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本編

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「ねぇ、ラインハルト!沢山のパスタの生地を捏ねるのに使えそうな魔法無いかな?」

ふと気になって彼に聞いてみる。
流石に手作業で大量にパスタを作るのは骨が折れそうだ。

「生地を捏ねる魔法?
……んー、流石にそんな都合がいい魔法はない。
それよりもヴェインにお願いして魔道具を作って貰った方がいいんじゃないか?」

まぁ、そりゃそうだよね?
この世界にある魔法は、火、風、水、土、光、闇しか属性が無いってヴェインさんが言ってた。

俺の知識じゃ、どうやったらそれらで生地を捏ねることが出来るのか見当もつかない。

「魔道具?」
ラインハルトの言葉に気になるワードを見つけて聞き返す。


「あぁ。この厨房にあるオーブンやコンロみたいに魔石にあらかじめ術式を刻んで魔力を流すだけでその術式の魔法を誰でも使えるようにした道具のことだ。

ヴェインなら生地を捏ねる用の魔道具も作れるかもしれないだろ?」

魔力で動く機械みたいなイメージでいいのかな?

なら確かに、大きなミキサーを作って貰ってアタッチメントを取り替えたら泡立ても捏ねるも出来るようになるかもしれない。
正直、原理は単純でモーターを回せばいいだけだもんね?


「なら、後でヴェインに頼んでみようかな。
とりあえず今日は、皆で手作業でやるしかないか……。」

覚悟を決めて今日の所は手作業で作っていく。

ちょうどじゃがいもに火が入ったから潰して皆で手分けしてニョッキを作っていく。

ラインハルトが来てくれたおかげで人数も増えたし、5人なら割と簡単にニョッキを仕上げることが出来た。

皆の味見用に茹でてトマトソースをかけた物を用意する。

それ以外は、茹でる前の状態で全て凍らせた。


「わぁ…、モチモチで美味しいです!
食べたことない食感ですね?」

味見をしたリオルくんが頬を緩めながら言う。

「あぁ、これ美味しいな!
ソースを変えたらいろんな味に出来そうだ!」


「そうだな!
ミルクを使ったソースとかも美味しそうだ!
あとは、香草を使ったソースとかも。」

カベロくんとコルムくんはこんなソースが合うんじゃないか?
と楽しそうに話している。


気に入ってくれたようでなによりだ。

次はパスタを捏ねていく。

強力粉と卵、オイル、塩を合わせて水と一緒ににひたすら捏ねる。

ニョッキよりも水分が少なくて硬いから力が結構必要で大量に作るのは辛かった……。

他の4人も流石に堪えたみたいで少ししんどそうにしている。

「やっぱり、パスタを大量に作るのはしんどいね……。」
ついつい、誰に言うでもなく呟く。

皆、汗だくになりながら首を縦に振っていた。

「ヴェインに早く魔道具を頼もうぜ……。
パスタはヴェインも気に入ってるから絶対に作ってくれるだろ…。」
ラインハルトがぐったりしながら呟いた。

「そうだね…。
天然酵母も明日には完成しそうだし、パンも作るならとりあえず捏ね機は最優先かな……。」


「トオルさん、テンネンコウボ?ってなんですか?」

カベロくんがちょっと変なイントネーションで聞いてくる。

「天然酵母だよ。
パンを作る時に入れるとふわふわなパン生地が作れるんだ。
自分で作るのは初めてだからまだ実験段階だけど……。」

正直、正解が分からなくて手探り状態で作っているから焼いてみるまで成功してるかすら分からない……。

それでも、皆にとってふわふわのパンって言うワードは衝撃的だったらしくて「絶対に成功させてください!」とか、「成功したら世界に衝撃が走りますよ!」とか嬉しそうに言っていた。

うっ……期待の眼差しにプレッシャーを感じる……。

そもそも、この世界にはイースト菌って無いのかな?

確か、初めてふわふわなパンが出来たのは偶然だったらしい。

大昔に、まだイースト菌が発見されてない頃、粉と水を捏ねただけのパンだった時代、焼き上げる前の生地を放置したら、たまたまそこの空気中にいた酵母菌が生地について発酵が進み、ふわふわなパンが出来たらしい。

失敗は成功の母って言うもんな…。

なら、この世界にも偶然そういう事例があってもおかしくはないよな……。

それはさておき、天然酵母成功してるといいな…。

パスタ生地を捏ね終わり、休ませている間にミートソースを作っていく事にする。

「ねぇ、ラインハルト、ちなみにお肉を細かくする魔法は無い?」
大量の肉塊を前にしてパスタの疲労のせいで心が折れそうになって聞いてみる。

大量調理ってやっぱり機械がないと辛いよぉ………。

ラインハルトが俺の言葉にジト目で見てくる。
「お前なぁ…はぁ…生地の時といい、そんなに都合いい魔法があるわけが………あ、出来るかも!」

途中で何かを閃いたのかラインハルトが肉塊を1つ手にとる。

「ラインハルト?」

声をかけると、彼はニヤリと笑いながら肉塊を空中に投げた。

いや、5キロくらいあるのをそんなひょいと投げれるもん!?

それ以前に食べ物を粗末にしちゃ……?

空中に投げ出された肉塊は落ちずにそのまま空中にとどまっている。

「結界を応用して中に肉を閉じ込めたんだ。
で、これに………これでどうだ!」

確かによく見ると肉塊の周りに透明な球体がある気がした。
それがラインハルトの掛け声と共に淡い翠色に変わっていく。

すると、中の肉塊がみるみるとミンチになっていった。

「え!?なにそれ?ラインハルト凄い!」
他の3人も目を丸くさせながら驚いた後、肉を刻まなくていいとわかりラインハルトに惜しみない拍手と尊敬の眼差しを送っていた。

「結界の中に風魔法で無数の風の刃を作って飛ばして見たんだ!」

ラインハルトは、結界を下ろしてボウルの中にいれる。
彼が結界を解くと、綺麗に均等にミンチになったお肉が現れた。

「凄い!ラインハルト天才!めっちゃ便利!ぐっ……、痛い……。」

最後の一言が気に入らなかったようで頭に手刀を落とされる。

「お前も刻んでやろうか?」
ラインハルトが普段とは違う凄みのある笑顔でニコニコと聞いてくる。

「ごめんなさい…。
ラインハルト様、かっこいいです。
許してください……。」

一家に1人ラインハルトとか口に出さなかったのに……。

「分かれば宜しい。
あ、今、また失礼なこと考えただろ?」

ギクリ……。

「ソ、ソンナコトナイヨー……痛い……。」

また手刀を落とされた……。


痛がって頭を抑えてる俺を見てラインハルトは満足したようで残りの肉塊をどんどんミンチにしてくれる。

少しだけ大きいものも混ぜたかったから一塊だけは手切りで角切りにすることにした。

他の3人には野菜を剥いて貰って、それもラインハルトに細かくして貰う。


凄いなぁ…。
まさに人間フードプロセッサーだ…。

あ、ごめんなさい…。
ラインハルトにまた睨まれて目を逸らしてお肉を切るのに集中する。

やっぱり、ラインハルトって心が読めるんじゃないのかな?

そんなこと考えていたら、隣にいたリオルくんに
「トオルさんの表情がわかり易過ぎるんですよ……?」

と笑われてしまった。

………解せぬ。




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