料理人は騎士団長に食べさせたい

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番外編 公爵子息は副団長を愛したい (本編86話後推奨)

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知らない部屋のソファーに寝ている。

ズキズキと痛む頭を抑えながら身体を起こすと近くから声がかかった。

「ラインハルト?大丈夫か?」

頭がぼーっとする。

その声の主を俺はよく知っていた。
2人の出会いはもう10数年前だが未だに鮮明に覚えてる。

俺の初恋の人。

初めて彼と出会ったのは父上に連れて行かれた慰問先の孤児院だった。

彼の美しい容姿を見て一目惚れし、その見た目とは裏腹に男前な性格を知って更に好きになった。

ふと頭に通り過ぎていく過去の風景から意識を彼に向けた。


「おい?ラインハルト。
大丈夫か?気分悪くないか?」

彼はいつの間にか俺のすぐ傍に来ていて心配そうに俺の顔を覗き込んでいる。

「ヴェイン……。」
愛おしい初恋相手の名を呼ぶ。
そして、もう18年になる長い長い片想いの相手の名を…。


「どうした?」
ふいに俺に名前を呼ばれた彼は怪訝そうに眉をひそめた。

そんな顔をしていても愛おしく思えてくる。


「あぁ、大丈夫だよ、ヴェイン。
ちょっと頭がガンガンするだけだ。」

「そうか?ならいいが…。
昨日アレンと酒を飲んでて酔いつぶれたんだ。
覚えてるか?」

ヴェインの言葉に昨日の記憶を思い出す。
確か、久しぶりに会ったアレンは、今まで誰にも感情を示さなかった彼とはまるで別人のように、異世界から来た青年を大事そうに慈しんでいた。

アレンは、俺にとって大事な幼なじみであり悪友でもある。

その変化に嬉しくもあり、少しだけ羨ましくもあって、話をしたくてちょうどアレン宛に実家から持って来てた彼の好きな酒を一緒に開けたのだ。


「あぁ、俺、酔いつぶれたのか…。ここは?」

辺りを見渡しながらヴェインに聞く。

「俺の部屋だよ。
流石にあのまま執務室で寝させる訳にもいかないから運んだんだ。」


「ヴ、ヴェインが運んだのか!?」

彼に抱き抱えられながら運ばれたのを想像して、みるみる顔が熱を持っていくのがわかった。

「ラインハルトでかくなったよな。
昔は、俺とアレンの後を着いて回るばかりだったのにもう立派な大人になったんだな……。
身体強化の魔法を使わないと俺じゃ持ち上げるので精一杯だったよ。」

ヴェインは苦笑いしてそんなことを言いながら、俺の頭を撫でた。

そうやってヴェインは、まだ俺のことを子供扱いするんだな…。

まるで昨日の昨日の執務室での出来事はなかったように…。

先ほどまでの羞恥心はいつの間にか無くなり、今度は俺の気持ちを知ってるはずなのに子供扱いしてくる彼に少しだけイライラした。

俺の機嫌の悪さを空気で感じ取ったのか撫でていた手がふいに止まる。

「ラインハルト?」

俺の頭に手を乗せたままヴェインが俺の名前を呼んだ。

上を見上げると、彼の蒼い瞳と目があった。

目が合った瞬間、ヴェインが俺を慈しむような優しい顔で微笑む。
その顔は大きくなっても昔と変わらない俺が一目惚れした笑顔だった。

彼の笑顔を見た途端、俺の中で何かがプツンと切れるような音がした。

気づいた時には自分を止めることが出来ず、彼の腕を引きソファーにヴェインを押し倒して馬乗りになっていた。

突然の俺の行動にヴェインは驚き身動き1つ取らなかった。

触れているところ全てから伝わるヴェインの体温に心臓が早鐘のように響く。

俺はもう……我慢の限界だ。
長年の気持ちを吐き出すように言葉が漏れていく。

「ヴェイン……俺はもう…子供じゃない…。
そろそろ、俺をお前を愛してる1人の男して見てくれ。
望みがないなら優しくなんてするなよ……。」

言葉を紡ぐにつれて視界がだんだんと歪んでいくのがわかった。

頬に涙が伝う。

こんなに愛してるのに……。


「頼む。せめてちゃんと俺と向き合ってちゃんと振ってくれ……。
じゃないと俺は……。」

お前を諦めることが出来ない……。

その言葉を出してしまえば自分の気持ちを諦めることになってしまう。
その現実が怖くてそれ以上は言えなかった。

俺は何処まで卑怯者なのだろうか。

感情に任せてヴェインを押し倒したあげく諦めるという選択すら出来ないなんて…。

こんな自分が嫌で嫌で仕方なかった。

この涙はヴェインを想う気持ちなんかじゃない。
ずるい自分が嫌いで流れているのだとわかった。

何も言わずに話を聞いていたヴェインは俺の涙を見て辛そうな顔をする。

そんな顔をさせたかった訳じゃない。

それなのに俺はまた世界一愛しい人にこんな顔をさせてしまった。

「ラインハルト……。
今までお前の気持ちにちゃんと向き合わなくて悪かった。
これからはちゃんと向き合うから。」


「は?」

彼の突然の言葉が理解出来なくて聞き返す。
今なんて言ったんだ?

ズキズキする頭で先程の言葉を反復する。

……ダメだ頭が回ってない。

困惑している俺をよそにヴェインが俺の背中に手を回し俺を引き寄せる。

突然の彼の行動に反応出来ず彼の胸元に顔を埋めてしまう。


お、俺、今、ヴェインに抱きしめられてる?

「もう少しだけ俺に時間をくれ。
次はちゃんと俺から伝えるから。」

見上げた彼の顔はほんのり赤く色づいていて恥ずかしげに俺を見ていた。

ヴェインに抱きしめられてることは素直に嬉しかった。

でも、いきなり何故?

昨日久しぶりに会った時とは真逆の反応だった。

一体、彼の中でどんな変化があったと言うのだろうか?

ふと、黒髪の青年の姿が思い浮かぶ。

アレンが連れてきたトオルと言う不思議な青年。

他の世界から来たという彼はアレンに野菜を食べさせるという偉業を成し遂げた。

なにも知らない人が聞いたら「何言ってんだ?」って言うくらい些細なことかもしれない。

しかし、アレンにとってはそれはとても大きな変化だった。

それにヴェインのこの反応。

昨日、俺がアレンと酒を飲んでいる間、ヴェインはトオルと話をしていた。

何かあったとすればその時だろうか?

いろいろ考えたいのにヴェインが優しく俺の背中を撫でるもんだから、密着している彼の体温も相まって心地よくて睡魔が襲ってくる。

「ヴェイン…好きだ……。」

聞きたいことや、言いたいことが沢山あったのにそれだけ口にしてそのまま深い眠りへと誘われた。

頭の上でヴェインがクスクスと笑いながら
「お前は、本当に可愛いな…。
ずっと待っててくれてありがとうな。」
と呟くのを薄れゆく意識の中で聞いた気がした。





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