料理人は騎士団長に食べさせたい

arrow

文字の大きさ
上 下
145 / 196
本編

119

しおりを挟む

突然、ヴェインさんにいい渡された3日間の休暇。

「はぁ、暇だ……。」

昨日は、あの後、厨房に戻ることは許されなかった。
仕方なく、部屋でダラダラ父さんの遺してくれたレシピ集を眺めてこの世界でも再現出来る料理を探していた。

しばらく部屋にいると様子を見に来たラインハルトとヴェインさんに「休めって言っただろ!」ってドヤされてしまった…。

あれ?俺から料理をとったら何が残るんだろ?
趣味らしいものも無いし……。

もしかして、俺って酷く寂しい人間なんじゃ……。

途方に暮れていたら、みるに見兼ねたのかラインハルトが晩酌に誘ってくれて彼の部屋で2人酒を酌み交わして色々な話をした。

ついつい深酒をしてしまい、部屋に戻って寝て起きると既に日が登っていた。

更にベッドでダラダラと過し今に至る。

ちなみに食事は、わざわざリオルくんが部屋まで運んでくれた。

パンケーキやスパニッシュオムレツ、スープなど、どれもよく出来ていて美味しかった。

みんなの実力がめきめきと上がっているのは嬉しいが、何だか寂しくも感じてしまう。

「俺が居なくてもみんなしっかりやってるんだよなぁ。
ちょっとだけ複雑な気持ちだ。」

そんなことを考えていると部屋の扉がノックされた。

「はい?」
扉を開くとラインハルトが立っている。

「おう、トオル、やっと起きたな。
昨日は、ちょっと飲ませ過ぎたか?」

ラインハルトも結構飲んでいた気がするけどケロっとしていた。

「ラインハルト、おはよう!
平気だよ。あんなにゆっくりお酒飲んだの久しぶりだったからちょっとだけ調子乗ったかも。
どうしたの?」


「あぁ、実はな……。」

ラインハルトが苦笑いしながら自分の後ろに気にするように視線を送る。

つられて彼の後ろを見るとカイルくんが立っていた。

「カイルくん!?」

カイルくんは、やっと気がついて貰えたのが嬉しかったのか、笑顔で頷く。

「トオルさん!おはようございます!
しばらく会えてなかったからちょっと寂しかったです…。」


「そういえば、本当に久しぶりだね!
身体は大丈夫?
中に入る……あ、まだ、来客用のソファーとか無かったんだった…。」

前に、ラインハルトに言われてたのにバタバタしてたからまだ用意してなかったことを心から悔やんだ。


「だろうと思ったから俺の部屋でお茶を用意しといた。」
ラインハルトが笑いながらそう言ってくれる。


「本当!?ありがとう、ラインハルト!」

そんな感じでラインハルトの部屋にお茶のお呼ばれをした。

部屋に入ってソファーに座ると、何故かカイルくんに違和感を感じる。

なんか、いつもより距離が遠い?

「ね、ねぇ、なんか、カイルくん今日遠くない?」

気になってついつい口に出してしまう。
カイルくんは、俺の言葉に困った顔をした。

「いや、その…正直、僕もトオルさんの近くに行きたいんですけど……。」

言葉の途中でラインハルトを見る。

「まぁ、だめだよなぁ。
俺が一緒にいる意味を忘れたのか?」
ラインハルトが苦笑いしながらカイルくんに答える。
その言葉にカイルくんがしゅんと気を落としたのがわかった。

「え?なに?カイルくんもっとこっちに来なよ?」
俺もちょっとショックだったからソファーの隣を叩きながらカイルくんを呼ぶ。

「いや、ダメだろ?」
ラインハルトがすかさず答える。

「ダメですよ。」
カイルくんにまで言われてしまう。

「なんでだよ!?」
2人に理由を聞くと

「だって、お前まだ魔法の制御出来ないじゃん?」
「だって、トオルさんまだ魔法の制御出来ないじゃないですか?」

2人が声を揃えて答えた。


「はい?」
なんで魔法の制御の話が今出てくるの?

目を点にしながらラインハルトに続きを促す。

ラインハルトは、俺の様子にため息をつきながら答えた。
「カイルはなぁ、体調が良くなってからは、ずっとトオルに会いたがってたんだよ。
でも、ヴェインが2人で会うのは認めないって言っててな、まぁ、その点に関しては俺もカイルも同意見だったんだけどな。」

「なにそれ?会いに来てくれてもよかったじゃん?
むしろ、俺だって会いたかったけどヴェインに面会謝絶だからって止められてたのに……。」

ラインハルトを睨みながら理由を聞く。

「だから、カイルは、まだ怪我が完全に治ってないんだぞ?
で、会った時にカイルがしんどそうにしてたらお前、絶対魔法使うだろ?」

「あ……。つ、使わないし…。」
絶対に使う気がする…。


「いや、嘘だね、最悪無意識に使うな。
アレンの時とか、料理作ってる時みたいに。」

「そうですね。トオルさんは優しいから絶対に無意識に魔法使っちゃいますね。
だから、会わないようにしてたんですよ…。」


確かに、アレンの時は置いといて料理の時とかは無意識に魔法を使ってるから無いとは言えない…。

「まぁ、トオルが3日間休暇で流石に可哀想だから監視付きならカイルも会っていいぞってヴェインが決めたから今日は来れたんだけどな。」

「つまり、ラインハルトは…」
ラインハルトに指を指しながら聞く。

「あぁ、トオルとカイルの監視役だな。」

ん?カイルくんも?
俺だけじゃないの?

不思議そうにカイルくんを見る。

彼は恥ずかしそうに俯く。

「あぁ、カイルはな…。」

「ラ、ラインハルト様ー!
その話は内緒って言ったじゃないですかぁ!」

カイルくんは、恥ずかしそうラインハルトの言葉を遮ろうとする。

そんなカイルくんをラインハルトはデコピンで黙らせてから彼は、話を続けた。

「こいつ、また部屋から抜け出して訓練に参加しようとしたからヴェインに監視してろって言われたんだよ。」
ラインハルトは、おでこの痛みに悶えてるカイルくんに呆れ顔をする。

「あぁ、リオルくんが、次に部屋から抜け出したらラインハルトを監視に付かせるって、ヴェインが言ってたって話してたもんな。」

「リオル兄さんまで、トオルさんにそんな話したんですか!?」

カイルくんは、俺に話が伝わっていたのが余程堪えたのか顔を赤くして埋めてしまう。

「あのね、カイルくん、怪我をしてるんだからちゃんと安静にしてないとダメだよ?
身体が資本なんだからちゃんと休まないと?」

カイルくんは
「はい…。トオルさんがそう言うなら…善処します…。」
と言って肩を落とした。


バシッ

いきなり、頭に衝撃を受けて驚く。
「ラインハルト、なにすんだよ!」
いつものようにラインハルトにチョップされていた。

「いや、お前だけはその言葉をカイルに言っちゃダメだろ?
お前、3日間休暇にされた理由忘れてないだろうな?」

彼は、苦笑いしながらそう告げる。

「あ……。」
自分の置かれている状況を完全に忘れてた…。


「はぁ、騎士団に入って初めての正式な任務が問題児2人の監視とかどうなってるんだよ…。」

ラインハルト、なんかごめん…。

しおりを挟む
感想 140

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果

ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。 そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。 2023/04/06 後日談追加

獣人の子供が現代社会人の俺の部屋に迷い込んできました。

えっしゃー(エミリオ猫)
BL
突然、ひとり暮らしの俺(会社員)の部屋に、獣人の子供が現れた! どっから来た?!異世界転移?!仕方ないので面倒を見る、連休中の俺。 そしたら、なぜか俺の事をママだとっ?! いやいや女じゃないから!え?女って何って、お前、男しか居ない世界の子供なの?! 会社員男性と、異世界獣人のお話。 ※6話で完結します。さくっと読めます。

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。 ※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

処理中です...