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番外編 公爵子息は副団長を愛したい (本編86話後推奨)

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ヴェインの分の書類も貰ってしばらく仕事を進めていると執務室の扉がノックされた。

「ヴェイン様!アレン様がお戻りになられました!」
声の主は門番のようだった。
声からしてまだ17~18くらいだろうか?

「はぁ!?アレンがだと?」

2~3日空けると聞いていたのに、1日で帰って来るとは思ってもみなかった様でヴェインが驚いた声を出した。

「ん?なんでアレンが戻ったくらいでわざわざ門番がヴェインの所まで報告にくるんだ?」

疑問に思いヴェインに聞く。

「確かに言われてみればおかしいよな?」

ヴェインは扉を空けて門番を執務室に招き入れた。
門番は俺を見て礼をする。

「で、アレンがなんかやらかしたのか?」
門番に聞いてみる。

ヴェインも門番からの報告を待っていた。
俺ら2人に見つめられた門番は居心地が悪そうに話し始める。

「あ、いえ、やらかしたといいますか、アレン様が知らない少年と一緒に帰って来られたので一応ヴェイン様に報告をと思いまして……。」


「はぁ!??
知らない少年だと?
あいつ、ついに人攫いでもしたのか?」
ヴェインが門番から話を聞くなり鬼の形相になる。

「ちょ、ヴェイン、落ち着けって?
門番が怖がってるだろ?」

震える若い門番が不憫に思えてヴェインを宥める。

「ラインハルト、でも、知らないだぞ?
小さな子に手を出すなんて……。」

「いや、だからまだそうと決まった訳じゃないだろ?
親とはぐれた子供を保護しただけかもしれないじゃないか?
とりあえず、ヴェインは行って確かめてこいよ?
残りの書類は俺がやっておくから。」

だってあのアレンだぞ?
色恋に興味もなく、お見合いも全て断っていたアレンが人攫いなんて考えられん…。

それに、仮に趣味だったとしてら、カイルみたいな天使のように可愛い子を放って置くわけないだろうし…?


「あぁ…。
ラインハルト、すまん。
ちょっと行ってくる。」

ヴェインは俺にそう言い残すと身体強化の魔法を唱えて窓から飛び降りていく。

「あ……ヴェイン様……まだ場所を伝えてないです……。
それにここ3階ですよ………?」

門番はしばらくヴェインの行動に呆気にとられていたがしばらくしてから呟いた。

「あぁ、大丈夫だろ?
ヴェインならアレンの魔力で場所を辿れるだろうし……。なぁ、お前、名前は?」

いきなり俺に話しかけられて、若い門番は顔を引き攣らせる。


「私ですか?カレロと申します…。」

「カレロ、せっかく来てくれたのに怖い思いせて悪かったな?」

ちょっと可哀想に思えてカバンの中からこの前見つけた珍しいお菓子を1つ渡す。

「ラインハルト様?こちらは?」
不思議そうな顔をしながらカレロが聞いてきた。

「この前、仕事で行った街で見つけたショコレってお菓子だ。よかったら食べろよ?
あんまり量ないから他の奴には内緒だぞ?」

「あ、ありがとうございます!」
カレロは嬉しそうにお辞儀をして自分の持ち場に戻って行った。


ちょっと顔が赤かった気がするけど気のせいだろうか?


「まぁ、とりあえず今はこの仕事を終わらせてヴェインからの報告を待つとするか……。」





しばらく書類仕事を続けていると突然扉が開いてヴェインが帰ってきた。

「お?ヴェインおかえり。
で、どうだったんだ?」

ヴェインに詳しい話を聞く。

「アレンが黒い髪の青年を連れてきた?
しかも、大事そうに離そうとしないだって?」

聞かされた話を信じられず、ヴェインに聞き返す。

「あぁ…知らずの森で倒れてた所をアレンが助けたらしいんだが……。
あいつ、本当にアレンか?」

さっきの様子を思い出したのかヴェインが逆に俺に聞いてきた。

「いや、俺は見てないから知らないぞ?
じゃなかったのか?」


「あぁ、本人が言うには24歳らしい……。
正直、全くそんなふうには見えないけどな……?」


24って言うと俺と同い年じゃないか?
それにしても……。

「なんだ、歯切れ悪いな?」

「いや、見た目がどう見てもカイルより少し上ってくらいなんだよ………。
それに俺のことを凄い怖がってたし……。」

カイルより少し上って言うとリオルくらいだろうか?
リオルも歳の割には若く見えるほうだ。

それよりも不思議そうに首を傾げるヴェインについつい吹き出してしまう。

「クスクス………。
ヴ、ヴェイン……お前は時々俺から見ても怖いぞ?
さっきの門番、カレロだって凄く怖がって震えてたじゃないか?………クスクス。」

俺の言葉がヴェインの琴線に触れたらしく部屋の温度が数度下がるような殺気を浴びせられる。

いや、だから、ヴェインさんそういう所だって……。

「わ、悪い……。
あ、ほら、その青年の部屋を用意してから談話室に行くんだろ?
早く行って来いよ……。」


「はぁ……。わかったよ。
ラインハルト初日からすまないが仕事の残りは任せるぞ?」

ヴェインは殺気を放つのを辞めて執務室の扉に手をかける。


「あぁ、任せとけ……!
あ、ヴェイン、そう言えば渡し忘れてたけどこれお土産!
ちゃんとヴェインの分は別にあるから皆で食べろよ!」

執務室から出て行くヴェインに慌てて声をかけた。

「お?見たことない菓子だな?」

「あぁ、ショコレって言うらしいぞ。
この前仕事で行った所で珍しかったから買ってきたんだ。」

ヴェインは箱から1つつまみ上げて口に放り込む。

「おぉ、口の中で溶けて無くなったぞ!
美味いな!ラインハルトありがとう!」
彼は嬉しそうに笑う。


その表情にまた見蕩れてしまった。

可愛い………。
やっぱりヴェイン大好きだ……。


買ってきてよかった…。


扉が閉まる音で現実に引き戻される。


あ、いつの間にかヴェインは行ってしまったらしい……。

「はぁ……やるかぁ……。」

目の前の書類を見ながら1人呟く。


「あれ?なんか引っかかるような……?」

さっきヴェインから聞いた話の中に何か、俺にとって重要な話があった気がする……。


先程の会話を頭の中で思い出しながら反復する。
「アレンがの青年を連れてきた?」

「あ!!!???」

ふいに、アイリーンの占いを思い出す。


「ラインハルトお兄様!安心してください。
いつかラインハルトお兄様の前に黒い髪の天使が舞い降りて、絡まった運命の糸を解いて結んでくださいますよ!」

アイリーンの固有魔法が発現してすぐのことだったから今から8年は前の話だ。

正直、信じてなかった。

色んな場所を仕事で渡り歩いたが今まで1度も黒い髪なんて見たことがなかった。

そもそも、髪はその人間の持つ魔力の色を表すことが多い。
俺が緑の髪の色なのは風の魔力が強いからだ。

ヴェインは水の魔力が強いから蒼いし、アレンは炎の魔力が強いから赤い……。

黒い魔力なんて聞いたことがない…。

でも、実際にアレンが連れてきた青年は黒い髪だったらしい。
いや、そもそもな話、天使なんて御伽噺の中の話だ。
実際にいるわけないか……。

「はぁ…、馬鹿げてるか?
でも、もういっそ天使にでも縋りたい気分だよ……。」


アレンが連れてきた黒髪の青年を思いため息をついた……。




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