料理人は騎士団長に食べさせたい

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本編

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プリンを冷やしていたら、突然厨房に緑色に淡く光る鳥が入ってきた。

あ、あれは……。
「ラインハルト様の魔法……?」
俺が口にするよりも早くリオルくんが口に出した。

カベロくんとコルムくんは突然飛んできた鳥に驚き、警戒している。

「あぁ、リオルくんはラインハルトの魔法もちろん見たことあるんだもんね。
カベロくん、コルムくん大丈夫だよ!
俺の親友から伝言が来ただけだから。」

俺の言葉に2人は納得して安堵する。

その様子を見ながら俺の肩に止まった鳥に魔力を込めた手で触れた。

なんだろう……?
もしかしてリベンジ失敗してまた白魔法が必要なんだろうか?

「トオル、今日から騎士団全員分の食事作ってるのに本当に悪いんだが、ヴェインがベッドから出てきてくれなくて……。
パンケーキ焼いてくれないか?」

いつもより何だか甘いラインハルトの声が聞こえてきた。


………ラインハルト、周りに聞こえなくてよかったな。
隣のリオルくんを見ながら苦笑いする。

アルバさんの話だとラインハルトは周りから物静かな貴公子だと思われてるらしい。


こんな声を聞かれたらそんなイメージ即壊れそうだよ……。


「ラインハルト様どうかされたんですか?」

リオルくんが心配そうに聞いてくる。

「いや、なんでもないよ…。
ちょっと待ってね、返事しちゃうから。」

鳥にもう一度魔力を込めた手で触れて返事を返す。


「リベンジ成功したのかな?
おめでとう?
ヴェインは平気?魔法いる?
あと、俺が焼いてもいいけど、ラインハルトが焼いた方がヴェイン喜ばない?」


手を離すと鳥は飛び立って行った。
3人の視線を感じて説明をする。

「えーと、ラインハルトがパンケーキを食べたいって言うから作ろうかなって思うんだけど……。」

どこまで説明していいか分からなくてとりあえずそう言っておく。

「パンケーキってなんですか?」
リオルくんが首を傾げながら聞いてくる。

首を傾げてくる彼はカイルくんとはまた違った愛嬌があった。

カベロくんとコルムくんも、リオルくんの言葉に頷いている。

「パンケーキって言うのはふわふわな食事用のケーキ?かな。
もちろん甘くしたらお菓子にもなるよ。」

ちなみにこの世界のケーキって言うのはいわゆる、向こうの世界で言うパウンドケーキが主流らしい。

他にお菓子と言えばクッキーくらいしか発展していないようだ。

メレンゲを使ったお菓子って言うのも珍しいらしい。

というかそもそも、卵を卵白と卵黄に分けるって発想が無いみたいだ。

確かに1番最初に別立てのいわゆるビスキュイを考えた人って凄いよなぁ……。

そんな話をしているとまた鳥が飛んできて「そうだよな!すぐ行く!」とだけ言葉が来た。


声のトーンからして相当浮かれているようだ。

急いで「リオルくんが来てるからイメージを崩したくないならちゃんとした格好で来るんだよ?」
とだけ返事をしといた。

「ラインハルト今から来て一緒に作るってさ。」

リオルくんに伝えると顔が真っ青になる。

「ラ、ラインハルト様が自ら作られるんですか!?」
彼の反応を見て改めてラインハルトが公爵家の人間だった事を思い出したよ…。

カベロくんもコルムくんも貴族の偉い人が自らパンケーキを作りに来ると聞いて青い顔で緊張していた。

程なくしてきっちりと騎士団の服を着たラインハルトが厨房に入ってくる。

ラインハルト、それ、ヴェインさんの団服じゃない…?

「トオルおはよう!
リオルもう来てたのか?」

リオルくんの顔を見るとすぐに驚いた表情をする。
 
小声で俺に
「トオル、助かった…。
言われなかったら寝衣のまま来るところだった……。」と言ってくる。

「ラインハルトおはよう…。
ラインハルトって実は結構だらしないよなぁ…。
それ、ヴェインの服じゃないの?」

「あぁ、ちょっと借りたんだ。
俺の団服まだ来てないからな。」

3人は気づいてないみたいだから、まぁ、いいか…。

「ラインハルト様、おはようございます。
ご無沙汰しております。
コルムさんとカベロさんが朝から向かわれるとお聞きしたので一緒に来させて頂きました。」

リオルくんはラインハルトに跪きながら言う。
カベロくんもコルムくんもラインハルトに跪きながらリオルくんの言葉に頷いていた。

「お前達、楽にしていいぞ。
これからお前達もトオルと一緒に騎士団の食事を作ってくれるんだろ?
よろしくな!時々俺も手伝いに来るから騎士団にいる時は気軽にしてくれていい。」

ラインハルトの言葉に3人が驚いた顔をする。

「ラ、ラインハルト様、高貴な身分の貴方様が自ら厨房に立つなどあってはなりません!
料理長や、ソランジール家の皆様に知られれば私は……。」

リオルくんが真っ青な顔でそう言う。

「あぁ、気にするな。
俺が好きでやってることだし、父上も知ってることだ。
それにしても、昔はラインハルト様って言えなくて可愛かったリオルが口うるさく成長したものだなぁ…。
昔みたいにライニって呼んでくれてもいいんだぞ?」

ラインハルトは昔を思い出してか懐かしそうな顔をする。

「ラ、ラインハルト様!からかわないでください!」
リオルくんは顔を真っ赤にしながら否定した。

「ラインハルトは、リオルくんとそんな昔から知り合いなの?」

ふと気になり聞いてみる。

「あれ?リオルちゃんと自己紹介してないのか?
トオル、リオルの家名は『ブラン』だぞ?」

「え?じゃあ、孤児院の出身?」

俺の言葉にリオルくんが頷く。

「はい。しかし、14歳の時にソランジール家の使用人として拾って頂きました。」

「うちの使用人には孤児院出身の人間が多いんだ。
俺がよく遊びに行ってたってのもあるんだろうけどな。
リオルは、カイルとも仲良いぞ?」

え?そうなの!?
俺の驚きにリオルくんが頷ずきながら教えてくれた。

「カイルとは部屋が相部屋だったので昔からよく遊んでいました。
今は、カイルも騎士団に居るんですよね!
大きくなったんだろうなぁ…。
しばらく会えてないので会うのが楽しみです!」

リオルくんは昔のカイルくんを思い出したのか優しそうな兄の顔になる。

昔のカイルくんとか可愛かったんだろうなぁ…。

是非リオルくんもカイルくんの騎士昇進祝いに呼ばなくては!


「まぁ、とりあえず、皆立てよ?
一緒にパンケーキ作るんだろ?」
ラインハルトが皆に声をかけて立たせる。

まぁ、確かにせっかくだから教えながら作ろうかな。

冷凍しとけば何時でも食べれるし5人で作ったら相当な量が作れそうだから明日の朝はパンケーキでもいいかもな。


ラインハルトの言葉に3人は立ち上がり渋々皆でパンケーキを作る事になった。


途中で騎士団の皆の食事の時間になってしまうが見習い騎士の子達が戻って来てくれたおかげでパンケーキに集中することが出来た。

俺は、ラインハルトにパンケーキを任せて一応、見習い騎士の子達を手伝いに行く。

と言っても騎士団の食事は厨房の隣の食堂に皆が集まって、セルフサービスで取りに来てくれるから俺は見てるだけだったけど…。

イメージ的には社員食堂に近いかもしれない。
皆がトレーを持って並び当番の見習いの子達が盛り付けた料理を取っていくスタイルだ。

騎士団の皆は、料理を見て「いつもよりも豪華だ!」とか「デザートまであるぞ!」と喜んでいてちょっと笑ってしまった。

皆、笑顔で料理を取っていく様子を見るのは嬉しくて夜も頑張ろうと思えた。

配膳が終わり厨房に戻る。

「まぁ、こんな感じだな!」と、
ラインハルトが得意げにパンケーキをひっくり返しながら3人に教えている。

「ラインハルト様、いつの間に料理出来るようになったんですか!?
僕達よりも手際がいいじゃないですか!」

リオルくんがキラキラ目を輝かせながらラインハルトを賞賛していた。

カベロくんとコルムくんも驚きながら拍手をしている。

なんか、凄い打ち解けてない?

「トオルおかえりー!」
ラインハルトが俺に気づいて声をかけてくる。

「ラインハルト、ありがとう!
皆、パンケーキの作り方はバッチリかな?」

「はい!ラインハルト様、教え方凄くわかり易かったです!」
リオルくんが答えてくれる。

コルムくんもカベロくんもラインハルトを尊敬の眼差しで見ていた。

ラインハルトって年下に凄い懐かれるよね…。

ちょっと羨ましいや…。

「じゃあ、俺はヴェインに朝食を持って行ってやるから!
トオルはアレンと一緒にご飯食べるのか?」

「いや、アレンはコア様に呼ばれて山に行ったから今日は1人かな?」

いつもはアレンやヴェインさん、ラインハルトやカイルくんと食べてるけど今日は珍しく1人か……。

「守護竜様に?」
ラインハルトは少し首を傾げながら聞いてくる。

「うん。夢にコア様が出てきて朝一で来いって言われたらしい。」

「なんかあったのか?
まぁ、帰ったら聞けばいいか。」

ラインハルトの言葉に頷く。

「あ、あとでヴェインに相談があるから執務室まで行くかも。」
3人の勤務内容について話さないと……。

「わかった!じゃあ、執務室に着いたら魔法を飛ばす。」

「うん!よろしく!」

俺たちの会話が終わると遠慮がちにカベロくんが声をかけてきた。

「トオルさん、なら俺たちとご飯食べませんか?
もっと、話を聞かせてください!」


「いいの?
じゃあ、一緒に食べようか!」

そう言えばアレン達以外の人とご飯食べるの初めてかも!

ラインハルトが「せっかくだから談話室でゆっくり食べろよ。」と言ってくれたから皆で談話室に料理を運ぶ。


終始、料理の話ばっかりでこれもこれで楽しいご飯の時間だった。

3人はパンケーキや、オムレツ、スープにサラダ、プリンのどれを食べても喜んでくれて気に入ってくれたみたいだ。

「これから毎日こんなに美味しい物が食べれるならもうここに住みたい……」
コルムくんが呟くように言う。
リオルくんとカベロくんもその言葉に頷いていた。


いっそ、このまま3人を引き抜いちゃおうかな……?
流石に怒られるかな?
なんてちょっとだけ悪いことを考えてしまう俺だった……。

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