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本編

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突然、部屋の扉が空いてヴェインさんが入ってきた。
「ラインハルト起きてるか?
すまない、昨日は無理さ……トオル!?」

部屋にいる俺に気づいて驚きの声をあげる。
ラインハルトは咄嗟に俺の後ろに隠れた。
なんか、威嚇してる猫みたい……。
あ、でも、顔が真っ赤だから昨日のことを思い出して恥ずかしがってるだけか?

「ヴェイン、おはよう…。」

「あ、あぁ、トオルおはよう。」
何故だかぎこちなく俺に挨拶をする。

「いや、その…ラインハルトが厨房に来てさ……。」
説明をしようとすると後ろからラインハルトに口を塞がれた。

「ヴェイン、もう平気だ。」

「本当にか?……もしかして、トオルに治してもらったのか?」

「そ、そうだよ!無理しやがって!
あんな状態で王宮に行ってみろ!
兄貴や父上に散々いじられるとこだったじゃないか!」

「それは悪かったよ……。
ラインハルトがあまりにも可愛すぎて止まんなかった…。」

「ト、トオルの前でなんて事を言うんだ!?」
ラインハルトは、近くにあった枕をヴェインさんにぶん投げる。

しかし、ヴェインさんはそれをひょいと躱してラインハルトに小瓶を差し出した。

「魔法薬持って来たけどもう必要ないか?」


「………貰う。これは取っておいて次はヴェインに使わせてやる…。」

その言葉にヴェインさんは吹き出して悪い笑みを浮かべた。

「クスクス……出来るもんならやってみろ。楽しみにしてるぞ?」

「言ったな!次はヴェインを朝まで喘がせてやるから覚悟しろよ!」


ラインハルトは喧嘩腰なのに2人は甘い雰囲気に包まれている。


俺は朝からいったい何をみせられてるんだ……。
とりあえず、ラインハルト、イチャつくなら俺を解放してからにしてくれ……。

あと、朝までヴェインさんに喘がされたから声出なかったのか……。


少しでも甘ったるい雰囲気から抜け出したくてこの身を捩ってラインハルトに解放するように伝える。


「あ!?ト、トオル、わ、悪い……。」

ラインハルトは俺の存在を忘れてたみたいですぐに解放してくれる。
そして、今の会話を聞かれたことに気づき、真っ赤なりながら毛布にくるまってしまった。

ちょっとだけ顔を出しながら
「トオル…今のは忘れてくれ……。」

と真っ赤に泣きそうな顔で言ってきた。

はぁ………。

「とりあえず、身体は平気みたいだから俺は戻るよ…。」

「あぁ、トオルありがとうな。
おかげでラインハルトに嫌われずにすんだよ。」
ヴェインさんは毛布にくるまってるラインハルトを優しく見ながら答えた。

「2人共ご飯は?今日はパンケーキだよ。」

「……食べる。」
毛布の中でラインハルトが答えた。


そんなラインハルトの気持ちを察してか 
「部屋で食べるから後で取りに行くよ。」
とヴェインさんが答えた。


「わかったよ。
じゃあ、また後でね。」

そんな2人に苦笑いしながらラインハルトの部屋を後にした。





厨房に戻るとカイルくんがすでにパンケーキの生地を完成させて焼くところだった。
 
見習いの子達もスープを用意し終わっている。
今日は、クリームスープを作ったらしい。

皆どんどん手際が良くなっているようで、今日は更に、サラダとこの前教えたアレンが好きなオレンジのドレッシングも作ったみたいだった。

段々、騎士団の食事が改善されててついつい笑みが零れてしまう。


「カイルくん遅くなってごめんね?」

「トオルさん、おかえりなさい!
ラインハルト様どうしたんですか?」

あぁ、うん……。
なんて言おうかな?

「ちょっと風邪ひいちゃったみたい。
魔法を使ったらすっかり治ったからもう大丈夫だよ。」

「トオルさん、魔法使ったんですか!?
それに、風邪って普通の魔法じゃすぐには治らないんですよ。やっぱりトオルさんはすごいです!」

目をキラキラさせながら褒めてくれるカイルくんにちょっとだけ気まずくなる……。

「カイルくんも、パンケーキありがとう!
ラインハルトとヴェインの分も増やしてくれたんだね?」

「はい!おふたりも食べるかなって。
ラインハルト様、食べれそうですか?」

「うん、一応大事をとって部屋でヴェインと食べるみたいだから後でヴェインが取りに来るって。」

「僕が持って行きますよ?ラインハルト様のお見舞いもしないと……。」

まぁ、そうなるよね。
副団長自ら取りに来るってのが可笑しいもんね……。

このままカイルくんに持っていって貰ったらラインハルトに怒られるんだろうなぁ…。


「あ、今日、ラインハルトが居ないからカイルくんがアレンを呼びに行ってくれると嬉しいなぁ……。」


「あ、そうですよね…。
僕、まだ声の魔法使えないので…。」

「声の魔法って言うんだ?
あれ便利だよね。俺も使えるようになりたいなぁ…。」

話を逸らしながら2人でパンケーキを焼く。

オムレツも作ろうかな?

「カイルくんもう1品作ってもいい?」

「はい!じゃあ、パンケーキは任せてください!」
おぉ、何とも頼もしい……。

「じゃあ、よろしく!」
カイルくんにパンケーキを任せて俺は卵と生乳、バターを取りに行く。

今日はシンプルにプレーンオムレツでいいかな?
昨日、トマトソースをいっぱい作ったし。

ボウルに卵を割りよく溶きほぐしてから生乳と塩、刻んだライユの実で味を整える。

「卵料理ですか!?」
横で見ていたカイルくんが嬉しそうに言う。

「うん!オムレツって言うシンプルな料理だよ。
中がトロトロになるように作るんだ。」
トロトロと言う言葉にカイルくんが頬を緩めた。

熱したフライパンに多めのバターを溶かして一気に卵を入れる。
鍋を揺すりながら卵をかき混ぜて半熟になってきたら前に集めてフライパンの柄を叩きながらひっくり返していく。

これだけの料理だが、綺麗に作れるようになるまで2~3年はかかった。

これも料理人なら出来て当たり前だって師匠に沢山練習させられて朝昼晩のずっとオムレツを食べてた時期もあった……


「トオルさん、すごい……。
魔法みたいに綺麗にひっくり返っていますよ?
魔力使ってないのが不思議です…。」

カイルくんが右目の魔眼で俺を見ながら言ってくる。

「沢山練習したからね……。
卵は、火を通す温度で味が変わるからシンプルだけど難しいんだよ……。」

同じ材料、同じ道具を使って居るはずなのに師匠が作ったオムレツは味が全く違って感動するほど美味しかった。

ふわふわでトロトロで卵本来の甘みを感じられて……。
素材の味を全て引き出した素晴らしい料理だった。

あの域には未だにたどり着けていない。
あのオムレツを食べた時に、この人に着いていこうと思った思い出の料理だ。


そんなことを思い出しながらオムレツを5個手早く仕上げてお皿に持っていく。

「カイルくん、アレンを呼んできてもらっていいかな?
俺はラインハルト達に持って行ってくるよ!」

「はい!ラインハルト様にお大事にって伝えてください!」

そう言うと急いでアレンを呼びに鍛錬場に走って行った。
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