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番外編 公爵子息は副団長を愛したい (本編86話後推奨)

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憂鬱な気分になりながら王国騎士団への道を歩いていく。

セバスが馬車を出すと言い張ったが久しぶりの王都を歩くのも悪くないかと断った。

騎士団が近づくに連れて更に気が滅入って来た。
父上の話では、ヴェインは俺が補佐官につくことをとても喜んでくれているらしい……。

本当かよ?

どうしても夢のように冷たい目を向けられそうで会うのが怖くなった。

それにもしかしたら、アレンと恋仲になっているかもしれない…。

アレンもお見合いは全て断っていると言う話だし、市民の噂ではヴェインと恋仲だと言う話もあるらしい。

確かに、2人は同じ村の生き残りだし同い年の幼なじみでもあるから特別な間柄ではある。

2人にそんな様子は無かったが会っていない間にそう発展していても何ら不思議では無い……。

今考えると特にヴェインはアレンに何か特別な思いを秘めているような気もしてきた。

記憶の中のヴェインは、いつもアレンの世話を焼いていたし、気遣っているようだった……。


そんなことを考え始めると次々に嫌な考えが浮かんでくる。


騎士団の門に着き、門番に声をかけて中に入る。

話は通っていたようですんなりと中に入ることが出来た。
むしろ、公爵家の人間だと分かるや否や執務室までの案内を勝手でてくれた。

いや、門番の仕事はいいのかよ……?

彼に自分の仕事を放棄させるわけにもいかず丁重に断って執務室への行き方だけを聞き向かう。

………なんで執務室が宿舎の中なんだ?

不思議に思いながら説明された道を進んだ。


「ラインハルト様?」

突然、後ろから聞き覚えのある声が俺を呼ぶ。

振り向くと騎士見習いの服を着た、よく知った顔があった。

「!?
カイル?お前、騎士団に入ったのか?」


「はい!ラインハルト様ご無沙汰しております!」

俺の顔を見るや騎士の礼をしてから答えてくれた。

カイルは、アレンやヴェインと同じ孤児院の子供だった。

ブランイェーガー孤児院は、俺の曾祖父が作った孤児院でソランジール家が代々支援をしている。

アレンやヴェインが騎士団に入ってからも、俺は慰問の為に定期的に出向いていた。
最近は、王都に居ることも少なく贈り物をするくらいしか出来なかったが…。

もちろん今回も珍しいお菓子を沢山買い込んで届けて貰った。


「大きくなったなぁ!
2~3年振りか?
なんだ?もう抱きついて来てくれないのか?」

手を広げながら言うと、彼は遠慮がちに笑う。

「もうそんな歳でもないですから……。」

カイルは元々人見知りでなかなか打ち解けられなかったが、打ち解けてからは会う度に俺に嬉しそう抱きついて来た。

ついついその時の癖で手を広げたのだが断られてしまった……。

なんか、兄離れした弟を見てるようで寂しいなぁ…。

俺には妹しか居ないからカイルが甘えてくるのが可愛くて沢山甘やかしていたのだが、甘えてこなくなると寂しいものだ…。
とりあえずカイルの頭を撫でながら思わぬ再会を喜んだ。

「えへへ……。
ラインハルト様くすぐったいですよ…。」

カイルは文句をいいながらも嬉しそうに微笑む。
相変わらずカイルの無邪気な笑顔は癒される。
さっきまでの嫌な考えがなくなって行くようだった。

「あ、ラインハルト様、今日は何故こちらに?
アレン様とヴェイン様に会いにこられたんですか?
でしたら、アレン様は昨日からしばらく王都の外に出かけてらっしゃいますが……?」

アレンが外出してる?
騎士団長が自ら王都から離れるなんて何かあったのか?

いや、問題はそこじゃない。
アレンが居ないってことは、つまり……。
ヴェインと2人きりじゃないか…?

「アレン居ないのか!?」

俺のつぶやきにカイルが申し訳なさそうにする。

「いや、カイルは何も悪くないんだから気にするなよ?」

更に頭を撫でながら言う。

「そうなんですが……。
あ、ヴェイン様の所まで案内しましょうか?」


「いいのか?それは助かる!」
久しぶりにヴェインと会うのに1人で行く勇気がなくてカイルの言葉を有難く思った。

「はい!こちらです!」

カイルに案内されながら宿舎の中を進んだ。

「ラインハルト様、あの……リオル兄さんは元気ですか?」

不意にカイルが聞いてきた。
リオルは孤児院でカイルと同室だった少年だ。

カイルはリオルを兄のように慕っていて、2人の様子は本当の兄弟のようだった。

というかむしろ、俺と兄貴よりも兄弟みたいだった…。

ちなみにリオルは今はソランジール家で使用人をしている。
本当が望んだこともあり、主に厨房で働いているが時々はエリンに変わって俺に付いて世話もしてくれている。


「あぁ!元気だぞ!
カイルが騎士団にいるのは知ってるのか?」


「はい。手紙でやり取りはしています。
でも、僕が孤児院を出てからは会えてないので……。」

カイルは寂しそうに俯いた。

「そうか……。
俺、しばらく騎士団の書類仕事をすることになったんだ!
だから近々リオルも連れて来るから楽しみにしてろよ!」

俺の言葉にカイルが驚きの声を上げて抱きついてくる。

「!?本当ですか!
じゃあ、ラインハルト様にもリオル兄さんにも今までより会いやすくなるんですね!」

おそらく嬉しさのあまりついつい抱きついて来たんだろう。

「クスクス……カイル……?
もう抱きつくような歳じゃないんじゃなかったのか?」

からかうように言うと顔を真っ赤にして離れていく。

「す、すみませんでした……。
ついつい……。」

「俺は全然気にしないぞ?
あ、でも、カイルは可愛いんだから誰にも抱きつくのは辞めとけよ?
特に騎士団でカイルみたいのは人気だろうから?」

むさ苦しい筋肉質の男たちにとってカイルは、砂漠のオアシスみたいなものだろう……。

少し心配になる。

「大丈夫ですよ?
誰彼構わず抱きつくなんてしませんよ。
それこそ、ラインハルト様とリオル兄さんくらいです!」

俺とリオルは完全に兄扱いなんだな……?


まぁ、それならいいか……。
………ん?いいのか?



ふと街で流れてる噂について聞いてみる。

「そういえばさ……。
アレンとヴェインが恋仲だって本当か?」

どうかカイルが否定してくれますように……。
心の中で祈りながら聞いた。

「アレン様とヴェイン様が恋仲?」
カイルはキョトンとした顔をしながら言葉を繰り返す。

「あ、あぁ。街ではそういう噂が流れてるらしい…。」


「アレン様とはあまり話す機会がないから分かりませんけど、ヴェイン様を見る限りそういう仲には思えませんよ?」

カイルが首を傾げながら答える。

「そうなのか?」

「はい、昨日の朝だって、喧嘩から発展した手合わせでアレン様に凄い殺気で当たったら即死級の魔法を放ってましたし……。
ちょっと好きな人に向けてあれは出来ないと思います……。」

その様子を思い出しながら苦笑いで教えてくれた。

「即死級の魔法って……。
あの2人は何してんだよ…?」

思っていたよりも斜め上の回答がきてついつい呆れてしまうと同時にアレンとヴェインらしいなぁとも思ってしまった。


あの2人は、2人とも規格外だからなぁ……。

まぁ、とりあえずアレンとヴェインは恋仲じゃないらしい。

アレンに決闘を申し込むような事にならなくて少しほっとした。

固有魔法まで使えば簡単に負けることはない気がするがあまり使いたくはないからな……。



「あ、ラインハルト様、此処が執務室ですよ!
じゃあ、僕はこれで………。
ラインハルト様?」

案内を終えて去ろうとするカイルの服を慌てて掴み止める。

「そんな急いで行くことないだろ?」

ヴェインに会うのが怖いから一緒に居てくれなんて言えるはずもなくカイルの服を引っ張りながら執務室の扉を叩いた。

中からヴェインの声が聞こえる。

久しぶりに聞いた声になんと答えたらいいかわからなくて何も言えずにいると、カイルが察したように代わりに返事をしてくれた。

「ヴェイン様、ラインハルト様を案内しました。」

しばらくすると扉が開いてヴェインが顔を出した。

「カイル?ラインハルトを案内してくれたのか?
ありがとうな!」

ヴェインはカイルの頭を撫でながらお礼を言う。

「はい!では、僕はこれで失礼します。」

去り際に俺にだけ聞こえる声で
「頑張ってください!」
とカイルは呟いつて去っていった。



「ラインハルト、久しぶりだな。
とりあえず、中入れよ?」
ヴェインが中に招いてくれる。

「あ、あぁ、わかった。」

俺は勧められるままに執務室へ入って行った。




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