだぞ。
無口だけど、実力は確かで冒険者をしていたんだが、アレンとヴェインに実力を買われてスカウトされたんだ。」

「へぇ?東の島国?」

どことなく日本に通じるものを感じるな。

「ヒューガ様は、凄いんですよ!
見たことないような魔法を使って沢山の魔物を一瞬で倒しちゃうんです。
でも、元々、冒険者だったこともあってじっとしてられない性分らしくて遠征にばかり行ってしまうんです…。」

カイルくんがキラキラした目で教えてくれた。

「そんな気になるなら会ってみるか?」
突然、後ろからヴェインさんに声をかけられてびっくりする。


「ひっ!?ヴェイン!驚かさないでよ…。」

「声をかけただけなのにそんな驚くことも無いだろ?」
ヴェインさんは、俺の反応に失敬なと眉をひそめていた。

「ヴェイン、でも、どうして遠征組を呼び戻したんだ?」
ラインハルトがヴェインさんに聞く。

「いや、アレンが居ないからな。
念の為にも戦力は多い方がいいだろ?」

「それもそうか。」
ラインハルトは、納得したように頷いた。


「で、トオル、ヒューガにあって見たいなら後で執務室に来れば会えるぞ。」
ヴェインさんに改めて言われる。

「ちょっとどんな人か気になるかも。
違う国の料理の話とか聞いてみたい!」

そう答えたらラインハルトがほっとした顔をする。
「トオルらしいな…。
まぁ、よかったよ。
アレンが居たら確実にヒューガが嫉妬されて隊舎が壊れるとこだった…。」

隊舎が壊れるってまた大袈裟な…。
と思っていたらヴェインさんや、カイルくん、見習い騎士の子達まで真剣に頷くものだから笑えなかった…。



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