料理人は騎士団長に食べさせたい

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本編

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マヨネーズを作り終え、次は唐揚げの準備をする。

鶏肉を棒状に切り、ニンニク、ショウガ、塩、ライユ、白葡萄酒に漬ける。

醤油があればよかったけどないから今回は塩味の唐揚げだ。

漬けてる間に、塩揉みした玉ねぎのみじん切りと潰したゆで卵、マヨネーズを混ぜてタマゴサラダを作った。

リオルくんとコルムくんには、ローストビーフ、ハンバーグ、ハンバーガーのパテを準備して貰っている。

隣で教えながらになってしまうが、2人とも教えた通りに作業を進めてくれてるからすんなりと進んだ。

夕食の時間が近づいたためカベロくんは、手伝いに来た見習い騎士の子達とパスタの仕上げをしてくれている。

茹でてソースをかけるだけだからとカベロくんが1人で引き受けてくれたおかげでアレンのご飯の準備に集中出来た。

カベロくん、ありがとう……。

一段落した頃、3人に夕食がてら休憩をとって貰った。

ラインハルトから魔法が飛んできて、「例の物が用意できたから持っていく。
出来れば人払いをして欲しい。」
と頼まれたからだ。


まぁ、初日から朝から晩まで働かせてしまって、本当に申し訳な思っているのも本当だけど…。

「トオルさんは食べないんですか?」
コルムくんが気を使って聞いてくれる。

「うん…出来ればアレンを待ってたいから…。」

「あぁ!そう言えば、トオルさんとアレン様って付き合ってるんですね!
さっきは、びっくりしました!」

コルムくんの言葉にリオルくんとカベロくんが頷く。

さっきは、アレンに思いっきり抱きしめられてるところ見られちゃってるからな…。

恥ずかしかったが、カベロくんが

「2人とも凄くお似合いでしたよ?」

と言ってくれて、素直に嬉しかった。

アレンは、この国の英雄で皆の憧れの存在だ。
そんな彼の隣にこれからも居れる様に努力しないとな……。

3人が食事を持って談話室に向かってしばらくすると、ラインハルトが入って来た。

手には、カバンのような物を持っている。

「トオル、待たせたな!
このマジックバックに詰めてくれ!」

どうやら魔法のカバンらしい。
ラインハルトは、疲れた様子でカバンを渡してくれる。

「ラインハルト、ありがとう。
なんか、疲れてる?大丈夫?」

俺の言葉にラインハルトが苦笑いをする。

「あぁ、流石に骨が折れたぞ。
家の宝物庫にあった容量が1番大きいマジックバックに時間停止の魔法を付与したんだ。
これの中に居れて置けば時間を止めたまま、料理を運べるぞ。」

え?凄い!
もしかしなくても、このカバン凄く価値があるものなんじゃないだろうか?

というか、そもそも、家に宝物庫があるって……。

「でも、よかったの?
アレン達にはなんて説明する?」

「あぁ、それならソランジール家に代々伝わる貴重なカバンだ!
で押し通すから大丈夫だ。
父上にも話を合わせて貰ってるから心配するな。
それに、トオルが言ったんだろ?
便利な力だから使わないと勿体ないって。」

ラインハルトは、イタズラをしたような顔でそう言った。

俺、そんなこと言ったっけ?
確かにパンの発酵に使えて便利だなとは言った気がする。

「そっか。
ラインハルト、本当にありがとう。
これでアレンにたくさん料理を持たせてあげられるよ。」


「あぁ、気にするな!
アレンが心配なのは俺も一緒だからな。
あ、あと、ヴェインからでアレンが戻って来たら4人でご飯を食べようってさ。
皆で手に入れた情報を擦り合わせようって。」


皆で食べれるのは嬉しいけど、俺が聞いてもいい話なんだろうか?

コア様絡みで、アレンのことだからもちろん知っておきたいけど……。

「トオル、どうせ、俺が聞いてもいい話かな?とか考えてるだろ?
トオルが作った料理だって説明しないとアレンが食べれないだろ?
あ、スープ今のうちに仕上げちゃうか?」

ラインハルトの言葉にハッとする。
確かに出来れば試食して欲しいかも?
もしかしたらアレンが苦手な味があるかもしれないし……。

「わかったよ。
スープはもうちょっと煮込みたいから夕食の前でもいいかな?」

「あぁ、任せとけ!
アレンが戻ったらまた連絡する。」

「うん!ありがとう。
じゃあ、また後で!」

ラインハルトを見送ってから1品ずつ試食用に仕上げていく。
パンはとりあえず後回しで唐揚げを揚げたり、ハンバーグを焼いたりと忙しかった。

しばらくすると、カベロくん達も戻って来て、1次発酵が終わったパンの成型をする。

指に粉を付けて生地の中央を刺して生地が戻って来なければ1次発酵が終わった証だ。

生地が倍くらいになっているのを見てコルムくんが驚いていた。

「凄い!話には聞いてましたけどこんなに膨らむんですね?
これを整形して焼くんですか?」

「いや、切り分けてからベンチタイムって言って15分くらい休ませてから成型して、2次発酵を1時間くらいしてから焼いて完成かな。」

俺の言葉にコルムくんが苦い顔をする。

「まだ、そんなに時間がかかるんですか?
ふわふわのパンへの道のりは険しいですね……。」

リオルくんとカベロくんも同じような苦笑いをしていた。

「そうだね…。発酵がちゃんと出来てないとふわふわなパンにならないから大事な時間なんだけど、どうしても時間がかかるよね……。」

毎日色んな種類のパンを売っていたパン屋さんは本当に凄いと思う。

リターナーと呼ばれる専用の発酵機があると言っても最低でも1種類に2時間はかかるのだ。

毎日、美味しいパンが何時でも手に入る向こうの世界は本当に恵まれて豊かだったんだなと改めて感じた。


ベンチタイムが終わり、生地を皆で成型していく。

独特の柔らかい生地の触り心地に皆気持ち良さそうにしていた。

1食で1本食べれる位の大きさのフィセルに成型して表面にオイルを塗って濡れた布をかけて2次発酵させる。

生地が1.5倍くらいになれば焼いて完成だ。

煮込んでいたスープもいい感じに野菜の旨みが出ている。
今回はフリーズドライにする為に シンプルな玉ねぎのスープにした。
あとは、ラインハルトに頼んでフリーズドライにして貰えば完成だ。

あらかたの準備が終わり、あとは、唐揚げを揚げるのとオーブンのローストビーフ、パンを待つだけだ。

待っている間に試食用のパンケーキを3人に食べてもらった。

「はちみつとバターの組み合わせも美味しいですけど、キャラメルソースもほろ苦くて美味しいですね!」

リオルくんは、両方気に入ったみたいだ。
キャラメルソースの方には炒ったナッツと塩も挟んである。

カベロくんとコルムくんは、塩キャラメルとカリカリのナッツの食感にハマったみたいで自分用にも作りたいと言っていた。
アレンも気に入ってくれるといいけど…。


「よし、じゃあ、クレープ生地を焼いちゃおう。」

試食を名残惜しそうにしてる3人に声をかける。

1度お手本見せると3人ともすんなりとクレープを焼いてくれた。

その間に、サンドイッチなどに挟む用のレタスを準備した。

3人がクレープを焼き終わった頃には、パン生地の2次発酵が終わって焼ける状態になっていた。

包丁でクープという切り込みを入れてから焼き上げていく。

「焼く前に切り込みを入れるんですか?」

コルムくんが興味津々に聞いてくる。

「これは、クープって言うんだけど、パン生地を綺麗に膨らませたり、火のとおりを良くする意味があるんだ。
それに見た目も綺麗になるし。」

「へぇー!本当にトオルさんの全ての行動に意味があるんだなぁって感心しちゃいます。
トオルさんに料理を教えて貰える俺たちは幸せですよ!」
コルムくんが嬉しいそうに言う。

リオルくんとカベロくんも彼の言葉に頷いていた。


「いや、そんなことないよ……。」
3人からキラキラした目で見られながら、手放しで褒められてしまい恥ずかしくなって俯いた。

俺は師匠から教えてもらった事をそのまま3人に伝えてるだけだし…。

つまり、1番凄いのは師匠なのかもしれない…。


そんなことを考えているとラインハルトの魔法が飛んできた。

「アレンが帰ってきたみたい。
じゃあ、皆とご飯食べてくるよ。
3人ともパンが焼きあがったら終わりでいいからね?
初日から無理させちゃってごめん…。」

「何言ってるんですか!?
この量をトオルさん1人で仕上げるつもりですか?」
カベロくんが少し怒ったように言う。

「トオルさん、アレン様はこの国の英雄ですよ?
アレン様の為ならこのくらい平気です。」
コルムくんもそんなことを言っている。


「もちろん、僕達も最後まで手伝いますよ!
トオルさんと一緒に料理するだけでいっぱい勉強になるんですから。
ヴェイン様からは、今日はこちらに泊まっていいって言われてますから、トオルさんがご飯食べてる間は、明日の朝食の準備でもしてます!」
リオルくんもそんなふうに言ってくれた。

「……皆、本当にありがとう。
じゃあ、お願いしようかな…。」

3人も心強い仲間が出来て、幸せなのは俺のほうだよ……。

今まで先輩達に意地悪をされてばっかりだったから一緒に料理を出来る仲間が出来て、改めてこの世界にこれてよかったと思った。


「あ、でも、明日の朝食のこと、すっかり忘れてたよ……。
何にしよう?」

リオルくんに言われるまでアレンの料理のことで頭がいっぱいだった。
責任者失格だ…。

「それなら、明日は僕達が考えもいいですか?
さっき夕食の時に話してたんですけど、今日1日トオルさんと料理をしてみてこんなふうにしたら教えてもらった事を応用出来るんじゃないか?ってそれぞれ考えたんです!」

カベロくんが楽しそうに話してくれた。

リオルくんが話し合った時に出た話のメモを見せてくれる。

そこから組み合わせを考えて、俺が幾つかピックアップして3人に準備をして貰うことにした。

3人は、自分達の考えた料理が採用されてとても嬉しそうにしている。

その様子を見て、改めて心強い仲間だと俺も嬉しくなった。
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