料理人は騎士団長に食べさせたい

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本編

閑話5 ある竜の話

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「はぁ……暇じゃ……。」
誰もいない山の樹で1人つぶやく。

もう1人になってからどれほどの時が過ぎただろうか?

私には生まれた時からもう1人の私が居た。
彼は他の世界の知識を持っていて沢山の話をしてくれた。

2人で色々な場所を巡りこの地に辿り着いたのは、もはや記憶の遥彼方だ。

私は、神によってこの世界の人間を守護する為に産み落とされた。
同じ存在は私を含め7匹。

いや、正確にはもっとたくさん居たが今は7匹になってしまった。
我々、竜族は人々の国を加護し人々から崇拝されることで存在出来る。

しかし、人々からの崇拝が無くなってしまうと魔に堕ちてしまう。

魔に堕ちた竜族はドラゴンと呼ばれ人々を恨み、襲う化け物となる。

そう、魔物のドラゴンとは我々竜族の忘れられた成れの果てなのだ。

我々、竜族は神に産み落とされると世界中を旅して自分が好む土地を見つける。

そしてその土地に住まう者の中から1番愛おしいと思う魂の持ち主を見つけ加護を与える。

その者はやがて王となり、国を起こし、我々、竜族はその国を守護する竜となるのだ。


1番遅く生まれた私は、それ以外にもう1つ使命を与えられていた。
それは1人の異世界の青年を救うこと。
色々な因果が重なり合い私がその役に抜擢されたらしい。

1度会話を交わした神に理由を訪ねた。

「なぜ、たかが1人の人間の為にそんなことをするのですか?」

神は答えた。
「天界にあるお気に入りの料理屋の主人夫婦が彼を助けないなら店を畳むと言うのだ。
彼を助けないと美味しい飯が食えなくなる…。」

「はぁ…?」

意味がわからなかったがその時、私の片割れの魂がケラケラと笑って居たのは覚えている。
片割れ…翼に何度も意味を聞いてみたが彼は「内緒だ。」と教えてくれなかった。


それから数百年が過ぎ、人間の魂だった翼は時間の流れに耐えられなく消えてしまいそうになってしまう。

私は決心した。
絶対に親友の魂を消してなるものかと!
お前が居なくなったら私のご飯は誰が作るのだ!

本来2つの魂が1つに交わることは無い。
しかし、私と翼の魂は数百年の間に似てきていた。
今ならば、彼の魂を取り込むことが出来るかもしれない。




消える間際まで他人の事を考えていた彼を思う。

今、彼の魂は私の魂の中で眠りに着いていた。
目を閉じると微かだが感じ取れる。

この前、アレンが連れてきた青年の事を思い出す。

「トオルか……。」

彼の魂はとても綺麗で暖かく、翼はこの子を護ろうとしたのだと納得した。

トオル自身も師匠である翼をとても慕っており、彼の話聞いて涙を流していた。

近いうちに翼の魂が回復したら2人を会わすことが出来るだろうか?


その時のことを考えながら守護竜
楽しそうに笑う。


おや?

ふと気配を探ってみると、私の加護を持つものが1ヶ所に集まっているようだった。

「この場所は……王のところか?
あやつら、私を放っておきながら楽しそうに集まりおって……。」

おそらく王がトオルに逢いたいとアレンに言ったのだろうな…。

「まぁ、よい。
今の王は最初に私が加護を与えた王によくにいていて、清らかな心を持っている。
トオルを政治に利用することもないじゃろう……。」

ただ……。

「私だけ仲間外れは少し癪じゃな。」
ケツァルコアトルは楽しそうに意地悪な顔をする。


「今から顔を出してやろうかの!」

彼は人の姿になると、立ち上がった。


しかし、突然、さっきまでの楽しそうな顔は消え、今度は不愉快な顔になった。


「なんじゃ、このドロドロと気持ち悪い気配は……?」

彼は、彼が加護を与えているこの国の土地ならば何処でも気配を察知することが出来る。

「サザンカンフォートとの国境付近か?
しかし、あの国はアイダ・ウェドが守護しとるはずじゃが……。」

隣の国を護る竜族を思い出し、首をかしげる。

「まさか、アイダ・ウェドの力が弱まっているのか?」

先ほどのドロドロとした気持ち悪い気配は間違いなく魔物のものだ。

「仕方ない……。
確認に行くかの……。」

めんどくさがり屋な彼としては珍しく、行かなくてはいけない気がした。


人間の姿から巨木程の彼本来の姿に戻るとそのまま住処を飛び出して気配の方に向かう。


「はぁ……。帰ってきたらトオルを呼んで美味しいものを作らせよう。」

かの守護竜は羽ばたきながらそんなことを呟くのだった。


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