料理人は騎士団長に食べさせたい

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番外編 公爵子息は副団長を愛したい (本編86話後推奨)

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「ふぅ………。とりあえず今日の分はこれで終わりか……。」

久々に長い時間、書類とにらめっこをしていた為、身体が固まってしまったようだ。

身体を伸ばして解す。
窓の外を見るともう既に日が傾き始めていた。

「ヴェイン、帰って来ないな……?」

もう結構時間が経っている筈だが連絡は来ていない。
もしかして揉めてるのか?

アレンやヴェイン程の高い魔力を持つ人間が戦闘になれば大気中の魔力が震えるものだ。

目を閉じて辺りの魔力を探ってみた。
特に問題は感じない。

「じゃあ、少なくとも戦闘にはなってないのか?」
ひとまず、安堵し、別の可能性を考える。

「……もしかして、俺忘れられてる?」

いや、まさかそんなわけ………。


そんなことを考えていると、執務室の中に蒼い鳥が入ってきた。

ヴェインの声の魔法だ。
久しぶりに見た彼の魔法は、相変わらず見蕩れてしまうほどに美しかった。

この魔法はヴェインと俺が一緒に考え出した魔法だった。

元々は、孤児院に通ってた俺がヴェインと離れるのが嫌で我儘を言ったことが始まりだった。

離れていてもヴェインと話が出来るように…。
彼の声が聞けるようにと……。

2人で試行錯誤をした結果、やっと完成したのだ。

俺は、風の魔法が得意だったから細かい設定まで盛り込んだ物を使っているが、ヴェインはそこまで出来なくて悔しそうにしていたっけ……。


その時の様子を思い出して頬を緩ませながら鳥に触れる。
すると、鳥から愛おしい人の声が響く。

「ラインハルト、仕事を任せてすまなかった。
アレンが連れてきた例の青年、トオルって言うんだが、料理人らしい。
夕食を作ってくれるらしいからラインハルトも一緒に食べないか?」

へぇ?料理人だったのか?

ふと、先程読んでいた見習い騎士からの嘆願書を思いだす。

前に勤めていた料理人が体調を壊して退職してから見習い騎士達が鍛錬の合間を縫って料理をしているらしい。

しかし、知識が無い見習いだけで料理をするのは限界だから料理人を探してくれないか?というものだった。

リオルを呼ぶか?と考えていたがアレンが連れてきた青年が料理人ならちょうどいいのかもしれない。

アレンが大事そうにしているなら、もしかしてあいつの野菜嫌いも治るかもな?

………まぁ、無理か。

そもそもアレンの野菜嫌いは、嫌いなんて言葉で表せるものでは無い。

見てるこっちまで心配になりそうなレベルだった。

あれはまるで身体が無意識に拒絶反応を起こしているような……。

そこに関してだけはいろいろとアレンに世話を焼いているヴェインの気持ちも理解出来たくらいだ。

ヴェインに返事を返さないと……。

「あぁ、是非とも一緒させてくれ!」
ヴェインの鳥に触れながら話しかける。

手を離すとそのまま鳥はヴェインの元へと帰って行った。

しばらくするとまた鳥が飛んでくる。

「わかった。完成したら呼びに行く。」

それに「頼んだ。」とだけ返す。


これからアレンとヴェインと3人で料理を作るのか?

……俺だけ除け者かよ。
ちょっとだけ寂しく思う。

いやいや、まだ会ったことも無い料理人に嫉妬するのは流石に余裕無さすぎだろ…。

おそらく、料理の腕を団長、副団長として確認するためだろうし…。

自分の中に生まれそうな黒い感情を振り払うように首を振った。

読みかけの本でも読んで時間を潰そう…。

それにしても……。

「ヴェインは手を出さなければいいけどな…。」

基本的になんでも出来てしまうヴェインだが、正直、料理の腕に関してだけは最悪だった。

あれは人が食べれるものじゃない……。
いつか3人で狩りに言った時のことを思い出す。

肉が大好きなアレンが野菜を食べた時の表情をしていた…。

俺?頑張ったさ…。
頑張って完食した結果2~3日寝込むはめになったけどさ……。

あれ以降、3人で狩りに行って野営する時は俺が料理を作ることになった。

ヴェインに作らせないように必死にうちの家の料理人に教えて貰ったのは今になってはいい思い出だ。


昔の事を思い出しながら本を読み進めていく。

エリンに勧められて読み始めた小説で内容は貴族と平民が恋に落ちる内容だった。

丁度、色々ありやっとお互いが恋心を認め付き合い始めた所で止まっていた。

ついつい、主人公とヒロインを俺とヴェインに重ねてしまう。

まぁ、小説の中は貴族の女性と平民の男性の恋模様を書いたものだが……。

いや、俺はヴェインを嫁に欲しいんだが?
エリンは一体どういう気持ちでこれを勧めてきたんだ?

……深くは考えないでおこう。



最後まで一気に読み終えて息を吐く。
思わぬ伏線回収やどんでん返しがあり感動してついつい涙を溜めながら読んでしまった。


ハッピーエンドで幸せそうに暮らす2人……。

俺もいつかヴェインと……。


そんなことを考えて居るといきなり執務室の扉が開いた。

「ラインハルト!待たせな。
晩飯が完成したぞ!」

ヴェインの楽しそうな声が響く。

「うぉっ……ヴェインか…。
びっくりした……。」

小説の余韻に浸っていた所だったせいで必要以上に驚いてしまう。

「ん?ラインハルト?どうしたんだ?
なんか、目が赤くないか?」

俺の目を見てヴェインが聞いてくる。

想い人に恋愛小説を読んで感動して泣いてました。
なんて言えるわけがなく誤魔化す。

「ちょっと目にゴミが入っただけだ……。」

「……?もしかして、1人で居るの怖かったか?
ラインハルト、昔から怖がりだっただろ?
夜とかも俺やアレンから離れなかったもんな?」

昔を懐かしむようにヴェインが頬を緩めた。

「ばっ…怖がってなんかない!
昔だって今だって別に平気だ!」
いきなり昔の恥ずかしい思い出を話されて顔が熱くなる。
せっかくの小説の余韻が台無しだ……。

ヴェインは俺の様子をみてケラケラ笑っていた。

「そ、そんなことよりも、例のトオル?だっけ?どんな奴だったんだ?」

「あぁ、会えばわかると思うが悪いやつでは無さそうだな。
それにちょっと信じ難いんだが…。」

話を逸らすために話題を変えたにも関わらず、ヴェインが深刻そうな顔をする。


「何か問題でもあったのか?」

「問題と言うかなんというか……。
信じ難いんだが、トオルは渡り人らしい。
それに守護竜様の加護持ちだ。」

彼の言葉が理解出来ずに聞き返してしまう。
いや、意味は解るんだ。
でも、渡り人なんて御伽噺の話だ。
さっきの小説のように創作物の話。

それに、守護竜様の加護持ちだって、ディアミド陛下とアレンだけだ。
3人目が現れたと言われても、すぐに「そうなのか。」と言う反応にはならない。

そもそも、資格持ちが同じ時代に2人居ることすら稀有な話なのだ。

今までのこの国の歴史書を紐解いてもそんな事実は無い。
にも関わらず3人目が現れたなんて……。

「そんなこと有り得るのか?
根拠は?それに、悪いやつじゃないなんてなんで分かる?
アレンに近づくために嘘をついている可能性だってあるんじゃないのか?」


考えつく限りの可能性を考えた。

「まぁ、普通はそういう反応するよな…?
資格持ちの根拠は、守護竜様の住処の大樹が見えたらしい。
本人はその意味をわかってなかったみたいだがな。
それと、正直、どっちかと言うとアレンがトオルを手離そうとしないんだよな…。」

「アレンに魅了の魔法が使われている可能性は?」

あのアレンがそんなふうになるなんて想像も出来なくて聞いた。

「それは有り得ないな…。
あのアレンだぞ?あいつは無限に魔力が使えるから無意識に魔法を弾くんだ。
だからアレンには精神系の魔法は全く効かない。
それとな…アレンが野菜を食ったんだ。
しかも、ジョーヌをだ。」

「は?アレンが?ジョーヌっていつも見るのも嫌がってたやつだろ?」

ジョーヌは黄色の根菜だ。
土臭いから俺もそこまで好んで食べようと思わない…。

それをアレンに自ら食べさせるなんて……。

トオルって本当に一体どんな奴なんだよ……。

「俺も目を疑ったよ……。
とりあえず、2人が待ってるから行こう。」

それもそうか。
ここで2人で話しても埒が明かないか。

ヴェインに促されてそのまま談話室に向かった。


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